令和7年度の行政書士試験対策の個別指導開講

令和6年・2024|問3|憲法

人格権と夫婦同氏制に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例の趣旨に照らし、妥当でないものはどれか。

  1. 氏名は、社会的にみれば、個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが、同時に、その個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する。
  2. 氏は、婚姻および家族に関する法制度の一部として、法律がその具体的な内容を規律しているものであるから、氏に関する人格権の内容も、憲法の趣旨を踏まえつつ定められる法制度をまって、初めて具体的に捉えられる。
  3. 家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位であるから、氏をその個人の属する集団を想起させるものとして一つに定めることにも合理性があり、また氏が身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは、その性質上予定されている。
  4. 現行の法制度の下における氏の性質等に鑑みると、婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。
  5. 婚姻前に築いた個人の信用、評価、名誉感情等を婚姻後も維持する利益等は、憲法上保障される人格権の一内容とはいえず、当該利益を婚姻および家族に関する法制度の在り方を検討する際に考慮するか否かは、専ら立法裁量の問題である。

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【答え】:5
【解説】
1.氏名は、社会的にみれば、個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが、同時に、その個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する。

1・・・妥当である

氏名は、社会的にみると個人を他人と識別し、特定する機能を持っています。しかし、それだけでなく、個人にとっては人格を尊重される基礎であり、人格の象徴ともいえるものです。そのため、氏名は人格権の一内容を構成するとされています。

本問題は、最大判平成27年12月16日を題材としたものです。

この判決では、夫婦が婚姻の際に夫または妻の氏を称すると定める民法750条について、憲法13条(個人の尊重)、憲法14条1項(法の下の平等)、憲法24条(婚姻の自由)などに違反するかが争われました。原告は、この規定が違憲であるとして、立法措置を講じないことが国家賠償法1条1項に基づく違法な立法不作為であると主張しました。

しかし、最高裁は「民法750条は憲法13条、憲法14条1項、憲法24条に違反しない」と判断し、また、立法措置をとらないことも国家賠償法1条1項の適用上違法とはいえないと結論づけました。

この判決の中で、最高裁は氏名の意義について以下のように述べています。

氏名は、社会的にみれば、個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが、同時に、その個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成するものというべきである。

つまり、氏名は単なる識別記号ではなく、人格の一部として重要な意味を持つものであることが、最高裁の判例でも明確に示されています。

2.氏は、婚姻および家族に関する法制度の一部として、法律がその具体的な内容を規律しているものであるから、氏に関する人格権の内容も、憲法の趣旨を踏まえつつ定められる法制度をまって、初めて具体的に捉えられる。

2・・・妥当である

氏は、婚姻および家族に関する法制度の一部として、法律によってその具体的な内容が規律されています。そのため、氏に関する人格権の内容についても、憲法上ただちに確定されるものではなく憲法の趣旨を踏まえた法制度のもとで、初めて具体的に捉えることができるとされています。

これは、氏が単なる個人の識別記号ではなく、家族制度と密接に関連していることによるものです。現行の民法では、婚姻によって夫または妻のいずれかの氏を選択することとされており(民法750条)、このような法制度が氏の扱いを具体的に定めています。

最高裁判例(最大判平成27年12月16日)においても、氏に関する人格権の内容は、憲法上直ちに一義的に決まるものではなく、法制度による具体的な規定が必要であると示されています。この判例は、夫婦同姓を定める民法750条が憲法13条(個人の尊重)、憲法14条1項(法の下の平等)、憲法24条(婚姻の自由)に違反しないことを確認したものです。

このように、氏に関する人格権の具体的な内容は、憲法の理念を踏まえつつ、立法による制度の構築を待って初めて明確になるものとされています。

3.家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位であるから、氏をその個人の属する集団を想起させるものとして一つに定めることにも合理性があり、また氏が身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは、その性質上予定されている。

3・・・妥当である

氏は、単に個人を識別するためのものではなく、家族の呼称としての意義を持っています。現行の民法のもとでは、家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられており、その呼称として氏を統一することには合理性が認められます

また、氏は親子関係などの一定の身分関係を反映する性質を持っており、婚姻や養子縁組といった身分関係の変動に伴い変更されることがあり得るものです。これは、氏の性質上、あらかじめ予定されていることといえます。

最高裁判例(最大判平成27年12月16日)でも、氏は「家族の呼称としての意義を有する」と認められ、氏の変更が身分関係の変動に伴って生じること自体は合理的であると判断されています。

このように、氏は個人の識別記号としての側面だけでなく、家族という社会単位を示す要素でもあり、一定の身分関係の変動に応じて改められることが予定されているのです。

4.現行の法制度の下における氏の性質等に鑑みると、婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。

4・・・妥当である

現行の法制度における氏の性質を踏まえると、婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえません

これは、氏の変更が、一定の法制度のもとで予定されていることによるものです。日本の民法では、婚姻に際して夫または妻のいずれかの氏を選択し、統一することが定められています(民法750条)。したがって、婚姻によって氏が変更されること自体を「人格権の侵害」や「違憲」とすることは適切ではないと考えられます。

また、最高裁判例(最大判平成27年12月16日)でも、「具体的な法制度を離れて、氏が変更されること自体を捉えて直ちに人格権を侵害し、違憲であるか否かを論ずることは相当ではない」とされています。これは、氏の変更が個人の意思とは無関係に一方的に強制されるものではなく、婚姻の自由な選択に基づいて行われるものであることが考慮されているためです。

このように、氏の変更は一定の法制度のもとで予定されているものであり、それ自体が人格権の侵害となるものではないと解されています。

5.婚姻前に築いた個人の信用、評価、名誉感情等を婚姻後も維持する利益等は、憲法上保障される人格権の一内容とはいえず、当該利益を婚姻および家族に関する法制度の在り方を検討する際に考慮するか否かは、専ら立法裁量の問題である。

5・・・妥当でない

婚姻前に築いた個人の信用、評価、名誉感情などを婚姻後も維持する利益は、憲法上の権利として人格権の一内容であるとまではいえません。しかし、このような利益は、氏を含めた婚姻および家族に関する法制度の在り方を検討する際に考慮すべき人格的利益であるといえます。

最高裁判例(最大判平成27年12月16日)でも、婚姻前に築いた社会的信用や名誉感情を維持する利益について、「憲法上の権利として保障される人格権の一内容とはいえない」としつつも、婚姻や家族制度に関する立法政策を考慮する際には無視できない要素であると述べています。

したがって、「この利益を考慮するか否かは専ら立法裁量の問題である」という記述は適切ではなく、立法裁量の範囲内ではあるものの、考慮すべき重要な人格的利益であるとするのが妥当です。


令和6年(2024年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 多肢選択
問12 行政手続法 問42 多肢選択
問13 行政手続法 問43 多肢選択
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行服法・行訴法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 行政書士法
問23 地方自治法 問53 住民基本台帳法
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政法 問55 基礎知識
問26 公文書管理法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 個人情報保護法
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

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