選挙制度の形成に関する国会の裁量についての次の記述のうち、最高裁判所の判例の趣旨に照らし、妥当でないものはどれか。
- 都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有する単位である以上、参議院の選挙区選出議員に都道府県代表的な意義を付与し、その枠内で投票価値の平等の実現を図ることは、憲法上許容される。
- 小選挙区制は、死票を多く生む可能性があることは否定し難いが、死票はいかなる制度でも生ずるものであり、結局のところ選挙を通じて国民の総意を議席に反映させる一つの合理的方法ということができる。
- 同時に行われる二つの選挙に同一の候補者が重複して立候補することを認めるか否かは、国会が裁量により決定することができる事項であり、衆議院議員選挙で小選挙区選挙と比例代表選挙との重複立候補を認める制度は憲法に違反しない。
- 政党を媒体として国民の政治意思を国政に反映させる名簿式比例代表制を採用することは国会の裁量に属し、名簿登載者個人には投票したいがその属する政党には投票したくないという意思を認めない非拘束名簿式比例代表制もまた同様である。
- 参議院の比例代表選出議員について、政党が優先的に当選者となるべき候補者を定めることができる特定枠制度は、選挙人の総意によって当選人が決定される点で、選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異ならず、憲法に違反しない。
【答え】:1
【解説】
1・・・妥当でない
「最大判昭和58年4月27日」において、最高裁は参議院の選挙区選出議員の選挙制度の決定について、国会に広範な裁量があることを認めました。しかし、この判例は「参議院議員が全国民の代表である」という点と、「選挙制度に都道府県の代表的意義を加えること」が矛盾しないと判断しただけであり、選択肢にあるような「都道府県の代表的な意義を前提として、投票価値の平等を図ることが憲法上許容される」という趣旨の判断は行っていません。
また、平成26年11月26日の最高裁判決では、都道府県単位の選挙区制度が投票価値の大きな不平等を生じさせる場合、その合理性が否定されると判断されています。
したがって、本肢は「全文が誤り」であり、妥当でない
2・・・妥当である
小選挙区制は、1選挙区につき1名しか当選しないため、落選者に投じられた票(死票)が多く発生しやすいという特徴があります。しかし、これは選挙制度の特性によるものであり、比例代表制などの他の制度でも一定の死票は生じるため、小選挙区制の導入が直ちに不合理とはならないとされています。
「最大判平成11年11月10日」では、小選挙区制は、選挙を通じて国民の総意を議席に反映させる一つの合理的方法であり、それによって選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾しないと判断されました。したがって、本肢の内容は判例の趣旨に沿っており、妥当です。
3・・・妥当である
衆議院議員選挙における小選挙区比例代表並立制の「重複立候補制度」とは、同一の候補者が 小選挙区選挙と比例代表選挙の両方に立候補できる 制度を指します。この制度により、小選挙区で落選しても、比例代表の名簿順位によって当選する可能性があります。
「最大判平成11年11月10日」では、選挙制度の決定は 国会の広範な裁量に委ねられていることを前提に、小選挙区比例代表並立制自体は憲法違反ではないと判断されました。また、重複立候補制についても、政党本位の選挙を目指す立法政策の一環として許容される ため、憲法の要請に反するものではないとしています。したがって、本肢は妥当です。
4・・・妥当である
参議院議員選挙の比例代表制には名簿式比例代表制が採用されており、これに関する制度設計は国会の裁量に委ねられています。
「最大判平成16年1月14日」では、政党を通じて国民の政治意思を国政に反映させる名簿式比例代表制の採用は、国会の裁量の範囲内であると判断されました。
また、非拘束名簿式比例代表制(候補者個人の名前を書いて投票するが、実際には政党の得票として計算される制度)についても、「特定の候補者個人には投票したいが、その政党には投票したくない」という意思を反映できない点に関しては議論の余地があるものの、制度全体として合理性が認められ、国民の選挙権(憲法15条)を侵害するものとはいえないとされました。
よって、本肢は妥当です。
5・・・妥当である
参議院の比例代表選出議員の選挙における「特定枠制度」とは、政党が優先的に当選者となるべき候補者を事前に指定できる制度です。この制度の下では、選挙人は候補者個人または政党に投票し、その得票数に基づいて当選者が決定されます。
「最判令和2年10月23日」では、特定枠制度について、最終的に当選人が決まるのは、選挙人の投票(総意)によるものであり、候補者個人を直接選択して投票する方式と本質的に異ならないと判断されました。
したがって、公職選挙法の規定は憲法43条1項(国会議員が全国民の代表であること)等に違反しないと結論づけられました。
したがって、本肢は妥当です。
令和6年(2024年)過去問
問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法 |
---|---|---|---|
問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法 |
問3 | 憲法 | 問33 | 民法 |
問4 | 憲法 | 問34 | 民法 |
問5 | 憲法 | 問35 | 民法 |
問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 多肢選択 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 多肢選択 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 多肢選択 |
問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行服法・行訴法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識 |
問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 基礎知識 |
問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識 |
問21 | 国家賠償法 | 問51 | 基礎知識 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 行政書士法 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 住民基本台帳法 |
問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識 |
問25 | 行政法 | 問55 | 基礎知識 |
問26 | 公文書管理法 | 問56 | 基礎知識 |
問27 | 民法 | 問57 | 個人情報保護法 |
問28 | 民法 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
