行政事件訴訟法(以下「行訴法」という)が定める民衆訴訟および機関訴訟に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
- 機関訴訟は、国または公共団体の機関相互間における権限の存否またはその行使に関する紛争についての訴訟であり、そのような紛争の一方の当事者たる機関は、特に個別の法律の定めがなくとも、機関たる資格に基づいて訴えを提起することができる。
- 民衆訴訟とは、特に法律が定める場合に国または公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、自己の法律上の利益にかかわらない資格で何人も提起することができるものをいう。
- 機関訴訟で、処分の取消しを求めるものについては、行訴法所定の規定を除き、取消訴訟に関する規定が準用される。
- 公職選挙法が定める地方公共団体の議会の議員の選挙の効力に関する訴訟は、地方公共団体の機関たる議会の構成に関する訴訟であるから、機関訴訟の一例である。
- 行訴法においては、行政事件訴訟に関し、同法に定めがない事項については、「民事訴訟の例による」との規定がなされているが、当該規定には、民衆訴訟および機関訴訟を除くとする限定が付されている。
【答え】:3
【解説】
1・・・誤り
◆ 前半部分:機関訴訟の定義
「機関訴訟は、国または公共団体の機関相互間における権限の存否またはその行使に関する紛争についての訴訟である」
→ これは 正しい 内容です。
この定義は、行政事件訴訟法第6条に基づいており、
国や地方公共団体内部の機関(例:国の大臣同士、市町村と都道府県など)の間で、
「どちらに権限があるのか」などの争いがあるときに提起されます。
◆ 後半部分の誤り:「個別の法律の定めがなくとも訴えを提起できる」
→ これは 誤り。
機関訴訟は、どの行政機関でも自由に提起できるわけではなく、
「法律に定めがある場合」に限って、その定められた者のみが提起できるとされています。
これは、行政事件訴訟法第42条に明確に規定されています:
「機関訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる。」
つまり、機関たる資格があるだけでは足りず、「誰が提起できるのか」を明確に定めた法律の根拠が必要なのです。
機関訴訟の具体例(法律に定めがあるもの)
- 市町村の境界確定に関する都道府県知事の裁定に対する訴え
(地方自治法第9条第8項) - 国や都道府県による関与に対する普通地方公共団体の訴え
(地方自治法第251条の5) - 住民の住所認定をめぐる市町村間の争いに関する訴訟
(住民基本台帳法第33条)
2・・・誤り
民衆訴訟とは、国や地方公共団体の機関の行為が法令に適合していないと考えられる場合に、特定の地位や資格を有する者が、その是正を裁判所に求める訴訟です。
この訴訟の特徴は、原告が自己の「法律上の利益」に基づいて訴えるわけではない点にあります。
行政事件訴訟法第5条は、以下のように規定しています。
選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起する訴訟をいう。
本肢は「何人も提起することができる」となっているので誤りです。
民衆訴訟は、あくまで特別法により、特定の資格を有する者にのみ認められている訴訟類型です。
つまり、誰でも自由に提起できるわけではありません。
この点、行政事件訴訟法第42条にも明記されています。
■ 民衆訴訟の具体例
訴訟の類型 | 根拠法 | 原告資格の例 |
---|---|---|
選挙無効訴訟、公職の当選無効訴訟 | 公職選挙法 | 選挙人たる資格を有する者など |
住民訴訟 | 地方自治法 | 地方公共団体の住民 |
3.機関訴訟で、処分の取消しを求めるものについては、行訴法所定の規定を除き、取消訴訟に関する規定が準用される。
3・・・正しい
機関訴訟や民衆訴訟は、通常の取消訴訟とは異なり、自己の法律上の利益の救済を目的としない特殊な訴訟類型です。
それでも、その内容が「処分または裁決の取消しを求めるものである」場合には、訴訟の性質上、取消訴訟の規定を準用する必要があるとされています。
この点について、行政事件訴訟法第43条は次のように規定しています。
◎ 準用される主な規定(例)
- 取消訴訟の審理手続や判決の効力など(訴訟の進行や効果に関するルール)
✖ 準用されない規定(=適用されない)
- 第9条:原告適格(「法律上の利益を有する者」)
- 第10条第1項:処分性のある行政行為に限るという要件
→ これらは私人の権利救済を目的とする取消訴訟特有の要件なので、
民衆訴訟・機関訴訟にはそぐわないため、準用されないのです。
4・・・誤り
この問題で問われているのは、地方議会議員の選挙に関する訴訟が、どの訴訟類型に当たるかという点です。
まず、公職選挙法では、地方公共団体の議会の議員に関する選挙について、
その効力や当選の有効性について争う制度が設けられています。
このような訴訟は、たとえば以下のようなケースを含みます。
- 議員の当選の無効を争う訴訟(公職選挙法207条1項)
- 選挙全体の無効を求める訴訟(同206条1項)
これらは、選挙人(有権者)や候補者などが、選挙が適正に行われたかどうかを問うものであり、
自己の法律上の利益を直接問題としない特別な資格(=選挙人や候補者)に基づいて提起される訴訟です。
このため、これらは「民衆訴訟」に分類されます(行政事件訴訟法第5条)。
民衆訴訟の定義(行政事件訴訟法5条)
特別の法律に定める場合において、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求め、
選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起する訴訟
一方、機関訴訟とは?(行政事件訴訟法6条)
国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟
機関訴訟は、行政機関相互間の権限争いに関するものであり、
本問のように選挙人や候補者が提起する選挙訴訟とは性質も当事者もまったく異なります。
5・・・誤り
この問題は、行政事件訴訟法における補充的な準拠法としての民事訴訟法の適用範囲について問うものです。
行政事件訴訟法 第7条(準用規定)
行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による。
ここでいう「行政事件訴訟」とは、取消訴訟・無効確認訴訟・義務付け訴訟・差止訴訟・当事者訴訟・民衆訴訟・機関訴訟など、すべてを含みます。
したがって、民衆訴訟や機関訴訟も対象に含まれており、「これらを除く」とするような限定は一切ありません。
つまり、行政事件訴訟であれば、同法に規定のない事項については、すべて民事訴訟法の例によるというのが原則です。
本肢は「民衆訴訟および機関訴訟を除く」とありますが、これは事実に反する記述です。
そのような限定は、行政事件訴訟法第7条には存在しません。
本肢は「民事訴訟の例による」という部分が理解すべき部分なので、個別指導で解説します。
令和6年(2024年)過去問
問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法 |
---|---|---|---|
問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法 |
問3 | 憲法 | 問33 | 民法 |
問4 | 憲法 | 問34 | 民法 |
問5 | 憲法 | 問35 | 民法 |
問6 | 憲法 | 問36 | 商法 |
問7 | 憲法 | 問37 | 会社法 |
問8 | 行政法 | 問38 | 会社法 |
問9 | 行政法 | 問39 | 会社法 |
問10 | 行政法 | 問40 | 会社法 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 多肢選択 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 多肢選択 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 多肢選択 |
問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行服法・行訴法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識 |
問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 基礎知識 |
問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識 |
問21 | 国家賠償法 | 問51 | 基礎知識 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 行政書士法 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 住民基本台帳法 |
問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識 |
問25 | 行政法 | 問55 | 基礎知識 |
問26 | 公文書管理法 | 問56 | 基礎知識 |
問27 | 民法 | 問57 | 個人情報保護法 |
問28 | 民法 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
