論点
事案
Xらは、大阪市およびその周辺地域おいてタクシー事業を営んでいた。Xらは、平成元年の消費税の施行の際に、消費税を転嫁するための運賃変更の認可申請をせず、また、平成3年3月に同業他社が運賃変更の認可申請をして、認可されていたにも関わらず、Xらは認可申請をしなかった。
その直後の3月29日に、Xらは、消費税転嫁のため3%の値上げを内容とする運賃変更の認可申請を近畿運輸局長に対して行った。
近畿運輸局長は、申請をただちに受理せず、約1か月行政指導を行った後、4月30日に申請を受理した。
そして、9月12日、Xらの申請には、道路運輸法9条の3第2項1号に定める基準に適合しているか否かを判断するための資料がないことを理由に(運賃変更の理由は消費税分と言うだけで、計算の根拠を明らかにしなかったので)、申請を却下の決定をした。
そこで、Xらは、申請をただちに受理し認可すべきであったにも関わらず、受理せず、4か月以上も決定を行わず、違法に却下したとして、国Yに対し、同年6月から8月までの3か月分の運賃の3%に相当する額の損害賠償を求めて、国家賠償請求訴訟を提起した。
道路運輸法第9条の3
一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者は、旅客の運賃及び料金を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも同様とする。
2 国土交通大臣は、前項の認可をしようとするときは、次の基準によって、これをしなければならない。
一 能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること。
判決
道路運輸法が定める適正原価適正利潤条項の適合性判断について、運輸局長に裁量が認められるか?
→認められる
道路運輸法9条の3第2項1号の趣旨は、一般旅客自動車運送事業の有する公共性ないし公益性にかんがみ、安定した事業経営の確立を図るとともに、利用者に対するサービスの低下を防止することを目的としたものと解するのが相当である。
この趣旨からすると、運賃の値上げを内容とする運賃変更の認可申請がされた場合において、変更に係る運賃の額が能率的な経営の下における適正な原価を償うことができないときは、たとい右値上げにより一定の利潤を得ることができるとしても、同号の基準に適合しないものと解すべきである。
そして、道路運輸法9条の3第2項1号の基準は抽象的、概括的なものであり、右基準に適合するか否かは、行政庁の専門技術的な知識経験と公益上の判断を必要とし、ある程度の裁量的要素があることを否定することはできない。
(運輸局長に裁量が認められる)
タクシー事業者の運賃変更の認可申請に対する運輸局長の却下の判断にその裁量権の逸脱・濫用はあるか?
→ない
運輸局長は、本件申請に対する許否の判断に当たり、Xらの提出する原価計算書その他の書類に基づき、本件申請に係る運賃の変更が法9条の3第2項1号の基準に適合するか否かを運賃原価算定基準に個別に審査しようとした。
そして、運賃原価算定基準に示された原価計算の方法は、同号の基準に適合するか否かの具体的判断基準として、合理性を有するものである、
したがって、同局長において本件申請に係る運賃の変更が同号の基準に適合するか否かを運賃原価算定基準に準拠して個別に審査しようとしたことは、相当な措置であったというべきである。
そして、Xらは、運賃変更の理由は消費税の転嫁である旨の陳述をしたのみで、右原価計算の算定根拠等を明らかにしなかった。
そのため、同局長においてXらの提出した書類によっては被上告人らの採用した原価計算の合理性について審査判断することができなかった。
そうであるとすれば、本件申請について、同号の基準に適合するか否かを判断するに足りるだけの資料の提出がないとして、本件却下決定をした同局長の判断に、その裁量権を逸脱し、又はこれを濫用した違法はないというべきである。