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仮の義務付け・仮の差止め

取消訴訟が提起された場合、仮の救済手段として、執行停止の制度があります。

これと同様に、
義務付け訴訟が提起された場合の仮の救済手段として「仮の義務付け」
差止め訴訟が提起された場合の仮の救済手段として「仮の差止め」があります。

仮の義務付け

仮の義務付けは、義務付けの訴えがあった場合に、その判断がされる前に、暫定的に行政庁が処分または裁決をする旨を命ずることを言います。

例えば、A所有の建物が違法建築物で今にも倒壊しそうです。隣地の住民Bが当該建物の除去命令の義務付けの訴えを提起したが、判決をもらうまでに時間がかかるためその間に建物が倒壊してしまっては、Bは困ります。そのような場合に、仮の義務付けを申し立てることができます。

仮の義務付けの要件

手続要件 義務付けの訴えがあったこと
積極要件
  1. 義務付けの訴えに係る処分又は裁決がなされないことにより生ずる償うことができない損害をさけるため緊急の必要があること
  2. 本案に理由があるとみえること
消極要件 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあること

積極要件と消極要件

積極要件とは、効力を発生させるための要件を言います。

一方、消極要件とは、効力が妨げられる要件を言います。

上記事例でいうと、下記2つの要件を満たることで仮の義務付けの効力が発生します。

  1. 償うことができない損害をさけるため緊急の必要があること
  2. 本案に理由があるとみえること

しかし、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある」という要件を満たす場合、たとえ、上記積極的要件(上記2つの要件)を満たしていても、仮の義務付けの効力は発生しません。

仮の差止め

仮の差止めは、差止めの訴えがあった場合に、その判断がされる前に、暫定的に行政庁が処分または裁決をしてはならない旨を命ずることを言います。

例えば、A土木会社が、宅地の造成工事を行っています。隣地の住民Bの土地が、Aの造成工事により、沈下(地盤沈下)している。この場合、工事の差止めの訴えをしたが、判決をもらうまでに時間がかかるため、その間にもドンドン地盤沈下して困ってしまいます。そのような場合にBは仮の差止めを申し立てることができます。

仮の差止めの要件

仮の差止めの要件は、仮の義務付けと考え方は同じです。

手続要件 差止めの訴えがあったこと
積極要件
  1. 差止めの訴えに係る処分又は裁決がなされることにより生ずる償うことができない損害をさけるため緊急の必要があること
  2. 本案に理由があるとみえること
消極要件 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあること

この点も仮の義務付けと同様に

下記2つの要件を満たることで仮の差止めの効力が発生します。

  1. 償うことができない損害をさけるため緊急の必要があること
  2. 本案に理由があるとみえること

しかし、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある」という要件を満たす場合、たとえ、上記積極的要件(上記2つの要件)を満たしていても、仮の差止めの効力は発生しません。

<<差止めの訴え | 当事者訴訟(形式的当事者訴訟・実質的当事者訴訟)>>

当事者訴訟(形式的当事者訴訟・実質的当事者訴訟)

当事者訴訟は、主観訴訟ではあるものの、これまで勉強してきた抗告訴訟ではありません。主観訴訟は、個人の権利利益の救済を目的とし、自分自身に直接関係する行政活動に対する訴訟を指します。

そして、当事者訴訟は非常に分かりにくい訴訟なので、イメージを頭に入れることが重要です!


当事者訴訟とは?

当事者訴訟とは、①当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び②公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。

上記、「①当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で、法律関係の当事者の一方を被告とするもの」が形式的当事者訴訟で、「②公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」が実質的当事者訴訟です。

上記を読んだだけでは全く意味が分からないと思いますので、具体例を出しながら解説していきます。

形式的当事者訴訟

例えば、Aの土地について、土地収用に関する収用委員会の裁決について,不服がある場合、本来、収用委員会の属する都道府県を被告として、収用裁決の取消しの訴えを提起します。

しかし、Aが収用自体は納得しているけど、収用に対する補償金額に不服がある場合があります。この場合、Aは補償額についてのみ争えばよいです。

そして、この補償額については、事業の起業者(事業を行う者)が決め、収用委員会が認定するのですが、補償額(損失補償額)に争いがある場合,土地を収用されたAと起業者との間で争います。

本来であれば,「補償額を認定した収用委員会の属する行政主体である都道府県」を被告として裁決を争う抗告訴訟によるべきです。
これが、「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟」ということです。

しかし、補償金額については,補償金の支払いに関係する当事者間で直接争わせたほうが適切であるため、被告を起業者として訴訟を提起します。
これが、「法律関係の当事者の一方を被告とする」ということです。

上記訴えが、当事者訴訟の中の形式的当事者訴訟です。

上記は、土地を収用されたAが、「補償額が少なすぎる!」と主張する場合で、逆に起業者が「補償額が高すぎる!」と主張する場合、被告がAとなり、同じく形式的当事者訴訟で争います。

形式的当事者訴訟は、上記「収用における補償金の増額・減額の訴訟」 を具体例として覚えた方が早いです。

実質的当事者訴訟

次に実質的当事者訴訟を解説するのですが、形式的当事者訴訟と全く違うものに見えると思います。そのため、形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟は分けて考えた方がよいでしょう!つなげて考えると、逆に分かりづらくなります。

今から解説する具体例は、無効等確認訴訟でも勉強した内容です。

例えば、国家公務員Cが懲戒免職処分を受けた。Cは、この処分が無効であることを前提に、「公務員の地位確認訴訟」や「給料支払請求訴訟」を行うことができます。この訴えは、被告が国であるというだけで、内容としては、民事訴訟と同じです。

例えば、会社員Dが会社から不当解雇を受け、この解雇が無効であることを前提に、「社員たる地位の確認訴訟」を提起することは、民事訴訟です。

単に、「私人と私人の争い」ではなく「国と公務員」という公法上の法律関係なっているにすぎません。

このような訴訟が実質的当事者訴訟です。

まずは、具体例を覚えることが理解への第一歩なので、具体例を覚えていきましょう。

上記以外にも、

等があります。

実質的当事者訴訟と争点訴訟の違い

上記実質的当事者訴訟と争点訴訟は似ていますが、違います。

何が違うかというと、
実質的当事者訴訟は、私人と行政主体との争い(=行政訴訟)で、
争点訴訟は私人間の争い(=民事訴訟)です。

また、上図の通り、現在の法律関係の確認を求める訴え(実質的当事者訴訟や争点訴訟)では目的達成ができない場合に限って、無効等確認の訴え(無効確認訴訟)を提起できる点も併せて覚えておきましょう。

<<当事者訴訟(形式的当事者訴訟・実質的当事者訴訟) | 争点訴訟>>

差止めの訴え(抗告訴訟の一種)

行政事件訴訟法の類型でも勉強した通り、主観訴訟の中の抗告訴訟の一つに「差止めの訴え」があります。

主観訴訟とは、個人の権利利益の救済を目的とし、自分自身に直接関係する行政活動に対する訴訟を指し、抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関して違法でないかと不服がある場合の訴訟です。

差止めの訴えとは?

差止めの訴え差止め訴訟)とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟を言います。

上記「処分や裁決がされようとしている場合」に行う訴訟なので、処分や裁決がされる前に提起するものだということです。行政書士の試験ではここが非常に重要です。

例えば、Aが建物を建築したが、甲県が「この建物は違法建築物です。直してくれませんか?」という行政指導をAに対して行った。しかし、Aは違法建築物ではないと思っていた。このまま放っておくと、除去命令の処分をされかねません。そのためAは甲県に対して、除去命令をしないように差止めの訴えを提起することができます。

差止め訴訟の訴訟要件

差止め訴訟を提起できる要件は下記3つです。すべて満たした場合に適法となり審理されます。いずれか一つでも満たさない場合は、不適法として却下されます。

非申請型の義務付け訴訟と同じ訴訟要件です。

  1. 一定の処分や裁決がなされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあること
  2. その損害を避けるため他に適当な方法がないこと
  3. 行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者であること

差止め訴訟の勝訴要件

差止め訴訟で原告が勝訴するためには下記2つのいずれかを満たす必要があります。

  1. 行政庁がその処分をすべきでないことが明らかであること
  2. 行政庁がその処分をすることが裁量権の逸脱・濫用となると認められること

上記のいずれかを満たせば、認容判決(原告勝訴)となり、どちらも満たさない場合は棄却判決(原告敗訴)となります。

<<義務付けの訴え | 仮の義務付け・仮の差止め>>

義務付けの訴え(抗告訴訟の一種)

行政事件訴訟法の類型でも勉強した通り、主観訴訟の中の抗告訴訟の一つに「義務付けの訴え」があります。

主観訴訟とは、個人の権利利益の救済を目的とし、自分自身に直接関係する行政活動に対する訴訟を指し、抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関して違法でないかと不服がある場合の訴訟です。

義務付けの訴えとは?

義務付けの訴え義務付け訴訟)とは、下記場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟を言います。
  1. 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(申請を前提としない義務付け訴訟非申請型義務付け訴訟
  2. 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(申請を前提とする義務付け訴訟申請型義務付け訴訟

非申請型義務付け訴訟:1号義務付け訴訟

非申請型義務付け訴訟は、「非申請型」の通り、申請者でない者が行政庁に対して「こういった処分を行ってください!」と求める訴訟です。

例えば、甲市内に違法建築物があるにも関わらず、甲市が何ら権限を行使せず放っておいている場合、隣地の住民は、甲市に対して、建物の除去命令を下してください!と義務付けの訴えを提起することができます。

この場合、隣地の住民は、事前に何かしらの申請をしたかというと、何の申請もしていません。単に、隣地の住民は建物の除去命令がされないことにより、重大な損害を受ける可能性があるから除去命令を求めているだけです。

非申請型義務付け訴訟の訴訟要件

1号義務付け訴訟を提起できる要件は下記3つです。すべて満たした場合に適法となり審理されます。いずれか一つでも満たさない場合は、不適法として却下されます。

  1. 一定の処分がなされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあること
  2. その損害を避けるため他に適当な方法がないこと
  3. 行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者であること

非申請型義務付け訴訟の勝訴要件

1号義務付け訴訟で原告が勝訴するためには下記2つのいずれかを満たす必要があります。

  1. 行政庁がその処分をすべきことが明らかであること
  2. 行政庁がその処分をしないことが裁量権の逸脱・濫用となると認められること

上記のいずれかを満たせば、認容判決(原告勝訴)となり、どちらも満たさない場合は棄却判決(原告敗訴)となります。

申請型義務付け訴訟:2号義務付け訴訟

申請型義務付け訴訟は、「申請型」の通り、申請したけど、拒否処分を下されたり、不作為状態が続く場合に、「申請に対して許可処分を下してください!」と義務付けよう求める訴訟です。

例えば、Aが甲県の建築主事に対して、建築確認の申請をした。しかし、建築主事は拒否処分をした。その場合、Aは甲県に対して、建築確認を認めてください!と義務付けを求めることが申請型義務付け訴訟です。

申請型義務付け訴訟の訴訟要件

2号義務付け訴訟を提起できる要件は、不作為型と拒否処分型とで異なり、それぞれ、2つの要件を同時に満たす必要があります。

不作為型
  1. 法令に基づく申請又は審査請求がなされたにも関わらず、相当期間内に処分または裁決がされなかったとき
  2. 不作為の違法確認の訴えと併せて提起すること
拒否処分型
  1. 法令に基づく申請又は審査請求が、却下または棄却された場合に、当該処分または裁決が取り消されるべきものであったり、無効または不存在であったとき
  2. 取消訴訟」又は「無効確認の訴え」と併せて提起すること

上記不作為型については、「不作為の違法確認訴訟」と関連する部分です。

申請型義務付け訴訟の勝訴要件

2号義務付け訴訟で原告が勝訴するための要件は「不作為型」と「拒否処分型」とで異なります。

不作為型 行政庁が処分・裁決すべきことが根拠法令から明らかである場合
拒否処分型 行政庁が処分・裁決をしないことが裁量権の逸脱・濫用である場合

上記を満たせば、認容判決(原告勝訴)となり、満たさない場合は棄却判決(原告敗訴)となります。

<<不作為の違法確認の訴え | 差止めの訴え>>

不作為の違法確認の訴え(抗告訴訟の一種)

行政事件訴訟法の類型でも勉強した通り、主観訴訟の中の抗告訴訟の一つに「不作為の違法確認の訴え」があります。

主観訴訟とは、個人の権利利益の救済を目的とし、自分自身に直接関係する行政活動に対する訴訟を指し、抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関して違法でないかと不服がある場合の訴訟です。

不作為の違法確認の訴えとは?

不作為の違法確認の訴え不作為の違法確認訴訟)とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟を言います。

簡単に言えば、申請をしたにも関わらず、相当期間が経過しても、処分や裁決を下さない場合に、それは違法だ!と訴訟提起することです。

例えば、宅建業の免許の申請をしたにも関わらず、いつまで経っても、許可処分も不許可処分も下さない場合に、申請者は不作為の違法確認の訴えを提起できます。

ただ、不作為の違法確認の訴えで勝訴したとしても、不作為の行政庁に対して、何らかの応答(許可処分や不許可処分)をしなさいという命令としての意味しか持ちません。

申請者としては、許可処分をください!と主張したい場合もあります。そのような場合はあとで解説する義務付け訴訟を行います。

そうすれば、許可処分を義務付ける効力を持ちます。

相当期間とは?

ここでいう「相当期間」とは、その処分をするのに通常必要とする期間を言います。標準処理期間と必ずしも一致するわけではないので、標準処理期間が経過したからといって直ちに不作為の違法だと主張することはできません。

不作為の違法確認訴訟の原告適格

不作為の違法確認の訴えは、処分又は裁決について申請をした者に限って提起できます。

注意すべき点は、その申請が適法である必要はありません。現に申請をしていれば、不適法と却下されるような申請であっても、却下処分がされていない以上、不作為状態なので、不作為の違法確認訴訟を提起できます。

不作為の違法確認訴訟の出訴期間

行政庁の不作為が続いている限り、申請をした者はいつでもこの訴えを提起することができます。

<<無効等確認の訴え | 義務付けの訴え>>

行政事件訴訟法における教示

行政庁は、取消訴訟を提起することができる「処分又は裁決」をする場合には、当該「処分又は裁決」の相手方に対し、原則、下記事項を書面教示しなければなりません。

①当該処分又は裁決に係る取消訴訟の被告とすべき者
②当該処分又は裁決に係る取消訴訟の出訴期間
③法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、その旨

ただし、例外として、当該処分を口頭でする場合は、教示しなくてもよいです。

裁決主義の場合の教示

上記の内容は、処分についても、裁決についても取消訴訟の提起ができる場合です。

今回の内容は、裁決についてのみ取消訴訟の提起が許される場合(裁決主義の場合)の話です。

この場合、処分の相手方に対し、法律にその定めがある旨(裁決主義である旨)を書面で教示しなければなりません。

形式的当事者訴訟ができる場合の教示

行政庁は、「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの形式的当事者訴訟)」を提起することができる処分又は裁決をする場合には、当該処分又は裁決の相手方に対し、下記事項を書面で教示しなければなりません。

①当該訴訟の被告とすべき者
②当該訴訟の出訴期間

ただし、例外として、当該処分を口頭でする場合は、教示しなくてもよいです。

教示における行政不服審査法との違い

行政不服審査法の教示では、行政庁が誤って教示した場合や教示をしなかった場合について規定されてています。

一方、行政事件訴訟法では、行政庁が誤って教示した場合や教示をしなかった場合の規定はありません。しかし、取消訴訟の出訴期間の例外で「正当な理由があるとき」は、6か月・1年経過後でも取消訴訟を行えるとして、上記の場合は、「正当な理由」に該当すると解釈されています。そのため、一定の救済措置があるわけです。

<<取消訴訟の判決の種類と効力却下判決、認容判決、棄却判決事情判決既判力形成力・第三者効拘束力 | 無効等確認の訴え>>

無効等確認の訴え(抗告訴訟の一種)

行政事件訴訟法の類型でも勉強した通り、主観訴訟の中の抗告訴訟の一つに「無効等確認の訴え」があります。

主観訴訟とは、個人の権利利益の救済を目的とし、自分自身に直接関係する行政活動に対する訴訟を指し、抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関して違法でないかと不服がある場合の訴訟です。

無効等確認の訴えとは?

そして、無効等確認の訴えとは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟です。

以前勉強した通り、行政行為には公定力があります。そのため、取り消しがあるまで、行政行為は有効となります。しかし、その行政行為に重大かつ明白な瑕疵]があるときは、公定力はなく、取り消し手続きをしなくても、当然に無効なので、行政行為の効力は生じません。

言い換えると、無効な処分なので、取消し自体出来ないです。そのため、「処分は無効ですよね!?」と確認することができるわけです。

例えば、Aさんが不動産を取得していないにも関わらず、Aさんに対して不動産取得税の課税処分の通知が来たとします。その場合、重大かつ明白な瑕疵]と言えるので、無効等確認の訴えを提起することができます。

重大かつ明白な瑕疵]とは?

  1. 行政行為の違法性が重大であり
  2. 行政行為の違法性の存在が明白であるということです。

1の重大性は、相手方の事情などを考えた上で、個別的に判断します。

2の明白性には、一般的に外観から見て当然分かることを言います。

この点は行政書士では、それほど重要ではないので、「重大かつ明白な瑕疵がある場合、行政行為は無効である」と覚えていれば十分です。

そして、無効等確認の訴えには、予防的無効確認の訴えと補充的無効確認の訴えの2つがあります。

予防的無効確認の訴え まだ処分されていないけど、処分されると損害を受ける恐れがある場合に行うもの
補充的無効確認の訴え すでに処分されていて、現在の法律関係の確認を求める訴えでは目的達成ができない場合に行うもの

予防的無効確認の訴え

処分や裁決に続く処分によって損害を受ける恐れのある場合、予防的無効確認の訴えを提起できます。

例えば、上記不動産取得税の課税処分があり、この課税処分に続いて滞納処分が課せられる場合、損害を受けることになります。この場合、Aさんは、課税処分の無効確認の訴えを提起でき、無効確認の判決をもらうことで、納税義務を免れ、かつ滞納処分による損害の発生を予防することができます。

これが、予防的無効確認等訴訟です。

予防的無効確認の訴えの要件

「処分や裁決に続く処分によって損害を受ける恐れのあること」が要件です。

補充的無効確認の訴え

処分や裁決の無効確認を求めるに法律上の利益を有していて、かつ、現在の法律関係の確認を求める訴えでは目的達成ができない場合に提起できます。

分かりづらいですが、考え方としては、「現在の法律関係の確認を求める訴えでは目的達成ができない」から、補充的な(追加の)救済手段として「無効確認の訴えを行う」ということです。

現在の法律関係の確認を求める訴えでは目的達成ができない場合とは?

例えば、Bが宅建業の免許の申請をして、不許可処分を受けた。この場合、処分を受ける前も後も、宅建業を行うことができていない状態です。そのため現在の法律関係(免許がされていないこと)の確認を求めても、今も昔も宅建業を行うことができない状態に変わりはないため何の意味もありません。Bの目的は「免許申請の不許可処分の無効を主張して、再度審査をしてもらうこと」です。つまり、「現在の法律関係の確認を求める訴えでは目的達成ができない」ということです。

そのため、Bはすでになされた不許可処分について、無効等確認の訴えを提起することができます。

これが、補充的無効等確認訴訟です。

現在の法律関係の確認を求める訴えでは目的達成ができる場合とは?

実質的当事者訴訟が行える場合

例えば、公務員Cが懲戒免職処分を受けた。この場合、処分を受ける前は、公務員としての地位を有しており、処分を受けた後の現在は公務員としての地位を有していません。この場合、現在の法律関係の確認を求める訴えとは、「懲戒免職処分は無効だ!現在も公務員としての地位を有しているはずでしょ!」という訴えです。この訴えをすることで、Cの目的(公務員としての地位を回復すること)は達成できます。この場合、過去の処分の無効を主張することはできず、現在の法律関係の確認を求める訴え(具体的には実質的当事者訴訟)で、公務員であることの地位の確認を求めることができます。

争点訴訟が行える場合

また、別の事例でいうと、例えば、道路を広くする事業(公共事業)のために、土地を収用された(強制的に奪われた)者Dが、収用裁決は無効だということを理由に、「土地の所有権は私Dにあるでしょ!」と主張する場合、土地収用の起業者(公共事業を行う事業者)を被告として、土地所有権の確認の訴えを提起することができます。「収用裁決を受ける前の土地の所有者はD」、「収用された後の土地所有者は起業者」になります。上記土地所有権の確認の訴えを提起することで、Dの目的(所有権を自分に戻すこと)は達成できます。そのため、過去の収用裁決の無効を主張することはできず、土地所有権の確認の訴え(争点訴訟:民事訴訟)を提起することになります。

実質的当事者訴訟と争点訴訟の違い

上記実質的当事者訴訟と争点訴訟は似ていますが、違います。

何が違うかというと、
実質的当事者訴訟は、私人と行政主体との争い(=行政訴訟)で、
争点訴訟は私人間の争い(=民事訴訟)です。

補充的無効確認の訴えの要件

下記2つの要件を満たす必要があります。

  1. 法律上の利益を有している
  2. 現在の法律関係の確認を求める訴えでは目的達成ができない

<<行政事件訴訟法における教示 | 不作為の違法確認の訴え>>

取消訴訟の判決の種類と効力

取消訴訟の判決の種類

取消訴訟の判決には、却下判決、認容判決、棄却判決の3つがあります。そして、棄却判決の特殊な形態として事情判決があります。

却下判決 訴えが訴訟要件を欠き、不適法な場合に、本案審理に入ることなく訴えを排斥する判決
審理することなく門前払いをするイメージです。
認容判決 原告の請求に理由があることを認めて、処分を取り消す判決
通常、取消判決と言います。
棄却判決 原告の請求に理由なしとして請求を排斥する判決
却下判決と異なり、審理はするものの、行政庁が行った処分が正しいということで、処分は取り消されない判決です。

事情判決

棄却判決の一種に、事情判決があります。

通常、処分または裁決が違法の場合、取消判決を行わないといけません。

しかし、処分や裁決を取り消すと、公の利益に著しい障害を生ずる場合公共の福祉に適合しないと認める場合)、処分を取り消すことなく、原告の請求を棄却することができます。

これを事情判決と言います。

この事情判決をする場合、判決の主文で、処分または裁決が違法であることを宣言しなければなりません。

例えば、土地区画整理事業で、複数の土地について公共施設を整備改善しようとしていたとします。その土地の所有者の一人が、土地区画整理事業の認定は違法だと認定の取り消しの訴えを提起したとします。工事も進んでおり、ここで取り消しをすると、他の土地所有者にも大きな影響を及ぼすことがあると、公共の利益を維持するために事情判決を下したりします。

また、衆議院議員定数不均衡事件では、事情判決が直接適用されたわけではありませんが、事情判決の法理が適用されました。いわゆる一票の格差の話です。

衆議院議員の総選挙について各選挙区間の議員1人あたりの有権者分布差比率は最大4.99対1に及んでおり、平等選挙を要請した憲法(14条1項)に違反すると判断した。(衆議院議員定数不均衡事件:最判昭51.4.14)
しかし、違憲ではあるが、混乱を避けるために、事情判決のルールを使って、その選挙を無効とはしないとした。

判決の効力

判決の効力には、既判力、形成力、拘束力の3つがあります。

既判力 当事者及び裁判所は判決の内容に対して、矛盾する主張や判断が出来なくなるという効力(蒸し返しができない)
形成力 取消判決の確定によって、処分または裁決は、当然に処分時または裁決時にさかのぼって効力を失うという効力
拘束力 処分または裁決をした行政庁・関係行政庁は取消判決に拘束され、同一処分の理由では変更出来なくなる効力

既判力

既判力 当事者及び裁判所は判決の内容に対して、矛盾する主張や判断が出来なくなるという効力(蒸し返しができない)

判決が確定すると、同一事項が別の訴訟で問題となった場合、訴訟当事者は、判決内容に反する主張はできず裁判所は、判決内容に反した判断をすることができなくなります。これを既判力と言います。

例えば、A建設会社がマンション建設のために、甲県の建築主事から建築確認を受けた。その後、近隣住民が当該建築確認処分は違法だとして、甲県に対して処分の取り消しの訴えを提起した。

そして、判決の結果、建築確認は適法として棄却判決が下された場合、近隣住民は再度同一訴えを提起することはできません(蒸し返しはできない)。

形成力、第三者効

形成力 取消判決の確定によって、処分または裁決は、当然に処分時または裁決時にさかのぼって効力を失うという効力

取消判決が確定すると、処分または裁決は、行政庁が取消しをするまでもなく当然に、効力を失い、処分または裁決がなかったことになります(遡及する)。

例えば、A建設会社がマンション建設のために、甲県の建築主事から建築確認を受け、その後、近隣住民が当該建築確認処分は違法だとして、甲県に対して処分の取り消しの訴えを提起した。審理の結果、建築確認が違法として取消判決を受けた場合、初めから建築確認はなかったことになります(建築確認は初めから無効)。

そして、この形成力には第三者にも及びます。上記取消訴訟については、原告が近隣住民、被告が甲県ですが、第三者であるA建設会社にも取消判決の効力が及ぶため、A建設会社はマンション建設ができなくなります。これを第三者効と言います。

拘束力

拘束力 処分または裁決をした行政庁・関係行政庁は取消判決に拘束され、同一処分の理由では変更出来なくなる効力

確定した取消判決は、その事件について、処分または裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束します。この効力を拘束力と言います。

この拘束力は、下記2つの効果をもたらします。

  1. 取消しされた行政処分と同一事情のもとで、同一理由同一内容の処分を行うことを禁止する
  2. 行政庁はあらためて措置を執る義務を負う

例えば、A建設会社がマンション建設のために、甲県の建築主事から建築確認を受けた(建築確認申請を認めた)。その後、近隣住民が当該建築確認処分は違法だとして、甲県に対して処分の取り消しの訴えを提起した。審理の結果、建築確認が違法として取消判決を受けた場合、初めから建築確認はなかったことになります。ここまでは形成力の話です。

その後、A建設会社が、同一のマンション建設について建築確認の申請を行った場合、行政庁は、以前の処分と同じように、建築確認を認める処分を下すことができないということです。これが上記1の効果です。

上記2の効果については、例えば、A建設会社がマンション建設のために、甲県の建築主事に建築確認申請をし、拒否処分を受けたとします。A建設会社が当該拒否処分は違法だとして、取消訴訟を提起した。その結果、取消判決(認容判決)がなされた場合、甲県の建築主事は、再度建築確認申請について、審査をして処分をやり直さなおす義務を負います。

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執行停止(取消訴訟)

取消訴訟を提起してから判決が出るまで、数か月かかる場合もあります。そうなると、判決が出るまでに、不利益が生じる場合もあります。そのような場合に、裁判所は、処分の効力や処分の執行などを行わないようにすることができます。これを執行停止と言います。

執行不停止の原則

行政不服審査法でも勉強した執行停止と同様に、処分の取消しの訴えが提起されても、処分の効力、処分の執行または手続きの続行は妨げられません(停止しない)。これを執行不停止の原則と言います。

例えば、A社が甲県知事から土地の開発許可を受け、造成工事に着手したとします。その近隣住民が、当該造成工事をすることで、がけ崩れなどが起こる可能性があると考え、開発許可処分の取消しの訴えをしました。しかし上記執行不停止の原則の通り、訴訟提起しても、工事は続行されます。そして、造成工事が完了してしまうと、開発許可処分取消しの訴えの利益がなくなり、取消の訴えは却下されてしまいます。そのような事態を防ぐために、仮の救済策として、執行停止があります。

ただし、どんな場合でも執行停止されるかというとそうではありません。要件があります。

執行停止の要件

執行停止の要件は下記2つです。どちらも満たす必要があります。

  1. 処分の取消しの訴えの提起があること
  2. 処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があること

上記を言い換えると、取消しの訴えを提起していない場合、執行停止はされません。また、重大な損害を避けることについて緊急ではない場合も執行停止されません。

上記の場合、執行停止の申立てにより、裁判所は、決定をもって、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(執行停止)をすることができます。

ただし、処分の執行又は手続の続行の停止によって目的を達することができる場合には、処分の効力の停止はできません

この点は個別指導で解説します。

また、上記要件を満たす場合でも、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるとき(原告が勝訴する見込みがないとき)は、執行停止することができません。

即時抗告

執行停止の申立てに対する決定に対して、不服がある者は即時抗告ができます。

事情変更による執行停止の取消し

執行停止の決定を行った後に、執行停止をする理由が消滅したり、その他の事情が変更したときは、裁判所は、行政庁(相手方)の申立てにより、決定をもって、執行停止の決定を取り消すことができます。

内閣総理大臣の異議

執行停止の申立てがあったとき、内閣総理大臣は、やむを得ない場合には、執行停止しない理由を付けて、裁判所に対して「執行停止をするな!」と異議を述べることができます。

この異議は、執行停止の決定があった後でも述べることができます。

そして、内閣総理大臣が異議を述べた場合、裁判所は、その異議に従う義務があります。つまり、
執行停止の決定前であれば、執行停止をすることができず
執行停止の決定後であれば、執行停止の決定を取り消さなければなりません

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訴えの変更

訴えの変更とは、訴訟の係属中に、原告が請求の趣旨請求の原因を変更することです。

国又は公共団体に対する請求への訴えの変更

そして、この訴えの変更にはいくつかルールがありますので、それを列挙します。

  1. 訴えの変更は、原告の申立てにより行う。(裁判所の職権で行うことはできない)
  2. 訴えの変更は、口頭弁論の終結に至るまでに行うこと。
  3. 訴えの変更をするにしても、請求の基礎に変更がないことが要件。
  4. 訴えの変更を認める場合、裁判所決定をもって行う
  5. 訴えの変更を許す決定をするには、裁判所は、あらかじめ被告の意見をきかなければならない
  6. 訴えの変更を許す決定に対しては、即時抗告をすることができる。
  7. 訴えの変更を許さない決定に対しては、不服を申し立てることができない

請求の基礎とは?

訴訟を行う場合、ある事実があり、その事実に対して何らかの請求を行います。その事実自体が同じ場合、「請求の基礎に変更がない」と言います。

例えば、Aが営業停止処分を受けて、Aが営業停止処分の取消しの訴えをしたとします。その後、営業停止期間に100万円の損害があったとして、「処分の取消しの訴え」から「損賠償請求の訴え」に変更することがあります。

この2つの訴えについて、「Aが営業停止処分を受けた」という事実から発生した訴えです。こういったものが請求の基礎に変更がないということです。

裁判資料(証拠書類等)については、処分取消の訴えのものを使って、損害賠償請求の訴えを行うことができるため、裁判の効率性も保たれます。

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