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先取特権

先取特権とは?

先取特権は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を言います(303条)。

「他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利」は抵当権や質権と同じ権利なのですが、先取特権は「法律その他の法律の規定に従い」となってる点で異なります。

抵当権質権は、当事者同士で、抵当権設定契約質権設定契約をすることで成立する権利(約定担保物権という)ですが、先取特権はこのような契約はなくても、法律の規定によって、一定事由に該当すれば自動的成立する権利(法定担保物権)です。

例えば、会社Aに雇われていたBがいて、会社Aの経営不振により、Bに対して給料未払い状態であった。この場合、従業員Bは「賃金債権」を有し、会社Aの財産について先取特権を有します(民法306条2号)。そのため、他の債権者より先に賃料をもらえる権利を持ちます。

先取特権の種類

先取特権には、「一般先取特権」「動産先取特権」「不動産先取特権」があります

一般先取特権

下記先取特権は、債務者の総財産について優先弁済権を有します(306条)。

  1. 共益の費用の先取特権
    例えば、未払いのマンション管理費に関する債権
  2. 雇用関係の先取特権
    例えば、未払い賃金債権
  3. 葬式の費用の先取特権
  4. 日用品の供給の先取特権
    未払いの電気代やガス代に関する債権

動産先取特権

下記先取特権は、債務者の特定の動産について優先弁済権を有します(311条)。行政書士試験対策としては、「不動産の賃貸借の先取特権」は動産先取特権に該当することを覚えておきましょう!

  1. 不動産の賃貸借の先取特権
    例えば、未払い賃料の先取特権
  2. 旅館の宿泊の先取特権
  3. 旅客又は荷物の運輸の先取特権
  4. 動産の保存の先取特権
  5. 動産の売買の先取特権
  6. 種苗又は肥料(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給の先取特権
  7. 農業の労務の先取特権
  8. 工業の労務の先取特権

不動産先取特権

下記先取特権は、債務者の特定の不動産について優先弁済権を有します(325条)。

  1. 不動産の保存
    例えば、建物の未払い修理費用
  2. 不動産の工事
    例えば、土地の未払い造成費用
  3. 不動産の売買
    例えば、不動産の未払い代金

先取特権の効力

優先弁済的効力

先取特権者は、目的物を競売にかけて、その落札代金から、優先的に弁済を受ける権利を有します(民法303条)。

物上代位性

先取特権は、目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物(例えば火災保険金)に対しても、払渡し又は引渡しの前に差押えをすることで優先弁済権を主張できます(民法304条)。

ただし、一般先取特権は、債務者の総財産が先取特権の範囲なので、物上代位性はありません。

先取特権の優先順位

どの種類の先取特権が先に弁済を受ける権利を持つか?左の方が優先順位が高いです。

一般先取特権の間での優先順位

共益の費用>雇用関係>葬式費用>日用品の供給(民法329条)

不動産先取特権の間での優先順位

不動産の保存>工事>売買(民法331条)

同一の目的物について同一順位の先取特権者が数人あるときは、各先取特権者は、その債権額の割合に応じて優先弁済権を分け合います(民法332条)。

その他細かい優先順位については個別指導で解説します。

理解学習について

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民法テキストの目次

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参考条文

(先取特権の内容)
第303条 先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

(物上代位)
第304条 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
2 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

(先取特権の不可分性)
第305条 第二百九十六条の規定は、先取特権について準用する。

(一般の先取特権)
第306条 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
一 共益の費用
二 雇用関係
三 葬式の費用
四 日用品の供給

(共益費用の先取特権)
第307条 共益の費用の先取特権は、各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用について存在する。
2 前項の費用のうちすべての債権者に有益でなかったものについては、先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する。

(日用品供給の先取特権)
第310条 日用品の供給の先取特権は、債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の六箇月間の飲食料品、燃料及び電気の供給について存在する。

(動産の先取特権)
第311条 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。
一 不動産の賃貸借
二 旅館の宿泊
三 旅客又は荷物の運輸
四 動産の保存
五 動産の売買
六 種苗又は肥料(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給
七 農業の労務
八 工業の労務

(不動産賃貸の先取特権)
第312条 不動産の賃貸の先取特権は、その不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務に関し、賃借人の動産について存在する。

(不動産賃貸の先取特権の目的物の範囲)
第313条 土地の賃貸人の先取特権は、その土地又はその利用のための建物に備え付けられた動産、その土地の利用に供された動産及び賃借人が占有するその土地の果実について存在する。
2 建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。

第314条 賃借権の譲渡又は転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人又は転借人の動産にも及ぶ。譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭についても、同様とする。

(不動産賃貸の先取特権の被担保債権の範囲)
第315条 賃借人の財産のすべてを清算する場合には、賃貸人の先取特権は、前期、当期及び次期の賃料その他の債務並びに前期及び当期に生じた損害の賠償債務についてのみ存在する。

第316条 賃貸人は、第六百二十二条の二第一項に規定する敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する。

(動産保存の先取特権)
第320条 動産の保存の先取特権は、動産の保存のために要した費用又は動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用に関し、その動産について存在する。

(動産売買の先取特権)
第321条 動産の売買の先取特権は、動産の代価及びその利息に関し、その動産について存在する。

(不動産の先取特権)
第325条 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の不動産について先取特権を有する。
一 不動産の保存
二 不動産の工事
三 不動産の売買

(不動産保存の先取特権)
第326条 不動産の保存の先取特権は、不動産の保存のために要した費用又は不動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用に関し、その不動産について存在する。

(不動産工事の先取特権)
第327条 不動産の工事の先取特権は、工事の設計、施工又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関し、その不動産について存在する。
2 前項の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増価額についてのみ存在する。

(不動産売買の先取特権)
第328条 不動産の売買の先取特権は、不動産の代価及びその利息に関し、その不動産について存在する。

(一般の先取特権の順位)
第329条 一般の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第三百六条各号に掲げる順序に従う。
2 一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には、特別の先取特権は、一般の先取特権に優先する。ただし、共益の費用の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する。

(動産の先取特権の順位)
第330条 同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、次に掲げる順序に従う。この場合において、第二号に掲げる動産の保存の先取特権について数人の保存者があるときは、後の保存者が前の保存者に優先する。
一 不動産の賃貸、旅館の宿泊及び運輸の先取特権
二 動産の保存の先取特権
三 動産の売買、種苗又は肥料の供給、農業の労務及び工業の労務の先取特権
2 前項の場合において、第一順位の先取特権者は、その債権取得の時において第二順位又は第三順位の先取特権者があることを知っていたときは、これらの者に対して優先権を行使することができない。第一順位の先取特権者のために物を保存した者に対しても、同様とする。
3 果実に関しては、第一の順位は農業の労務に従事する者に、第二の順位は種苗又は肥料の供給者に、第三の順位は土地の賃貸人に属する。

(不動産の先取特権の順位)
第331条 同一の不動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第三百二十五条各号に掲げる順序に従う。
2 同一の不動産について売買が順次された場合には、売主相互間における不動産売買の先取特権の優先権の順位は、売買の前後による。

(同一順位の先取特権)
第332条 同一の目的物について同一順位の先取特権者が数人あるときは、各先取特権者は、その債権額の割合に応じて弁済を受ける。

(先取特権と第三取得者)
第333条 先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。

(一般の先取特権の効力)
第335条 一般の先取特権者は、まず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ、不動産から弁済を受けることができない。
2 一般の先取特権者は、不動産については、まず特別担保の目的とされていないものから弁済を受けなければならない。
3 一般の先取特権者は、前二項の規定に従って配当に加入することを怠ったときは、その配当加入をしたならば弁済を受けることができた額については、登記をした第三者に対してその先取特権を行使することができない。
4 前三項の規定は、不動産以外の財産の代価に先立って不動産の代価を配当し、又は他の不動産の代価に先立って特別担保の目的である不動産の代価を配当する場合には、適用しない。

(一般の先取特権の対抗力)
第336条 一般の先取特権は、不動産について登記をしなくても、特別担保を有しない債権者に対抗することができる。ただし、登記をした第三者に対しては、この限りでない。

(不動産保存の先取特権の登記)
第337条 不動産の保存の先取特権の効力を保存するためには、保存行為が完了した後直ちに登記をしなければならない。

(不動産工事の先取特権の登記)
第338条 不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。この場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しない。
2 工事によって生じた不動産の増価額は、配当加入の時に、裁判所が選任した鑑定人に評価させなければならない。

(登記をした不動産保存又は不動産工事の先取特権)
第339条 前二条の規定に従って登記をした先取特権は、抵当権に先立って行使することができる。

(不動産売買の先取特権の登記)
第340条 不動産の売買の先取特権の効力を保存するためには、売買契約と同時に、不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨を登記しなければならない。

(抵当権に関する規定の準用)
第341条 先取特権の効力については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、抵当権に関する規定を準用する。

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