論点
- 内閣総理大臣の職務権限の範囲は?
事案
昭和47年、アメリカの航空機メーカーであるロッキード社の副会長Aの意向を受けた販売代理店の丸紅社長X1らは、当時の内閣総理大臣である田中角栄氏X2に対し、「①運輸大臣に働きかけ、行政指導をさせること」、また「②直接全日空に働きかけることで、ロッキード社製の大型ジェット機の購入を全日空に推奨すること」を依頼し、成功報酬として現金5億円の供与を約束して、その承諾を得た。
そして、X1らは、全日空が当該大型ジェット機を購入した後、約束通り、X2に対し、現金5億円を供与した。
その後、東京地検は、X1、X2らを逮捕し、贈収賄罪等で起訴した。
判決
内閣総理大臣の職務権限の範囲は?
→内閣総理大臣は、少なくとも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有する
X2が行った運輸大臣への働きかけが、その職務権限に属するといえるためには、
- 運輸大臣が全日空へ勧奨する行為がその職務権限に属し、かつ
- 内閣総理大臣が運輸大臣に上記勧奨をするよう働きかけることがその職務権限に属していること
この2つが必要である。
本件では、①は肯定できるが、②内閣総理大臣の職務権限について検討すると、内閣総理大臣が行政各部に対し、指揮監督権を行使するためには、閣議にかけて決定した方針が存在することを要する。
しかし、閣議にかけて決定した方針が存在しない場合においても、内閣総理大臣の右のような地位及び権限に照らすと、内閣総理大臣は、少なくとも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有するものと解するのが相当である。
したがって、当該内閣総理大臣が行った運輸大臣への働きかけは、内閣総理大臣の指示として、その職務権限に属する。