論点
事案
忠魂碑とは、戦争に出兵し戦死した地域出身の兵士の記念のために製作された記念碑のことで、戦死者の天皇への忠義を称えるものである。そして、箕面市の小学校の校庭(箕面市の所有地)に、戦死者の遺族会が所有する忠魂碑があった。
箕面市は当該小学校の増改築に際し、校庭にあった忠魂碑を移転する必要性が生じ、市は、7882万円で土地を購入して、そこに忠魂碑を移転し、同土地を遺族会に無償貸与した。
そこで、同市の市民であるXらは、本件忠魂碑の移設・再建等が憲法20条・89条に違反するとして、市の被った損害等を求める住民訴訟を起こした。
憲法第20条
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。憲法第89条
公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
判決
市による忠魂碑の移設・再建行為は、憲法20条3項の「宗教的活動」にあたるか?
→あたらない
①忠魂碑は、戦没者記念碑的な性格のものであり、少なくとも戦後において、特定の宗教との関係は希薄である。
また、②遺族会は宗教活動を本来の目的とする団体ではない。
そして、③本件箕面市の行為は、箕面小学校における児童数の増加、校舎の老朽化等により校舎の建替えなどを行うことが急務となり、忠魂碑を他の場所に移設せざるをえなくなったから行ったにすぎない行為である。
これらの諸点にかんがみると(考慮すると)、市の行った代替地を取得して、従来どおり、当該土地を無償で提供し、忠魂碑を移設再建する行為は、もっぱら世俗的(世間一般的)なものと認められ、その効果も、特定の宗教を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められない。
したがって、当該市による忠魂碑の移設・再建行為は、憲法20条3項の「宗教的活動」にあたらないと解するのが相当である。
遺族会は、憲法20条1項の後段の「宗教団体」、89条の「宗教上の組織若しくは団体」に該当するか?
→該当しない
憲法20条1項の後段の「宗教団体」、89条の「宗教上の組織若しくは団体」とは、特定の宗教の信仰、礼拝または普及等の宗教活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指す。
この点、遺族会は、戦没者遺族の相互扶助・福祉向上と英霊の顕彰を主たる目的として設立され活動している団体である。
したがって、遺族会は、憲法20条1項の後段の「宗教団体」、89条の「宗教上の組織若しくは団体」には該当しない。