教育に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当でないものはどれか。
- 義務教育は無償とするとの憲法の規定は、授業料不徴収を意味しており、それ以外に、教科書、学用品その他教育に必要な一切の費用を無償としなければならないことまでも定めたものと解することはできない。
- 教科書は執筆者の学術研究の結果の発表を目的とするものではなく、また、教科書検定は検定基準に違反する場合に教科書の形態での研究結果の発表を制限するにすぎないので、教科書検定は学問の自由を保障した憲法の規定には違反しない。
- 公教育に関する国民全体の教育意思は、法律を通じて具体化されるべきものであるから、公教育の内容・方法は専ら法律により定められ、教育行政機関も、法律の授権に基づき、広くこれらについて決定権限を有する。
- 国民の教育を受ける権利を定める憲法規定の背後には、みずから学習することのできない子どもは、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有するとの観念が存在している。
- 普通教育では、児童生徒に十分な判断能力がなく、また、全国的に一定の教育水準を確保すべき強い要請があること等からすれば、教師に完全な教授の自由を認めることはとうてい許されない。
【答え】:3
【解説】
1・・・妥当である
憲法26条2項では、「義務教育は、これを無償とする。」と規定しています。
この規定の解釈について、最高裁判所の判例(最大判昭和39年2月26日・教科書国家負担請求事件)は、次のように示しています。
- 憲法26条2項が定める「無償」とは、授業料を徴収しないことを意味する。
- したがって、教科書や学用品、その他教育に必要なすべての費用を無償とすることまでは規定していない。
つまり、義務教育にかかる費用のすべてが無償となるわけではなく、授業料のみが対象となります。
なお、現在の制度では、「義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律」などにより、公立の小・中学校で使用される教科書は無償で支給されています。
2・・・妥当である
教科書検定がこの学問の自由の規定に違反するかどうかについて、最高裁判所は「家永教科書訴訟」(最判平成5年3月16日)において、次のように判断しました。
- 教科書は、学術研究の結果を発表することを目的としたものではない。
- 教科書検定は、検定基準に違反する場合に限り、教科書の形態における研究結果の発表を制限するものである。
したがって、教科書検定は、学問の自由(憲法23条)に違反しないとされています。
これは、検定が学問の内容そのものを規制するものではなく、義務教育の場で使用される教材としての適切性を判断するための制度であるという考え方に基づいています。
「教科書検定は、検定基準に違反する場合に限り、教科書の形態における研究結果の発表を制限するものである。」という部分が理解しづらいので、個別指導で解説します。
3・・・妥当でない
憲法26条では「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」と規定しています。
そして、公教育に関する決定権が誰にあるのかについて、以下の2つの対立する見解があります。
① 国家主導の立場(法律・行政機関の決定権を重視)
- 子どもの教育は、親だけでなく国民全体の関心事である。
- 公教育制度は国民の期待と要求に応じて作られるため、その内容・方法は法律を通じて決定されるべき。
- 法律が教育の内容・方法を包括的に定め、教育行政機関も法律の授権に基づいて決定する権限を持つ。
② 親・国民主体の立場(親の責務を重視)
- 子どもの教育は、憲法26条が保障する「教育を受ける権利」に対する責務として行われるべきもの。
- 教育の責務を担うのは親を中心とする国民全体であり、公教育は「親の教育義務の共同化」ともいえる。
- 教育は、国民全体の信託の下に、教育に直接責任を負う形で行われなければならない。(教育基本法10条1項)
■ 判例の立場(旭川学力テスト事件:最大判昭和51年5月21日)
最高裁判所は、この2つの見解について次のように判断しました。
- 「いずれの見解も極端かつ一方的であり、そのいずれをも全面的に採用することはできない。」
- つまり、公教育の内容・方法が法律だけによって決定されるわけではなく、親や国民の役割も無視できないという立場をとっています。
したがって、問題文の「公教育の内容・方法は専ら法律により定められる」という考え方は、判例の立場と異なるため、「妥当でない」と判断されます。
4・・・妥当である
憲法26条は、教育を受ける権利と義務教育の無償を定めています。
- 1項:「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」
- 2項:「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、これを無償とする。」
この規定は、福祉国家の理念に基づき、国が教育を提供する責務を負うことを示しています。また、子どもの成長・発達にとって普通教育が不可欠であることから、親には子どもに教育を受けさせる義務が課され、義務教育の費用は国が負担すべきであるとされています。
■ 判例(旭川学力テスト事件:最大判昭和51年5月21日)
最高裁判所は、憲法26条の背後にある観念について、次のように述べています。
- すべての国民は、人格を形成し、社会の一員として成長・発達するために必要な学習をする権利を持っている。
- 特に、子どもは自ら学習することができないため、大人(社会全体)に対して教育を受ける機会を提供するよう求める権利を持っている。
- つまり、憲法26条は単に教育を受ける権利を保障するだけでなく、子どもが自らの学習を満たすために、大人に教育を求める権利を有するという考え方を基礎にしています。
したがって、「子どもはその学習要求を満たすために、大人一般に対して教育を施すことを要求する権利を有する」という考え方は、判例(旭川学力テスト事件)にも裏付けられており、妥当であるといえます。
5・・・妥当である
「教授の自由」とは、教師が教育内容や教授方法を自由に決定できる権利を指します。憲法23条は「学問の自由」を保障していますが、これが学校教育、とくに義務教育(普通教育)にどのように適用されるかが問題になります。
■ 判例の判断(最判昭和51年5月21日)
普通教育においては、これらの事情を考慮すると、教師に完全な教授の自由を認めることは許されないとしています。
例えば、教師が個人的な思想や特定の政治的主張を児童・生徒に押しつけることは、教育の中立性や生徒の適切な成長を妨げる恐れがあります。そのため、普通教育における教師の教授の自由には制約があるべきと考えられています。
よって、「普通教育においては、教師に完全な教授の自由を認めることは許されない」という考え方は、判例にも基づいており、妥当であるといえます。
本肢は、「大学教育と普通教育の違い」が重要なので、個別指導で解説します!
令和6年(2024年)過去問
問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法 |
---|---|---|---|
問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法 |
問3 | 憲法 | 問33 | 民法 |
問4 | 憲法 | 問34 | 民法 |
問5 | 憲法 | 問35 | 民法 |
問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 多肢選択 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 多肢選択 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 多肢選択 |
問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行服法・行訴法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識 |
問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 基礎知識 |
問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識 |
問21 | 国家賠償法 | 問51 | 基礎知識 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 行政書士法 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 住民基本台帳法 |
問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識 |
問25 | 行政法 | 問55 | 基礎知識 |
問26 | 公文書管理法 | 問56 | 基礎知識 |
問27 | 民法 | 問57 | 個人情報保護法 |
問28 | 民法 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
