論点
- 公務員が私利を図る目的を持つ行為をした場合でも、外形からみて職務執行行為と言えるとき、国家賠償法1条1項の「職務を行う行為について」に該当するか?
事案
警視庁の巡査Aは、生活費に困窮しており、職務行為を装って金品を奪うことを考えた。
非番の(休憩の)時間帯に、制服制帽を着用し、拳銃を携帯した上、川崎駅のホームに入った。
Aは、たまたまBが多額の金銭を持っていることを知り、Bを呼び止めて、川崎駅の事務室で所持品検査を行った。
その際、Aはあらかじめ用意していた「300円の入った封筒」を、Bの所持品に紛れ込ませて、Bがスリをしたように見せかけて、Bの所持品を預かると称して、Bの現金を含む所持品を受け取った。
Bが、トイレに行っている際に、Bの所持品を持ってAが逃走しようとしたので、Bは「泥棒!」と叫んだため、AはBに発砲して、Bを死亡させた。
これに対し、Bの遺族Xは、東京都Yに対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償の請求を求めた。
判決
公務員が私利を図る目的を持つ行為をした場合でも、外形からみて職務執行行為と言えるとき、国家賠償法1条1項の「職務を行う行為について」に該当するか?
→該当する
国家賠償法第1条の「職務執行」とは、その公務員が、その行為の意図目的はともあれ、行為の外形において、職務執行と認め得ることができるものについては、職務執行にあたる。
すなわち、国家賠償法1条1項の「職務執行行為」があったというためには、公務員が、主観的に権限行使の意思をもってした職務執行行為に限定すべきではない。
したがって、国家賠償法1条は公務員が主観的に権限行使の意思をもってする場合にかぎらず、自己の利をはかる意図をもってする場合でも、客観的に職務執行の外形をそなえる行為をしてこれによって、他人に損害を加えた場合には、国又は公共団体に損害賠償の責を負わしめて、ひろく国民の権益を擁護することをもって、その立法の趣旨とするものと解すべきであるから、国又は公共団体は、損害賠償責任を負うべきである。