最判平21.10.15:場外車券発売施設設置許可処分

論点

  1. 場外車券発売施設の周辺において「①居住する者、②事業者、③医療施設の利用者」は、設置許可の取消訴訟の原告適格を有するか?
  2. 場外車券発売施設の周辺において、「医療施設を開設する者」は、設置許可の取消訴訟の原告適格を有するか?

事案

経済産業大臣は自転車競技法4条2項に基づき、株式会社Aに対し、場外車券販売施設(競輪の賭けができる施設)の設置の許可をした。

これに対して、本件施設から1000m以内において病院や診療所を開設する医師Xらが、本件許可は、場外車券発売施設の設置要件をみたさないと主張して、国Yを被告として、許可の取消訴訟を提起した。

(競輪場)
自転車競技法第4条
競輪の用に供する競走場を設置し又は移転しようとする者は、経済産業省令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
2 経済産業大臣は、前項の許可をしようとするときは、経済産業省令で定めるところにより、あらかじめ、関係都道府県知事の意見を聴かなければならない。
(許可の基準)
自転車競技法施行規則第15条
法第5条第2項の経済産業省令で定める基準(払戻金又は返還金の交付のみの用に供する施設の基準を除く。)は、次のとおりとする。
一 位置は、文教上又は保健衛生上著しい支障を来すおそれがない場所であること

判決

場外車券発売施設の周辺において「①居住する者、②事業者、③医療施設の利用者」は、設置許可の取消訴訟の原告適格を有するか?

原告適格を有さない

一般的に、場外施設が設置、運営された場合に周辺住民等が被る可能性のある被害は、交通、風紀、教育など広い意味での生活環境の悪化であって、その設置、運営により、直ちに周辺住民等の生命、身体の安全や健康が脅かされたり、その財産に著しい被害が生じたりすることまでは想定し難いところである。

そして、このような生活環境に関する利益は、基本的には公益に属する利益というべきであって、法令に手掛りとなることが明らかな規定がないにもかかわらず、当然に、法が周辺住民等において上記のような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと解するのは困難といわざるを得ない。

位置基準は、場外施設が医療施設等から相当の距離を有し、当該場外施設において車券の発売等の営業が行われた場合に文教上又は保健衛生上著しい支障を来すおそれがないことを、その設置許可要件の一つとして定めるものである。

場外施設が設置、運営されることに伴う上記の支障は、基本的には、その周辺に所在する医療施設等を利用する児童、生徒、患者等の不特定多数者に生じ得るものであって、かつ、それらの支障を除去することは、心身共に健康な青少年の育成や公衆衛生の向上及び増進といった公益的な理念ないし要請と強くかかわるものである。

そして、当該場外施設の設置、運営に伴う上記の支障が著しいものといえるか否かは、単に個々の医療施設等に着目して判断されるべきものではなく、総合的に判断されるべき事柄である。

規則が、場外施設の設置許可申請書に、敷地の周辺から1000m以内の地域にある医療施設等の位置及び名称を記載した見取図のほか、場外施設を中心とする交通の状況図及び場外施設の配置図を添付することを義務付けたのも、このような公益的見地からする総合的判断を行う上での基礎資料を提出させることにより、上記の判断をより的確に行うことができるようにするところに重要な意義があるものと解される。

このように、法及び規則が位置基準によって保護しようとしているのは、第一次的には、上記のような不特定多数者の利益であるところ、それは、性質上、一般的公益に属する利益であって、原告適格を基礎付けるには足りないものであるといわざるを得ない。

したがって、場外施設の周辺において居住し又は事業(医療施設等に係る事業を除く。)を営むにすぎない者や、医療施設等の利用者は、位置基準を根拠として場外施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有しないものと解される。

場外車券発売施設の周辺において、「医療施設を開設する者」は、設置許可の取消訴訟の原告適格を有するか?

原告適格を有する

場外施設は、多数の来場者が参集することによってその周辺に享楽的な雰囲気等といった環境をもたらすものであるから、位置基準は、そのような環境の変化によって周辺の医療施設等の開設者が被る文教又は保健衛生にかかわる業務上の支障について、特に国民の生活に及ぼす影響が大きいものとして、その支障が著しいものである場合に当該場外施設の設置を禁止し当該医療施設等の開設者の行う業務を保護する趣旨をも含む規定であると解することができる。

したがって、仮に当該場外施設が設置、運営されることに伴い、その周辺に所在する特定の医療施設等に上記のような著しい支障が生ずるおそれが具体的に認められる場合には、当該場外施設の設置許可が違法とされることもあることとなる。

このように、位置基準は、一般的公益を保護する趣旨に加えて、上記のような業務上の支障が具体的に生ずるおそれのある医療施設等の開設者において、健全で静穏な環境の下で円滑に業務を行うことのできる利益を、個々の開設者の個別的利益として保護する趣旨をも含む規定であるというべきである。

したがって、当該場外施設の設置、運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそれがあると位置的に認められる区域に医療施設等を開設する者は、位置基準を根拠として当該場外施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有するものと解される。

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