論点
- 所得税更正処分の取消訴訟において、所得金額の過大認定が違法と認められた場合、その更正処分は直ちに国家賠償法1条1項上の違法に該当するか?
事案(奈良民商事件)
事業者Xが、事業所得について、A税務署長に対して、確定申告をした。
A税務署長は、税務署員に調査を命じたが、Xは民主商工会の事務局員の立ち合いを条件としたため、税務署員は調査をすることができなかった。
A税務署長は、Xの取引先や取引銀行を調査し、結果として、所得金額を増額する更正処分をした。(Xの所得税は、申告した場合よりも多くなる)
Xはこれを不服として、異議申し立ておよび審査請求を経た上で、本件更正処分の取消しを求める訴訟を提起したところ、当該更正処分を違法として、確定判決を得た。
そこで、Xは国Yに対して、慰謝料などの賠償を求める国家賠償請求訴訟を提起した。
判決
所得税更正処分の取消訴訟において、所得金額の過大認定が違法と認められた場合、その更正処分は直ちに国家賠償法1条1項上の違法に該当するか?
→直ちに違法となるわけではない
税務署長Yのする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、
税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限り、違法の評価を受けるものと解するのが相当である。
ところで、所得税法は、納税義務者が自ら納付すべき所得税の課税標準及び税額を計算し、自己の納税義務の具体的内容を確認した上、その結果を申告して、これを納税するという申告納税制度を採用し、納税義務者に課税標準である所得金額の基礎を正確に申告することを義務付けている。
本件のような事業所得についていえば、納税義務者はその収入金額及び必要経費を正確に申告することが義務付けられているのである。
それらの具体的内容は、納税義務者自身の最もよく知るところであるからである。
そして、納税義務者において売上原価その他の必要経費に係る資料を整えておくことはさして困難ではなく、資料等によって必要経費を明らかにすることも容易であり、しかも、必要経費は所得算定の上での減算要素であって納税義務者に有利な課税要件事実である。
そうしてみれば、税務署長がその把握した収入金額に基づき更正をしようとする場合、客観的資料等により申告書記載の必要経費の金額を上回る金額を具体的に把握し得るなどの特段の事情がなく、また、納税義務者Xにおいて税務署長Yの行う調査に協力せず、資料等によって申告書記載の必要経費が過少であることを明らかにしない以上、申告書記載の金額を採用して必要経費を認定すること(所得金額を増額する更正処分)は何ら違法ではないというべきである。
したがって、税務署長Yがその職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をした事情は認められないから、更正処分に国家賠償法1条一1にいう違法があったということは到底できない。