判例

最判平14.7.9:宝塚市パチンコ条例事件

論点

  1. 国または地方公共団体が行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は適法か?

事案

宝塚市Xの条例に「パチンコ店等の建築物を建築するためには市長の同意を必要とし、この規定に違反して建築しようとする者に対し、市長は建築の中止、原状回復その他必要な措置を講じるよう命じることができる」旨の規定があった。

宝塚市長は、上記規定に違反してパチンコ店を建築しようとするYに対して、その建築工事の中止を命じた。

しかし、Yがこれに従わなかったため、宝塚市Xは、Yに対して、建築工事の続行禁止を求める民事訴訟を提起した。

判決

国または地方公共団体が行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は適法か?

不適法である

行政事件を含む民事事件において裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」、すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる

そうだとすると、国又は地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たるというべきである。

一方、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許されるものと解される。

そして、行政代執行法は、行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、同法の定めるところによるものと規定して(1条)、同法が行政上の義務の履行に関する一般法であることを明らかにした上で、その具体的な方法としては、同法2条の規定による代執行のみを認めている。

また、行政事件訴訟法その他の法律にも、一般に国又は地方公共団体が国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟を提起することを認める特別の規定は存在しない。

したがって、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たらず、これを認める特別の規定もないから、不適法というべきである

判決文の全文はこちら>>

最大判平元.3.8:レペタ訴訟

論点

  1. 法廷でメモを取る自由は、憲法で保障されているか?
  2. 法廷でメモを取る行為を制限することはできるか?

事案

アメリカ国籍のレペタ氏Xは、アメリカワシントン州の弁護士で、国際交流基金の特別研究員として日本で経済法の研究を行っていた。その一環として、所得税法違反の事件の各公判を傍聴した。Xは、各公判期日の前に、担当裁判長に対して、7回にわたり傍聴席においてメモを取ることの許可を求めたが、いずれも許可されなかった。

そのためXは、上記不許可は憲法に違反するとして、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた。

判決

法廷でメモを取る自由は、憲法で保障されているか?

→憲法21条1項の精神に照らし尊重に値する

憲法21条1項では「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」としている。

そして、各人が自由にさまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会を持つことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成、発展させ、社会生活の中にこれを反映させていく上で欠くことのできないものである。

このような情報に接し、これを摂取する自由は上記趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然導かれるところである。

ただし、筆記行為は、一般的には人の生活活動の一つであり、生活のさまざまな場面において行われ、極めて広い範囲に及んでいるから、そのすべてが憲法の保障する自由に関係するものということはできない。

しかし、情報等の摂取を補助するためにする筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきである。

法廷でメモを取る行為を制限することはできるか?

特段の事情のない限り、制限することはできない

情報等の摂取を補助するためにする筆記行為の自由も、「他者の人権との調整」や「優越する公共の利益を確保する必要」から一定の合理的制限をうけることはやむを得ない。

しかも、筆記行為の自由は、憲法21条1項によって直接保障される表現の自由と異なり、その制限には、表現の自由に制約を加える場合の厳格な基準が要求されるものではない。

そして、公正かつ円滑な訴訟の運営は、傍聴人がメモを取ることに比べればはるかに優越する法益である。

しかし、傍聴人のメモを取る行為が公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げることは通常ありえず、特段の事情がない限り、これを傍聴人の自由に任せることが憲法21条1項の趣旨に合致する。

最大判昭51.5.21:旭川学力テスト事件

論点

  1. 普通教育における教師に対し、教授の自由は認められるか?
  2. 国は、教育内容について、決定する権能を有するか?

事案

昭和36年の全国中学校一斉学力調査の実施に対する反対運動のため、Xらは、実力阻止行動を行い、旭川市立永山中学校の校長の制止にも関わらず、当該中学校に侵入し、市教育委員会職員および校長に暴力・脅迫を加えた。そこで、Xらは、建造物侵入、公務執行妨害、共同暴行の罪で起訴された。

判決

普通教育における教師に対し、教授の自由は認められるか?

→一定の範囲に限って、認められない

学問の自由は、教授の自由を含む

子どもの教育が、「教師」と「子ども」との間の直接の人格的接触を通じ、その個性に応じて行わなければならない、という本質的な要請に照らし、教授の具体的「内容」及び「方法」につき、普通教育における教師に対して、ある程度自由な裁量が認められなければならないという意味においては、一定の範囲における教授の自由が保障される

しかし、大学教育の場合には、学生が一応教授内容を批判する能力を備えていると考えられるのに対し、

普通教育においては、①児童生徒に教授内容を批判する能力がなく、教師が児童生徒に対して強い影響力、支配力を有することを考え、
また、②普通教育においては、子どもの側に学校や教師を選択する余地が乏しく、教育の機会均等をはかる上からも全国的に一定の水準を確保すべき強い要請があることから

普通教育における教師に完全な教授の自由を認めることは、とうてい許されないところといわなければならない。

国は、教育内容について、決定する権能を有するか?

→必要かつ相当と認められる範囲において、決定する権能を有する

まず親は、子どもの教育に対する一定の支配権、すなわち子女の教育の自由を有すると認められるが、このような親の教育の自由は、①主として家庭教育等学校外における教育や学校選択の自由にあらわれるものと考えられるし、また、②私学教育における自由や教師の教授の自由も、それぞれ限られた一定の範囲においてこれを肯定するのが相当である

けれども、それ以外の領域においては、一般に社会公共的な問題について国民全体の意思を組織的に決定、実現すべき立場にある国は、国政の一部として広く適切な教育政策を樹立、実施すべく、また、しうる者として、憲法上は、あるいは子ども自身の利益の擁護のため、あるいは子どもの成長に対する社会公共の利益と関心にこたえるため、必要かつ相当と認められる範囲において、教育内容についてもこれを決定する権能を有する。

もっとも、教育内容に対する国家的介入についてはできるだけ抑制的であることが要請される。

判決文の全文はこちら>>

最判平4.7.1:成田新法事件(行政手続と憲法31条)

論点

  1. 成田新法3条1項1号が憲法31条に違反しないか?

事案

昭和53年、成田国際空港の安全を確保するため、「過激派集団の出撃拠点となっていた近くの小屋の使用禁止を命ずることができる」旨のいわゆる成田新法が制定され、即日施行された。

運輸大臣Yは、昭和54年以降毎年2月に、過激派集団Xに対し、成田新法3条1項(上記規定)に基づき、空港の規制区域内に所在するX所有の通称「横堀要塞(ようさい):小屋」を1年の期間を定めて使用を禁止した。

そこでXは、上記規定が憲法31条等に違反し、違憲無効であり、本件使用禁止命令も違憲無効であるとして、Yに対して、本件使用命令禁止の取消訴訟を提起した。

判決

成田新法3条1項1号が憲法31条に違反しないか?

→違反しない

憲法第31条(適正手続の保障)
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

憲法31条の定める法定手続の保障(適正手続の保障)は、直接には刑事手続に関するものである。

しかし、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障(適正手続の保障)の枠外にあると判断することは相当ではない。(行政手続においても適正手続の保障の範囲内にあるといえる)

しかしながら、同条による保障(適正手続の保障)が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。

 成田新法3条1項に基づく工作物使用禁止命令により制限される権利利益の内容、性質は、前記のとおり当該工作物の三態様における使用であり、右命令により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等は、前記のとおり、新空港の設置、管理等の安全という国家的、社会経済的、公益的、人道的見地からその確保が極めて強く要請されているものであって、高度かつ緊急の必要性を有するものであることなどを総合較量すれば、右命令をするに当たり、その相手方に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定がなくても、本法3条1項が憲法31条の法意に反するものということはできない(憲法31条に違反しない)

判決文の全文はこちら>>

最判昭62.10.30:青色申告課税処分事件

論点

  1. 租税法規に適合する課税処分について信義則の法理の適用による違法を考えることができるのはどのような場合か?

事案

酒類販売業を営むAがいた。Aの養子であるXがいた。

Xは、昭和25年からAの営業するB商店の営業に従事し、昭和29年ころからは、Xが事実上中心となってB商店の業務を運営した。

昭和47年、Aの死亡に伴い、XがAを相続した。(A:被相続人、X相続人)

Aはもともと青色申告を受けており、B商店の営業により事業所得については、昭和29年から昭和45年分までA名義により青色申告がされていた。
(青色申告は、通常の申告:白色申告よりも税金が安くなる制度。ただし、その分、一定の帳簿書類を備えることが承認要件となる)

しかし、昭和46年からXが青色申告の承認を受けることなく、自己名義で青色申告書による確定申告をしたところ、税務署長Yは、Xについて青色申告の承認があるかどうかの確認を怠って申告書を受理した。

これが、昭和46年から50年まで続き、その間、Xは青色申告にかかる所得税額を納税していた。また、この間、B商店の帳簿書類の整備などは変化はなく、きちんとそろっていた。

そして、昭和51年、税務署長Yから、青色申告の承認申請がなかったことを指摘されたので、直ちに、申請をし、同年分以降についてその承認を受けた。

しかし、Yは、昭和48年と49年分は、白色申告とみなして、更正処分を行った。

そこで、Xはこの処分は、信義則に反して違法だとして、取消訴訟を提起した。

判決

租税法規に適合する課税処分について信義則の法理の適用を考えることができるのはどのような場合か?

納税者間の平等公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免除して納税者の信頼を保護しなければ、正義に反するといえるような特別の事情がある場合、信義則の適用を考える

租税法規に適合する課税処分について、信義則の法理の適用により、課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合はある。

そうだとしても、法律による行政の原理、特に租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、信義則の法理の適用については慎重でなければならない

そのため、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて(免除して)納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて信義則の法理の適用の是非を考えるべきである。

そして、「特別の事情が存するかどうか」の判断に当たっては、

少なくとも、①税務官庁が納税者に対し、信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、

②納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、

③のちに右表示に反する課税処分が行われ、

④そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、

また、⑤納税者が税務官庁の右表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したことについて

納税者の責めに帰すべき事由がないかどうか

という点の考慮は不可欠のものであるといわなければならない。

(特別な事情があるかどうかについては、上記①~⑤を考慮しなければならない)

 

三菱樹脂事件をわかりやすく解説|私人間効力・判旨・論点【行政書士】

論点

  1. 私人間において、憲法の人権規定を直接適用できるか?
  2. 特定の思想を有することを理由に採用を拒否することは違法か?
  3. 会社の入社の選考にあたり、応募者の思想に関する事項を尋ねることは違法か?

事案

Xは、大学在学中に、三菱樹脂株式会社Yの採用試験に合格し、翌年、卒業後、Yに3か月の試用期間を設けて採用された。しかし、入社試験(面接など)の際に、「学生運動などの事実を秘匿する(隠す)虚偽の申告をしたこと」を理由に、本採用を拒否する旨の告知を受けた。そのため、Xは、労働契約関係存在の確認を求めて出訴した。

判決

私人間において、憲法の人権規定を直接適用できるか?

直接適用できない

憲法19条、14条(下記参照)は、もっぱら、「国または公共団体」と「個人」との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律するものではない。

もっとも、私人間の関係においても、相互の社会的力関係の相違から、会社Yが優越し、事実上、従業員Xが会社Yの意思に服従せざるを得ない場合もあるが、そのような場合にも、人権規定の適用・類推適用はできない。

なぜなら、私人間の事実上の支配関係は様々で、どのような場合に「国等の支配と同視すべきか」の判定が困難であるから。

ただし、私的支配関係において、個人の自由・平等に対する侵害がある場合には、民法1条の信義則や権利濫用民法90条の公序良俗不法行為に関する諸規定によって調整を図ることは可能である。

憲法第19条
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

憲法第14条
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

特定の思想を有することを理由に採用を拒否することは違法か?

違法ではない

憲法第22条(何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する)において、経済活動の自由を人権として保障している。

そのため、会社は、経済活動の一環として、契約締結の自由を有しており、「どのような労働者」を「どのような条件」で雇用するかを決定する自由がある。

したがって、会社が、特定の思想・信条を有するがゆえに、その者を雇うことを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。

会社の入社の選考にあたり、応募者の思想に関する事項を尋ねることは違法か?

違法ではない

上記の通り、労働者を採用するか否かの決定にあたり、労働者の思想・信条を調査し、そのためその者から関連する事項についての申告を求めることも違法ではない。

最判平24.12.7:堀越事件

論点

  1. 国家公務員法102条1項にいう「政治的行為」の意義とは?
  2. 管理職的地位にない者が、配布行為を行うことは、実質的に政治的中立性を損なうおそれがあると認められるか?

事案

堀越明男氏Xは社会保険庁東京社会保険事務局目黒社会保険事務所に年金審査官として勤務していた厚生労働事務官である。
Xは衆議院選挙総選挙に際し、勤務時間外に日本共産党を支持する目的で「しんぶん赤旗 号外」をポスティングしたところ、住居侵入罪で現行犯逮捕された。
住居侵入罪については不起訴処分とされたが、国家公務員法に反するのではないかとして追送検された。

※Xは、社会保険の相談に関する業務を副長の指導の下で、専門職として、相談業務を担当していただけで、人事や監督に関する権限も与えられていなかった。

判決

国家公務員法102条1項にいう「政治的行為」の意義とは?

公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指す

国家公務員法102条1項は、「職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。」と規定している。

上記規定は、「行政の中立的運営を確保し、これに対する国民の信頼を維持すること」をその趣旨である。

また、憲法15条2項は、「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。」と定めており、国民の信託に基づく国政の運営のために行われる公務は、国民の一部でなく、その全体の利益のために行われるべきものであることが要請されている。

その中で、国の行政機関における公務は、憲法の定める我が国の統治機構の仕組みの下で、議会制民主主義に基づく政治過程を経て決定された政策を忠実に遂行するため、国民全体に対する奉仕を旨として、政治的に中立に運営されるべきものといえる。

そして、このような行政の中立的運営が確保されるためには、公務員が、政治的に公正かつ中立的な立場に立って職務の遂行に当たることが必要となるものである。

このように、本法102条1項は、公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し、これに対する国民の信頼を維持することを目的(※1)とするものと解される。

他方、国民は、憲法上、表現の自由(21条1項)としての政治活動の自由を保障されている。

この精神的自由は立憲民主政の政治過程にとって不可欠の基本的人権であって、民主主義社会を基礎付ける重要な権利である。

このことに鑑みると、上記の目的(※1)に基づく法令による公務員に対する政治的行為の禁止は、国民としての政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度にその範囲が画されるべきものである。

このような本法102条1項の文言、趣旨、目的や規制される政治活動の自由の重要性に加え、同項の規定が刑罰法規の構成要件となることを考慮すると、
同項にいう「政治的行為」とは、
公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指し、
同項はそのような行為の類型の具体的な定めを人事院規則に委任したものと解するのが相当である。

管理職的地位にない者が、配布行為を行うことは、実質的に政治的中立性を損なうおそれがあると認められるか?

認められない

本件配布行為は、管理職的地位になく、その職務の内容や権限に裁量の余地のない公務員によって、職務と全く無関係に、公務員により組織される団体の活動としての性格もなく行われたものである。

また、当該行為は、公務員による行為と認識し得る態様で行われたものでもない

よって、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものとはいえない。

判決文の全文はこちら>>

マクリーン事件をわかりやすく解説|外国人の人権・判旨【行政書士試験】

論点

  1. 外国人の在留期間の更新について法務大臣の裁量権が認められるか?
  2. 外国人にも人権の保障が及ぶか?
  3. 外国人にも政治活動の自由の保障が及ぶか?

事案

外国籍のマクリーン(X)は、在留期間を1年とする許可を得て、日本に入国した。

その後、Xは、法務大臣Yに対して、在留期間延長の申請をした。

しかし、「無断転職」および「政治活動(※)」を理由に、120日の更新しか認められず、その後、更新は不許可となった。

※ベトナム戦争の反対運動、日米安保条約の反対運動などを行っていた。

そこで、XはYの更新不許可処分を不服として、その取消しを求めて出訴した。

判決

1.外国人の在留期間の更新について法務大臣の裁量権が認められるか?

認められる

出入国管理令では、「在留期間の更新については、法務大臣がこれを適当と認めるに足りる相当の理由があると判断した場合に限り許可できる」としています。

そのため、更新事由の判断を、法務大臣の裁量に任せて、その裁量権の範囲を広汎なものとする趣旨であると解されます。

したがって、外国人の在留期間の更新について法務大臣の裁量権が認められます。

ただし、その裁量について、裁量権の範囲を超え又はその濫用があった場合、違法となります

そして、今回、法務大臣が、外国人の政治活動を斟酌して在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるものとはいえないと判断し、更新不許可の処分を下したわけですが、

今回の事案では、「裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものということはできない」として、違法ではないとした。

※ 斟酌(しんしゃく)相手の事情や心情をよくくみとること

2.外国人にも人権の保障が及ぶか?

原則、外国人にも人権の保障は及ぶ

例外として、外国人在留制度の枠を超える部分は、人権保障が及ばない

判例では、「基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべき」としているので、原則、外国人にも人権保障が及びます。

しかし、外国人の人権保障は、外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎず、外国人在留制度の枠を超える部分は、人権保障が及ばないとしています。

具体例が下記一定の政治活動の自由です。

「外国人在留制度の枠」については、個別指導で解説します!

3.外国人にも政治活動の自由の保障が及ぶか?

原則、外国人にも政治活動の自由を認めている

例外として、わが国の政治的意思決定または、その実施に影響を及ぼす活動などは、政治活動の自由の保障は及ばない

政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定または、その実施に影響を及ぼす活動など、外国人の地位にかんがみて、これを認めることが相当でないと解されるものを除いて、その保障が及びます

そして、今回の事案では、外国人Xの事実に対する法務大臣の不許可処分は、「明白に合理性に欠き、その判断が社会通念上著しく妥当性に欠くことが明らかである」とはいえないので、在留中の政治活動を理由に更新を不許可としたことは違憲ではない、とした。

※ かんがみる(鑑みる):先例や規範に照らし合わせる。他を参考にして考える

砂川事件をわかりやすく解説|統治行為論・判旨・争点【行政書士試験】

論点

  1. 安全保障条約に司法審査が及ぶか?

事案

国は、米軍立川飛行場の拡張計画を考えていたが、当該計画に反対した砂川町の住民が反対運動をした。それにもかかわらず、国が拡張のための測量を開始したので、1000名以上の集団が境界柵の外側に集合し、その中の一部の者が境界柵を破壊した。破壊された境界柵から立ち入り禁止場所に入ったところ、この行為が法律に違反するとして、起訴された。

判決

安全保障条約に司法審査が及ぶか?

→及ばない

本件安全保障条約は、主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものというべきであって、安全保障条約の内容が違憲か否かの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす。

れ故、右違憲か否かの法的判断は、司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものである

そして、本件安全保障条約は、違憲無効であることが一見きわめて明白であるとは到底認められないため、司法審査は及ばない。

朝日訴訟をわかりやすく解説|判旨・争点・プログラム規定説【行政書士試験】

朝日訴訟とは?

朝日訴訟(最大判昭42.5.24)とは、生活保護基準の合憲性が争われた憲法25条(生存権)に関するリーディングケースです。原告の朝日茂氏が、月額600円の生活扶助では「健康で文化的な最低限度の生活」を維持できないとして厚生大臣を相手に提訴しました。最高裁は、憲法25条は国の責務を宣言したものであり、直接個々の国民に具体的権利を賦与したものではないと判示し、いわゆるプログラム規定説の立場を採用した判決として知られています。行政書士試験では、生存権の法的性質・厚生大臣の裁量権・保護受給権の一身専属性の3点がくり返し出題されています。

朝日訴訟と堀木訴訟の比較表

比較項目 朝日訴訟(最大判昭42.5.24) 堀木訴訟(最大判昭57.7.7)
争点 生活保護基準(月600円)は憲法25条に違反しないか 障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止は憲法25条に違反しないか
25条の解釈 プログラム規定説を採用し、具体的権利性を否定 立法府の広い裁量を認め、明らかに合理性を欠く場合のみ違憲(広い立法裁量論)
裁量の範囲 厚生大臣の合目的的裁量に委ねられる 立法府の広範な裁量に委ねられる
違憲・違法となる基準 裁量権の逸脱・濫用がある場合 著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用がある場合
結論 原告死亡により訴訟終了(本案判断は傍論) 併給禁止規定は合憲
試験での頻出ポイント 保護受給権の一身専属性・プログラム規定説 立法裁量論・25条1項と2項の区別

論点

  1. 生活保護受給権に相続性はあるか?
  2. 生存権に法的権利性はあるか?
  3. どのような場合に違法な行為として司法審査の対象となるか?

事案

X(朝日茂氏)は、肺結核患者として、療養所に入所し、厚生大臣の認定した生活扶助基準で定められた最高金額である「月600円の日用品費の生活扶助」と「現物による給食付医療扶助」とを受けていた。

ところが、Xは、実兄から、毎月1500円の送金を受けるようになったため、市の社会福祉事務所長は、月600円の生活扶助を打ち切り、上記送金額から日用品費を控除した残額900円を医療費の一部としてXに負担させる旨の保護変更の決定をした。

それに対して、Xは、厚生大臣を被告として600円の基準金額が生活保護法の規定する「健康で文化的な最低限度の生活水準」を維持するに足りないものであると主張して、訴えを提起した。

判決

生活保護受給権に相続性はあるか?

→ない

生活保護法に基づく保護受給権は、法的権利である。

しかし、この権利は、被保護者個人に与えられた一身専属の権利である。

したがって、本件訴訟は、Xの死亡と同時に終了し、相続人が保護受給権を承継する余地はない。

生存権に法的権利性はあるか?

→ない

憲法25条1項はすべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に具体的権利を賦与したものではない。

具体的権利としては、生活保護法によりはじめて与えられる。

※つまり、「生存権自体は法的権利性はないが、生活保護法で規定されることで、法的権利性が与えられる」ということです。

25条の法的権利性を否定している点では、プログラム規定説を採用しているといえる。

どのような場合に違法な行為として司法審査の対象となるか?

憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によって与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合

何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう、厚生大臣の合目的的な裁量に委されている。

そして、その判断は、当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあっても、直ちに違法の問題を生ずることはない。

ただ、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、①法律によって与えられた裁量権の限界をこえた場合または②裁量権を濫用した場合には、違法な行為として司法審査の対象となる。

判決文の全文はこちら>>

関連ページ

>>関連判例:最大判昭57.7.7:堀木訴訟(障害年金と児童扶養手当の併給禁止が生存権に違反しないか)

>>生存権(憲法25条)プログラム規定説・抽象的権