テキスト

最判昭35.3.18:営業許可を受けずにした契約の効力

論点

  1. 食品衛生法上の営業許可を受けずにした精肉の売買契約は、私法上無効か?

事案

有限会社Xは、食品衛生法上の許可を受けて食肉の販売業を営んでいる株式会社Aと精肉の売買取引をしていた(売主X、買主A)。しかし、AがXに対する買掛金債務の弁済を怠っていることから、取引は一時中断していた。Aの代表取締役Yは、自衛隊に精肉を納入うするために取引再開をXに提案したが、Aの支払能力への危惧を理由に拒否された。

そこで、食品衛生法上の許可を受けていないY個人として、精肉を買い受けることを提案した。(つまり、会社Aで購入するのではなく、代表者個人Y名義で購入するということ。)

これに対して、Xは承諾し、売主X・買主Yとして売買契約が成立した。

もっとも、Yが内金を支払ったのみであったため、Xは、Yに対して残金および遅延損害金の支払いを求めて訴えを提起した。

判決

食品衛生法上の営業許可を受けずにした精肉の売買契約は、私法上無効か?

→有効

食品衛生法は単なる取締法規にすぎない。

したがって、Yが食肉販売業の許可を受けていないとしても、食品衛生法により本件取引の効力が否定される理由はない

それ故、食品衛生法上の営業許可の有無は、本件取引の私法上の効力に消長を及ぼさない(影響を及ぼさない)

したがって、当該売買契約は有効である。

※消長を及ぼす・消長を来す→影響を及ぼす
※消長を及ぼさない・消長を来さない→影響を及ぼさない

最判昭31.11.30:「公務員の私利を図る目的の行為」と「国家賠償法」

論点

  1. 公務員が私利を図る目的を持つ行為をした場合でも、外形からみて職務執行行為と言えるとき、国家賠償法1条1項の「職務を行う行為について」に該当するか?

事案

警視庁の巡査Aは、生活費に困窮しており、職務行為を装って金品を奪うことを考えた。

非番の(休憩の)時間帯に、制服制帽を着用し、拳銃を携帯した上、川崎駅のホームに入った。

Aは、たまたまBが多額の金銭を持っていることを知り、Bを呼び止めて、川崎駅の事務室で所持品検査を行った。

その際、Aはあらかじめ用意していた「300円の入った封筒」を、Bの所持品に紛れ込ませて、Bがスリをしたように見せかけて、Bの所持品を預かると称して、Bの現金を含む所持品を受け取った。

Bが、トイレに行っている際に、Bの所持品を持ってAが逃走しようとしたので、Bは「泥棒!」と叫んだため、AはBに発砲して、Bを死亡させた。

これに対し、Bの遺族Xは、東京都Yに対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償の請求を求めた。

判決

公務員が私利を図る目的を持つ行為をした場合でも、外形からみて職務執行行為と言えるとき、国家賠償法1条1項の「職務を行う行為について」に該当するか?

→該当する

国家賠償法第1条の「職務執行」とは、その公務員が、その行為の意図目的はともあれ、行為の外形において、職務執行と認め得ることができるものについては、職務執行にあたる

すなわち、国家賠償法1条1項の「職務執行行為」があったというためには、公務員が、主観的に権限行使の意思をもってした職務執行行為に限定すべきではない。

したがって、国家賠償法1条は公務員が主観的に権限行使の意思をもってする場合にかぎらず、自己の利をはかる意図をもってする場合でも、客観的に職務執行の外形をそなえる行為をしてこれによって、他人に損害を加えた場合には、国又は公共団体に損害賠償の責を負わしめて、ひろく国民の権益を擁護することをもって、その立法の趣旨とするものと解すべきであるから、国又は公共団体は、損害賠償責任を負うべきである

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最判昭31.4.24:租税滞納処分による差押えと民法177条

論点

  1. 国税滞納処分による差押えに民法177条の適用があるか?
  2. 国は登記の欠缺を主張するにつき、正当の利益を有する第三者にあたるか?

事案

Xは株式会社Aから土地を買い受け、代金も支払った。しかし、Aの都合により所有権移転登記手続が未了であった(土地の登記はA名義のまま)。Xは税務署長Y1に対し、本件土地を自己の所有とする財産税の申告をし、納税した。

その後、租税滞納を理由にY1がA所有の工場内の機械器具を差し押さえた際、Aは、本件土地がA名義のままであることを知り、機械器具に代えて、本件土地を差し押さえるよう陳情し、Bがこれを認めて、Y1は土地の差押をした。

その翌年、公売処分を執行(公売の実施)して、Y2が本件土地を競落し、登記手続きも完了した。

これに対して、Xは、①Y1に対して公売処分の無効確認を、②Y2に対して本件土地の所有権移転登記の抹消登記手続きを求めて出訴した。

判決

国税滞納処分による差押えに民法177条の適用があるか?

→適用がある

税滞納処分においては、国は、その有する租税債権につき、自ら執行機関として、強制執行の方法により、その満足を得ようとするものであって、滞納者の財産を差し押えた国の地位は、民事訴訟法上の強制執行における差押債権者の地位に類する

そして、当該債権(租税債権)がたまたま公法上のものであるからといって国が一般私法上の債権者より不利益の取扱を受ける理由はない

それ故、滞納処分による差押の関係においても、民法177条の適用がある

民法第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

国は登記の欠缺を主張するにつき、正当の利益を有する第三者にあたるか?

原則、正当の利益を有する第三者にあたる

本件不動産の所有権の帰属を判定することは極めて困難な仕事であって、後に訴訟において争われる可能性のあることを思えば、直ちに財産税還付の手続をとることなく滞納処分の続行(公売の実施)を図ったとしても、これをもって背信的態度として非難することもできない。

また、滞納処分が続行され、公売が実施された以上、競落人の立場からいえば、まったく善意無過失であり、競落人の利益こそ、もっとも保護に値する。

そこで、本件において、国が登記の欠缺を主張するにつき「正当の利益を有する第三者」に当らないというためには、Xにおいて「本件土地が所轄税務署長からXの所有として取り扱わるべきことをさらに強く期待するがもっとも」だと思われるような特段の事情がなければならない。

そのような特段の事情がない場合は、国は、正当の利益を有する第三者にあたる

※登記の欠缺(けんけつ)とは、すべき登記がされていないことをいう。登記の欠缺があると、原則として、第三者に対して対抗することできない。

最判昭30.12.26:裁決庁が自らした裁決を取消した場合の取消処分の効力

論点

  1. 裁決庁がした裁決を自ら取り消す裁決をすることが違法な場合、取消裁決の効力は有効か、無効か?

事案

XとYとの間で農地の賃借権につき争いがあった。

Xの申請を受けた村農地委員会は農地調整法によりXの賃借権設定の裁決を言い渡した。

これを不満としてYが、村農地委員会の上級機関である県農地委員会に訴願(願い出ること)を提起したところ、県農地委員会は、一度、棄却した(①棄却裁決)。

ところが、Yの申出によって県農地委員会が裁決について再議し、今度はYの主張を認めて(②認容裁決)、村農地委員会の賃借権設定の処分を取り消した。

そこでXは、Yを被告として、本件農地の耕作権の確認および耕地の引渡を求めて出訴した。

判決

裁決庁がした裁決を自ら取り消す裁決をすることが違法な場合、取消裁決の効力は有効か、無効か?

裁決が違法であっても、その違法が重大かつ明白な瑕疵がなければ、取消裁決の効力は有効

訴願裁決庁が一旦なした訴願裁決を自ら取り消すことは、原則として許されない不可変更力という)。

したがって、先になした裁決(①棄却裁決)を取り消して、さらに訴額の趣旨を容認する裁決(②認容裁決)をしたことは違法である。

しかし、行政処分は、たとえ違法であっても、その違法が重大かつ明白な瑕疵があり、処分が当然無効であると認める場合を除いては、適法に取り消されない限り、(②の認容裁決は)完全にその効力を有する。

(不可変更力に違反した「違法な認容裁決」も、行政行為として「公定力」があるので有効である)

最判昭30.4.19:「公務員の個人的責任」と「国家賠償」

論点

  1. 国家賠償法の適用を受ける不法行為について、公務員個人も直接責任を負うか?

事案

A町では、「Xらを幹部とする小作人組合」と、「町長を組合長とする農民組合」とが対立していた。

この対立により、同町の農地委員選挙において両組合から同数の委員が選出された結果、会長互選の決定を行うことができなかった。

そのため農地調整法の規定を発動し、知事Y1が1人で小作組合長のBを農地委員の会長に選んだ。

その後、町長から農地委員会解散命令請求の決議を求める上申書が提出されたなどをきっかけに知事は、県農地部長Y2を現地に派遣し、実情を調査した上で、解散命令を発した。

Xらは、本件解散処分の無効を求めるとともに、Y1およびY2に対して損害賠償等を求める訴えを提起した。

判決

国家賠償法の適用を受ける不法行為について、公務員個人も直接責任を負うか?

→負わない

Xらの損害賠償等を請求する訴について考えてみるに、右請求は、Y1・Y2の職務行為を理由とする国家賠償の請求と解すベきである。

したがって、国または公共団体が賠償の責に任ずるのであって、公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではない。

また、公務員個人もその責任を負うものではない

したがって、県知事Y1を相手方とする訴えは不適法であり、また県知事個人、農地部長個人を相手方とする請求は理由がない。

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最大判令2.11.25:地方議会議員出席停止事件

論点

  1. 地方議会議員に対する出席停止の懲罰決議について、「司法審査」が及ぶか?

事案

地方議会の議員であったⅩが、市議会から科された23日間の出席停止の懲罰が違憲、違法であるとして、その取消しを求めた。

 

地方議会議員に対する出席停止の懲罰決議について「司法審査」が及ぶか?

司法審査が及ぶ(司法審査の対象となる)

地方議会が議員を懲罰する権能は、自律的な権能の一内容を構成する。

議員は、憲法上の住民自治の原則を具現化するため、議会が行う各事項等
について、議事に参与し、議決に加わるなどして住民の代表としてその意思
を当該普通地方公共団体の意思決定に反映させるべく活動する責務を負う。
(議員は、住民の代表として、住民の意思を地方公共団体に反映させる活動をする責任を負う)

出席停止の懲罰が科されると、当該議員は議員としての中核的な活動をすることができず、住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすことができなくなる。

出席停止の懲罰の性質や議員活動に対する制約の程度に照らすと、その適否がもっぱら議会の自主的、自律的な解決に委ねられるべきであるということはできない。
(出席停止処分(懲罰)について、議会の自主的、自律的な解決に委ねられるべきではない)

出席停止の懲罰は、議会の自律的な権能に基づいてされたものとして、議会に一定の裁量が認められるべきであるものの、裁判所は、常にその適否を判断することができる。
(出席停止処分は、議会に一定の裁量があるが、裁判所は、その処分が適法がどうかを判断することができる)

したがって、普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は、司法審査の対象となる。 =地方議会議員に対する出席停止の懲罰は、司法審査が及ぶ

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最大決平25.9.4:非嫡出子の相続分規定の違憲判決

論点

  1. 非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする規定が憲法14条1項に違反しないか?
  2. 違憲判決前に確定した遺産分割について、遺産分割協議の無効を主張できるか?

事案

Aが死亡し、相続人たる非嫡出子Xは、家庭裁判所に遺産分割を申し立てた。その際、Xは、相続財産について、非嫡出子に嫡出子の2分の1の法定相続分しか認めない民法900条4号ただし書の規定は、憲法14条1項の「法の下平等」に違反すると主張して、嫡出子と平等な割合による分割を求めた。

判決

非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする規定が憲法14条1項に違反しないか?

→憲法に違反する(違憲である)

憲法14条の平等の要請は、合理的な根拠に基づかない限り、差別的な取り扱いを禁止する趣旨である。

そして、民法900条4号ただし書の「非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする規定」は、合理的な根拠があり、区別についても著しく不合理ではなく、立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えていないと認められる限り、憲法14条に違反しない。

そして、現在、法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても、家族共同体の中でも個人の尊重が明確に認識されるようになってきたという認識の変化に伴い、

父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由として

その子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。

以上を総合すれば、遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきであるとして、民法900条4号ただし書の「非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする規定」が違憲であるとした。

違憲判決前に確定した遺産分割について、遺産分割協議の無効を主張できるか?

→できない。

本決定の違憲判断は、他の相続につき、本件規定(非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする規定)を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である

したがって、平成13年7月から当該判決の日までに相続が開始した場合であっても、遺産分割が確定的なものとなっている場合は、当該違憲を理由に遺産分割協議の無効を主張することはできない

最判平24.12.7:堀越事件

論点

  1. 国家公務員法102条1項にいう「政治的行為」の意義とは?
  2. 管理職的地位にない者が、配布行為を行うことは、実質的に政治的中立性を損なうおそれがあると認められるか?

事案

堀越明男氏Xは社会保険庁東京社会保険事務局目黒社会保険事務所に年金審査官として勤務していた厚生労働事務官である。
Xは衆議院選挙総選挙に際し、勤務時間外に日本共産党を支持する目的で「しんぶん赤旗 号外」をポスティングしたところ、住居侵入罪で現行犯逮捕された。
住居侵入罪については不起訴処分とされたが、国家公務員法に反するのではないかとして追送検された。

※Xは、社会保険の相談に関する業務を副長の指導の下で、専門職として、相談業務を担当していただけで、人事や監督に関する権限も与えられていなかった。

判決

国家公務員法102条1項にいう「政治的行為」の意義とは?

公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指す

国家公務員法102条1項は、「職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。」と規定している。

上記規定は、「行政の中立的運営を確保し、これに対する国民の信頼を維持すること」をその趣旨である。

また、憲法15条2項は、「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。」と定めており、国民の信託に基づく国政の運営のために行われる公務は、国民の一部でなく、その全体の利益のために行われるべきものであることが要請されている。

その中で、国の行政機関における公務は、憲法の定める我が国の統治機構の仕組みの下で、議会制民主主義に基づく政治過程を経て決定された政策を忠実に遂行するため、国民全体に対する奉仕を旨として、政治的に中立に運営されるべきものといえる。

そして、このような行政の中立的運営が確保されるためには、公務員が、政治的に公正かつ中立的な立場に立って職務の遂行に当たることが必要となるものである。

このように、本法102条1項は、公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し、これに対する国民の信頼を維持することを目的(※1)とするものと解される。

他方、国民は、憲法上、表現の自由(21条1項)としての政治活動の自由を保障されている。

この精神的自由は立憲民主政の政治過程にとって不可欠の基本的人権であって、民主主義社会を基礎付ける重要な権利である。

このことに鑑みると、上記の目的(※1)に基づく法令による公務員に対する政治的行為の禁止は、国民としての政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度にその範囲が画されるべきものである。

このような本法102条1項の文言、趣旨、目的や規制される政治活動の自由の重要性に加え、同項の規定が刑罰法規の構成要件となることを考慮すると、
同項にいう「政治的行為」とは、
公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指し、
同項はそのような行為の類型の具体的な定めを人事院規則に委任したものと解するのが相当である。

管理職的地位にない者が、配布行為を行うことは、実質的に政治的中立性を損なうおそれがあると認められるか?

認められない

本件配布行為は、管理職的地位になく、その職務の内容や権限に裁量の余地のない公務員によって、職務と全く無関係に、公務員により組織される団体の活動としての性格もなく行われたものである。

また、当該行為は、公務員による行為と認識し得る態様で行われたものでもない

よって、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものとはいえない。

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最大判平17.1.26:外国人の管理職選考受験の拒否事件

論点

  1. 地方公共団体の管理職任用制度において、「日本国民に限って管理職に昇任できる」とすることは、憲法14条1項に違反しないか?

事案

韓国籍のXは、保健師として、東京都Yに採用され、課長級の職に就くために管理職選考を受験しようとした。ところが、Yは、外国人であるXには、その管理職選考を受験する資格自体ないとして、受験申込書の受取りを拒否し、Xは受験をすることができなかった。

これに対し、Xは、Yに対して、受験拒否により受けた精神的損害の賠償を求める訴えを提起した。

判決

1.地方公共団体の管理職任用制度において、「日本国民に限って管理職に昇任できる」とすることは、憲法14条1項に違反しないか?

→違反しない

憲法14条1項では「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」としている。

この点について、合理的な理由に基づくものであれば、憲法14条1項に違反するものではない、としている。

そして、公権力の行使等、地方公務員の職務の遂行は、「住民の権利義務や法的地位の内容を定め、あるいはこれらに事実上の大きな影響を及ぼす」など、住民の生活に直接間接に重大なかかわりを有するものである

そのため、「国民主権の原理に基づいて、国・地方公共団体による統治のあり方は、国民が最終的な責任を負うべきものである」ことに照らして、原則、日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されている

したがって、日本国民である職員に限って、管理職に昇任することができるとする制度は、合理的な理由に基づく区別であるため、憲法14条1項に違反しない。

※この判例は、「外国人に公務就任権が認められるか」が問題になったのではなく、

「管理職登用試験の受験資格を、日本国籍を有する者と限定すること」の適法性が争われた事案です。

最大判平14.9.11:郵便法免責規定違憲判決

論点

  1. 郵便法68条、73条において、特別送達郵便物について、国の国家賠償責任を免除し、また制限している部分が憲法に違反するか?

事案

債権者Xは、債務者Aに対して約1億4000万円の遅延損害金の支払いを命ずる確定判決を持っている。Xは平成10年4月10日に、神戸地裁に対して、上記遅延損害金のうち、7200万円を請求債権として、「債務者AのB銀行に対する預金債権」について、差押命令の申立てをした。

神戸地裁は、差押命令を発付し、命令正本を特別送達の方法でB銀行宛に送達した。

尼崎郵便局職員が、
4月14日午前12時に、Aの勤務先に差押命令を送達し、
4月15日午前11時に、B銀行に同命令を送達した。

Aは、差押えを察知し、14日に預金全額を引き出したので、差押えはされなかった。

そこで、Xは、B銀行に対する送達がまる1日遅れたのは、郵便局職員が、特別送達郵便物を誤って、B銀行の私書箱に投函してしまった違法行為が原因であると主張して、送達事務を行う国Yに対して、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を請求した。

※「特別送達郵便物」は、郵便局の職員が、名宛人に手渡しで渡す。

※「旧郵便法68条、73条」では、特別送達郵便物について、郵便業務従事者の軽過失による不法行為に基づき損害が生じた場合に、国家賠償法に基づく国の損害賠償責任を免除し、又は制限している規定があった。

判決

郵便法68条、73条において、国の国家賠償責任を免除し、また制限している部分が憲法に違反するか?

憲法に違反する(違憲)

 

郵便法の目的は、郵便の役務をなるべく安い料金で、あまねく、公平に提供することによって、公共の福祉を増進することを目的としている。

「法68条,73条が規定する免責又は責任制限」もこの目的を達成するために設けられたものであると解される。

そして、特別送達は民事訴訟法に定める送達方法であり、国民の権利を実現する手続きに不可欠である。このため、特別送達郵便物については確実に送達されることが特に強く要請される

また、特別送達は書留郵便物全体のごく一部にとどまり、特別の料金が必要とされている

こうした特別送達郵便物の特殊性に照らすと特別送達郵便物については、郵便業務従事者の軽過失による不法行為から生じた損害の賠償責任を肯定したからといって、直ちに、その目的の達成が害されるということはできない

よって、「法68条,73条が規定する特別送達郵便物に関する免責又は責任制限」に合理性、必要性があるということは困難である。

したがって、上記免責規定等を設けたことは憲法第17条が立法府に与えた裁量の範囲を逸脱したものであり、憲法第17条に違反し、無効である。