令和7年度の行政書士試験対策の個別指導開講

最判平16.1.15 :法令解釈の誤りと過失(外国人の国民健康保険)

論点

  1. 日本に不法残留している外国人は、国民健康保険法5条所定の「住所を有する者」に該当するか?
  2. 法律解釈を伴う行政処分が違法とされた場合に、直ちに公務員に過失があるといえるか?

事案

韓国籍のXは昭和51年に、許可を得て、日本に入国し、当該許可の失効後も残留した。

翌年Xは結婚し、2人の子供ももうけ、昭和60年から横浜市港北区において居住を開始した。

平成9年には外国人登録をして、同時に国民健康保険被保険者証の交付の申請をしたが、拒否された。

平成10年、Xの長男の脳腫瘍が判明したため、再度の申請をしたが、これも区長に拒否された(本件処分という)。

国民健康保険法5条では、「市町村の区域内に住所を有する者」が被保険者の要件とされており、この要件につき、厚生省(現厚生労働省)からは、1年以上の在留期間を認められた者に限られる旨等の通知(本件通知という)が発せられ、在留資格を有しない外国人は国民健康保険の適用外とされていた。このため、再度の申請に対して、区長は本件処分をしたものである。

これに対して、Xは、本件通知および本件処分が違法なものであり、これに起因して過分の治療費を負担したことを損害として、国Y1と横浜市Y2に対して国家賠償請求を提起した。

判決

日本に不法残留している外国人は、国民健康保険法5条所定の「住所を有する者」に該当するか?

当該外国人が、当該市町村を居住地とする外国人登録をして、入管法50条所定の在留特別許可を求めており、入国の経緯、入国時の在留資格の有無及び在留期間、その後における在留資格の更新又は変更の経緯、配偶者や子の有無及びその国籍等を含む家族に関する事情、我が国における滞在期間、生活状況等に照らし、当該市町村の区域内で安定した生活を継続的に営み、将来にわたってこれを維持し続ける蓋然性が高いと認められる場合、「住所を有する者」に該当する。

国民健康保険法5条にいう「住所を有する者」は、市町村の区域内に継続的に生活の本拠を有する者をいうものと解するのが相当である。

そして、外国人が法5条所定の「住所を有する者」に該当するかどうかを判断する際には、当該外国人が在留資格を有するかどうか、その者の有する在留資格及び在留期間がどのようなものであるかが重要な考慮要素となるものというべきである。

そして、在留資格を有しない外国人は、入管法上、退去強制の対象とされているため、その居住関係は不安定なものとなりやすく、将来にわたって国内に安定した居住関係を継続的に維持し得る可能性も低いのである。

したがって、在留資格を有しない外国人が法5条所定の「住所を有する者」に該当するというためには、単に市町村の区域内に居住しているという事実だけでは足りず、少なくとも、当該外国人が、当該市町村を居住地とする外国人登録をして、入管法50条所定の在留特別許可を求めており入国の経緯、入国時の在留資格の有無及び在留期間、その後における在留資格の更新又は変更の経緯、配偶者や子の有無及びその国籍等を含む家族に関する事情、我が国における滞在期間、生活状況等に照らし当該市町村の区域内で安定した生活を継続的に営み、将来にわたってこれを維持し続ける蓋然性が高いと認められることが必要である。

そして、本件について照らして考えると、Xは、「住所を有する者」にがいとうするというべきである。

そうすると、本件処分は違法であるというべきである。

法律解釈を伴う行政処分が違法とされた場合に、直ちに公務員に過失があるといえるか?

→直ちに過失があるとはいえない

上記の通り、本件処分は違法ではあるが、

ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し、実務上の取扱いも分かれていて、そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に、公務員がその一方の見解を正当と解しこれに立脚して公務を遂行したときは、後にその執行が違法と判断されたからといって、直ちに上記公務員に過失があったものとすることは相当ではない

本件についてみると、本件処分は、厚生省の通知に従って行われたものであり、社会保障制度を外国人に適用する場合には、そのよって立つ社会連帯と相互扶助の理念から、国内に適法な居住関係を有する者のみを対象者とするのが一応の原則であると解されていることに照らせば、本件各通知には相当の根拠が認められるというべきである。

そして、事実関係等によれば、在留資格を有しない外国人が国民健康保険の適用対象となるかどうかについては、定説がない。

また、法5条の解釈につき本件各通知と異なる見解に立つ裁判例はなかったというのであるから、本件処分をした横浜市の担当者及び本件各通知を発した国の担当者に過失があったということはできない。

そうすると、Xの国家賠償責任は認められない。

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