この判例で押さえるべき3つのポイント
- 私人間への憲法の直接適用は否定:憲法の人権規定は「国・公共団体と個人」の関係を規律するものであり、私人同士の関係には直接適用も類推適用もできないとされた。
- 間接適用説を採用:私人間の人権侵害には、民法1条(信義則・権利濫用)や民法90条(公序良俗)などの一般条項を介して憲法の趣旨を及ぼすことで調整を図る。この立場が判例・通説であることは行政書士試験の頻出論点である。
- 企業の採用の自由を広く認容:会社は契約締結の自由(憲法22条)に基づき、特定の思想・信条を理由に採用を拒否しても当然には違法とならず、応募者の思想に関する事項を質問することも許容されるとした。
論点
事案
Xは、大学在学中に、三菱樹脂株式会社Yの採用試験に合格し、翌年、卒業後、Yに3か月の試用期間を設けて採用された。しかし、入社試験(面接など)の際に、「学生運動などの事実を秘匿する(隠す)虚偽の申告をしたこと」を理由に、本採用を拒否する旨の告知を受けた。そのため、Xは、労働契約関係存在の確認を求めて出訴した。
私人間効力における3つの学説比較
三菱樹脂事件を理解するうえで重要な、私人間における憲法の適用に関する3つの学説を整理します。
| 学説 | 内容 | 問題点 |
|---|---|---|
| 直接適用説 | 憲法の人権規定を私人間にも直接適用する | 私的自治の原則を大きく制約し、契約自由の原則が形骸化するおそれがある |
| 間接適用説(判例・通説) | 民法90条(公序良俗)や民法709条(不法行為)などの私法の一般条項を通じて、憲法の趣旨を間接的に及ぼす | 一般条項の解釈に委ねられるため、裁判官の裁量が大きくなる |
| 無適用説 | 憲法は国家と個人の関係のみを規律し、私人間には一切適用されない | 社会的権力による人権侵害に対して救済が困難となる |
本判決では、最高裁が間接適用説の立場を採用しました。憲法の人権規定は直接適用できないとしつつも、民法の信義則・権利濫用・公序良俗などの規定を介して私人間の権利調整を図るという考え方です。行政書士試験では、この間接適用説が判例の立場であることを正確に押さえておくことが重要です。
判決
私人間において、憲法の人権規定を直接適用できるか?
→直接適用できない
憲法19条、14条(下記参照)は、もっぱら、「国または公共団体」と「個人」との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律するものではない。
もっとも、私人間の関係においても、相互の社会的力関係の相違から、会社Yが優越し、事実上、従業員Xが会社Yの意思に服従せざるを得ない場合もあるが、そのような場合にも、人権規定の適用・類推適用はできない。
なぜなら、私人間の事実上の支配関係は様々で、どのような場合に「国等の支配と同視すべきか」の判定が困難であるから。
ただし、私的支配関係において、個人の自由・平等に対する侵害がある場合には、民法1条の信義則や権利濫用、民法90条の公序良俗や不法行為に関する諸規定によって調整を図ることは可能である。
憲法第19条
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。憲法第14条
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
特定の思想を有することを理由に採用を拒否することは違法か?
→違法ではない
憲法第22条(何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する)において、経済活動の自由を人権として保障している。
そのため、会社は、経済活動の一環として、契約締結の自由を有しており、「どのような労働者」を「どのような条件」で雇用するかを決定する自由がある。
したがって、会社が、特定の思想・信条を有するがゆえに、その者を雇うことを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。
会社の入社の選考にあたり、応募者の思想に関する事項を尋ねることは違法か?
→違法ではない
上記の通り、労働者を採用するか否かの決定にあたり、労働者の思想・信条を調査し、そのためその者から関連する事項についての申告を求めることも違法ではない。

