無効および取消しに関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、誤っているものはどれか。
- 贈与契約が無効であるにもかかわらず、既に贈与者の履行が完了している場合、受贈者は受け取った目的物を贈与者に返還しなければならず、それが滅失して返還できないときは、贈与契約が無効であることを知らなかったとしても、その目的物の現存利益の返還では足りない。
- 売買契約が無効であるにもかかわらず、既に当事者双方の債務の履行が完了している場合、売主は受け取った金銭を善意で費消していたとしても、その全額を返還しなければならない。
- 秘密証書遺言は、法が定める方式に欠けるものであるときは無効であるが、それが自筆証書による遺言の方式を具備しているときは、自筆証書遺言としてその効力を有する。
- 未成年者が親権者の同意を得ずに締結した契約について、未成年者本人が、制限行為能力を理由としてこれを取り消す場合、親権者の同意を得る必要はない。
- 取り消すことができる契約につき、取消権を有する当事者が、追認をすることができる時以後に、異議をとどめずにその履行を請求した場合、これにより同人は取消権を失う。
【答え】:1
【解説】
1・・・誤り
贈与契約のような無償行為が無効である場合、民法121条の2第2項が適用されます。
つまり、受贈者が贈与契約が無効であることを知らず、善意であった場合には、目的物が滅失していたり、すでに使ってしまって手元に残っていなければ、現存利益がない部分についての返還義務は免れることになります。
この規定は、「善意の受贈者に過度な不利益を与えない」ことを目的としており、現に得ている利益の範囲で返還すれば足りるという立場です。
したがって、記述のように「現存利益の返還では足りない」とするのは誤りです。
2・・・正しい
売買契約は有償契約であるため、民法121条の2第1項が適用されます。
つまり、契約が無効であった場合、たとえ受領した者(ここでは売主)がその給付を善意で使ってしまっていたとしても、その金銭は全額返還しなければならないということになります。
これは、有償契約では当事者双方が対価的な給付を受けているため、不当利得が明確に生じるからであり、受領者が善意であったかどうかは返還義務の有無に影響しません。
なお、買主側が目的物をすでに消費または滅失させていた場合には、その価値に見合う金銭の支払義務(価額償還義務)を負うことになります。
3・・・正しい
秘密証書遺言は、民法970条に定められた厳格な方式に従わなければなりません。
たとえば封印や、公証人・証人の立会い、封紙への記載といった手続きが必要です。
しかし、仮に秘密証書遺言としての方式(民法970条)を欠いていた場合であっても、その遺言書が自筆証書遺言の方式(民法968条)を満たしていれば、自筆証書遺言として有効になります(民法971条)。
✅ 具体的には
- 全文・日付・氏名を遺言者が自書している
- 押印がある
といった自筆証書遺言としての基本的要件を満たしていれば、秘密証書遺言としては無効でも、自筆証書遺言として有効になるというわけです。
これは、遺言者の最終意思をできる限り尊重し、形式的な不備だけで無効とするのを避けるための規定です。
4・・・正しい
未成年者が、法定代理人(=親権者)の同意を得ないで契約をした場合、その契約は取り消すことができます(民法5条2項)。
この取消権は、法定代理人だけでなく、未成年者本人も行使できます(民法120条1項)。
そして、取り消すという行為自体は、もともとの契約をなかったことにする行為(=未成年者を保護するための制度)なので、取消しの際に親権者の同意は必要ありません。
つまり、「未成年者が同意を得ないで契約してしまった。でもそれを本人が取り消したい」っといった場合、本人の意思だけで有効に取り消せるのです。
5・・・正しい
取り消すことができる契約は、追認されると、もはや取り消すことはできなくなります(民法122条)。
そして、追認には「明示の追認」だけでなく、行為や態度から黙示的に追認とみなされる場合(法定追認)もあります。
この「法定追認」にあたる行為の一つが、異議をとどめずに履行を請求することです(民法125条2号)。
次に掲げる事実があったときは、取り消すことができる行為を追認したものとみなす。
(中略)
二 追認をすることができる時以後に、異議をとどめずにその履行を請求したとき。
つまり、取消権者が「この契約には取消事由がある」とわかっていながら、それに対して何の異議も出さずに履行を求めた場合、追認したものとみなされ、取消権を失うことになります。
令和6年(2024年)過去問
問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法 |
---|---|---|---|
問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法 |
問3 | 憲法 | 問33 | 民法 |
問4 | 憲法 | 問34 | 民法 |
問5 | 憲法 | 問35 | 民法 |
問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 多肢選択 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 多肢選択 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 多肢選択 |
問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行服法・行訴法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識 |
問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 基礎知識 |
問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識 |
問21 | 国家賠償法 | 問51 | 基礎知識 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 行政書士法 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 住民基本台帳法 |
問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識 |
問25 | 行政法 | 問55 | 基礎知識 |
問26 | 公文書管理法 | 問56 | 基礎知識 |
問27 | 民法 | 問57 | 個人情報保護法 |
問28 | 民法 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
