論点
事案
エホバの証人という宗教を信仰していたXは、その宗教の絶対平和主義の教義に従い、格技である剣道の実技に参加することを拒否し、剣道の実技に参加しなかった。その間Xは、正座をしてレポートを作成するため記録しながら見学をしていたが、レポートの受領は拒否された。学校長Yは代替措置をとらないとし、特別救済措置として剣道実技の補講を行うこととして参加を勧めたが、Xは参加しなかった。そのため、YはXの体育の単位を認定せず、Xに対して原級留置処分(留年)を行った。これが2年続き、退学処分をとった。そこで、Xは各処分が信教の自由を侵害するものとして、処分取消しを求める訴えを提起した。
判決
信仰上の理由により剣道の実技の履修を拒否した生徒に対する原級留置・退学処分の適否の判断基準は?
→各処分がまったく事実の基礎を欠くか、または、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超えまたは裁量権を濫用したと認められる場合に限り、違法と判断する
原級留置処分または退学処分は、処分権者である校長の合理的な教育的裁量に任せるべき処分である。
そして、各処分がまったく事実の基礎を欠くか、または、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超えまたは裁量権を濫用したと認められる場合に限り、違法と判断すべきである。
本件処分は裁量の範囲を超え、違法となるか?
→違法である
剣道実技の履修は必修とまでは言い難く、教育目的の達成は、他の体育種目の履修等の代替的方法によっても性質上可能である。
また、剣道実技の拒否理由は、信仰の核心部分と密接に関係する真摯なものであり、原級留置処分・退学処分という重大な不利益を避けるためには、信仰上の教義に反する行動をとることを余儀なくさせられる。
さらに、Xからの代替措置の要求を一切否定し、代替措置について十分な考慮がなされたといえない。他方、適切な代替措置を採ることは可能であった。
したがって、原級留置処分・退学処分は、考慮すべき事項を考慮せず、または考慮された事実に対する評価が明白に合理性を欠くので、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超える違法なものというべきである。