論点
- 民事上の請求として、国営空港の使用の差止めを求める訴えは適法か?
事案
大阪国際空港(伊丹空港)は、国営の空港であった。
周辺住民Xらは、空港を発着する航空機の騒音等により被害を受け、人格権および環境権を著しく侵害されたことを理由として、空港の管理者である国Yに対して、民事訴訟を提起し、毎日午後9時~翌朝午前7時までの間、航空機の発着に使用させることの差止めを求めた。
判決
民事上の請求として、国営空港の使用の差止めを求める訴えは適法か?
→不適法である(民事訴訟で訴えることはできない)
国際航空路線又は主要な国内航空路線に必要なものなど基幹となる公共用飛行場については、「運輸大臣みずから」が、又は「特殊法人である新東京国際空港公団」が、これを国営又は同公団営の空港として設置、管理し、公共の利益のためにその運営に当たるべきものとしている。
その理由は、これら基幹となる公共用飛行場にあっては、その設置、管理のあり方がわが国の政治、外交、経済、文化等と深いかかわりを持ち、国民生活に及ぼす影響も大きく、したがつて、どの地域にどのような規模でこれを設置し、どのように管理するかについては航空行政の全般にわたる政策的判断を不可欠とするからにほかならないものと考えられる。
このような空港国営化の趣旨、すなわち国営空港の特質を参酌して考えると、本件空港の管理に関する事項のうち、少なくとも航空機の離着陸の規制そのもの等、本件空港の本来の機能の達成実現に直接にかかわる事項自体については、「空港管理権に基づく管理」と「航空行政権に基づく規制」とが、「空港管理権者としての運輸大臣」と「航空行政権の主管者としての運輸大臣」のそれぞれ別個の判断に基づいて分離独立的に行われ、両者の間に矛盾乖離を生じ、本件空港を国営空港とした本旨を没却し又はこれに支障を与える結果を生ずることがないよう、いわば両者が不即不離、不可分一体的に行使実現されているものと解するのが相当である。
言い換えれば、本件空港における航空機の離着陸の規制等は、これを法律的にみると、単に本件空港についての営造物管理権の行使という立場のみにおいてされるべきもの、そして現にされているものとみるべきではなく、航空行政権の行使という立場をも加えた、複合的観点に立つた総合的判断に基づいてされるべきもの、そして現にされているものとみるべきものである。
ここで、Xらの前記のような請求は、不可避的に航空行政権の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することとなるものといわなければならない。
したがって、Xらが行政訴訟の方法により何らかの請求をすることができるかどうかはともかくとして、上告人に対し、いわゆる通常の民事上の請求として前記のような私法上の給付請求権を有するとの主張の成立すべきいわれはない(民事上の請求で主張はできない)というほかはない。
関連判例
最大判昭56.12.16:「空港騒音」と「設置又は管理の瑕疵」(大阪国際空港公害訴訟)