令和7年度の行政書士試験対策の個別指導開講

令和6年・2024|問10|行政法

行政法における一般原則に関する最高裁判所の判例について説明する次の記述のうち、妥当なものはどれか。 (注) * 原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律

  1. 特定の事業者の個室付浴場営業を阻止する目的で町が行った児童福祉法に基づく児童福祉施設の認可申請に対し、県知事が行った認可処分は、仮にそれが営業の阻止を主たる目的としてなされたものであったとしても、当該処分の根拠法令たる児童福祉法所定の要件を満たすものであれば、当該認可処分を違法ということはできないから、当該個室付浴場営業は当然に違法となる。
  2. 特定の事業者の廃棄物処理施設設置計画を知った上で定められた町の水道水源保護条例に基づき、当該事業者に対して規制対象事業場を認定する処分を行うに際しては、町は、事業者の立場を踏まえて十分な協議を尽くす等、その地位を不当に害することのないよう配慮すべきであるが、このような配慮要請は明文上の義務ではない以上、認定処分の違法の理由とはならない。
  3. 法の一般原則である信義則の法理は、行政法関係においても一般に適用されるものであるとはいえ、租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、租税法規に適合する課税処分について信義則の法理の適用により当該課税処分を違法なものとして取り消すことは、争われた事案の個別の状況や特段の事情の有無にかかわらず、租税法律主義に反するものとして認められない。
  4. 地方公共団体が将来にわたって継続すべき施策を決定した場合でも、当該施策が社会情勢の変動等に伴って変更されることがあることは当然であるが、当該地方公共団体の勧告ないし勧誘に動機付けられて施策の継続を前提とした活動に入った者が社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合において、地方公共団体が当該損害を補償するなどの措置を講ずることなく施策を変更することは、それがやむをえない客観的事情によるのでない限り、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして違法となる。
  5. 国の通達に基づいて、地方公共団体が被爆者援護法 * 等に基づく健康管理手当の支給を打ち切った後、当該通達が法律の解釈を誤ったものであるとして廃止された場合であっても、行政機関は通達に従い法律を執行する義務があることからすれば、廃止前の通達に基づいて打ち切られていた手当の支払いを求める訴訟において、地方公共団体が消滅時効を主張することは信義則に反しない。

>解答と解説はこちら


【答え】:4
【解説】
1.特定の事業者の個室付浴場営業を阻止する目的で町が行った児童福祉法に基づく児童福祉施設の認可申請に対し、県知事が行った認可処分は、仮にそれが営業の阻止を主たる目的としてなされたものであったとしても、当該処分の根拠法令たる児童福祉法所定の要件を満たすものであれば、当該認可処分を違法ということはできないから、当該個室付浴場営業は当然に違法となる。

1・・・妥当でない

本肢は、行政処分の「目的」を問題とするものです。

確かに、県知事が児童福祉法に基づく認可処分を行う際、その処分が法令の形式的要件を満たしているかどうかは重要です。しかし、それが実質的には他人の営業活動を妨害することを目的としてなされたのであれば、行政権限の濫用として、その処分は違法となります。

これは、最判昭和53年6月16日(いわゆる余目町個室付浴場事件)が典型です。この判例では、町が風俗営業を排除する目的で児童遊園の設置を県に申請し、県がそれを認可しましたが、その設置目的が風俗営業の排除にあり、児童の健全育成を真に目的としたものではなかったため、当該認可処分は違法とされました。

このように、行政処分においては形式的な要件だけでなく、目的の適法性(動機の正当性)も問われます。民法1条3項の「権利の濫用は、これを許さない」という原則は、行政法にも類推適用されると考えられています。

したがって、本肢の「営業の阻止を主たる目的としてなされたものであっても、要件を満たせば違法ではない」「よって浴場営業は当然に違法となる」という記述は、行政権限の濫用に対する理解を欠いており誤り(妥当でない)です。

2.特定の事業者の廃棄物処理施設設置計画を知った上で定められた町の水道水源保護条例に基づき、当該事業者に対して規制対象事業場を認定する処分を行うに際しては、町は、事業者の立場を踏まえて十分な協議を尽くす等、その地位を不当に害することのないよう配慮すべきであるが、このような配慮要請は明文上の義務ではない以上、認定処分の違法の理由とはならない。

2・・・妥当でない

本肢は、条例に基づく認定処分における「手続的配慮義務」の有無と、その違反が処分の違法性に影響を及ぼすかどうかが問われています。

この点について判断を示したのが、最判平成16年12月24日(いわゆる紀伊長島町水道水源保護条例事件)です。

この判決では、以下のような事情を重視しています。

  • 町は条例制定の時点で、当該事業者が産業廃棄物処理施設の設置を計画し、既に許可申請手続きを進めていたことを知っていた。
  • 水源の保護と施設の設置という公益間の調整を図る機会が、町にはあった。
  • にもかかわらず、町は条例に基づく認定処分を行う際に、事業者との十分な協議を行わず、その立場に配慮する措置も取らなかった。

判例は、上記のような事情の下では、町はたとえ明文の規定がなくとも
上告人と十分な協議を尽くし、地下水使用量の限定を促すなど適切な指導を行い、その地位を不当に害することのないよう配慮すべき義務がある
としました。
そして、そのような義務に違反して処分が行われた場合には、
当該処分は違法である」
と明確に述べています。

つまり、たとえ条例に明文で配慮義務が規定されていなくても、具体的状況に照らして、行政には合理的配慮を行う義務が生じうるということです。

よって、本肢の「配慮要請は明文上の義務ではない以上、処分の違法理由にはならない」という記述は、判例の趣旨に反するものであり、妥当でないと判断されます。

3.法の一般原則である信義則の法理は、行政法関係においても一般に適用されるものであるとはいえ、租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、租税法規に適合する課税処分について信義則の法理の適用により当該課税処分を違法なものとして取り消すことは、争われた事案の個別の状況や特段の事情の有無にかかわらず、租税法律主義に反するものとして認められない。

3・・・妥当でない

本肢では、租税法関係における信義則の適用が問題となっています。

これに関する代表的な判例が、最判昭和62年10月30日です。

この判決では以下のように述べられています。

  • 信義則(信義誠実の原則)は、法の一般原理として行政法関係にも原則として適用される。
  • ただし、租税法関係においては、憲法84条に基づく「租税法律主義」が厳格に適用されるため、信義則の適用は慎重であるべきとされます。
  • それでも、次のような「特段の事情」がある場合には、信義則の適用により、たとえ課税処分が法令に形式的に適合していたとしても、その違法性が認められる可能性があるとされました。
    「租税法規の適用における納税者間の平等・公平という要請を犠牲にしてもなお、当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存在する場合」

    つまり、信義則がまったく適用されないというわけではなく、あくまで限定的な適用が認められるという立場です。

    本肢では、「争われた事案の個別の状況や特段の事情の有無にかかわらず、信義則の適用は認められない」と述べていますが、これは判例の立場と相反する内容です。

    したがって、本肢は妥当でないと判断されます。

    4.地方公共団体が将来にわたって継続すべき施策を決定した場合でも、当該施策が社会情勢の変動等に伴って変更されることがあることは当然であるが、当該地方公共団体の勧告ないし勧誘に動機付けられて施策の継続を前提とした活動に入った者が社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合において、地方公共団体が当該損害を補償するなどの措置を講ずることなく施策を変更することは、それがやむをえない客観的事情によるのでない限り、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして違法となる。

    4・・・妥当である

    この問題は、「行政による施策の変更と信頼保護原則」の関係がテーマです。
    これに関して重要な判例が、最判昭和56年1月27日(いわゆる「宜野座工場誘致事件」)です。

    この事件では、次のような事案が問題となりました。

    • 村(地方公共団体)は、積極的に企業誘致を進め、企業に対して協力や勧誘を行っていた。
    • 企業はこれに基づいて工場建設の準備を進め、相応の投資をした。
    • ところが、選挙で誘致反対派の村長が当選し、村が誘致方針を180度転換し、協力を拒否する方針に切り替えた。

    このような状況において、最高裁は以下のように判断しました。

    • 地方公共団体の施策は、社会情勢の変動等に応じて変更されうることは当然である。
    • しかし、地方公共団体の勧誘等を信頼して企業が重大な投資を行い、看過し得ない損害を被る場合には、地方公共団体はその損失に対して何らかの補償措置を講じることが期待される
    • そのような措置なく一方的に施策を転換した場合、信頼関係を破壊するものであり、違法性を帯び、不法行為責任を問われる可能性があるとされました。

      したがって、本肢の「一定の施策変更がやむを得ない客観的事情によるのでない限り、損害補償等の措置を講じることなく施策を変更することは、信頼関係を不当に破壊し違法となる」という記述は、判例の趣旨と一致しており妥当であるといえます。

      5.国の通達に基づいて、地方公共団体が被爆者援護法 * 等に基づく健康管理手当の支給を打ち切った後、当該通達が法律の解釈を誤ったものであるとして廃止された場合であっても、行政機関は通達に従い法律を執行する義務があることからすれば、廃止前の通達に基づいて打ち切られていた手当の支払いを求める訴訟において、地方公共団体が消滅時効を主張することは信義則に反しない。

      5・・・妥当でない

      この問題は、行政機関が誤った通達に基づいて処分を行った場合に、その後の訴訟において時効を主張できるか(信義則との関係)がテーマです。

      これに関して重要な判例が、「最判平成19年2月6日(在ブラジル被爆者健康管理手当等請求事件)」です。

      事案の概要

      • 被爆者に対して健康管理手当が支給されていた。
      • 被爆者が外国に出国したことを理由に、国の通達に従って手当の支給が打ち切られた。
      • しかし、その通達は法律の解釈を誤ったものであるとして後に廃止された。
      • 被爆者が未支給分の手当の支給を求めて提訴。
      • その際、地方公共団体が「支給請求権は時効により消滅した」と主張。

      判例の判断

      最高裁は、以下のように判断しました。

      地方公共団体が国の誤った通達に従い支給を打ち切ったにもかかわらず、のちに受給者が請求権を行使してきた際に、「時効で消滅した」と主張するのは、「自ら違法な処理をした行政機関が、そのことによって権利行使を困難にさせた結果を根拠に、支払いを拒絶するに等しい」

      として、「信義則に反し、許されない」としました。

      つまり、形式的には時効が成立していたとしても、信義則によって時効の援用が制限されることがあるというわけです。したがって、本肢の「時効の主張は信義則に反しない」とする記述は、判例の示す法理に反しており、妥当でないと判断されます。


      令和6年(2024年)過去問

      問1 基礎法学 問31 民法
      問2 基礎法学 問32 民法
      問3 憲法 問33 民法
      問4 憲法 問34 民法
      問5 憲法 問35 民法
      問6 憲法 問36 商法
      問7 憲法 問37 会社法
      問8 行政法 問38 会社法
      問9 行政法 問39 会社法
      問10 行政法 問40 会社法
      問11 行政手続法 問41 多肢選択
      問12 行政手続法 問42 多肢選択
      問13 行政手続法 問43 多肢選択
      問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
      問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
      問16 行服法・行訴法 問46 民法・40字
      問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
      問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
      問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
      問20 国家賠償法 問50 基礎知識
      問21 国家賠償法 問51 基礎知識
      問22 地方自治法 問52 行政書士法
      問23 地方自治法 問53 住民基本台帳法
      問24 地方自治法 問54 基礎知識
      問25 行政法 問55 基礎知識
      問26 公文書管理法 問56 基礎知識
      問27 民法 問57 個人情報保護法
      問28 民法 問58 著作権の関係上省略
      問29 民法 問59 著作権の関係上省略
      問30 民法 問60 著作権の関係上省略

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