共同相続における遺産分割に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 共同相続人中の特定の1人に相続財産中の不動産の所有権を取得させる一方で当該相続人が老親介護を負担する義務を負う内容の遺産分割協議がなされた場合において、当該相続人が遺産分割協議に定められた介護を行わない場合には、他の共同相続人は債務不履行を理由として遺産分割協議自体を解除することができる。
- 被相続人が、相続財産中の特定の銀行預金を共同相続人中の特定の1人に相続させる旨の遺言をしていた場合、当該預金債権の価額が当該相続人の法定相続分の価額を超えるときには、当該預金債権の承継に関する債権譲渡の対抗要件を備えなければ、当該預金債権の承継を第三者に対抗できない。
- 共同相続人の1人が、相続開始後遺産分割の前に、被相続人が自宅に保管していた現金を自己のために費消した場合であっても、遺産分割の対象となる財産は、遺産分割時に現存する相続財産のみである。
- 共同相続人は、原則としていつでも協議によって遺産の全部または一部の分割をすることができ、協議が調わないときは、家庭裁判所に調停または審判の申立てをすることができるが、相続開始から10年以上放置されていた遺産の分割については、家庭裁判所に対して調停または審判の申立てを行うことができない。
- 相続財産中に銀行預金が含まれる場合、当該預金は遺産分割の対象となるから、相続開始後遺産分割の前に、当該預金口座から預金の一部を引き出すためには共同相続人の全員の同意が必要であり、目的、金額のいかんを問わず相続人の1人が単独で行うことは許されない。
【答え】:2
【解説】
1・・・妥当でない
このような遺産分割協議において、特定の相続人に不動産を取得させ、その代わりに介護の負担を義務づけることは、協議内容として可能です。しかし、その義務(介護)を履行しないからといって、遺産分割協議そのものを解除することはできません。
これは、次の最高裁判例(最判平成元年2月9日)に基づきます。
まず、遺産分割協議は、一度成立すれば、その効力は相続開始時に遡って確定(民法909条)します。
協議成立後は、債務を負担した相続人と、その履行を期待する他の相続人との債権債務関係が残るのみとなります。
もし解除を認めると、分割がなかったことになり、法的安定性を害する再分割が必要になってしまうため、解除は認められません。
したがって、介護義務を怠ったからといって、遺産分割協議そのものを解除することはできず、介護義務については別途債務不履行として損害賠償請求などの対応を検討することになります。
2・・・妥当である
この問題は、遺言によって特定の相続人に銀行預金などの可分債権を承継させる場合に、その承継の対外的効力(対抗要件)が必要かどうかが問われています。
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものであるか否かを問わず、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
つまり、被相続人が「○○銀行の預金を全部、長男に相続させる」といった内容の遺言をした場合でも、その金額が長男の法定相続分を超える部分については、他の共同相続人や第三者に対して預金の権利を主張するには、債権譲渡と同様の対抗要件(たとえば銀行への通知や承諾など)を備える必要があります。
■ 債権譲渡の対抗要件(民法467条)
- 債務者(=ここでは銀行)に対する通知(確定日付があるもの)
または - 債務者の承諾(確定日付がある証書による)
が必要となります。
よって、預金債権の承継においてその価額が法定相続分を超える場合には、債権譲渡と同様の対抗要件を備えなければ、第三者に対してその承継を主張することはできません。
本肢は妥当であるといえます。
3・・・妥当でない
遺産分割の対象となる財産については、原則として「相続開始時に被相続人に属していた財産」が対象です(民法898条)。
ただし、相続開始後に相続人の1人が遺産(たとえば現金など)を処分してしまったとしても、その財産が「すでにない」からといって、絶対に分割の対象外になるわけではありません。
ここで重要になるのが、次の条文です。
相続人全員の同意があるときは、既に処分された財産その他現存しない財産を、遺産分割時に現存するものとみなして、遺産分割の対象とすることができる。
つまり、他の相続人全員が同意すれば、処分された現金なども「あるもの」とみなして分割の対象にできるのです。
したがって、「遺産分割の対象は、現存する財産のみ」というのは妥当でないといえます。
このような制度があるのは、処分された財産についても相続人間で公平な分割がなされるようにするためです。
よって、処分された現金であっても、相続人全員の同意があれば遺産分割の対象とすることができるため、
「遺産分割の対象は現存する財産に限る」という本肢の内容は妥当でないといえます。
4・・・妥当でない
この問題は、遺産分割の申立てがいつまでできるのか、つまり「時効のような制限があるか?」という点を問うものです。
結論から言えば、遺産分割に申立期間の制限はありません。
■ 民法907条(遺産の分割)
- 共同相続人は、いつでも協議によって、遺産の全部または一部の分割をすることができる。
- 協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、各共同相続人は、家庭裁判所に対してその分割を請求することができる。
つまり、相続開始から10年、20年、あるいはそれ以上経っていても、遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に調停や審判の申立てをすることが可能です。
特に「法定の期限」や「時効」のような制限は設けられていません。
したがって、本肢の内容は妥当でないです。
本肢は、関連ポイントが重要なので、個別指導で解説します。
5・・・妥当でない
まず原則として、銀行預金(預貯金債権)は、可分債権であるにもかかわらず、遺産分割の対象とされます(最高裁平成28年12月19日判決など)。
そのため、遺産分割が完了するまでは、相続人が勝手に自分の法定相続分に応じた金額を引き出すことは原則としてできません。
しかし、例外として、相続人が単独で一定額まで引き出すことを可能とする制度が設けられています。
各共同相続人は、相続開始時の預貯金債権のうち、
「債権額の1/3 × 当該相続人の法定相続分」に相当する額まで、
一定の上限を超えない範囲内で、家庭裁判所の関与なしに単独で引き出すことができる。
この制度は、葬儀費用や生活資金といった当面の資金需要に対応するために設けられたものです。
なお、具体的な上限額は法務省令により定められており、銀行ごとに150万円が上限(令和5年3月現在)とされています。
よって、預金は遺産分割の対象となるため、原則として相続人単独で引き出すことはできませんが、
一定の金額までは例外的に単独で引き出すことが可能です。
よって「目的・金額のいかんを問わず、単独で行うことは許されない」とする本肢の内容は妥当でないです。
令和6年(2024年)過去問
問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法 |
---|---|---|---|
問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法 |
問3 | 憲法 | 問33 | 民法 |
問4 | 憲法 | 問34 | 民法 |
問5 | 憲法 | 問35 | 民法 |
問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 多肢選択 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 多肢選択 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 多肢選択 |
問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行服法・行訴法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識 |
問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 基礎知識 |
問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識 |
問21 | 国家賠償法 | 問51 | 基礎知識 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 行政書士法 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 住民基本台帳法 |
問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識 |
問25 | 行政法 | 問55 | 基礎知識 |
問26 | 公文書管理法 | 問56 | 基礎知識 |
問27 | 民法 | 問57 | 個人情報保護法 |
問28 | 民法 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
