スライド1:表紙(生命・自由・幸福追求権)
本日のテーマは「生命・自由・幸福追求権」です。
憲法を学習する上で、多くの受験生が「人権」という言葉に触れますが、その中でも今回のテーマはすべての権利の「大元(おおもと)」となる非常に重要な部分です。行政書士試験においても、この分野は単に条文を暗記するだけでなく、その背景にある考え方や、どのようにして新しい権利が生まれてきたのかというプロセス、そして重要な判例の結論を正確に理解しておく必要があります。
特に、今の時代は「SNSの普及」や「情報化」が進み、個人のプライバシーや自己決定といった「新しい人権」が注目されています。それらが憲法の中でどのように位置づけられているのかを、今日の一回の講義でスッキリと整理していきましょう。難しい法律用語も、噛み砕いてお話ししますので、まずは肩の力を抜いて、憲法が目指している「個人の尊重」という温かい理念を感じ取ってみてください。それでは、具体的な中身に入っていきましょう。
スライド2:この講義で学ぶこと
さて、この講義で具体的にどのようなステップで進めていくか、学習の地図を確認しておきましょう。
まず一つ目は、全ての土台となる「憲法13条」そのものの考え方です。「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」という、非常に壮大な名前がついたこの権利が、なぜ憲法の中心的な柱だと言われているのか。そして、この13条が持つ「包括的な権利」としての役割を理解していただきます。
二つ目は、その13条から派生して生まれた「新しい人権」についてです。憲法が制定された昭和21年当時には、現代のようなインターネットや高度な医療技術はありませんでした。そのため、条文には直接書かれていないけれども、現代社会を生きていく上でどうしても守られるべき権利が出てきました。これが「新しい人権」です。
試験では、「どのような基準で新しい人権が認められるのか?」や、「具体的にどのような権利が認められているのか?」という点が、判例(裁判所の判断)をベースに出題されます。今回の講義では、単に知識を詰め込むのではなく、「なぜその権利が必要だったのか」という物語を大切にしながら、判例のポイントを交えて学んでいきましょう。
スライド3:すべての基本 憲法第13条
それでは、本日の主役である「憲法13条」の条文をじっくり見てみましょう。
「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」
この13条は、日本国憲法における「最高原理」と呼ばれています。最も大切なのは、冒頭の「個人として尊重される」という部分です。これは「個人の尊厳」とも言い換えられます。一人一人がかけがえのない存在として扱われること、これが憲法の究極の目的です。
ここで注目したいのは、13条が「包括的(ほうかつてき)な権利」であるという点です。憲法には14条の平等権や21条の表現の自由など、具体的な権利が並んでいますが、条文に書ききれなかった「人間としての尊厳を保つために必要な権利」は、すべてこの13条が拾い上げて守ってくれるのです。
このため、社会の変化によって「新しい権利を守らなきゃ!」となったとき、裁判所はこの13条を根拠にして、その権利を憲法上の権利として認めることができるのです。この柔軟性こそが、13条が「新しい人権の母」と呼ばれる理由です。
スライド4:なぜ「新しい人権」が必要なのか?
では、なぜわざわざ「新しい人権」という考え方を作り出す必要があったのでしょうか。
憲法が作られたのは、戦後間もない時期です。当時の人々にとって最も切実だったのは、国家権力による不当な逮捕や、言論の弾圧から逃れることでした。しかし、時代は流れます。高度経済成長を経て、社会は複雑化し、科学技術は飛躍的に進歩しました。
例えば、カメラの性能が上がり、誰でも簡単に他人の姿を撮影できるようになったことで、「勝手に撮られたくない」というプライバシーや肖像権の問題が出てきました。また、医療が進歩したことで、自分の最期をどう迎えるかという自己決定の問題も生じました。これらは、憲法が作られた当時には想定すらされていなかった問題です。
もし、憲法に書いていないからという理由でこれらの新しい侵害を放置してしまえば、「個人の尊重」という憲法の目的は果たせなくなってしまいます。そこで、社会の変化に対応し、人間が人間らしく幸せに生きていくために不可欠な利益を、13条の「幸福追求権」という器を使って救い出すことにしたのです。
ただし、何でもかんでも「権利だ!」と主張できるわけではありません。それが本当に憲法で守るべき価値があるのかどうか、裁判所は慎重に判断します。そのあたりの「線引き」が、試験ではよく問われる部分になります。
スライド5:幸福追求権から生まれた代表的な「新しい人権」
ここで幸福追求権から生まれた、行政書士試験でも特に出題頻度の高い3つの「新しい人権」をご紹介します。
- ① プライバシー権:昔は「一人にしておいてもらう権利」といった消極的な意味が強かったのですが、現代では「自分の情報をコントロールする権利」という積極的な意味まで含まれるようになっています。
- ② 肖像権:自分の容姿や姿態を、みだりに撮影されたり公表されたりしない権利です。これは「京都府学連事件」などの有名な判例があります。
- ③ 自己決定権:自分の生き方や生活に関わる重要な事柄について、公権力から干渉されずに自分で決定できる権利です。ファッションの自由から、医療における治療方針まで幅広く含まれます。
これらの権利は、条文には一文字も書かれていません。しかし、いずれも13条の「個人の尊重」という根っこから伸びてきた大切な枝葉です。
スライド6:① プライバシー権
まずは現代社会で最も重要と言っても過言ではない「プライバシー権」です。
プライバシー権とは、一般的に「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」と定義されています。日本でも昭和39年の「宴(うたげ)のあと」事件(三島由紀夫の小説を巡る裁判)で初めて裁判所によって認められました。
現代の情報化社会ではその意味が進化し、自分のデータがどこでどう使われているかを把握し、誤りがあれば訂正を求める「自己の情報をコントロールする権利」という積極的な側面が重視されています。行政書士の試験においても、この「私生活の公開禁止」から「情報のコントロール権」への変遷のイメージを持っておくことが、記述式や多肢選択式の対策としても非常に有効です。
スライド7:【判例】プライバシー権:前科照会事件(最判昭56.4.14)
プライバシー権に関する極めて重要な判例である「前科照会事件」を見ていきましょう。
【事案】弁護士会が市区町村長に対し、ある人物の前科について照会しました。市区町村長がこれに応じ回答したため、本人がプライバシー侵害で訴えました。
【判旨】最高裁判所は、「みだりに前科等を公開されないことは、法律上の保護に値する利益である」と明言しました。前科は個人の名誉や更生に関わるデリケートな情報であり、十分な必要性の検討なく外部へ教えることは許されないという判断です。
試験のポイントは、市区町村長の行為が「過失による違法な公権力の行使」に当たり、国家賠償法上の責任にもつながるという点です。個人の権利を公的機関が侵害してはならないという重い教訓を残しています。
スライド8:② 肖像権
肖像権とは、自分の容姿や姿態を、みだりに撮影されたり、それを公表されたりしない権利を指します。スマホ社会の現代、トラブルの原因になりやすい権利です。あとで解説する京都府学連事件の判例は、この権利が憲法13条によって保障されると明確に認めています。ただし、この権利も無制限ではなく、公共の福祉による制約を受けます。
スライド9:京都府学連事件(最判昭44.12.24)
【事案】デモ行進の様子を、警察官が証拠保全のために写真撮影しました。これが肖像権侵害ではないかが争われました。
【判旨】最高裁は、「何人も、その承諾なしに、みだりにその容貌・姿態を撮影されない自由を有する」と判断しました。原則として勝手な撮影は許されません。しかし、「現に犯罪が行われている」「証拠保全の緊急性がある」といった正当な理由がある場合には、撮影も許容されるとしました。
憲法に明記はないが13条を根拠に認められること、そして「正当な理由があれば制限される」というバランス感覚を掴んでおきましょう。
スライド10:③ 自己決定権
自己決定権とは「個人がその私的な生活領域において、一定の事柄を公権力の干渉を受けずに自ら決定できる権利」です。ライフスタイル、家族計画、医療の治療方針など、個人の尊厳に深く関わります。
スライド11:エホバの証人輸血拒否事件(最判平12.2.29)
【事案】宗教上の理由で「輸血拒否」の意思を示していた患者に対し、手術中に生命の危険が生じたため医師が輸血を行った事案です。
【判旨】最高裁は、輸血拒否の意思決定は「人格権の一内容」として尊重されるべきであり、医師の行為は自己決定権を侵害したと判断しました。
自己決定権は、ファッションのような日常から、安楽死といった命の選択まで及びます。行政書士試験では、人格形成に関わる重要な決定ほど13条の保障が強くなるというイメージを持っておきましょう。
スライド12:まとめ:13条が支える現代の人権
憲法13条は、決して古い歴史の遺物ではありません。AIや遺伝子工学など、現代の新しい課題において最も生命力を持って機能している条文です。
「すべて国民は、個人として尊重される」
この一文が根っことなり、プライバシー権や自己決定権といった枝葉を伸ばしています。試験勉強では判例の結論だけでなく、その底にある「一人一人の人間を唯一無二の存在として大切にする」精神を忘れないでください。
実務で「個人の尊厳」に寄り添える法律家への第一歩として、今日の学びを大切にしていただければ嬉しいです。お疲れ様でした!


