令和7年度の行政書士試験対策の個別指導開講

令和6年・2024|問34|民法

不法行為に基づく損害賠償に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
※ 試験センターより「正答肢が二つある」として、全員が正解扱い。よって本問は没問となりました。なので、妥当なものを2つ選びなさい

  1. 不法行為による生命侵害の場合において、被害者の相続人であれば、常に近親者固有の慰謝料請求権が認められる。
  2. 法人が名誉毀損を受けた場合、法人には感情がないので、財産的損害を除き、非財産的損害の賠償は認められない。
  3. 交通事故による被害者が、いわゆる個人会社の唯一の代表取締役であり、被害者には当該会社の機関としての代替性がなく、被害者と当該会社とが経済的に一体をなす等の事情の下では、当該会社は、加害者に対し、被害者の負傷のため営業利益を逸失したことによる賠償を請求することができる。
  4. 不法行為により身体傷害を受けた被害者は、後遺症が残ったため、労働能力の全部または一部の喪失により将来において取得すべき利益を喪失した場合には、その損害について定期金ではなく、一時金による一括賠償しか求めることができない。
  5. 交通事故の被害者が後遺症により労働能力の一部を喪失した場合に、その後に被害者が別原因で死亡したとしても、交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、死亡の事実は逸失利益に関する就労可能期間の認定において考慮されない。

>解答と解説はこちら


【答え】:3、5が妥当
【解説】
1.不法行為による生命侵害の場合において、被害者の相続人であれば、常に近親者固有の慰謝料請求権が認められる。

1・・・妥当でない

民法711条は、他人の生命を侵害した者は、被害者の父母・配偶者・子に対して、財産的損害がなくても慰謝料を支払う義務があると定めています(=これが「近親者固有の慰謝料請求権」)。

しかし、それ以外の相続人(たとえば兄弟姉妹など)については、自動的にこの権利が認められるわけではありません

判例(最判昭和33年8月5日)では、711条に書かれていない人でも、被害者と特に強い身分関係があり、深刻な精神的苦痛を受けた場合には、類推適用によって慰謝料請求が認められるとしています。

つまり、「相続人である」という理由だけで、常に固有の慰謝料請求権が認められるわけではないです。

2.法人が名誉毀損を受けた場合、法人には感情がないので、財産的損害を除き、非財産的損害の賠償は認められない。

2・・・妥当でない

たしかに法人には人間のような「感情」はありませんが、法人にも「名誉」はあります。名誉とは、その者が社会から受ける客観的評価のことであり、これは個人だけでなく法人にも認められます。したがって、法人が名誉毀損を受けた場合には、非財産的損害(無形の精神的損害)であっても、金銭で評価できる限り損害賠償の対象になります(最判昭和39年1月28日)。つまり、「感情がないから非財産的損害の賠償は認められない」というのは誤り(妥当ではない)です。

3.交通事故による被害者が、いわゆる個人会社の唯一の代表取締役であり、被害者には当該会社の機関としての代替性がなく、被害者と当該会社とが経済的に一体をなす等の事情の下では、当該会社は、加害者に対し、被害者の負傷のため営業利益を逸失したことによる賠償を請求することができる。

3・・・妥当である

交通事故などで、個人会社の代表者が負傷した場合、その会社の営業がストップして利益を失うことがあります。

このとき、次のような条件がそろっていれば、会社自身が加害者に対して損害賠償を請求できます(最判昭和43年11月15日)。

  • 会社の代表者に代わりがいない(代替性がない)
  • 会社と代表者が経済的に一体関係にある(≒個人会社である)

つまり、事故で代表者が働けず会社の営業が止まり利益を失った場合、会社の損害として加害者に請求できるということです。

4.不法行為により身体傷害を受けた被害者は、後遺症が残ったため、労働能力の全部または一部の喪失により将来において取得すべき利益を喪失した場合には、その損害について定期金ではなく、一時金による一括賠償しか求めることができない。

4・・・妥当でない

被害者が後遺症により将来の収入(逸失利益)を失った場合、その損害は一括の一時金だけでなく、定期金による賠償も認められることがあります。

たとえば、最判令和2年7月9日では、交通事故により高次脳機能障害を負った被害者が、労働能力をすべて失い、長期間にわたって収入を得られないと見込まれる状況で、定期金による支払いが認められました。

つまり、事情によっては被害者側が定期金での賠償を求めることも可能であり、「一括しか求められない」というのは誤りです。

定期金とは?

一定の期間ごとに、決まった金額を継続して支払うお金のことです。
損害賠償の場面では、たとえば毎月○万円ずつ、あるいは年に1回○万円ずつ支払うというような形です。

5.交通事故の被害者が後遺症により労働能力の一部を喪失した場合に、その後に被害者が別原因で死亡したとしても、交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、死亡の事実は逸失利益に関する就労可能期間の認定において考慮されない。

5・・・妥当である

逸失利益とは、後遺障害などで本来得られたはずの収入が得られなくなることによる損害のことです。

この逸失利益を計算する際には、「本来どれだけ働けたか(就労可能期間)」が重要になります。

判例(最判平成8年4月25日)では、交通事故の後に、全く別の原因で被害者が死亡したとしても、次のような特段の事情がなければ、その死亡は逸失利益の計算に影響しないとしました。

  • 事故の時点で死亡の原因となる病気などがすでにあった
  • 近い将来に死亡することが客観的に予測できた

つまり、事故のあとにたまたま別の理由で亡くなった場合でも、事故当時にそうした事情がなければ、「本来の就労可能年齢(たとえば70歳)」まで働けたものとして逸失利益を計算する、ということです。


令和6年(2024年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 多肢選択
問12 行政手続法 問42 多肢選択
問13 行政手続法 問43 多肢選択
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行服法・行訴法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 行政書士法
問23 地方自治法 問53 住民基本台帳法
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政法 問55 基礎知識
問26 公文書管理法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 個人情報保護法
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

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