令和7年度の行政書士試験対策の個別指導開講

令和6年・2024|問32|民法

A所有の動産甲(以下「甲」という)を、BがCに売却する契約(以下「本件契約」という)に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. Bが、B自身を売主、Cを買主として本件契約を締結した場合であっても、契約は原則として有効であり、Bは、Aから甲の所有権を取得してCに移転する義務を負うが、本件契約成立の当初からAには甲を他に譲渡する意思のないことが明確であり、甲の所有権をCに移転することができない場合には、本件契約は実現不能な契約として無効である。
  2. Bが、B自身を売主、Cを買主として本件契約を締結した場合であっても、契約は原則として有効であり、Bは、Aから甲の所有権を取得してCに移転する義務を負うところ、本件契約後にBが死亡し、AがBを単独相続した場合においては、Cは当然に甲の所有権を取得する。
  3. Bが、B自身をAの代理人と偽って、Aを売主、Cを買主とする本件契約を締結し、Cに対して甲を現実に引き渡した場合、Cは即時取得により甲の所有権を取得する。
  4. Bが、B自身をAの代理人と偽って、Aを売主、Cを買主として本件契約を締結した場合、Bに本件契約の代理権がないことを知らなかったが、そのことについて過失があるCは、本件契約が無効となった場合であっても、Bに対して履行または損害賠償の請求をすることができない。
  5. Aが法人で、Bがその理事である場合、Aの定款に甲の売却に関しては理事会の承認が必要である旨の定めがあり、Bが、理事会の承認を得ないままにAを売主、Cを買主とする本件契約を締結したとき、Cが、その定款の定めを知っていたとしても、理事会の承認を得ていると過失なく信じていたときは、本件契約は有効である。

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【答え】:5
【解説】
1.Bが、B自身を売主、Cを買主として本件契約を締結した場合であっても、契約は原則として有効であり、Bは、Aから甲の所有権を取得してCに移転する義務を負うが、本件契約成立の当初からAには甲を他に譲渡する意思のないことが明確であり、甲の所有権をCに移転することができない場合には、本件契約は実現不能な契約として無効である。

1・・・妥当でない

本件契約は 有効 であり、「無効」とするのは妥当ではありません。

他人の物の売買は有効(民法561条)
民法561条では、他人の物を売買の目的とする契約も原則として有効とされており、売主はその目的物を取得して買主に引き渡す義務を負うとされています。
つまり、売主がその物の所有者でなくても、売買契約そのものは成立します。

原始的不能でも契約は有効(民法412条の2第2項)
契約締結時点ですでに履行が不能であっても(=原始的不能)、
契約は原則として無効にはなりません
履行不能により損害が発生した場合は、債務不履行責任として損害賠償請求が可能です。

判例(最判昭和25年10月26日)
目的物の真の所有者が、契約当初からその物を譲渡する意思がなくても、
売買契約は有効
とし、売主は買主に対して担保責任を負うと判示しています。

つまり、Aが甲を他人に譲渡する意思が最初からなかったとしても、BとCとの間で成立した売買契約は有効です。
BはAから甲を取得してCに移転する義務を負います。
したがって、「本件契約が無効である」とする記述は妥当でないです。

2.Bが、B自身を売主、Cを買主として本件契約を締結した場合であっても、契約は原則として有効であり、Bは、Aから甲の所有権を取得してCに移転する義務を負うところ、本件契約後にBが死亡し、AがBを単独相続した場合においては、Cは当然に甲の所有権を取得する。

2・・・妥当でない

Cは当然に甲の所有権を取得するわけではない。
したがって、「Cが当然に所有権を取得する」とする記述は妥当ではありません。

他人の物の売買は有効(民法561条)
まず前提として、BがAの所有物(甲)をCに売却した場合、
たとえBが甲の所有者でなくても、契約は有効であり、
BはAから甲を取得してCに移転する義務を負います。

売主の死亡と相続の効果
Bが死亡し、AがBを単独で相続した場合、AはBの売主としての地位(契約上の義務)を承継します。

しかし、ここで重要なのは、

A=所有者(=「権利者」)が、自身の所有権をCに移転する義務を当然に負うわけではない
という点です。

判例の考え方(最大判昭和49年9月4日)

この判例では次のように述べられています。

  • 所有者(A)は、相続によって売主の地位を承継しても、
    自己の意思で目的物の移転を拒否できる自由を持つ
  • 相続によってたまたま売主となったからといって、
    所有者が自動的に売買契約に拘束されることはない。
  • よって、特別な事情(信義則に反するような事情)がない限り
    所有者はその権利の移転を拒むことができる

上記をまとめると、
Bの死亡後、AがBを相続しても、AがCに甲を当然に引き渡さなければならないわけではありません。
Aが売主の地位を承継しても、自己の所有物を引き渡す義務までは負わないというのが判例の立場です。
したがって、本件の「Cが当然に所有権を取得する」とする記述は、誤り=妥当でないです。

3.Bが、B自身をAの代理人と偽って、Aを売主、Cを買主とする本件契約を締結し、Cに対して甲を現実に引き渡した場合、Cは即時取得により甲の所有権を取得する。

3・・・妥当でない

Cは即時取得により甲の所有権を取得するとはいえないので本肢妥当ではないです。

無権代理行為の原則(民法113条)

BはAの代理人と偽って契約を締結しているため、これは無権代理行為です。

民法113条1項により、

無権代理人の行為は、本人が追認しなければ無効であり、
本人(=A)に効果は帰属しません。

つまり、本件契約は原則として無効です。

即時取得(民法192条)の要件

即時取得とは、以下の条件をすべて満たしたときに成立します。

  1. 動産の取引行為により
  2. 平穏・公然に占有を開始し
  3. 善意・無過失であること

ここで問題になるのが「1.取引行為」の要件です。

「取引行為」としての有効性が必要

判例・通説によれば、
即時取得における「取引行為」とは、形式上・実体上の有効な法律行為を意味します。

つまり、契約自体が無効である場合には、「取引行為」に当たらず
即時取得の要件を欠くことになります。

したがって、無権代理による売買契約は、本人の追認がない限り無効である以上、
そのような行為に基づく引渡しによってCが即時取得することはできません。

よって、
Bが無権代理人として契約をした場合、その契約はAの追認がない限り無効であり、
Cへの引渡しがあっても、「取引行為」による占有開始とは認められません。

したがって、Cは即時取得によって所有権を取得することはできず、記述は妥当でないといえます。

4.Bが、B自身をAの代理人と偽って、Aを売主、Cを買主として本件契約を締結した場合、Bに本件契約の代理権がないことを知らなかったが、そのことについて過失があるCは、本件契約が無効となった場合であっても、Bに対して履行または損害賠償の請求をすることができない。

4・・・妥当でない

CはBに対して履行または損害賠償を請求することができる。
よって、「請求できない」とする設問の記述は妥当でない。

無権代理人の責任(民法117条1項)

無権代理人(=B)は、次のいずれかを満たさない限り、相手方(=C)に対して責任を負います。

  • 代理権の存在を証明した場合
  • 本人の追認を得た場合

これらを満たさない場合には、Cは、履行請求または損害賠償請求のいずれかを選べます(民法117条1項)。

例外規定(民法117条2項)

ただし、以下のケースでは、B(無権代理人)は責任を負いません

  • CがBに代理権がないことを知っていたとき
  • Cが過失により知らなかったとき(=過失による善意

つまり、原則として「Cに過失があるとき」は、Bに責任はないことになります。

ただし書の適用(民法117条2項2号ただし書)

しかし、今回のように、Bが自分に代理権がないことを知りつつ、Aの代理人であると偽って契約した場合にはどうなるでしょうか?

この場合は、民法117条2項2号ただし書が適用され、

Cに過失があっても、Bは責任を負う
とされます。

なぜなら、Bの行為は故意による「信頼侵害」といえるため、相手方であるCを保護する必要があるからです。

よって、

  • Bは自分に代理権がないことを知っていた(=故意に無権代理行為をした)
  • Cはそれを知らず、たとえ過失があったとしても、
  • Bは契約責任(履行または損害賠償)を負います。

したがって、「Cは請求できない」とする設問の記述は、誤り(妥当でない)です。

5.Aが法人で、Bがその理事である場合、Aの定款に甲の売却に関しては理事会の承認が必要である旨の定めがあり、Bが、理事会の承認を得ないままにAを売主、Cを買主とする本件契約を締結したとき、Cが、その定款の定めを知っていたとしても、理事会の承認を得ていると過失なく信じていたときは、本件契約は有効である。

5・・・妥当である

法人の代表理事の権限と定款の制限

一般に、法人の代表理事には、対外的に広範な代表権があります。
ただし、定款で内部的に代表権が制限されていることもあり、
本件のように「重要な財産(甲)の売却には理事会の承認が必要」とされることがあります。

表見代理の類推適用(民法110条の趣旨)

問題は、理事会の承認がない場合でも、契約は有効か?という点。

この点に関して、判例(最判昭和60年11月29日)は、

たとえ買主が、定款上の承認の要否を知っていたとしても、実際に承認があったと信じ、かつ、それを信じたことに正当な理由があれば契約は有効となる

と判示しています。

これは、民法110条(代理権の範囲を超えた表見代理)の趣旨を類推適用したものです。

本肢の場合の適用

本肢は、

  • Cは定款で「理事会承認が必要」と知っていた
  • しかし、理事会で承認されたと信じた
  • その信頼に過失がなかった(=信じたことに正当な理由がある)

という要件を満たしており、
判例に従えば、契約は有効に成立します。

したがって、
法人の内部規定である定款の制限があっても、
第三者(C)が承認があったと信じたことに正当な理由がある場合には、
表見代理の考え方が類推され、契約は有効になります。

よって、本肢は妥当です。


令和6年(2024年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 多肢選択
問12 行政手続法 問42 多肢選択
問13 行政手続法 問43 多肢選択
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行服法・行訴法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 行政書士法
問23 地方自治法 問53 住民基本台帳法
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政法 問55 基礎知識
問26 公文書管理法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 個人情報保護法
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

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