次の文章は、ある最高裁判所判決の意見の一節である。空欄[ ア ]~[ ウ ]に入る語句の組合せとして、正しいものはどれか。
一般に、立法府が違憲な[ ア ]状態を続けているとき、その解消は第一次的に立法府の手に委ねられるべきであって、とりわけ本件におけるように、問題が、その性質上本来立法府の広範な裁量に委ねられるべき国籍取得の要件と手続に関するものであり、かつ、問題となる違憲が[ イ ]原則違反であるような場合には、司法権がその[ ア ]に介入し得る余地は極めて限られているということ自体は否定できない。しかし、立法府が既に一定の立法政策に立った判断を下しており、また、その判断が示している基本的な方向に沿って考えるならば、未だ具体的な立法がされていない部分においても合理的な選択の余地は極めて限られていると考えられる場合において、著しく不合理な差別を受けている者を個別的な訴訟の範囲内で救済するために、立法府が既に示している基本的判断に抵触しない範囲で、司法権が現行法の合理的[ ウ ]解釈により違憲状態の解消を目指すことは、全く許されないことではないと考える。
(最大判平成20年6月4日民集62巻6号1367頁以下における藤田宙靖意見)
- ア:不作為 イ:比例 ウ:限定
- ア:作為 イ:比例 ウ:限定
- ア:不作為 イ:相互主義 ウ:有権
- ア:作為 イ:法の下の平等 ウ:拡張
- ア:不作為 イ:法の下の平等 ウ:拡張
【解説】
一般に、立法府が違憲な[ア:不作為]状態を続けているとき、その解消は第一次的に立法府の手に委ねられるべきであって、とりわけ本件におけるように、問題が、その性質上本来立法府の広範な裁量に委ねられるべき国籍取得の要件と手続に関するものであり、かつ、問題となる違憲が[イ:法の下の平等]原則違反であるような場合には、司法権がその[ア:不作為]に介入し得る余地は極めて限られていること自体は否定できない。しかし、立法府が既に一定の立法政策に立った判断を下しており、また、その判断が示している基本的な方向に沿って考えるならば、未だ具体的な立法がされていない部分においても合理的な選択の余地は極めて限られていると考えられる場合において、著しく不合理な差別を受けている者を個別的な訴訟の範囲内で救済するために、立法府が既に示している基本的判断に抵触しない範囲で、司法権が現行法の合理的[ウ:拡張]解釈により違憲状態の解消を目指すことは、全く許されないことではないと考える。
本問の判例の事案は、結婚していない「日本人の父」と「フィリピン人の母」との間に日本で生まれた子(原告)が、出生後に「日本人の父」から認知を受けたことを理由として、
法務大臣あてに日本国籍取得の届出をしたところ、国籍取得の条件を備えておらず、日本国籍を与えなかった事案です。
ア.一般に、立法府が違憲な[ ア ]状態を続けているとき、その解消は第一次的に立法府の手に委ねられるべきであって、・・・、未だ具体的な立法がされていない部分においても合理的な選択の余地は極めて限られていると考えられる場合において、・・・。
判決文の中の「未だ具体的な立法がされていない」という記述から、「法律を定めていなかった」=「立法不作為」と導けます。
よって「アには不作為」が入ります。
イ.一般に、立法府が違憲な[ア:不作為]状態を続けているとき、その解消は第一次的に立法府の手に委ねられるべきであって、とりわけ本件におけるように、問題が、その性質上本来立法府の広範な裁量に委ねられるべき国籍取得の要件と手続に関するものであり、かつ、問題となる違憲が[ イ ]原則違反であるような場合には、司法権がその[ア:不作為]に介入し得る余地は極めて限られていること自体は否定できない。
「立法府が違憲な不作為状態を続けているとき、その解消は第一次的に立法府の手に委ねられるべきである」
つまり、「立法府である国会」が、法律を定めずに、憲法違反の状態であれば、まず第一に国会により、法律を定めるべきである、と言っています。そして、問題(国籍取得の条件)が、その性質上本来立法府の広範な裁量に委ねられるべき国籍取得の要件と手続に関するものであり、かつ、問題となる違憲が[ イ ]原則違反であるような場合には、司法権(裁判所)がその不作為に介入し得る余地は極めて限られている。つまり、法律を定める権限は、国会にあるので、問題となる国籍取得の条件に関する内容について、[イ:法の下の平等]違反である場合、裁判所が、その「国籍取得の条件」について、判断する余地は極めて限られている、と言っています。「著しく不合理な差別を受けている者」という記述から「イには法の下の平等」が入ります。
ウ.著しく不合理な差別を受けている者を個別的な訴訟の範囲内で救済するために、立法府が既に示している基本的判断に抵触しない範囲で、司法権が現行法の合理的[ ウ ]解釈により違憲状態の解消を目指すことは、全く許されないことではないと考える。
選択肢イの解説の続きですが、裁判所の介入の余地が極めて限られていたとしても、著しく不合理な差別を受けている者を個別的な訴訟の範囲内で救済するためであれば、
司法権(裁判所)が現行法の合理的な[ ウ ]解釈により違憲状態の解消を目指すことは、許される場合もある。
と言っています。つまり、裁判所が現在の法律(国籍取得の条件)に関する文言の解釈を広げて、この原告の子(日本人の父とフィリピン人母の間の子)に取得させることも許される
ということです。限定解釈(縮小解釈)とは、 条文上の文言につき,日常一般に用いられる意味をせばめて(制限を加えて)解釈することですが、
これを行うと、原告の子はさらに、国籍取得ができなくなるという逆の効果となるので、
限定解釈は入りません。
平成25年度(2013年度)|行政書士試験の問題と解説
問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:債権 |
---|---|---|---|
問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
問3 | 法の下の平等 | 問33 | 民法 |
問4 | 憲法と私法上の行為 | 問34 | 民法:債権 |
問5 | 権力分立 | 問35 | 民法:親族 |
問6 | 国会 | 問36 | 商法 |
問7 | 憲法・精神的自由 | 問37 | 会社法 |
問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
問14 | 行政不服審査法等 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 法改正のより削除 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行政事件訴訟法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識・政治 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識・政治 |
問19 | 国家賠償法 | 問49 | 基礎知識・経済 |
問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識・社会 |
問21 | 地方自治法 | 問51 | 基礎知識・社会 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 基礎知識・政治 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 基礎知識・社会 |
問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識・個人情報保護 |
問25 | 行政法 | 問55 | 基礎知識・個人情報保護 |
問26 | 行政法 | 問56 | 基礎知識・個人情報保護 |
問27 | 民法:総則 | 問57 | 基礎知識・情報通信 |
問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法:債権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |