論点
- 道路法70条1項の定める損失の補償の範囲は?
事案
株式会社Yは、国道の交差点付近で、給油所(ガソリンスタンド)を経営しており、地下に5基のガソリンタンクを設置していた。
その後、国Xが当該交差点に地下道を設置したため、当該ガソリンタンクのうち4基の位置が「消防法10条4項」および「危険物の規制に関する政令13条」に違反する状態となった。
これにより、Yは、消防局長Aから違反の警告を受けたため、ガソリンタンクの移設工事を行った。
Yは、移設工事が道路法70条の補償の対象になるとして、国Xに対して補償を請求したが、協議が成立しなかったので、70条4項に基づき収用委員会に裁決の申請をしたところ、委員会は、損失補償金約900万円とする裁決を行った。
そこで、国Xは、本ガソリンタンクの移設工事費用は、70条所定の補償対象にならず
裁決は全部違法であるとして、裁決の取消しと損失補償債務の不存在確認の訴えを提起した。
道路法第70条(道路の新設又は改築に伴う損失の補償)
土地収用法第93条第1項の規定による場合の外、道路を新設し、又は改築したことに因り、当該道路に面する土地について、通路、みぞ、かき、さくその他の工作物を新築し、増築し、修繕し、若しくは移転し、又は切土若しくは盛土をするやむを得ない必要があると認められる場合においては、道路管理者は、これらの工事をすることを必要とする者(以下「損失を受けた者」という。)の請求により、これに要する費用の全部又は一部を補償しなければならない。この場合において、道路管理者又は損失を受けた者は、補償金の全部又は一部に代えて、道路管理者が当該工事を行うことを要求することができる。
判決
道路法70条1項の定める損失の補償の範囲は?
→補償の対象は、道路工事の施行による土地の形状の変更を直接の原因として生じた隣接地の用益又は管理上の障害を除去するためにやむを得ない必要があってした前記工作物の移転等に起因する損失に限られる
道路法70条1項の規定は、道路の新設又は改築のための工事の施行によって当該道路とその隣接地との間に高低差が生ずるなど土地の形状の変更が生じた結果として、設置されていた通路、みぞ、かき、さくその他これに類する工作物を移転するやむを得ない必要があると認められる場合において、道路管理者は、これに要する費用の全部又は一部を補償しなければならないものとしたものである。
その補償の対象は、道路工事の施行による土地の形状の変更を直接の原因として生じた隣接地の用益又は管理上の障害を除去するためにやむを得ない必要があってした前記工作物の移転等に起因する損失に限られると解するのが相当である。
したがって、警察法規が一定の危険物の保管場所等につき保安物件との間に一定の離隔距離を保持すべきことなどを内容とする技術上の基準を定めている場合において、道路工事の施行の結果、警察違反の状態を生じ、危険物保有者が右技術上の基準に適合するように工作物の移転等を余儀なくされ、これによって損失を被ったとしても、それは道路工事の施行によって警察規制に基づく損失がたまたま現実化するに至ったものにすぎず、このような損失は、道路法70条1項の定める補償の対象には属しないものというべきである。
よって、本件にみると、道路管理者とする道路工事の施行に伴い、右地下貯蔵タンク(ガソリンタンク)の設置状況が消防法10条等の定める技術上の基準に適合しなくなって警察法規に違反の状態を生じたため、右地下貯蔵タンクを別の場所に移設せざるを得なくなったというのであって、これによってYが被つた損失は、まさしく先にみた警察規制に基づく損失にほかならず、道路法70条1項の定める補償の対象には属しないといわなければならない。