占有権とは?
占有権というのは、「物を現実に支配している」状態を法的に保護するための権利です。
そして、物を支配している者が、その物について法律上の根拠(例えば所有権や賃借権等)を有しているかどうかを問いません。
つまり、物を盗んだ人にも占有権を有します。
占有権の成立要件
占有権は①自己のためにする意思をもって、②物を所持することによって取得します(民法180条)。
占有の種類
占有の種類については、着目する内容によって「自主占有と他主占有」と「自己占有と代理占有」で考えることができます。
自主占有と他主占有
所有の意思を持っているかどうかで区別します。
「自主占有」とは、所有の意思を持って占有している場合を言います。
「他主占有」とは、所有の意思を持たずに占有している場合を言います。例えば、不動産の賃借人がその不動産を占有するのは、その所有者として占有しているわけではないので、他主占有です。
自己占有と代理占有
誰が実際に占有しているのか、また、誰を介して事実上占有しているかで区別をします。
「自己占有(直接占有)」とは、自ら物を直接占有している場合を言います。
「代理占有(間接占有)」とは、他人の占有を通して占有している場合を言います。
例えば、A所有の時計を、Bに貸して、Bが時計を占有した場合、Bが自己占有をしていて、Aが代理占有をしています。
占有権の譲渡
占有権の譲渡には、原則として「現実の引渡し」があり、例外的に、「簡易の引渡し」「占有改定」「指図による占有移転」があります。
現実の引渡し:原則
占有権の譲渡は、原則、占有物の現実に引渡すことによってします(民法182条1項:現実の引渡し)。
簡易の引渡し
すでに占有権の譲受人が占有物を所持している場合、意思表示だけで占有権を譲受人に移転することができます(民法182条2項:簡易の引渡し)。
例えば、賃借人が、すでに賃借物を譲り受けていたり、質権者がすでに質物を譲り受けている場合、意思表示だけで占有権は譲渡されます。
占有改定
占有改定とは、占有権の譲渡人が、引き続き物の所持をしながら、意思表示のみで譲受人に占有権を譲渡する方法です(民法183条)。
例えば、A所有の時計について、買主Bとして、AB間で売買契約を締結したとします。そして、売買契約締結後も、Aが時計を所持しながら、占有権をBに譲渡する場合、「占有改定による引渡し」をしたことになります。
指図による占有移転
指図による占有移転とは、①目的物を間接占有していた本人(間接占有者)が、占有代理人(直接占有者)に対して、以後、第三者のためにその目的物を占有することを命じ、②当該第三者がこれを承諾することによって成立する引渡しです。
例えば、A所有の建物について、AがBに賃貸し、Bが建物に住んでいた。(間接占有者A、直接占有者B)
ここで、Aが当該建物を第三者Cに売却し、移転登記しただけ(引渡しはしていない)では第三者Cに占有権は譲渡されません。
①AがBに対して「今後はCのために占有してください」と命じ、②第三者Cが承諾すれば、占有権はCに譲渡されます。
占有権の効力
善意の占有者は果実の取得する
善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得します(民法189条)。
「占有物から生ずる果実」とは、例えば、「目的物を賃貸した場合の賃料」、「占有している土地に果物の木を植えてできた果物」です。
悪意の占有者は果実の返還しなければならない
悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負います(民法190条1項)。
「悪意の占有者」とは、占有する権原がないと知っていて、他人の物を占有しているような人です。イメージとしては不法占有者です。
また、「暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者」も同様の返還義務を負います(民法190条2項)。
占有権の消滅
■自己占有の場合、占有権は、①占有者が占有の意思を放棄し、又は②占有物の所持を失うことによって消滅します(民法203条本文)。
ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、占有権は消滅しません(民法203条ただし書)。
■代理占有の場合、占有権は、下記1~3のいずれかに該当するとき消滅します(民法204条1項)。
- 本人が代理人に占有をさせる意思を放棄したこと。
- 代理人が本人に対して以後自己又は第三者のために占有物を所持する意思を表示したこと。
- 代理人が占有物の所持を失ったこと。
占有権は、代理権の消滅のみによっては、消滅しません(民法204条2項)。この「代理権」とは「占有代理権」のことを言っています。
例えば、賃貸借が終了した場合、本人と代理人との間の占有代理関係は消滅します。しかし、2項の通り、代理占有そのものは当然には消滅しません。
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作成中・・・参考条文
(占有権の取得)
第180条 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。
(代理占有)
第181条 占有権は、代理人によって取得することができる。
(現実の引渡し及び簡易の引渡し)
第182条 占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。
2 譲受人又はその代理人が現に占有物を所持する場合には、占有権の譲渡は、当事者の意思表示のみによってすることができる。
(占有改定)
第183条 代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。
(指図による占有移転)
第184条 代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。
(占有の性質の変更)
第185五条 権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。
(占有の態様等に関する推定)
第186条 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
2 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。
(占有の承継)
第187条 占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。
2 前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。
(占有物について行使する権利の適法の推定)
第188条 占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。
(善意の占有者による果実の取得等)
第189条 善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。
2 善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。
(悪意の占有者による果実の返還等)
第190条 悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。
2 前項の規定は、暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。
(占有者による損害賠償)
第191条 占有物が占有者の責めに帰すべき事由によって滅失し、又は損傷したときは、その回復者に対し、悪意の占有者はその損害の全部の賠償をする義務を負い、善意の占有者はその滅失又は損傷によって現に利益を受けている限度において賠償をする義務を負う。ただし、所有の意思のない占有者は、善意であるときであっても、全部の賠償をしなければならない。
(占有者による費用の償還請求)
第196条 占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
2 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
(占有権の消滅事由)
第203条 占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。
(代理占有権の消滅事由)
第204条 代理人によって占有をする場合には、占有権は、次に掲げる事由によって消滅する。
一 本人が代理人に占有をさせる意思を放棄したこと。
二 代理人が本人に対して以後自己又は第三者のために占有物を所持する意思を表示したこと。
三 代理人が占有物の所持を失ったこと。
2 占有権は、代理権の消滅のみによっては、消滅しない。