公立学校をめぐる裁判に関する次のア~オの記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。
ア.公立高等専門学校の校長が学生に対し原級留置処分または退学処分を行った場合、裁判所がその処分の適否を審査するにあたっては、校長と同一の立場に立って当該処分をすべきであったかどうか等について判断し、その結果と当該処分とを比較してその適否、軽重等を論ずべきである。
イ.教育委員会が、公立学校の教頭で勧奨退職に応じた者を校長に任命した上で同日退職を承認する処分をした場合において、当該処分が著しく合理性を欠きそのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するものといえないときは、校長としての退職手当の支出決定は財務会計法規上の義務に違反する違法なものにはあたらない。
ウ.公立学校の学校施設の目的外使用を許可するか否かは、原則として、当該施設の管理者の裁量に委ねられており、学校教育上支障がない場合であっても、学校施設の目的および用途と当該使用の目的、態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により許可をしないこともできる。
エ.公立高等学校等の教職員に対し、卒業式等の式典における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令がなされた場合において、当該職務命令への違反を理由とする懲戒処分の差止めを求める訴えについて、仮に懲戒処分が反復継続的・累積加重的にされる危険があるとしても、訴えの要件である「重大な損害を生ずるおそれ」があるとは認められない。
オ.市立学校教諭が同一市内の他の中学校教諭に転任される処分を受けた場合において、当該処分が客観的、実際的見地からみて勤務場所、勤務内容等に不利益を伴うものであるとしても、当該教諭には転任処分の取消しを求める訴えの利益が認められる余地はない。
- ア・イ
- ア・オ
- イ・ウ
- ウ・エ
- エ・オ
【答え】:3
【解説】
ア・・・妥当でない
本肢は、いわゆる「エホバの証人剣道受講拒否事件」(最判平成8年3月8日)に関連するものです。
この事件では、宗教上の理由で剣道の授業を拒否した学生に対して、高等専門学校の校長が原級留置の処分を行ったことが争われました。
この判例で、最高裁は次のように述べています。
- 学校教育における進級や退学といった処分は、教育上の専門的・技術的判断を含むものであり、校長の合理的な教育的裁量に委ねられるべきである。
- よって、裁判所がこのような処分の適否を判断するにあたっては、校長と同じ立場に立って、処分すべきかどうかを再判断することは許されない。
- 処分が「全く事実の基礎を欠く」か、「社会観念上著しく妥当性を欠く」など、裁量権の逸脱や濫用が認められる場合に限って違法と判断すべきである。
つまり、裁判所は、校長の判断と「同じ目線」で処分の当否を再評価するわけではなく、裁量権が逸脱・濫用されたかどうかを限定的に審査するにとどまります。
したがって、本肢のように「裁判所が校長と同一の立場に立って判断すべき」とする見解は、判例に反しており妥当でないといえます。
イ・・・妥当である
この選択肢は、最判平成4年12月15日の判例(いわゆる「1日校長事件」)に基づく正しい記述です。
【事案の概要】
ある地方公共団体で、公立学校の教頭が勧奨退職に応じるにあたり、退職前の1日だけ校長に昇任させ、そのうえで退職が承認されました。
これにより、教頭としてではなく校長としての退職手当が支給されることになりました。
この行為について、「形式的に昇格させることで退職手当を水増ししている」として、支出の違法性が争われました。
【最高裁の判断】
教頭を校長に昇格させ、同日に退職を承認するという処分があったとしても、それが著しく合理性を欠き、予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があるとまではいえない限り、違法とはならない。
よって、地方公共団体の長が校長としての退職手当を支給したとしても、その支出決定が財務会計法規上の義務に違反して違法なものとまではいえない。
したがって、本肢は判例に即した正しい記述であり、妥当であると評価できます。
ポイント整理については個別指導で解説します。
ウ・・・妥当である
この設問は、最判平成18年2月7日の判例(いわゆる「学校施設使用不許可処分事件」)に基づいたものです。
【判例の背景】
公立小中学校の教職員で構成される職員団体が、教育研究集会の開催のために学校施設を使いたいと申請したところ、市教育委員会はこれを不許可としました。
この不許可処分の適法性が争われたのが本件です。
【裁判所の判断】
最高裁は次のような判断基準を示しました。
✅ 原則:学校施設の目的外使用の許可・不許可は、当該施設の管理者の裁量に委ねられる。
✅ 許可を拒むことができる場合:学校教育上支障があると判断される場合には、許可をしないことができる。
ここでいう「支障」には、以下のような内容も含まれます。
単なる物理的な支障だけでなく、「教育的配慮(例:児童・生徒に精神的悪影響が及ぶおそれ)」「将来の教育上の支障が明白に予見される場合」も含む。
そして本件では、市教育委員会が「妨害行動があるかもしれない」という理由で不許可にしましたが、そのおそれが具体的とはいえなかったこと、他に考慮すべき重要な事実を十分に見ていなかったことなどから、最高裁はこの不許可処分を「裁量権の逸脱・濫用で違法」としました。
したがって、本肢の内容は妥当であり、正しいです。
エ・・・妥当でない
この設問は、最判平成24年2月9日(国旗・国歌訴訟)に関するものです。
【事案の概要】
東京都立学校の教員が、校長の職務命令に反して卒業式で国歌斉唱の際に起立しなかったとして懲戒処分を受ける可能性があることに対し、処分の差止めを求めた事件です。
問題となったのは、差止訴訟に必要な訴訟要件である「重大な損害を生ずるおそれ」があるかどうかです。
【裁判所の判断】
最高裁は、以下の点を重視して「重大な損害を生ずるおそれ」があると判断しました。
- 教員は毎年度の卒業式・入学式等で職務命令に従うことを強いられ、違反すれば懲戒処分を受ける立場にある。
- 処分は反復継続的かつ累積的に行われるおそれがある。
- 一度の処分だけであれば取消訴訟などで救済可能かもしれないが、継続的・加重的な処分がなされると、回復が著しく困難になる。
したがって、
「処分がされる前に差止めを命ずる方法でなければ救済を受けることが困難なもの」といえる
として、「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるとしました。
オ・・・妥当でない
この問題は、最判昭和61年10月23日(教員の転任処分取消訴訟)に基づいています。
【事案の概要】
ある市立中学校の教員が、市内の別の中学校に転任するよう命じられたことに対し、その処分の取消しを求めて訴えを提起しました。
争点は、「このような転任処分について取消訴訟を起こす法律上の利益(訴えの利益)」があるかどうかです。
【最高裁の判断】
最高裁は、原則として次のように判断しました。
✅ 原則:転任処分は単なる配置換えにすぎず、教員の身分や俸給などの法的地位に影響を及ぼさない。
勤務場所・勤務内容に明確な不利益がない場合には、取消しを求める訴えの利益は認められない。
✅ ただし:「特段の事情」がある場合には、訴えの利益が認められる可能性がある。
つまり、裁判所は「絶対に認められない」とは言っておらず、状況によっては取消訴訟が可能になる余地を残しているのです。
令和6年(2024年)過去問
問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法 |
---|---|---|---|
問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法 |
問3 | 憲法 | 問33 | 民法 |
問4 | 憲法 | 問34 | 民法 |
問5 | 憲法 | 問35 | 民法 |
問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 多肢選択 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 多肢選択 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 多肢選択 |
問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行服法・行訴法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識 |
問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 基礎知識 |
問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識 |
問21 | 国家賠償法 | 問51 | 基礎知識 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 行政書士法 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 住民基本台帳法 |
問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識 |
問25 | 行政法 | 問55 | 基礎知識 |
問26 | 公文書管理法 | 問56 | 基礎知識 |
問27 | 民法 | 問57 | 個人情報保護法 |
問28 | 民法 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
