論点
- 内申書に「生徒が政治的行為をした旨」を記載することは、憲法19条(思想、良心の自由)に違反しないか?
- 上記記載は、憲法21条(表現の自由)に違反しないか?
- 上記記載は、憲法13条(プライバシー権の侵害)に違反しないか?
事案
Xは、東京都千代田区立麹町中学校を卒業し、高校受験をしたが、すべて不合格となった。
Xの調査書(内申書)の『行動および性格の記録』の欄には、C評価(最も悪い評価)が付されており、特記事項欄に「中学校在学中に政治活動をした旨(※)」の記載があった。
これに対しXは、高校受験不合格の原因は上記調査書の記載にあるとして、千代田区および東京都に対して、慰謝料の支払いを求める損害賠償請求を提起した。
※特記事項欄の詳細:「校内において麹町中学全共闘を名乗り、機関紙【砦】を発行した。学校文化祭の際、文化祭粉砕を叫んで、他校生徒とともに校内に乱入して、ビラ撒きを行った。大学生ML派(政治活動団体)の集会に参加している。学校側の指導説得を聞かず、ビラを配り、落書きをした。」
判決
内申書に「生徒が政治的行為をした旨」を記載することは、憲法19条(思想、良心の自由)に違反しないか?
→憲法19条に違反しない
本件調査書(内申書)の記載は、Xの思想信条そのものを記載したものではないことは明らかであり、記載に関する外部的行為(行動)によっては、Xの思想、信条を了知し得るものではない(はっきり知ることはできない)。
また、Xの思想、信条自体を高等学校の入学者選抜の資料に供したものとは到底解することができない。
したがって、本件調査書の記載は、憲法19条(思想・良心の自由)に反するとはいえない、とした。
上記記載は、憲法21条(表現の自由)に違反しないか?
→憲法21条に違反しない
「ビラの配布や落書き」は、中学校における学習とは全く関係ないものであり、「ビラの配布や落書き」を自由とすることは、中学校における教育環境に置く影響を及ぼす等、学習効果をあげる上において、放置できない弊害を発生させる相当の蓋然性(確実性・確かさ)があるものということができる。
そのため、このような弊害を未然に防止するために、①上記行為をしないよう指導説得することはもちろん、「②生徒会規則において、生徒の校内における文書の配布を学校当局の許可にかからしめ、その許可のない文書の配布を禁止すること」は、必要かつ合理的な範囲の制約であり、憲法21条(表現の自由)に違反しない。
上記記載は、憲法13条(プライバシー権の侵害)に違反しないか?
→憲法13条に違反しない
本件調査書による情報の開示は、入学選抜に関する特定小範囲の人に対するものであって、情報の公開には該当しない。
したがって、本件調査書による記載は、Xのプライバシー権を侵害せず、憲法13条後段(生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする)には反しない。