論点
事案
横浜市Yは、自らが設置する保育所のうち4つの保育所を平成16年3月31日かぎりで廃止する旨の条例を制定した。
本件改正条例の施行によって、当該保育所は廃止され、社会福祉法人が当該保育所の運営を引き継いだ。
これに対して保育所で保育を受けていた児童およびその保護者であるXらは、当該改正条例の制定行為は、「自らが選択した保育所において保育を受ける権利」を違法に侵害すると主張して、本件制定行為の取消訴訟を提起した。
判例
市の設置する特定の保育所で保育を受けている児童・保護者は、保育を受けることを期待しうる法的地位を有するか?
→有する
市町村は、児童の保護者から入所を希望する保育所等を記載した申込書を提出しての申込みがあったときは、やむを得ない事由がある場合を除いて、その児童を当該保育所において保育しなければならないとされている(児童福祉法24条1項~3項)。
こうした仕組みを採用したのは、女性の社会進出や就労形態の多様化に伴って、その保育所の受入れ能力がある限り、希望どおりの入所を図らなければならないこととして、保護者の選択を制度上保障したものと解される。
そして、Xらにおいては、保育所への入所承諾の際に、保育の実施期間が指定されることになっている。
したがって、特定の保育所で現に保育を受けている児童及びその保護者は、保育の実施期間が満了するまでの間は当該保育所における保育を受けることを期待し得る法的地位を有するものということができる。
上記保育所を廃止する条例の制定行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?
→あたる
条例の制定は、普通地方公共団体の議会が行う立法作用に属するから、一般的には、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものでないことはいうまでもない。
しかし、本件改正条例は、本件各保育所の廃止のみを内容とするものであって、他に行政庁の処分を待つことなく、その施行により各保育所廃止の効果を発生させ、当該保育所に現に入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育を受けることを期待し得る上記の法的地位を奪う結果を生じさせるものである。
そのため、その制定行為は、行政庁の処分と実質的に同視することができる。
また、市町村の設置する保育所で保育を受けている児童又はその保護者が、当該保育所を廃止する条例の効力を争って、当該市町村を相手に当事者訴訟ないし民事訴訟を提起し、勝訴判決や保全命令を得たとしても、これらは訴訟の当事者である当該児童又はその保護者と当該市町村との間でのみ効力を生ずるにすぎないから、これらを受けた市町村としては当該保育所を存続させるかどうかについての実際の対応に困難を来すことにもなる。
他方、処分の取消判決や執行停止の決定に第三者効(行政事件訴訟法32条)が認められている取消訴訟において当該条例の制定行為の適法性を争い得るとすることには合理性がある。
以上によれば、本件改正条例の制定行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である。