処分理由の提示に関する次の記述のうち、法令および最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
- 行政手続法が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接義務を課し、またはその権利を制限するという同処分の性質にかんがみたものであるから、行政手続法には、申請に対する拒否処分に関する理由の提示の定めはない。
- 一級建築士免許取消処分をするに際し、行政庁が行政手続法に基づいて提示した理由が不十分であったとしても、行政手続法には理由の提示が不十分であった場合の処分の効果に関する規定は置かれていないから、その違法により裁判所は当該処分を取り消すことはできない。
- 行政手続法は、不利益処分をする場合にはその名宛人に対し同時に当該不利益処分の理由を示さなければならないと定める一方、「当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合はこの限りでない。」としている。
- 青色申告について行政庁が行った更正処分における理由附記の不備という違法は、同処分に対する審査裁決において処分理由が明らかにされた場合には、治癒され、更正処分の取消事由とはならない。
- 情報公開条例に基づく公文書の非公開決定において、行政庁がその処分理由を通知している場合に、通知書に理由を附記した以上、行政庁が当該理由以外の理由を非公開決定処分の取消訴訟において主張することは許されない。
【解説】
1.行政手続法が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接義務を課し、またはその権利を制限するという同処分の性質にかんがみたものであるから、行政手続法には、申請に対する拒否処分に関する理由の提示の定めはない。
1・・・妥当ではない
行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければなりません(行政手続法14条1項)。
これは、名宛人(処分を受ける者)に直接義務を課し、またはその権利を制限するという性質を考慮してのルールです。したがって、この部分は妥当です。しかし、申請に対する拒否の部分が妥当ではありません。
行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分(申請に対する拒否処分)をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければなりません(行政手続法8条1項)。
つまり、申請に対する拒否処分に関しても、理由提示の定めがあるので、妥当ではありません
行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければなりません(行政手続法14条1項)。
これは、名宛人(処分を受ける者)に直接義務を課し、またはその権利を制限するという性質を考慮してのルールです。したがって、この部分は妥当です。しかし、申請に対する拒否の部分が妥当ではありません。
行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分(申請に対する拒否処分)をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければなりません(行政手続法8条1項)。
つまり、申請に対する拒否処分に関しても、理由提示の定めがあるので、妥当ではありません
2.一級建築士免許取消処分をするに際し、行政庁が行政手続法に基づいて提示した理由が不十分であったとしても、行政手続法には理由の提示が不十分であった場合の処分の効果に関する規定は置かれていないから、その違法により裁判所は当該処分を取り消すことはできない。
2・・・妥当ではない
「一級建築士免許取消処分」は、不利益処分です。そして、判例では、一級建築士の免許取消処分において、行政庁が提示した理由が不十分として、その取消処分は違法とし、さらに取り消されています(最判平23.6.7)。
「一級建築士免許取消処分」は、不利益処分です。そして、判例では、一級建築士の免許取消処分において、行政庁が提示した理由が不十分として、その取消処分は違法とし、さらに取り消されています(最判平23.6.7)。
3.行政手続法は、不利益処分をする場合にはその名宛人に対し同時に当該不利益処分の理由を示さなければならないと定める一方、「当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合はこの限りでない。」としている。
3・・・妥当
行政手続法14条には「行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。」と規定されています。
行政手続法14条には「行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。」と規定されています。
4.青色申告について行政庁が行った更正処分における理由附記の不備という違法は、同処分に対する審査裁決において処分理由が明らかにされた場合には、治癒され、更正処分の取消事由とはならない。
4・・・妥当ではない
判例では、「更正における付記理由不備の瑕疵は、後日これに対する審査裁決において処分の具体的根拠が明らかにされたとしても、それにより治癒されるものではない」と判示しています(最判昭47.12.5:理由付記の不備と瑕疵の治癒)。
簡単に言えば、更正をする際に、理由をきちんと書いていなかった場合、後日審査裁決の時にきちんとした処分理由を明らかにしても、ダメですよ!ということです。
判例では、「更正における付記理由不備の瑕疵は、後日これに対する審査裁決において処分の具体的根拠が明らかにされたとしても、それにより治癒されるものではない」と判示しています(最判昭47.12.5:理由付記の不備と瑕疵の治癒)。
簡単に言えば、更正をする際に、理由をきちんと書いていなかった場合、後日審査裁決の時にきちんとした処分理由を明らかにしても、ダメですよ!ということです。
5.情報公開条例に基づく公文書の非公開決定において、行政庁がその処分理由を通知している場合に、通知書に理由を附記した以上、行政庁が当該理由以外の理由を非公開決定処分の取消訴訟において主張することは許されない。
5・・・妥当ではない
判例では、「一たび通知書に理由を付記した以上、実施機関が当該理由以外の理由を非公開決定処分の取消訴訟において主張することを許さないものとする趣旨をも含むと解すべき根拠はない」と判示しています。(最判平11.11.19:公文書の非公開決定における理由の差替え)。
分かりやすく言えば、「○○」という理由で公文書の非公開決定処分をした後で、その処分の取消訴訟で「××」という別の理由で非公開にしたと主張してもよいということです。
判例では、「一たび通知書に理由を付記した以上、実施機関が当該理由以外の理由を非公開決定処分の取消訴訟において主張することを許さないものとする趣旨をも含むと解すべき根拠はない」と判示しています。(最判平11.11.19:公文書の非公開決定における理由の差替え)。
分かりやすく言えば、「○○」という理由で公文書の非公開決定処分をした後で、その処分の取消訴訟で「××」という別の理由で非公開にしたと主張してもよいということです。
これも事案も一緒に勉強したほうが良いでしょう!
また、問題文の理解と判決文の理解も重要です!
個別指導では、事案・問題文の理解、判決文の理解も一緒に解説しております!
平成29年度(2017年度)|行政書士試験の問題と解説
問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:物権 |
---|---|---|---|
問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
問3 | 人権 | 問33 | 民法:債権 |
問4 | 経済的自由 | 問34 | 民法:債権 |
問5 | 内閣 | 問35 | 民法:親族 |
問6 | 財政 | 問36 | 商法 |
問7 | 憲法の概念 | 問37 | 会社法 |
問8 | 取消しと撤回 | 問38 | 会社法 |
問9 | 無効な行政行為 | 問39 | 会社法 |
問10 | 執行罰 | 問40 | 会社法 |
問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 基礎知識・政治 |
問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 基礎知識・社会 |
問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 基礎知識・政治 |
問20 | 国家賠償法 | 問50 | 基礎知識・経済 |
問21 | 国家賠償法 | 問51 | 基礎知識・社会 |
問22 | 地方自治法 | 問52 | 基礎知識・社会 |
問23 | 地方自治法 | 問53 | 基礎知識・社会 |
問24 | 地方自治法 | 問54 | 基礎知識・情報通信 |
問25 | 行政法の判例 | 問55 | 基礎知識・その他 |
問26 | 行政不服審査法 | 問56 | 基礎知識・情報通信 |
問27 | 民法:総則 | 問57 | 基礎知識・個人情報保護 |
問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
問30 | 民法:総則 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
