令和7年度の行政書士試験対策の個別指導開講

令和6年・2024|問29|民法

甲土地(以下「甲」という)を所有するAが死亡して、その子であるBおよびCについて相続が開始した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。

  1. 遺産分割が終了していないにもかかわらず、甲につきBが虚偽の登記申請に基づいて単独所有名義で相続登記手続を行った上で、これをDに売却して所有権移転登記手続が行われた場合、Cは、Dに対して、Cの法定相続分に基づく持分権を登記なくして主張することができる。
  2. 遺産分割により甲をCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをEに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Eに対して、Eの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。
  3. Aが甲をCに遺贈していたが、Cが所有権移転登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続きを行った上で、これをFに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Fに対して、Fの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。
  4. Bが相続を放棄したため、甲はCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bの債権者であるGが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき差押えを申し立てた場合、Cは、当該差押えの無効を主張することができない。
  5. Aが「甲をCに相続させる」旨の特定財産承継遺言を行っていたが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをHに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、民法の規定によれば、Cは、Hに対して、Hの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。

>解答と解説はこちら


【答え】:4
【解説】
1.遺産分割が終了していないにもかかわらず、甲につきBが虚偽の登記申請に基づいて単独所有名義で相続登記手続を行った上で、これをDに売却して所有権移転登記手続が行われた場合、Cは、Dに対して、Cの法定相続分に基づく持分権を登記なくして主張することができる。

1・・・妥当である

この問題の核心は、「共同相続された不動産について、1人の相続人が単独で処分し、それを第三者が取得した場合、他の相続人は登記なしで権利を主張できるかどうか」です。

判例:最判昭和38年2月22日

「共同相続人の一人が単独で所有権移転登記をしても、その者に共有持分を超える権利はなく、他の相続人は自己の持分については登記なくして第三者に対抗できる」

① 共同相続と法定相続分

相続人が複数いる場合、相続開始と同時に相続財産は法定相続分に従って準共有状態となります。遺産分割が終わっていない限り、BとCはそれぞれ法定相続分に応じた持分権を有しています。

② Bの単独登記の効果

Bが単独で相続登記をしたとしても、他の相続人Cの持分まで取得したことにはなりません。つまり、Bは「無権限でCの持分を処分した」にすぎないです。

③ Dの地位(民法177条の第三者にあたるか?)

Dは登記を受けたが、Cの持分についてはBが無権限で処分したものです。このような無権限の譲渡において、Dは民法177条の「第三者」にはあたらず、登記の有無にかかわらずCの持分を取得できません。よって、Cは登記がなくても、Dに自己の持分を対抗できます。

したがって、本肢は妥当です。

2.遺産分割により甲をCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをEに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Eに対して、Eの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。

2・・・妥当である

設問の状況整理

  • Aが死亡し、その子BとCが相続人となった。
  • 遺産分割の結果、甲土地はCが単独で相続することに決まった。
  • しかし、Cはまだ相続登記をしていない段階で、
  • Bが「自分の法定相続分に基づく持分権」について登記をし、さらにその持分をEに売却・移転登記した。
  • このとき、Cは、Eの持分は本来Cに帰属するものであると主張できるか?

結論

Cは、Eに対して「その持分は自分のものである」と主張できないので、本肢は妥当です。

解説

① 遺産分割の効果

遺産分割が成立すると、相続開始時に遡って相続財産の権利が確定します(民法909条)。この場合、甲土地は相続開始時からCの単独所有となります。

② ただし対抗要件が必要(=登記)

ただし、その権利を第三者に主張するためには登記が必要です。

③ 民法899条の2第1項(令和元年改正で新設)

相続によって権利を取得した者は、その権利を第三者に対抗するには登記等が必要であります。つまり、Cが登記をしていない場合、登記を信じて取引したEに対して、「それは私のものだ」と主張しても、民法上対抗できません。

3.Aが甲をCに遺贈していたが、Cが所有権移転登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続きを行った上で、これをFに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Fに対して、Fの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。

3・・・妥当である

設問の状況整理

  • Aが死亡し、相続人である子BとCに相続が開始。
  • Aは生前にCに甲土地を遺贈していた(遺言に基づく遺贈)。
  • しかし、Cはまだ遺贈による所有権移転登記をしていない段階で、
  • Bが「自己の法定相続分に基づく持分権」について相続登記を行い、その後、Fに売却・移転登記がされた。
  • このとき、Cは、Fに対して「その持分は自分のものだ」と主張できるか?

結論

Cは、Fに対してその持分が自己に帰属すると主張することができないです。よって、本肢は妥当です。

【解説】

① 遺贈による権利取得も「登記が対抗要件」

不動産の遺贈による取得も、「物権の取得」にあたり、民法177条の適用対象です。そして、民法177条では、不動産の物権変動は「登記がなければ第三者に対抗できない」と規定しています。

判例(最判昭和39年3月6日)

「不動産の遺贈による取得についても、登記がなければ第三者に対抗することはできない。」

つまり、遺言によってCに甲土地を遺贈する旨が定められていても、登記をしていない限り、その権利を第三者(F)に対抗することはできない。

② Bによる売却とFの地位

Bは本来、甲土地を相続していません(遺贈によりCが取得するため)。しかし、登記簿上は、Bが持分を取得したように見えます。そのため、その登記に基づいてFが取引を行った場合、Fは「民法177条の第三者」に該当し、保護されます。

よって、CはFに対して持分の帰属を主張できない。

4.Bが相続を放棄したため、甲はCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bの債権者であるGが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき差押えを申し立てた場合、Cは、当該差押えの無効を主張することができない。

4・・・妥当でない

設問の状況整理

  • Aが死亡し、その子BとCが相続人。
  • Bは相続を放棄した。
  • 結果として、甲土地はCが単独で相続することになった。
  • しかし、Cがまだ登記をしていない段階で、
  • Bの債権者Gが、Bの法定相続分に基づいて差押えを申し立てた。
  • このとき、Cはその差押えが無効だと主張できるか?

結論

Cは、Gの差押えの無効を主張することができます。よって、本肢は妥当ではありません。

【解説】

① 相続放棄の効果(民法939条)

相続の放棄をした者は、その相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなす

つまり、Bは最初から相続人でなかったのと同じ扱いをします。よって、甲土地についてBには何の権利も発生しません。

② 相続放棄の効力は「絶対的効力」

相続放棄は、相続開始時にさかのぼって効力を持ちます。

この効果は、登記の有無にかかわらず、誰に対しても主張できます(=絶対的効力)。

よって、Bの債権者Gが、あたかもBが相続したかのように差押えしても無効です。

最判昭和42年1月20日

相続の放棄をした相続人の債権者が、当該相続人も相続したものとして差押登記を行っても、その差押登記は無効である。
5.Aが「甲をCに相続させる」旨の特定財産承継遺言を行っていたが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをHに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、民法の規定によれば、Cは、Hに対して、Hの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。

5・・・妥当である

設問の状況整理

  • Aが死亡し、その子BおよびCが相続人となった。
  • Aは遺言により「甲土地をCに相続させる」と指定していた(特定財産承継遺言)。
  • しかし、Cはまだ相続登記をしていない。
  • この間に、Bが甲土地について「自己の法定相続分に基づく相続登記」を行い、さらにその持分をHに売却・移転登記した。
  • このとき、Cは、Hに対して「その持分は自分に帰属する」と主張できるか?

結論

Cは、Hに対して「その持分は自分のものである」と主張することができないので、本肢はだとうです。

【解説】

① 「相続させる」旨の遺言の効果

「相続させる」旨の特定財産承継遺言は、遺贈ではなく相続分の指定と解されます(最判平成3年4月19日)。この場合、CはAの死亡により当然に甲土地の所有権を取得します。しかし、その権利を第三者に主張するには登記が必要です。

■ ② 民法899条の2第1項(令和元年改正)

相続によって権利を取得した者は、その権利を第三者に対抗するには登記等の対抗要件が必要です。

そして、相続による取得であっても、「法定相続分を超える部分」については登記がなければ第三者に対抗できません。

今回のように、Cが甲全部を取得するというのはBの法定相続分を超えるため、このルールが適用されます。

③ Bの行動とHの地位

Bは登記簿上、法定相続分に基づく持分を取得したように見えます。Hはその登記に基づいて不動産を取得しているため、「民法177条の第三者」として保護されます。よって、Cは登記がない限り、Hに対して「その持分は自分のものだ」と主張することができないので、本肢は妥当です。


令和6年(2024年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 多肢選択
問12 行政手続法 問42 多肢選択
問13 行政手続法 問43 多肢選択
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行服法・行訴法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 行政書士法
問23 地方自治法 問53 住民基本台帳法
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政法 問55 基礎知識
問26 公文書管理法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 個人情報保護法
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

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