Aに雇われているBの運転する車が、Aの事業の執行中に、Cの車と衝突して歩行者Dを負傷させた場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。なお、Aには使用者責任、BおよびCには共同不法行為責任が成立するものとする。
- AがDに対して損害を全額賠償した場合、Aは、Bに故意または重大な過失があったときに限ってBに対して求償することができる。
- AがDに対して損害を全額賠償した場合、Aは、損害の公平な分担という見地から均等の割合に限ってCに対して求償することができる。
- CがDに対して損害を全額賠償した場合、Cは、Bに対してはB・C間の過失の割合によるBの負担部分について求償することができるが、共同不法行為者でないAに対しては求償することができない。
- Cにも使用者Eがおり、その事業の執行中に起きた衝突事故であった場合に、AがDに対して損害を全額賠償したときは、Aは、AとEがそれぞれ指揮監督するBとCの過失の割合によるCの負担部分についてEに対して求償することができる。
- BがAのほかFの指揮監督にも服しており、BがAとFの事業の執行中に起きた衝突事故であった場合に、AがDに対して損害を全額賠償したときは、Aは、損害の公平な分担という見地から均等の割合に限ってFに対して求償することができる。
【解説】
本肢は、図を使いながら解説しないと理解しづらいので、個別指導では図を使いながら解説します!
1.AがDに対して損害を全額賠償した場合、Aは、Bに故意または重大な過失があったときに限ってBに対して求償することができる。
1・・・妥当でない
使用者Aは、原則、被用者Bがその事業の執行について第三者Dに加えた損害を賠償する責任を負います(民法715条1項)。
そして、使用者が賠償した場合、被用者に対して、求償することができます(同条3項)。この場合、被用者Bの故意または重過失は関係ありません。
使用者Aは、原則、被用者Bがその事業の執行について第三者Dに加えた損害を賠償する責任を負います(民法715条1項)。
そして、使用者が賠償した場合、被用者に対して、求償することができます(同条3項)。この場合、被用者Bの故意または重過失は関係ありません。
よって、「Bに故意または重大な過失があったときに限ってBに対して求償することができる。」は妥当ではありません。
2.AがDに対して損害を全額賠償した場合、Aは、損害の公平な分担という見地から均等の割合に限ってCに対して求償することができる。
2・・・妥当でない
BとCの共同不法行為によって、Dに損害を与えた場合、BとCは連帯して債務を負います。
そして、使用者AがDに対して損害を全額賠償した場合、被用者Bと第三者Cとの過失の割合にしたがって求償することができます(最判昭41.11.18)。
よって、「Aは、損害の公平な分担という見地から均等の割合に限ってCに対して求償することができる」は妥当ではありません。
BとCの共同不法行為によって、Dに損害を与えた場合、BとCは連帯して債務を負います。
そして、使用者AがDに対して損害を全額賠償した場合、被用者Bと第三者Cとの過失の割合にしたがって求償することができます(最判昭41.11.18)。
よって、「Aは、損害の公平な分担という見地から均等の割合に限ってCに対して求償することができる」は妥当ではありません。
3.CがDに対して損害を全額賠償した場合、Cは、Bに対してはB・C間の過失の割合によるBの負担部分について求償することができるが、共同不法行為者でないAに対しては求償することができない。
3・・・妥当でない
BとCの共同不法行為によって、Dに損害を与えた場合、BとCは連帯して債務を負います。
そして、第三者CがDに対して損害を全額賠償した場合、被用者Bと第三者Cとの過失の割合にしたがって求償することができます(最判昭41.11.18)。
つまり、「Cは、Bに対してはB・C間の過失の割合によるBの負担部分について求償することができる」は正しいです。さらに、第三者Cは、被用者Bの負担部分について使用者Aに対し求償することができます(最判昭63.7.1)。
BとCの共同不法行為によって、Dに損害を与えた場合、BとCは連帯して債務を負います。
そして、第三者CがDに対して損害を全額賠償した場合、被用者Bと第三者Cとの過失の割合にしたがって求償することができます(最判昭41.11.18)。
つまり、「Cは、Bに対してはB・C間の過失の割合によるBの負担部分について求償することができる」は正しいです。さらに、第三者Cは、被用者Bの負担部分について使用者Aに対し求償することができます(最判昭63.7.1)。
したがって、「Cは、共同不法行為者でないAに対しては求償することができない」が妥当ではありません。
4.Cにも使用者Eがおり、その事業の執行中に起きた衝突事故であった場合に、AがDに対して損害を全額賠償したときは、Aは、AとEがそれぞれ指揮監督するBとCの過失の割合によるCの負担部分についてEに対して求償することができる。
4・・・妥当
BとCの共同不法行為によって、Dに損害を与えた場合、BとCは連帯して債務を負います。
そして、加害者Bと加害者Cそれぞれに使用者がいた場合、一方の加害者の使用者Aは、当該加害者の過失割合に従って定められる自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分につき、他方の加害者の使用者Eに対し、当該加害者の過失割合に従って定められる負担部分の限度として、求償することができます(最判平3.10.25)。よって、本肢は妥当です。
BとCの共同不法行為によって、Dに損害を与えた場合、BとCは連帯して債務を負います。
そして、加害者Bと加害者Cそれぞれに使用者がいた場合、一方の加害者の使用者Aは、当該加害者の過失割合に従って定められる自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分につき、他方の加害者の使用者Eに対し、当該加害者の過失割合に従って定められる負担部分の限度として、求償することができます(最判平3.10.25)。よって、本肢は妥当です。
5.BがAのほかFの指揮監督にも服しており、BがAとFの事業の執行中に起きた衝突事故であった場合に、AがDに対して損害を全額賠償したときは、Aは、損害の公平な分担という見地から均等の割合に限ってFに対して求償することができる。
5・・・妥当でない
被用者Bの使用者が、AとFの二者いた場合、AとFの負担部分は責任の程度に応じて負担します。
つまり、AがDに対して全額賠償した場合、AはFに対して、Fの責任割合(負担部分)を限度に求償することができます(最判平3.10.25)。本肢は「損害の公平な分担という見地から均等の割合に限って」が妥当ではありません。
被用者Bの使用者が、AとFの二者いた場合、AとFの負担部分は責任の程度に応じて負担します。
つまり、AがDに対して全額賠償した場合、AはFに対して、Fの責任割合(負担部分)を限度に求償することができます(最判平3.10.25)。本肢は「損害の公平な分担という見地から均等の割合に限って」が妥当ではありません。
平成30年度(2018年度)|行政書士試験の問題と解説
問1 | 著作権の関係上省略 | 問31 | 民法:債権 |
---|---|---|---|
問2 | 法令用語 | 問32 | 民法:債権 |
問3 | 判決文の理解 | 問33 | 民法:債権 |
問4 | 学問の自由 | 問34 | 民法:親族 |
問5 | 生存権 | 問35 | 民法:親族 |
問6 | 参政権 | 問36 | 商法 |
問7 | 天皇・内閣 | 問37 | 会社法 |
問8 | 行政代執行法 | 問38 | 会社法 |
問9 | 公法と私法 | 問39 | 会社法 |
問10 | 無効と取消し | 問40 | 会社法 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政事件訴訟 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識・社会 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識・その他 |
問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 基礎知識・社会 |
問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識・経済 |
問21 | 国家賠償法 | 問51 | 基礎知識・社会 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 基礎知識・社会 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 基礎知識・その他 |
問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識・社会 |
問25 | 行政法の判例 | 問55 | 基礎知識・個人情報保護 |
問26 | 行政法の判例 | 問56 | 基礎知識・個人情報保護 |
問27 | 民法:総則 | 問57 | 基礎知識・個人情報保護 |
問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |