最判平3.4.26:水俣病認定業務に関する知事の不作為違法

論点

  1. 水俣病患者の認定申請をした者が、相当期間内に応答処分されることにより焦燥、不安の気持ちを抱かされない利益は、不法行為法上の保護の対象になるか?
  2. 水俣病患者の認定申請を受けた処分庁が、申請に対する処分をする義務に違反したというためには、どのような要件が必要か?

事案

Xらは、水俣病の認定申請をした。しかし、半年以上経過しても、熊本県知事から何らの応答処分を受けなかったので、Xらは、熊本県知事等Yに対して国家賠償法1条等に基づく損害賠償請求の訴えを提起した。

判決

水俣病患者の認定申請をした者が、相当期間内に応答処分されることにより焦燥、不安の気持ちを抱かされない利益は、不法行為法上の保護の対象になるか?

保護の対象となる

一般的には、各人の価値観が多様化し、精神的な摩擦が様々な形で現れている現代社会においては、各人が自己の行動について他者の社会的活動との調和を充分に図る必要があるる。

したがって、人が社会生活において他者から内心の静穏な感情を害され精神的苦痛を受けることがあっても、一定の限度では甘受すべきものというべきではあるが、社会通念上その限度を超えるものについては人格的な利益として法的に保護すべき場合があり、それに対する侵害があれば、その侵害の態様、程度いかんによっては、不法行為が成立する余地があるものと解すべきである。

本件についてみるに、認定申請者としての、早期の処分により水俣病にかかっている疑いのままの不安定な地位から早期に解放されたいという期待、その期待の背後にある申請者の焦燥(しょうそう:あせっていらだつこと)不安の気持を抱かされないという利益は、内心の静穏な感情を害されない利益として、これが不法行為法上の保護の対象になり得るものと解するのが相当である。

水俣病患者の認定申請を受けた処分庁が、申請に対する処分をする義務に違反したというためには、どのような要件が必要か?

①その期間に比してさらに長期間にわたり遅延が続き、かつ、②その間、処分庁として通常期待される努力によって遅延を解消できたのに、これを回避するための努力を尽くさなかった、という2つの要件が必要

一般に、処分庁が認定申請を相当期間内に処分すべきは当然であり、これにつき不当に長期間にわたって処分がされない場合には、早期の処分を期待していた申請者が不安感、焦燥感を抱かされ内心の静穏な感情を害されるに至るであろうことは容易に予測できる。

したがって、処分庁には、こうした結果を回避すべき条理上の作為義務があるということができる。

そして、処分庁が右の意味における作為義務に違反したといえるためには客観的に処分庁がその処分のために手続上必要と考えられる期間内に処分できなかったことだけでは足りず①その期間に比してさらに長期間にわたり遅延が続き、かつ、②その間、処分庁として通常期待される努力によって遅延を解消できたのに、これを回避するための努力を尽くさなかったことが必要であると解すべきである。

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