議会の委員会(常任委員会、議会運営委員会、特別委員会)

地方公共団体の議会では、効率的に議会を運営するために、条例で、常任委員会議会運営委員会及び特別委員会を置くことができます。これらは、任意で設置するため、必ずしも設置しなければならないわけではありません。

そして、いずれの委員会も、予算案以外であれば議案を提出することができます


常任委員会

常任委員会は、担当部門の事務の調査、議案等を詳しく審査する組織で、各地方公共団体ごとに、色々な種類の常任員会があります。例えば、総務委員会・市民福祉委員会・文教経済委員会・建設水道委員会等、名称も各地方公共団体ごと様々です。

そして、地方公共団体の議員は、常任委員を複数兼ねることができます。

議会運営委員会

議会運営委員会は、「議会の運営に関する事項「議会の会議規則、委員会に関する条例等に関する事項」「議長の諮問に関する事項」について調査し、審査する組織です。

特別委員会

特別委員会は、原則、会期中に限って、議会の議決により付議された事件を審査します。ただし、例外的に、特定の事件については、議会の閉会中も審査することができます

議長と副議長(地方公共団体の議会)

地方公共団体の議会の議長と副議長について、行政書士の試験のポイントとなる部分は下記内容です。

議長と副議長の選び方

議会は、議員の中から、議長および副議長1人ずつ選挙で選ばなければなりません。

議長と副議長の任期

  • 議長および副議長の任期は、議員の任期(4年)によります。
  • 議長およぶ副議長は、議会の許可を得て辞職することができます。
  • 副議長は、議会の閉会中においては、議長の許可を得て辞職できます。

議長の権限

  • 議長は、議場の秩序を保持し、議事を整理し、議会の事務を統理し、議会を代表します。
  • 議長は、委員会に出席し、発言することができます。
  • 「普通地方公共団体の議会又は議長」の「処分又は裁決」に係る普通地方公共団体を被告とする訴訟については、議長が当該普通地方公共団体を代表します。つまり、議会や議長の処分等により、訴えられた場合、議長が被告である普通地方公共団体を代表して、裁判に出るということです。

副議長

議長に事故があるとき、又は議長が欠けたときは、副議長が議長の職務を行います。

議会の権限(①議決権、②選挙権、③監査権、④自律権)

地方公共団体の議会には、普通地方公共団体の意思決定機関としての①議決権と、②選挙権、③監査権、④自律権といった権限があります。

議決権

普通地方公共団体の議会が行う議決事件は、必ず議決しなければならない必要的議決事件と、必要に応じて条例で議決事項に定めることができる任意的議決事件があります。

必要的議決事件

必要的議決事項は15項目に限定されています(制限列挙)。その中でも、行政書士の試験で出題されやすいものは、下記5つなので、それだけでも頭に入れておきましょう!

  1. 条例の制定と改廃
    条例の提案権は、一般的には、議会と長の双方にある。特定の場合のみいずれかのみに専属する。
  2. 予算の議決
    議会は、予算を増額修正できるが、長の予算発案権の侵害となるような修正は許されない。
    減額修正はできない。
  3. 決算の認定
  4. 地方税の賦課徴収又は分担金、使用料、加入金若しくは手数料の徴収に関すること
  5. 条例で定める重要な公の施設につき条例で定める長期かつ独占的な利用をさせること

任意的議決事件

上記以外にも条例で普通地方公共団体に関する事件につき、議会の議決すべきものを定めることができます。

そして、自治事務については、すべて任意的議決事件の対象となります。

一方、法定受託事務については、国の安全に関することなど普通地方公共団体の議会で議決すべきでないもの以外は、任意的議決事件の対象となります。

選挙権

議会は、議長副議長選挙管理員等の選挙を行わなければなりません。

監査権

住民の代表機関である議会は、長などの執行機関の行為が適正に行われているかを監視する権限(同意権、調査権、書類の検閲・検査権、監査請求権)を持っています。

同意権

地方公共団体の長が、「副知事副市町村長、監査委員、教育委員会の委員、都道府県公安委員会の委員」などを選任する場合、議会の同意が必要となります。

調査権(100条調査権)

地方公共団体の議会は、地方公共団体の事務に関する調査を行うことができ、地方自治法第100条に規定された権利なので、100条調査権と言います。

ほとんどの事務が100条調査権の対象になりますが、
自治事務については、労働委員会、収用委員会の権限に属する事務」は対象外となりと「法定受託事務については、国の安全、個人の秘密にかかわるもの」は対象外となります。

調査を行うために特に必要がると認めるときは、選挙人その他の関係人の出頭および証言ならびに記録の提出を請求することができます。

この100条調査権については、2013年、当時の東京都知事であった猪瀬直樹知事が徳洲会グループより5000万円を受け取った事件で使われています。ただし、東京都議会が百条委員会の設置を決定し、百条調査権を行使しようとする前に、猪瀬知事は辞職しました。

書類の検閲・検査権

議会は、普通地方公共団体の事務に関して書類等を検閲し、執行機関の報告を請求して、事務の管理、議決の執行および出納を検査することができます。

分かりやすく言えば、議会で決めたとおりに仕事をしているか、検査・調査するわけです。

この検査の対象についても、100条調査権同様下記については検査の対象外となっています。

自治事務については、労働委員会、収用委員会の権限に属する事務」は検査権の対象外となりと「法定受託事務については、国の安全、個人の秘密にかかわるもの」は検査権の対象外となります。

監査請求権

議会は、監査委員に対し、普通地方公共団体に関する監査を求め、監査の結果に対する報告を請求することができます。

この監査請求の対象についても、100条調査権同様下記については検査の対象外となっています。

自治事務については、労働委員会、収用委員会の権限に属する事務」は監査請求の対象外となりと「法定受託事務については、国の安全、個人の秘密にかかわるもの」は監査請求の対象外となります。

自律権

議会の自律権とは、議会自らの意思で、議会の組織・運営の決定や処理する権利のことを言い、「会議規則の制定権、会期の決定権、懲罰権、自主的に解散する権利」等があります。

懲罰権の判例(最判昭35.10.19

議員除名処分は、議会の内部規律の問題に当たらないため司法審査が及ぶが、
出席停止処分は、議会の内部規律の問題に当たるため、司法審査が及ばない(部分社会の問題ととらえて、議会内部で解決しなさい!ということ)。

イメージとしては、除名処分は重い処分だから裁判で争うことができ、出席停止処分は軽い処分なので、裁判で争うことができず、議会の中で解決してください!ということです。

地方公共団体の議会と長の関係

地方公共団体の機関

まず、普通地方公共団体を運営していく上で議会の2つの機関があります。

議会とは、住民の意思を代表する機関(代表機関)であるとともに、地方公共団体の意思を決定する機関(意思決定機関)でもあります。実際、議会の議員は、都道府県議会議員選挙や市議会議員選挙等の直接選挙で、都道府県や市町村の代表として選ばれ、この議員が議会で意思決定を行います。

とは、知事や市長等を指し、普通地方公共団体の事務を管理・執行し、これを統轄し(まとめあげ)代表する機関です。そして、知事や市長等も、知事選挙や市長選挙等の直接選挙で選ばれます。

地方公共団体の議会と長の関係

議会と長は対等な関係です。その理由は、議会も長も住民による直接選挙によって選ばれた者だからです。

そして、議会も長も住民による直接選挙で選ばれた代表機関なので、それぞれが住民に対して直接責任を負います。これを二元的代表制と言います。分かりやすく言うと、2つの代表する機関があるということです(上図参照)。

※国は、直接選挙で選ばれた議員が組織する国会があり、この国会が内閣総理大臣を指名し、この内閣総理大臣が内閣を組織します。このように、内閣が議会に対して責任を負い、内閣の存立が「議会の信任」に委ねられている制度を議院内閣制と言います。

ただし、地方公共団体が二元代表制であるといっても、「地方公共団体の議会による長の不信任決議」や、「長による議会解散」など議院内閣制のルールも取り入れられています。

※上記の通り、は住民による直接選挙によって選ばれるため、大統領制がとられていることも覚えておきましょう。大統領制とは、簡単にいうと、国や地方公共団体のトップを国民や住民が直接選挙によって選ぶ方式を言います。

行政書士の試験対策として、地方公共団体の「議会議員と長」は直接選挙によって選出すべきこととしています。つまり、法律や条例で、間接選挙(議員が長を選ぶといった方式)に変更することはできません

憲法における議会の位置づけ

憲法93条
地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。

憲法93条で議会は普通地方公共団体の必置機関であることを定めています。つまり、普通地方公共団体は、法律や条例などで、議会を置かないことはできないということです。

自治事務と法定受託事務

行政書士の試験対策としては、「自治事務と法定受託事務の違い」と「1号法定受託事務と2号法定受託事務の違い」をしっかり頭に入れておきましょう!

地方自治体が処理する事務には自治事務法定受託事務の2つがあります。

平成12年3月末までは機関委任事務というものがありましたが、法改正により、廃止されました。


自治事務

自治事務とは、地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のものを言います。

法定受託事務以外なので、非常に幅が広く、例えば、小中学校の設置管理、市町村税の賦課徴収、介護保険の介護給付、住民基本台帳事務、飲食店営業の許可、病院・薬局の開設許可、都市計画の策定などが自治事務に当たります。

法定受託事務

法定受託事務とは、国または都道府県が本来果たすべき役割にかかわる事務であるが、利便性や効率性を考えて、「国から都道府県・市町村」あるいは「都道府県から市町村」に委託された事務を言います。

そして、法定受託事務には、
が本来果たすべき事務を都道府県・市町村が受託する第1号法定受託事務と、
都道府県が本来果たすべき事務を市町村が受託する第2号法定受託事務に分類されます。

第1号法定受託事務 本来、が行うべき事務 例えば、国政選挙、生活保護の決定、旅券交付、国道の管理、戸籍などの事務
第2号法定受託事務 本来、都道府県が行うべき事務 例えば、地方選挙(県議会選挙、知事選挙)にかかわる事務

地方自治体の概要と種類


地方自治体の一番分かりやすい具体例が都道府県や市町村です。しかし、行政書士で勉強する地方自治体は、もっと深い部分まで勉強していきます。まず、地方自治とは、地方の住民が、その地域を自主的に運営していくことを言います。そして、地方自治体は、国とは別の固有の法人格を持ち、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を持っています。

固有の法人格を持つため、例えば、地方自治体(例えば、都道府県や市町村)が、不動産の所有権を持ったり、裁判で、原告や被告となることができます。

地方公共団体の種類

上図の通り、普通地方公共団体は、都道府県と市町村の2つに分けることができるのですが、市町村の中の「市」には「政令で指定された都市(政令指定都市)」と「中核市」の2つと、それ以外の小さい市があります。行政書士の試験で出題されるのは、政令指定都市と中核市の違いなので、この辺りを勉強しておきます。

政令指定都市

政令指定都市とは、政令で指定する人口50万人以上の市で、都道府県に近い権限が与えられます。政令指定都市の具体例として、札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、横浜市、静岡市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、岡山市、広島市、福岡市、熊本市等があります。

政令指定都市は、市長の権限に属する事務を分掌させる(分ける)ため、条例で、その区域を分けて、区(行政区)を設ける義務があります。例えば、横浜市は、政令指定都市なので、西区、中区、南区といった感じで分けられています。そして、上記区にその事務所の長として区長を置く義務があります。

注意が必要なのは、この区は、東京都23区のような特別区とは違います。実際、横浜市西区と東京都中央区は、文字だけ見ると似ていますが、前者は特別区ではなく(法人格がない)、後者は特別区(法人格がある)です。

さらに、指定都市は、その行政の円滑な運営を確保するため必要があると認めるときは、市長の権限に属する事務のうち特定の区の区域内に関するものを総合区長に執行させるため、条例で、当該区に代えて総合区を設け、総合区の事務所又は必要があると認めるときはその出張所を置くことができる

行政区と総合区の違い

行政区 総合区
位置づけ 指定都市の内部組織
法人格 なし
議会 なし
選挙管理委員会 必ず設置しなければならない
法人格 なし
長の名称 区長 総合区長
長の身分 一般職(市の職員) 特別職(市の職員でなくてもよい)
長の専任 市長が職員から任命 市長が議会の同意を得て選任
任期 なし 4年
リコール なし あり

リコールとは、解職請求を指し、住民が、「この総合区長ではダメだ!」といった場合に、有権者総数の3分の1の連署により、選挙管理員会に解職請求をし、有権者による投票の過半数の同意により、総合区長をやめさせることができます。この点については、住民による「直接請求」の部分で解説します。

中核市

中核市とは、人口20万人以上の市で、政令で定める市を言います。指定都市が処理することができる事務のうち政令で定めるものを、中核市で処理します。

※「特例市」は平成27年の改正地方自治法法ににより廃止された。

特別地方自治体

ここからは特別地方自治体に入っていきます。特別地方自治体とは、普通地方公共団体以外のある特定の目的を達成するために設置されている組織を言います。

これには特別区地方公共団体の組合財産区の3つがあります。

特別区

特別区とは、東京都の区(23区)です、この特別区は固有の法人格を持ち、行政主体として、市に近い特徴を持っています。

そして、特別区は、原則、一般的に市町村が処理するものとされている事務を処理します。例外として、都(東京都)が一体的に処理するものとされているものは、都が処理します。

地方公共団体の組合

この地方公共団体の組合が非常にややこしいです。しかし、行政書士試験で出たら、得点したい部分です。

まず、地方公共団体の組合は、2つ以上の地方公共団体が事務を共同で処理するために設置するものです。例えば、「介護保険事業の認定や給付」、「ごみ処理事業」「消防事業」「上下水道事業」等です。

そして、地方公共団体の組合は一部事務組合と広域連合の2つがあり、この違いが頻出です。

一部事務組合と広域連合の違い
一部事務組合区 広域連合
種類 特別地方公共団体
構成団体 都道府県・市町村・特別区
※複合的一部事務組合は都道府県は加入できない
都道府県・市町村・特別区
設置許可 都道府県が加入する場合、総務大臣の許可
その他が加入する場合、知事の許可
が必要
解散 総務大臣または知事の「届出」が必要 総務大臣または知事の「許可」が必要
議会 必ず「議会」を設置する
議会の議員 規約で定める 選挙人の投票 or 議会の選挙
兼任 一部事務組合の議会の議員等は、当該一部事務組合の構成団体の議員・長・その他職員と兼ねることができる 広域連合の議会の議員等は、当該広域連合を組織する地方公共団体の議員・長・その他職員と兼ねることができる
長は不要 長は必ず設置する
選挙人の投票 or 議会の選挙
条例 独自の条例を制定できる
住民監査請求
住民訴訟
住民監査請求や住民訴訟の対象
知事の勧告 知事は、公益上必要と認める場合、「市町村・特別区」に「一部事務組合や広域連合」を設けるべきことを勧告できる

複合的一部事務組合とは?

一部事務組合は、共同処理する事務が1種類に限定されますが、複合的一部事務組合は、共同処理する事務が関連する複数のものを対象とします。例えば、A市の上水道事務とB市の下水道事務を共同で処理する場合です。

財産区

財産区とは、市町村及び特別区の一部で「財産(山林、用水池、宅地等)を有し」若しくは「公の施設を設けている」場合、「その財産又は公の施設」の管理及び処分又は廃止の権限を持つ特別地方公共団体です。

損失補償

損失補償とは?

損失補償とは、適法な公権力の行使によって加えられた財産上の特別の犠牲に対して、公平負担の見地からこれを調整するためにする財産的補償です。

例えば、バスが通る道路にも関わらず、狭い道路のため、道路を拡幅する都市計画が決定されたとします。すると、その狭い道路の両側の土地の所有者は、強制的に、土地の一部を収用(買取・買収)されてしまいます。

これは、違法行為ではなく、都市計画法等の法律によって行われるため、適法な公権力の行使です。

この場合、買収された土地部分については、補償を受けることができる(その分、お金をもらうことができる)ということです。

※違法な公権力の行使による損害は、国家賠償法1条が適用されます。

損失補償と憲法の関係

損失補償の根拠は、日本国憲法29条3項です。

日本国憲法29条3項
私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

国家賠償については、国家賠償法という一般法が存在しましたが、
損失補償については、損失補償法といった一般法は存在しません。
そのため、個別法の中で、損失補償が置かれています。ただし、個別法で損失補償の規定が置かれていない場合も、上記憲法29条3項を直接適用して、補償請求をする余地はあります。

損失補償の規定がある特別法

正当な補償とは?(相当補償と完全補償)

上記憲法29条3項には「正当な補償」と規定されています。正当な補償とは、どの程度の補償なのかが問題になってきます。

この点について、「相当補償説」を採る判例と「完全補償説」を採る判例があります。

相当補償説をとる判例

「正当な補償とは、その当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基づき合理的に算出される相当な額をいう」(最大判昭28.12.23:農地改革訴訟)としています。この考え方を「相当補償説」と言います。

相当補償説の考え方は、時価(一般的な取引価格)よりも低額の価格を保障すればよいことになります。

この判例の背景として、戦前、大地主が小作人に農地を貸して、農業を行われていたが、戦後、国が全国の大地主(たくさん土地を持つ人達)から土地を買い上げ、安い価格で小作人に売渡し、自作農民を増やす改革を行いました。その時の大地主への補償が上記相当補償説です。

完全補償説をとる判例

土地収用法による損失補償の判例(最判昭48.10.18)では「土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によって当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復をはかることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもって補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要する」としています。この考え方を「完全補償説」と言います。

完全補償説の考え方は、財産の客観的価値が全部保障されることになります。

相当補償 その当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基づき合理的に算出される相当な額が保障される
完全補償 財産の客観的価値が全部保障される

補償の方法

補償は、原則、金銭をもって支払われます。例外として、土地収用法は、付近の代替地の提供による補償も認めています。

原則 金銭
例外 土地収用法では、代替地の提供でもよい

補償の範囲(付随的損失の補償)

実際、土地収用がなされる場合、収用の対象となる土地の対価を補償するだけでは不十分な場合もあります。例えば、収用された土地で飲食店を営業していた場合、移転費用や営業上の損失などの付随的損失が生じることもあります。これも含めないと完全補償とはならないので、これらの付随的損失も補償対象となります。

損失補償を請求する場合の訴訟の種類

憲法29条3項を直接根拠として、国または公共団体に補償を請求する場合、公法上の法律関係に関する訴訟なので、実質的当事者訴訟に当たります。

一方、土地収用における損失補償の増額を請求する場合、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令(土地収用法)の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするものなので、形式的当事者訴訟に当たります。

補償の要件

上記以外にも、どのような場合に補償されるのかも問題になってきます。

この点について、判例(最判平17.11.1)では、「一般的に当然に受忍すべきものとされる制限の範囲を超えて特別の犠牲を課せられたものということがいまだ困難であるから、直接憲法29条3項を根拠として上記の損失につき補償請求をすることはできない」として、社会的制約として受忍すべき限度を超えていて、かつ、それが平等原則に反するような個別的負担である特別の犠牲に当たる場合は補償すべきだとしています。

つまり、下記2点を基準にして、2つとも満たす場合に限って損失補償するということです。

  1. 特定の人に制限を課するものか?(形式的基準)
  2. 受忍限度を超えた制約か?(実質的基準)

<<国家賠償法6条(相互保証主義) | 地方自治法>>

相互保証主義(国家賠償法6条)

国家賠償法6条では、外国人が被害者である場合、相互保証があるときに限って、国家賠償法が適用されるとしています。

国家賠償法第六条
この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する。

分かりやすくいうと、外国Aにおいて、日本人が国家賠償を受けることができる場合、外国Aの外国人が、日本で国家賠償を受けることができるということです。

<<国家賠償法4条(国家賠償法と民法の関係) | 損失補償>>

国家賠償法と民法の関係(国家賠償法4条)

国家賠償法1条では、公務員による公権力の行使によって他人に損害を与えた場合の国または公共団体の賠償責任を規定しており、
国家賠償法2条では、公の営造物の設置・管理の瑕疵によって他人に損害を与えた場合の国または公共団体の賠償責任を規定しています。

そして、今回解説する、国家賠償法4条では、①公権力の行使とは言えない場合の損害や②公の営造物に該当しない場合の損害については、民法のルールが適用されると規定しています。

国家賠償法第四条
国又は公共団体の損害賠償の責任については、前三条の規定によるの外、民法の規定による。

使用者責任の適用

例えば、公務員は、庁舎間を車で移動中に事故を起こしてしまった場合、民法715条の使用者責任が適用されます。
→車の運転は、公権力の行使とは言えないから。

工作物責任の適用

例えば、市営住宅の塀が崩れて、通行人に損害を与えてしまった場合、民法717条の工作物責任が適用されます。
→市営住宅は、公の目的のために使用されているわけではないので、公の営造物に該当しないから。

その他の民法の適用

上記以外にも、過失相殺(民法722条)、不法行為による損害賠償請求権の期間の制限(724条)なども適用されます。

失火法の適用(国賠法5条)

上記民法の中には、失火法といった特別法も含みます。

例えば、消防職員の消火ミスによって火災の再燃について判例(最判昭53.7.17)では「公権力の行使にあたる公務員の失火による国又は公共団体の損害賠償責任については、国家賠償法四条により失火責任法が適用され、当該公務員に重大な過失のあることを必要とするものといわなければならない。」としています。

<<国家賠償法2条3条 | 国家賠償法6条(相互保証主義)>>

国家賠償法2条(営造物の設置・管理の瑕疵に基づく賠償責任)

国家賠償法1条では、「公務員による違法な公権力の行使」という行為に着目しました。一方、国家賠償法2条では、「営造物の設置管理の瑕疵」という物の状態に着目します。

国家賠償法
第二条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。

行政書士の試験では、まず、「公の営造物」とは何か?を頭に入れる必要があります。その後、瑕疵に関する具体的な判例を覚えれば得点できます。

公の営造物とは?

「公の営造物」とは、公の目的に供されている有体物を言います。
「有体物」とは「物や設備」と考えていただいて大丈夫です。

そして、「公の営造物」と「公物」は同義(同じもの)で、大きく分けて「自然公物」と「人工公物」があります。

自然公物 河川、湖、沼、海、砂浜等
人工公物 道路、上下水道、庁舎、庁舎内の机・椅子、校舎、公用車、けん銃等

行政書士試験における注意点

公の営造物かどうかの判断基準は「公の用に供されているか(国民みんなが使うものか)」です。

つまり、所有権が誰かは問題ありません。

例えば、道路が私道(私人が所有する道路)であっても、公の用に供されているのであれば、公の営造物です。このように、私人が所有する公の営造物を「私有公物」と言います。

一方、公の用に供されていない国公有地などは、公の営造物に含みません。
(=行政活動に用いられていない「普通財産」は、公の営造物に含まれない)

そして、判例(最判昭59.11.29)では、「公の営造物の設置又は管理は、必ずしも国又は公共団体が法律上の権限に基づいて行うことを要せず事実上これを管理することになったときは管理責任を負う。」としています。例えば、上記私道もこれに当たる場合があります。私道のため、法律上は、国や地方公共団体は管理義務はありません。しかし、事実上、私道を管理する場合、国や地方公共団体が管理責任を負います。

設置又は管理の瑕疵とは?

公の営造物の「設置又は管理の瑕疵」とは、公の営造物が通常有すべき安全性を欠いていることを言います。これは、客観的な瑕疵が存在すれば足り、損害の発生に関して設置者や管理者の過失の有無は関係ありません(無過失責任)。つまり、設置者や管理者に過失(落ち度)がなかったとしても、公の営造物の設置に瑕疵があったり、管理に瑕疵があれば、国等が賠償責任を負うことになります。

ただし、地震や大洪水といった自然災害のような不可抗力から生じた損害について、国賠法の対象にはなりません

この点は具体例として判例を勉強していくとよいでしょう。

瑕疵に関する判例

  • 工事標識板が道路上に倒れたまま放置され、道路の安全性を著しく欠如する状態であったとしても、時間的に道路を安全な状態に復旧するのが不可能な場合、管理に瑕疵があったと認めることはできない。(最判昭50.6.26)
  • 道路の瑕疵の判断について、国や公共団体が予算不足だからといって、免責にはならない(最判昭50.7.25)
  • 故障車が国道上に長時間にわたって放置され、道路の安全性を著しく欠如する状態であったにも関わらず、道路の安全性を保持するために必要な措置を全く講じなかった場合道路の管理に瑕疵があると認められる。(最判昭50.7.25)
  • 営造物自体に危険性がなくても、一定の限度を超える営造物の利用によって、利用者や第三者が損害を受ける危険性がある場合には、その営造物には設置又は管理の瑕疵があると認められる。(最判昭56.12.16)
    →利用者以外の第三者に対する損害も対象となりえる
  • 瑕疵の存否については、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものである。(最判昭61.3.25:「点字ブロック」と「設置管理の瑕疵」
    →これは、点字ブロックを駅のホームに設置していなかったことで、視力障害者がホームから転落した事故において、点字ブロックがなかったことが営造物の瑕疵に当たるかの判断基準の一つとして、この点字ブロックの普及の程度も考慮に入れるとしています。
  • 普通河川の管理について、普通地方公共団体の条例で、河川法の適用河川や準用河川(普通河川よりも大きい河川で国等が管理する河川)より厳しい管理を定めることは、河川法に違反するので、許されない。(最判昭53.12.21)
  • 未改修河川は、単に物的安全性の有無によってのみ管理の瑕疵が判断されるのではなく、原則として過渡的安全性(一時的な対策)で足りる。(最判昭59.1.26:未改修河川の安全性(大東水害訴訟))
  • 改修済み河川改修がなされた段階で想定されていた洪水に対応できる安全性を備えていたかどうかを基準とする。(最判平2.12.13:改修済河川の安全性(多摩川水害訴訟)
  • 国家賠償法2条1項にいう「公の営造物の設置又は管理に瑕疵」があるとは、公の営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、右の安全性を欠くか否かの判断は、当該営造物の構造、本来の用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきである。本来の用法に従えば安全である営造物について、これを設置管理者の通常予測し得ない異常な方法で使用した場合、国などは国家賠償法2条の責任を負わない最判平5.3.30:テニスコート審判台転倒事件

国賠法2条の求償

「公の営造物の設置又は管理に瑕疵があった」と認められる場合、国賠法2条の責任が成立し、被害者は、営造物の設置管理する国や公共団体に対して損害賠償を請求できます。そして、国や公共団体が賠償した場合、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償することができます。

営造物の設置者・管理者と費用の負担者が異なる場合(国賠法3条)

例えば、河川とダムについてA県が河川管理者として管理していて
その費用の2分の1は国が負担しているとします。
そして、A県職員のBが誤ったダムの放流操作によって、周辺住民に損害を与えてしまった場合、A県だけでなく、国(費用負担者)も損害賠償責任を負います

そして、賠償した者は、責任になる者に対して求償することができます。例えば、上記事例で、国が損賠賠償した場合、国は、職員Bに求償できます。

国家賠償法
第三条 前二条の規定によつて国又は公共団体が損害を賠償する責に任ずる場合において、公務員の選任若しくは監督又は公の営造物の設置若しくは管理に当る者と公務員の俸給、給与その他の費用又は公の営造物の設置若しくは管理の費用を負担する者とが異なるときは、費用を負担する者もまた、その損害を賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、損害を賠償した者は、内部関係でその損害を賠償する責任ある者に対して求償権を有する。

<<国家賠償法1条(公権力の行使に基づく賠償責任) | 国家賠償法4条(国家賠償法と民法の関係)>>