令和7年度の行政書士試験対策の個別指導開講

令和6年・2024|問21|国家賠償法

国家賠償法1条に基づく責任に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 指定確認検査機関による建築確認に係る建築物について、確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は、指定確認検査機関が行った当該確認について、国家賠償法1条1項の国または公共団体としての責任を負うことはない。
  2. 公権力の行使にあたる国または公共団体の公務員が、その職務を行うについて、過失によって違法に他人に損害を加えた場合には、国または公共団体がその被害者に対して賠償責任を負うが、故意または重過失の場合には、公務員個人が被害者に対して直接に賠償責任を負う。
  3. 国または公共団体の公権力の行使にあたる複数の公務員が、その職務を行うについて、共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき、国または公共団体がこれを賠償した場合においては、当該公務員らは、国または公共団体に対し、国家賠償法1条2項による求償債務を負うが、この債務は連帯債務であると解される。
  4. 国家賠償法1条1項が定める「公務員が、その職務を行うについて」という要件につき、公務員が主観的に権限行使の意思をもってするものではなく、専ら自己の利をはかる意図をもってするような場合には、たとえ客観的に職務執行の外形をそなえる行為をした場合であったとしても、この要件には該当しない。
  5. 都道府県警察の警察官が、交通犯罪の捜査を行うにつき故意または過失によって違法に他人に損害を加えた場合において、国家賠償法1条1項により当該損害につき賠償責任を負うのは国であり、当該都道府県が賠償責任を負うことはない。

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【答え】:3
【解説】
1.指定確認検査機関による建築確認に係る建築物について、確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は、指定確認検査機関が行った当該確認について、国家賠償法1条1項の国または公共団体としての責任を負うことはない。

1・・・妥当でない

指定確認検査機関とは、国や地方公共団体に代わって、建築確認などを行うことができる民間の機関です。
一見すると「民間の機関だから、何かミスをしても行政(国や地方公共団体)は責任を負わないのでは?」と思うかもしれません。

しかし、最高裁判例(平成17年6月24日)は以下のように判断しています。

  • 指定確認検査機関が行う建築確認事務は、民間機関であっても行政事務にあたる。
  • その確認事務は、本来、建築主事(公務員)が行うべきものであり、法に基づき民間に委託されているにすぎない。
  • よって、指定確認検査機関が行った建築確認であっても、その責任の帰属先(行政主体)は、当該建築物について確認権限を有する地方公共団体である。

国家賠償法との関係

国家賠償法1条1項は、次のように定めています。

公務員が職務を行うについて、故意または過失により違法に他人に損害を与えたときは、国または公共団体がこれを賠償する責任を負う。

この「公務員」の職務には、民間に委託された行政事務も含まれると解されています。したがって、指定確認検査機関による違法な建築確認により損害が生じた場合、その損害賠償責任は、確認権限を有する地方公共団体が負うことになります。

したがって、「地方公共団体は責任を負わない」とする本肢は誤りであり、妥当ではないと判断されます。

2.公権力の行使にあたる国または公共団体の公務員が、その職務を行うについて、過失によって違法に他人に損害を加えた場合には、国または公共団体がその被害者に対して賠償責任を負うが、故意または重過失の場合には、公務員個人が被害者に対して直接に賠償責任を負う。

2・・・妥当でない

本肢は「故意や重過失の場合は公務員個人が責任を負う」としていますが、これは誤りです。

国家賠償法1条1項は、以下のように定めています。

公務員が職務を行うについて、故意または過失により違法に他人に損害を与えたときは、国または公共団体がこれを賠償する責任を負う

この条文のポイントは、「故意または過失」のどちらであっても、被害者に対する賠償責任はあくまで国または公共団体が負うという点です。

公務員個人は責任を負うのか?

結論から言うと、被害者に対しては、原則として責任を負いません。

最高裁判例(昭和30年4月19日)では次のように述べられています。

公権力の行使にあたる公務員の職務行為にもとづく損害については、国または公共団体が賠償の責に任じ、職務の執行にあたった公務員は、行政機関としての地位においても、個人としても、被害者に対しその責任を負担するものではない。

つまり、たとえそれが故意や重過失であっても、公務員個人が直接、被害者に賠償する義務はないということです。

民法の使用者責任との違い

民法709条や715条では、加害者本人(被用者)とその使用者(会社など)は「不真正連帯債務」の関係になります。つまり、被害者はどちらにも請求できます。

しかし、国家賠償法では、そうはなりません。国や公共団体が一義的に賠償責任を負い公務員個人には請求できないという点で異なります。

※なお、国や公共団体が賠償した後に、内部的にその職員に対して求償(お金の返還を求めること)することはありますが、それはあくまで内部的な関係であり、被害者との関係ではありません。

よって、「故意または重過失の場合には公務員個人が被害者に直接賠償責任を負う」とする本肢は誤り(妥当でない)です。

3.国または公共団体の公権力の行使にあたる複数の公務員が、その職務を行うについて、共同して故意によって違法に他人に加えた損害につき、国または公共団体がこれを賠償した場合においては、当該公務員らは、国または公共団体に対し、国家賠償法1条2項による求償債務を負うが、この債務は連帯債務であると解される。

3・・・妥当である

国家賠償法1条2項は、次のように定めています。

国または公共団体が賠償の責任を負ったときは、その損害が公務員の故意または重大な過失によって生じたものであるときに限り、その公務員に求償することができる。

この条文により、たとえ国や公共団体が被害者に損害賠償をしたとしても、加害行為に故意や重過失がある場合には、その職員に弁償を求める(求償する)ことができるとされています。

連帯債務になるのか?

令和2年7月14日の最高裁判例が明確に述べています。

複数の公務員が共同して故意に違法な損害行為をした場合、国家賠償法1条2項による国や公共団体への求償債務は連帯債務であると解される。

つまり、加害行為を共同で行った以上、公務員同士は「一体として責任を負うべき」だとされたのです。

なぜ連帯債務なのか?

連帯債務と解される理由は以下の通りです。

公務員らが共同で行為した結果、国が一括して賠償責任を負った以上、その責任の分配リスク(例えば一部の公務員が無資力の場合など)を国が背負うのではなく、加害者同士でリスクを分担するのが公平であると考えられるからです。

実務上も、国は誰からいくら取り戻すかを選ぶことができ、公務員側は内部的に精算することになります。

したがって、複数の公務員が共同して故意に損害を与えた場合、国または公共団体に対する求償債務は連帯債務となるとする本肢は、妥当であると判断されます。

4.国家賠償法1条1項が定める「公務員が、その職務を行うについて」という要件につき、公務員が主観的に権限行使の意思をもってするものではなく、専ら自己の利をはかる意図をもってするような場合には、たとえ客観的に職務執行の外形をそなえる行為をした場合であったとしても、この要件には該当しない。

4・・・妥当でない

本肢では「主観的に権限行使の意思がない場合には該当しない」と述べていますが、これは誤りです。
国家賠償法上は、客観的に職務執行の外形を備えていれば足りるため、本肢は 妥当でないです。

国家賠償法1条1項の要件の一つである「公務員が、その職務を行うについて」という文言は、公務員の行為が職務と関係しているかどうかを問う要件です。

■ 判断基準:「客観的外形説」が通説・判例

この要件については、判例・通説ともに「客観的外形説」を採用しています。

すなわち、
「たとえ本人に職務を果たす意思がなかったとしても、客観的に見て職務行為のように見える外形を備えていれば、職務執行中とみなされる」
という考え方です。

判例:昭和31年11月30日 最高裁判決(川崎駅非番警察官強盗殺人事件)

この考え方を明確に示したのが、次の有名な判例です。

事件の概要
非番の警察官(巡査)が制服を着て、職務質問を装い、被害者から金品を取り上げようとした。

被害者に騒がれたため、所持していたピストルで射殺した。

最高裁の判断
「巡査は、自己の利を図る目的で制服を着用し、警察官としての職務執行を装った行為である」

よって「国家賠償法1条1項にいう『その職務を行うについて』に該当する」

つまり、公務員に主観的な職務意思がなかったとしても、外見上、職務として行っているように見える行為であれば、それは国家賠償法の適用対象になるということです。

5.都道府県警察の警察官が、交通犯罪の捜査を行うにつき故意または過失によって違法に他人に損害を加えた場合において、国家賠償法1条1項により当該損害につき賠償責任を負うのは国であり、当該都道府県が賠償責任を負うことはない。

5・・・妥当でない

国家賠償法1条1項の適用において、「どの行政主体(国か地方公共団体か)」が賠償責任を負うかは、損害を与えた公務員の職務が、どの行政主体の事務に属するかによって決まります。

警察官というと「国家の公務員」のようなイメージがありますが、通常、警察官は都道府県に所属する地方公務員です。
(例外として警察庁職員などは国家公務員ですが、現場で捜査を行うのは通常、都道府県警察官です)

判例の立場(最判昭和54年7月10日)

この問題に関して、最高裁は次のように判断しています。

都道府県警察の警察官が、いわゆる交通犯罪の捜査を行うにつき、故意または過失によって違法に他人に損害を加えた場合には、その損害について国家賠償法1条1項に基づいて責任を負うのは、原則として当該都道府県であり、国ではない。

つまり、交通犯罪の捜査など、通常の警察活動に関しては、都道府県が責任を負うのが原則です。

例外もある

例外的に、たとえば次のような場合には国が責任を負うことになります。

  • 検察官が指揮して行った捜査(刑事訴訟法193条3項による)
  • 国家公安委員会や警察庁職員が直接関与していた場合 など

よって、「国が責任を負い、都道府県は責任を負わない」とする本肢は誤りです。
通常の交通犯罪捜査における損害賠償責任は、都道府県が負うのが原則なので、本肢は 妥当ではありません。


令和6年(2024年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 多肢選択
問12 行政手続法 問42 多肢選択
問13 行政手続法 問43 多肢選択
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行服法・行訴法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 行政書士法
問23 地方自治法 問53 住民基本台帳法
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政法 問55 基礎知識
問26 公文書管理法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 個人情報保護法
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

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