地方自治法

議会の権限(①議決権、②選挙権、③監査権、④自律権)

地方公共団体の議会には、普通地方公共団体の意思決定機関としての①議決権と、②選挙権、③監査権、④自律権といった権限があります。

議決権

普通地方公共団体の議会が行う議決事件は、必ず議決しなければならない必要的議決事件と、必要に応じて条例で議決事項に定めることができる任意的議決事件があります。

必要的議決事件

必要的議決事項は15項目に限定されています(制限列挙)。その中でも、行政書士の試験で出題されやすいものは、下記5つなので、それだけでも頭に入れておきましょう!

  1. 条例の制定と改廃
    条例の提案権は、一般的には、議会と長の双方にある。特定の場合のみいずれかのみに専属する。
  2. 予算の議決
    議会は、予算を増額修正できるが、長の予算発案権の侵害となるような修正は許されない。
    減額修正はできない。
  3. 決算の認定
  4. 地方税の賦課徴収又は分担金、使用料、加入金若しくは手数料の徴収に関すること
  5. 条例で定める重要な公の施設につき条例で定める長期かつ独占的な利用をさせること

任意的議決事件

上記以外にも条例で普通地方公共団体に関する事件につき、議会の議決すべきものを定めることができます。

そして、自治事務については、すべて任意的議決事件の対象となります。

一方、法定受託事務については、国の安全に関することなど普通地方公共団体の議会で議決すべきでないもの以外は、任意的議決事件の対象となります。

選挙権

議会は、議長副議長選挙管理員等の選挙を行わなければなりません。

監査権

住民の代表機関である議会は、長などの執行機関の行為が適正に行われているかを監視する権限(同意権、調査権、書類の検閲・検査権、監査請求権)を持っています。

同意権

地方公共団体の長が、「副知事副市町村長、監査委員、教育委員会の委員、都道府県公安委員会の委員」などを選任する場合、議会の同意が必要となります。

調査権(100条調査権)

地方公共団体の議会は、地方公共団体の事務に関する調査を行うことができ、地方自治法第100条に規定された権利なので、100条調査権と言います。

ほとんどの事務が100条調査権の対象になりますが、
自治事務については、労働委員会、収用委員会の権限に属する事務」は対象外となり、「法定受託事務については、国の安全、個人の秘密にかかわるもの」は対象外となります。

調査を行うために特に必要がると認めるときは、選挙人その他の関係人の出頭および証言ならびに記録の提出を請求することができます。

この100条調査権については、2013年、当時の東京都知事であった猪瀬直樹知事が徳洲会グループより5000万円を受け取った事件で使われています。ただし、東京都議会が百条委員会の設置を決定し、百条調査権を行使しようとする前に、猪瀬知事は辞職しました。

書類の検閲・検査権

議会は、普通地方公共団体の事務に関して書類等を検閲し、執行機関の報告を請求して、事務の管理、議決の執行および出納を検査することができます。

分かりやすく言えば、議会で決めたとおりに仕事をしているか、検査・調査するわけです。

この検査の対象についても、100条調査権同様下記については検査の対象外となっています。

自治事務については、労働委員会、収用委員会の権限に属する事務」は検査権の対象外となり、「法定受託事務については、国の安全、個人の秘密にかかわるもの」は検査権の対象外となります。

監査請求権

議会は、監査委員に対し、普通地方公共団体に関する監査を求め、監査の結果に対する報告を請求することができます。

この監査請求の対象についても、100条調査権同様下記については検査の対象外となっています。

自治事務については、労働委員会、収用委員会の権限に属する事務」は監査請求の対象外となり、「法定受託事務については、国の安全、個人の秘密にかかわるもの」は監査請求の対象外となります。

自律権

議会の自律権とは、議会自らの意思で、議会の組織・運営の決定や処理する権利のことを言い、「会議規則の制定権、会期の決定権、懲罰権、自主的に解散する権利」等があります。

懲罰権の判例(最判昭35.10.19)(最大判令2.11.25)

地方議会議員の除名処分・地方議会議員の議会への出席停止処分は議会の内部規律の問題に当たらないため司法審査が及ぶ

地方公共団体の議会と長の関係

地方公共団体の機関

まず、普通地方公共団体を運営していく上で議会の2つの機関があります。

議会とは、住民の意思を代表する機関(代表機関)であるとともに、地方公共団体の意思を決定する機関(意思決定機関)でもあります。実際、議会の議員は、都道府県議会議員選挙や市議会議員選挙等の直接選挙で、都道府県や市町村の代表として選ばれ、この議員が議会で意思決定を行います。

とは、知事や市長等を指し、普通地方公共団体の事務を管理・執行し、これを統轄し(まとめあげ)代表する機関です。そして、知事や市長等も、知事選挙や市長選挙等の直接選挙で選ばれます。

地方公共団体の議会と長の関係

議会と長は対等な関係です。その理由は、議会も長も住民による直接選挙によって選ばれた者だからです。

そして、議会も長も住民による直接選挙で選ばれた代表機関なので、それぞれが住民に対して直接責任を負います。これを二元的代表制と言います。分かりやすく言うと、2つの代表する機関があるということです(上図参照)。

※国は、直接選挙で選ばれた議員が組織する国会があり、この国会が内閣総理大臣を指名し、この内閣総理大臣が内閣を組織します。このように、内閣が議会に対して責任を負い、内閣の存立が「議会の信任」に委ねられている制度を議院内閣制と言います。

ただし、地方公共団体が二元代表制であるといっても、「地方公共団体の議会による長の不信任決議」や、「長による議会解散」など議院内閣制のルールも取り入れられています。

※上記の通り、は住民による直接選挙によって選ばれるため、大統領制がとられていることも覚えておきましょう。大統領制とは、簡単にいうと、国や地方公共団体のトップを国民や住民が直接選挙によって選ぶ方式を言います。

行政書士の試験対策として、地方公共団体の「議会議員と長」は直接選挙によって選出すべきこととしています。つまり、法律や条例で、間接選挙(議員が長を選ぶといった方式)に変更することはできません

憲法における議会の位置づけ

憲法93条
地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。

憲法93条で議会は普通地方公共団体の必置機関であることを定めています。つまり、普通地方公共団体は、法律や条例などで、議会を置かないことはできないということです。

自治事務と法定受託事務

行政書士の試験対策としては、「自治事務と法定受託事務の違い」と「1号法定受託事務と2号法定受託事務の違い」をしっかり頭に入れておきましょう!

地方自治体が処理する事務には自治事務法定受託事務の2つがあります。

平成12年3月末までは機関委任事務というものがありましたが、法改正により、廃止されました。


自治事務

自治事務とは、地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のものを言います。

法定受託事務以外なので、非常に幅が広く、例えば、小中学校の設置管理、市町村税の賦課徴収、介護保険の介護給付、住民基本台帳事務、飲食店営業の許可、病院・薬局の開設許可、都市計画の策定などが自治事務に当たります。

法定受託事務

法定受託事務とは、国または都道府県が本来果たすべき役割にかかわる事務であるが、利便性や効率性を考えて、「国から都道府県・市町村」あるいは「都道府県から市町村」に委託された事務を言います。

そして、法定受託事務には、
が本来果たすべき事務を都道府県・市町村が受託する第1号法定受託事務と、
都道府県が本来果たすべき事務を市町村が受託する第2号法定受託事務に分類されます。

第1号法定受託事務 本来、が行うべき事務 例えば、国政選挙、生活保護の決定、旅券交付、国道の管理、戸籍などの事務
第2号法定受託事務 本来、都道府県が行うべき事務 例えば、地方選挙(県議会選挙、知事選挙)にかかわる事務

地方自治体の概要と種類


地方自治体の一番分かりやすい具体例が都道府県や市町村です。しかし、行政書士で勉強する地方自治体は、もっと深い部分まで勉強していきます。まず、地方自治とは、地方の住民が、その地域を自主的に運営していくことを言います。そして、地方自治体は、国とは別の固有の法人格を持ち、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を持っています。

固有の法人格を持つため、例えば、地方自治体(例えば、都道府県や市町村)が、不動産の所有権を持ったり、裁判で、原告や被告となることができます。

地方公共団体の種類

上図の通り、普通地方公共団体は、都道府県と市町村の2つに分けることができるのですが、市町村の中の「市」には「政令で指定された都市(政令指定都市)」と「中核市」の2つと、それ以外の小さい市があります。行政書士の試験で出題されるのは、政令指定都市と中核市の違いなので、この辺りを勉強しておきます。

政令指定都市

政令指定都市とは、政令で指定する人口50万人以上の市で、都道府県に近い権限が与えられます。政令指定都市の具体例として、札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、横浜市、静岡市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、岡山市、広島市、福岡市、熊本市等があります。

政令指定都市は、市長の権限に属する事務を分掌させる(分ける)ため、条例で、その区域を分けて、区(行政区)を設ける義務があります。例えば、横浜市は、政令指定都市なので、西区、中区、南区といった感じで分けられています。そして、上記区にその事務所の長として区長を置く義務があります。

注意が必要なのは、この区は、東京都23区のような特別区とは違います。実際、横浜市西区と東京都中央区は、文字だけ見ると似ていますが、前者は特別区ではなく(法人格がない)、後者は特別区(法人格がある)です。

さらに、指定都市は、その行政の円滑な運営を確保するため必要があると認めるときは、市長の権限に属する事務のうち特定の区の区域内に関するものを総合区長に執行させるため、条例で、当該区に代えて総合区を設け、総合区の事務所又は必要があると認めるときはその出張所を置くことができる

行政区と総合区の違い

行政区 総合区
位置づけ 指定都市の内部組織
法人格 なし
議会 なし
選挙管理委員会 必ず設置しなければならない
法人格 なし
長の名称 区長 総合区長
長の身分 一般職(市の職員) 特別職(市の職員でなくてもよい)
長の専任 市長が職員から任命 市長が議会の同意を得て選任
任期 なし 4年
リコール なし あり

リコールとは、解職請求を指し、住民が、「この総合区長ではダメだ!」といった場合に、有権者総数の3分の1の連署により、選挙管理員会に解職請求をし、有権者による投票の過半数の同意により、総合区長をやめさせることができます。この点については、住民による「直接請求」の部分で解説します。

中核市

中核市とは、人口20万人以上の市で、政令で定める市を言います。指定都市が処理することができる事務のうち政令で定めるものを、中核市で処理します。

※「特例市」は平成27年の改正地方自治法により廃止された。

特別地方公共団体

ここからは特別地方公共団体に入っていきます。特別地方公共団体とは、普通地方公共団体以外のある特定の目的を達成するために設置されている組織を言います。

これには特別区地方公共団体の組合財産区の3つがあります。

特別区

特別区とは、東京都の区(23区)です。この特別区は固有の法人格を持ち、行政主体として、市に近い特徴を持っています。

そして、特別区は、原則、一般的に市町村が処理するものとされている事務を処理します。例外として、都(東京都)が一体的に処理するものとされているものは、都が処理します。

地方公共団体の組合

この地方公共団体の組合が非常にややこしいです。しかし、行政書士試験で出たら、得点したい部分です。

まず、地方公共団体の組合は、2つ以上の地方公共団体が事務を共同で処理するために設置するものです。例えば、「介護保険事業の認定や給付」、「ごみ処理事業」「消防事業」「上下水道事業」等です。

そして、地方公共団体の組合は一部事務組合と広域連合の2つがあり、この違いが頻出です。

一部事務組合と広域連合の違い
一部事務組合区 広域連合
種類 特別地方公共団体
構成団体 都道府県・市町村・特別区
※複合的一部事務組合は都道府県は加入できない
都道府県・市町村・特別区
設置許可 都道府県が加入する場合、総務大臣の許可
その他が加入する場合、知事の許可
が必要
解散 総務大臣または知事の「届出」が必要 総務大臣または知事の「許可」が必要
議会 必ず「議会」を設置する
議会の議員 規約で定める 選挙人の投票 or 議会の選挙
兼任 一部事務組合の議会の議員等は、当該一部事務組合の構成団体の議員・長・その他職員と兼ねることができる 広域連合の議会の議員等は、当該広域連合を組織する地方公共団体の議員・長・その他職員と兼ねることができる
長は不要 長は必ず設置する
選挙人の投票 or 議会の選挙
条例 独自の条例を制定できる
住民監査請求
住民訴訟
住民監査請求や住民訴訟の対象
知事の勧告 知事は、公益上必要と認める場合、「市町村・特別区」に「一部事務組合や広域連合」を設けるべきことを勧告できる

複合的一部事務組合とは?

一部事務組合は、共同処理する事務が1種類に限定されますが、複合的一部事務組合は、共同処理する事務が関連する複数のものを対象とします。例えば、「A市とB市の上水道事務」と「A市とB市の下水道事務」を共同で処理する場合です。

財産区

財産区とは、市町村や特別区が、「財産(山林、用水池、宅地等)を有し」若しくは「公の施設を設けている」場合、「その財産又は公の施設」の管理及び処分又は廃止の権限を持つ特別地方公共団体です。