論点
事案
Xは、大学在学中に、三菱樹脂株式会社Yの採用試験に合格し、翌年、卒業後、Yに3か月の試用期間を設けて採用された。しかし、入社試験(面接など)の際に、「学生運動などの事実を秘匿する(隠す)虚偽の申告をしたこと」を理由に、本採用を拒否する旨の告知を受けた。そのため、Xは、労働契約関係存在の確認を求めて出訴した。
判決
私人間において、憲法の人権規定を直接適用できるか?
→直接適用できない
憲法19条、14条(下記参照)は、もっぱら、「国または公共団体」と「個人」との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律するものではない。
もっとも、私人間の関係においても、相互の社会的力関係の相違から、会社Yが優越し、事実上、従業員Xが会社Yの意思に服従せざるを得ない場合もあるが、そのような場合にも、人権規定の適用・類推適用はできない。
なぜなら、私人間の事実上の支配関係は様々で、どのような場合に「国等の支配と同視すべきか」の判定が困難であるから。
ただし、私的支配関係において、個人の自由・平等に対する侵害がある場合には、民法1条の信義則や権利濫用、民法90条の公序良俗や不法行為に関する諸規定によって調整を図ることは可能である。
憲法第19条
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。憲法第14条
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
特定の思想を有することを理由に採用を拒否することは違法か?
→違法ではない
憲法第22条(何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する)において、経済活動の自由を人権として保障している。
そのため、会社は、経済活動の一環として、契約締結の自由を有しており、「どのような労働者」を「どのような条件」で雇用するかを決定する自由がある。
したがって、会社が、特定の思想・信条を有するがゆえに、その者を雇うことを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。
会社の入社の選考にあたり、応募者の思想に関する事項を尋ねることは違法か?
→違法ではない
上記の通り、労働者を採用するか否かの決定にあたり、労働者の思想・信条を調査し、そのためその者から関連する事項についての申告を求めることも違法ではない。