論点
事案
Xは株式会社Aから土地を買い受け、代金も支払った。しかし、Aの都合により所有権移転登記手続が未了であった(土地の登記はA名義のまま)。Xは税務署長Y1に対し、本件土地を自己の所有とする財産税の申告をし、納税した。
その後、租税滞納を理由にY1がA所有の工場内の機械器具を差し押さえた際、Aは、本件土地がA名義のままであることを知り、機械器具に代えて、本件土地を差し押さえるよう陳情し、Bがこれを認めて、Y1は土地の差押をした。
その翌年、公売処分を執行(公売の実施)して、Y2が本件土地を競落し、登記手続きも完了した。
これに対して、Xは、①Y1に対して公売処分の無効確認を、②Y2に対して本件土地の所有権移転登記の抹消登記手続きを求めて出訴した。
判決
国税滞納処分による差押えに民法177条の適用があるか?
→適用がある
税滞納処分においては、国は、その有する租税債権につき、自ら執行機関として、強制執行の方法により、その満足を得ようとするものであって、滞納者の財産を差し押えた国の地位は、民事訴訟法上の強制執行における差押債権者の地位に類する。
そして、当該債権(租税債権)がたまたま公法上のものであるからといって、国が一般私法上の債権者より不利益の取扱を受ける理由はない。
それ故、滞納処分による差押の関係においても、民法177条の適用がある。
民法第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
国は登記の欠缺を主張するにつき、正当の利益を有する第三者にあたるか?
→原則、正当の利益を有する第三者にあたる
本件不動産の所有権の帰属を判定することは極めて困難な仕事であって、後に訴訟において争われる可能性のあることを思えば、直ちに財産税還付の手続をとることなく滞納処分の続行(公売の実施)を図ったとしても、これをもって背信的態度として非難することもできない。
また、滞納処分が続行され、公売が実施された以上、競落人の立場からいえば、まったく善意無過失であり、競落人の利益こそ、もっとも保護に値する。
そこで、本件において、国が登記の欠缺を主張するにつき「正当の利益を有する第三者」に当らないというためには、Xにおいて「本件土地が所轄税務署長からXの所有として取り扱わるべきことをさらに強く期待するがもっとも」だと思われるような特段の事情がなければならない。
そのような特段の事情がない場合は、国は、正当の利益を有する第三者にあたる。
※登記の欠缺(けんけつ)とは、すべき登記がされていないことをいう。登記の欠缺があると、原則として、第三者に対して対抗することできない。