令和7年度の行政書士試験対策の個別指導開講

令和6年・2024|問11|行政手続法

会社Xは、宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という)に基づく免許を受けて不動産取引業を営んでいる。ところが、Xの代表取締役であるAが交通事故を起こして、歩行者に重傷を負わせてしまった。その後、自動車運転過失傷害の罪でAは逮捕され、刑事裁判の結果、懲役1年、執行猶予4年の刑を受けて、判決は確定した。宅建業法の定めによれば、法人の役員が「禁錮以上の刑」に処せられた場合、その法人の免許は取り消されるものとされていることから、知事YはXの免許を取り消した(以下「本件処分」という)。 この事例への行政手続法の適用に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

(参考条文)

宅地建物取引業法

(免許の基準) 第5条① 国土交通大臣または都道府県知事は、第3条第1項の免許を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する場合または免許申請書もしくはその添付書類中に重要な事項について虚偽の記載があり、もしくは重要な事実の記載が欠けている場合においては、免許をしてはならない。

一~四 略

五 禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、または執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者

六 以下略

② 以下略

(免許の取消し) 第66条① 国土交通大臣または都道府県知事は、その免許を受けた宅地建物取引業者が次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該免許を取り消さなければならない。

一 第5条第1項第1号、第5号から第7号まで、第10号または第14号のいずれかに該当するに至ったとき。

二 略

三 法人である場合において、その役員または政令で定める使用人のうちに第5条第1項第1号から第7号までまたは第10号のいずれかに該当する者があるに至ったとき。

四 以下略

② 以下略

  1. 本件処分は、許認可等の効力を失わせる処分であるが、当該許認可等の基礎となった事実が消滅した旨の届出に対する応答としてなされるものであるから、行政手続法のいう「不利益処分」にはあたらない。
  2. 本件処分は、刑事事件に関する法令に基づいて検察官、検察事務官または司法警察職員がする処分を契機とするものであるので、行政手続法の規定は適用されない。
  3. 本件処分は、その根拠となる規定が法律に置かれているが、地方公共団体の機関がする処分であることから、行政手続法の規定は適用されない。
  4. 本件処分は、申請に対する処分を取り消すものであるので、本件処分をするに際して、行政庁は許認可等の性質に照らしてできる限り具体的な審査基準を定めなければならない。
  5. 本件処分は、法令上必要とされる資格が失われるに至ったことが判明した場合に必ずすることとされている処分であり、その喪失の事実が客観的な資料により直接証明されるものであるので、行政庁は聴聞の手続をとる必要はない。

>解答と解説はこちら


【答え】:5

【解説】
1.本件処分は、許認可等の効力を失わせる処分であるが、当該許認可等の基礎となった事実が消滅した旨の届出に対する応答としてなされるものであるから、行政手続法のいう「不利益処分」にはあたらない。

1・・・妥当でない

本件は、宅建業者である会社Xの代表取締役Aが「懲役1年・執行猶予4年」という禁錮以上の刑を受けたことで、X社の免許が取り消されたという事例です。この処分が、行政手続法における「不利益処分」に該当するかが問われています。

結論からいうと、この処分(免許取消し)は、「不利益処分」に該当するので、記述は妥当ではありません。

行政手続法第2条第4号では、「不利益処分」とは、許認可の取消しや停止など、相手方に不利益となる行政処分をいいます。

本件で行われた免許取消しは、法人の業務に重大な影響を与えるものなので、まさにこの「不利益処分」にあたります。

問題文では、「この処分は、事実が消滅した旨の届出に対する応答としてなされるものだから、不利益処分ではない」としていますが、これは誤りです。

行政手続法2条4号ただし書きニで規定されている「届出に対する応答」とは、たとえば「営業廃止届」など、事業者自らの意思による廃止を届け出た場合に行政庁が形式的に応じるものです。

今回のように、刑罰を受けたことによって当然に免許取消しの要件に該当することになったというのは、「届出に対する応答」ではなく、行政庁が主体的に判断して行う処分です。

したがって、この処分は不利益処分に該当し、処分の理由の提示などの行政手続法上の手続が必要です。

行政手続法2条4号ただし書きニ
許認可等の効力を失わせる処分であって、当該許認可等の基礎となった事実が消滅した旨の届出があったことを理由としてされるものは、不利益処分に該当しない
2.本件処分は、刑事事件に関する法令に基づいて検察官、検察事務官または司法警察職員がする処分を契機とするものであるので、行政手続法の規定は適用されない。

2・・・妥当でない

本件は、会社Xの代表取締役Aが「懲役1年・執行猶予4年」の有罪判決を受けたことにより、会社Xが宅建業法第66条第1項第1号・第3号に該当し、免許取消処分を受けたケースです。

このような免許取消処分は、あくまで知事(行政庁)による行政処分であり、行政手続法の定める「不利益処分」にあたります。

選択肢では、「刑事事件に関する法令に基づいて検察官等がする処分を契機とするものなので、行政手続法は適用されない」とありますが、これは誤りです。

確かに行政手続法第3条第1項第5号では、「刑事事件に関する法令に基づき、検察官や警察官などがする処分」には行政手続法が適用されないとされています。しかし、本件の処分を行ったのは検察官や警察官ではなく、「宅建業法に基づく免許権者(都道府県知事)」です。よって、この規定は当てはまりません。

したがって、本件処分には行政手続法の規定が適用されます。

行政手続法第3条第1項第5号(適用除外):
刑事事件に関する法令に基づいて検察官、検察事務官又は司法警察職員がする処分及び行政指導については、次章から第四章の二までの規定は、適用しない。
3.本件処分は、その根拠となる規定が法律に置かれているが、地方公共団体の機関がする処分であることから、行政手続法の規定は適用されない。

3・・・妥当でない

本件のように、都道府県知事が行う免許の取消しは、確かに地方公共団体の機関が行う「処分」にあたります。しかし、ここで重要なのは、その処分の根拠が「どの法令に基づいているか」です。

行政手続法第3条第3項では、次のように定められています。

地方公共団体の機関がする処分、行政指導及び届出については、その根拠が条例または規則にある場合は、行政手続法は適用されない

つまり、行政手続法の適用が除外されるのは、条例や規則に基づく処分などの場合です。

ところが、本件の免許取消処分は、宅地建物取引業法という国の法律(法第5条・第66条)に基づいています。よって、行政手続法の適用除外には当たりません。

したがって、本件処分には行政手続法が適用されるため、記述は妥当ではありません。

4.本件処分は、申請に対する処分を取り消すものであるので、本件処分をするに際して、行政庁は許認可等の性質に照らしてできる限り具体的な審査基準を定めなければならない。

4・・・妥当でない

本件は、宅地建物取引業者である会社Xの免許が取り消されたという事案です。これは、許認可を与える処分(申請に対する処分)ではなく、すでに与えた免許を取り消す処分です。このように、行政庁が国民に対して何らかの不利益を与える処分は、「不利益処分」と呼ばれます。

不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準を「処分基準」といいます。

審査基準」は、申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準です。そのため、本肢は妥当ではないです。

関連ポイントも重要なので、個別指導で解説します。

5.本件処分は、法令上必要とされる資格が失われるに至ったことが判明した場合に必ずすることとされている処分であり、その喪失の事実が客観的な資料により直接証明されるものであるので、行政庁は聴聞の手続をとる必要はない。

5・・・妥当である

行政手続法では、原則として重大な不利益処分(例:免許の取消し)をする際には、名あて人に言い分を述べる機会(=聴聞)を与える必要があります(行政手続法13条1項1号)。
しかし、以下のような例外があります。

行政手続法13条2項2号:

以下の要件を満たす場合、聴聞は不要になります。

  1. 法令上、必ず行わなければならない不利益処分であること
    → 今回のように、宅建業法66条により免許を「取り消さなければならない」とされているケースが該当します。
  2. 資格喪失の事実が客観的資料によって証明されていること
    → 今回は「裁判で有罪判決を受けた」という事実が、判決文などの客観的資料で確認できます。

    本肢に適用

    • Aが「禁錮以上の刑(懲役1年)」に処せられた。
    • その結果、会社Xの免許は法律上、必ず取り消さなければならない。
    • その事実(Aが有罪になったこと)は裁判の判決で証明されている。

    よって、行政手続法13条2項2号に該当し、「聴聞は不要」となります。


    令和6年(2024年)過去問

    問1 基礎法学 問31 民法
    問2 基礎法学 問32 民法
    問3 憲法 問33 民法
    問4 憲法 問34 民法
    問5 憲法 問35 民法
    問6 憲法 問36 商法
    問7 憲法 問37 会社法
    問8 行政法 問38 会社法
    問9 行政法 問39 会社法
    問10 行政法 問40 会社法
    問11 行政手続法 問41 多肢選択
    問12 行政手続法 問42 多肢選択
    問13 行政手続法 問43 多肢選択
    問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
    問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
    問16 行服法・行訴法 問46 民法・40字
    問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
    問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
    問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
    問20 国家賠償法 問50 基礎知識
    問21 国家賠償法 問51 基礎知識
    問22 地方自治法 問52 行政書士法
    問23 地方自治法 問53 住民基本台帳法
    問24 地方自治法 問54 基礎知識
    問25 行政法 問55 基礎知識
    問26 公文書管理法 問56 基礎知識
    問27 民法 問57 個人情報保護法
    問28 民法 問58 著作権の関係上省略
    問29 民法 問59 著作権の関係上省略
    問30 民法 問60 著作権の関係上省略

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