行政法

行政行為の裁量(行政裁量)

行政行為を行う場合、行政庁は、法律に規定されていることしかできません。しかし、法律で、一定の判断の余地を認めています。この判断の余地を「裁量(さいりょう)」と言います。 そもそも、法律で、きっちり決めておけば裁量は必要ありません。しかし、ガチガチに法律で縛ってしまうと、複雑で多様な行政上の問題に対応できないこともあります。 そのため一定の幅を利かせているわけです。

裁量行為

裁量行為とは、行政庁の裁量にゆだねられた行為を言います。そして、裁量行為については、裁量の逸脱・濫用がある場合に違法となります。

裁量の逸脱と濫用

上記でも記述した通り、行政庁には判断の余地があるのですが、与えられた権限を超えてはいけませんし、また、権限の範囲内ではあるけど、妥当性に欠ける場合もいけません。 この「与えられた権限を超えること」を「裁量の逸脱」 「権限の範囲内ではあるけど、妥当性に欠ける場合」を「裁量の濫用」と言います。

要件裁量と効果裁量

まず、行政裁量を行うプロセスを解説します。
  1. 事実認定
  2. 法律の要件に該当するか?(要件裁量)
  3. どのような処分をするか?(効果裁量)

要件と効果(法律要件と法律効果)

一般的に法律の規定は、「一定の条件」を満たした場合には、「一定の効果」が生ずるという形式で定められています。 「一定の条件」=法律要件 「一定の効果」=法律効果 です。 ■例えば、宅建業法に、「懲役刑を受けると宅建業の免許を受けることができない」という規定(ルール)があります。 ここでいう、 懲役刑を受ける=法律要件で 宅建業の免許を受けることができる=法律効果です。 ■例えば、「不動産を取得すると、不動産取得税が課せられる」の場合、 不動産を取得する=法律要件 不動産取得税が課せられる=法律効果 ここまでが前提知識で、ここから、要件裁量と効果裁量を解説します。

要件裁量

法律の要件に当てはまるかどうかについて裁量がある場合を「要件裁量」と言います。 ■例えば、「宅地建物取引士として行う事務に関し不正又は著しく不当な行為をしたとき、知事は、当該宅地建物取引士に対し、必要な指示をすることができる。」という法律があります。 宅地建物取引士として行う事務に関し不正又は著しく不当な行為をした=法律要件ですが、この「不正又は著しく不当な行為」とはどんな行為なのかは、知事の裁量が認められています。 つまり、宅建士のどんな行為について不正なのか不当なのかを知事の判断で決めることができるということです。

効果裁量

要件を満たす場合に、どんな処分を下すかについて裁量がある場合を「効果裁量」と言います。 上記、宅地建物取引士の指示処分の事例を見てください。 「指示をすることができる」となっています。「指示をしなければならない」とはなっていません。 つまり、知事は、指示(指示処分)をしてもいいし、指示(指示処分)をしなくてもよいです。 つまり、効果裁量があるということです。 そして、行政書士の試験では、この行政裁量についてよく問われます。しかし、このページで解説するような概念的な内容ではなく、判例と絡めて出題してくるので、過去問で出題された判例で「裁量」に関する内容があれば、都度それを覚えていくとよいでしょう!

裁量に関する判例

  • 外国人の在留期間中の政治活動として直ちに憲法の保障が及ばないものであるとはいえないが、そのなかにわが国の出入国管理政策に対する非難行動あるいはわが国の基本的な外交政策を非難し日米間の友好関係に影響を及ぼすおそれがないとはいえないものが含まれており、法務大臣が外国人の政治活動を斟酌して在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるものとはいえないと判断したとしても、裁量権の範囲を超え又はその濫用があつたものということはできない。(最判昭53.10.4:要件裁量の判例:マクリーン事件
  • 勤務時間内の職場集会、繁忙期における怠業、超過勤務の一斉(いっせい)拒否等の争議行為に参加しあるいはこれをあおりそそのかしたことが国家公務員法の争議行為等の禁止規定に違反するなどの理由でされた税関職員に対する懲戒免職処分は、右職場集会が公共性の極めて強い税関におけるもので職場離脱が職場全体で行われ当局の再三の警告、執務命令を無視して強行されたこと、右怠業が業務処理の妨害行為を伴いその遅延により業者に迷惑を及ぼしたこと、右超過勤務の一斉(いっせい)拒否が職場全体に及び業者からも抗議が出ていたこと、職員に処分の前歴があることなど判示のような事情のもとでは、社会観念上著しく妥当を欠くものとはいえず、懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えこれを濫用したものと判断することはできない。(最判昭52.12.20:効果裁量の判例:神戸税関事件)
  • 児童遊園は、児童に健全な遊びを与えてその健康を増進することを目的とする施設であるから、営業の規制を主たる動機、目的とする児童遊園設置の認可処分は、行政権の著しい濫用に相当し、公権力の違法な行使に当たる。(最判昭53.26:法律の目的違反による裁量権の濫用:余目町個室付浴場事件)
  • 公立学校の学校施設の目的外使用を許可するか否かは,原則として,管理者の裁量にゆだねられており,学校教育上支障がない場合であっても,行政財産である学校施設の目的及び用途と当該使用の目的,態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により許可をしないこともできる。(最判平18.2.27:公立学校施設の目的外使用の許否の判断と管理者の裁量権)

行政行為の瑕疵とは?

行政行為の瑕疵とは、行政行為が「違法」である場合と、行政行為が「不当」である場合のことをいいます。つまり、行政行為の瑕疵には、①違法な行政行為と②不当な行政行為の2つがあります。

行政行為の瑕疵の種類1

①違法な行政行為 法令に違反した行政行為
②不当な行政行為 法令に違反してはいないが、裁量判断が妥当ではない行政行為

行政行為の瑕疵の種類2

覚えなくてもよいですが、瑕疵(ミス)にはいろいろな種類があり「主体のない瑕疵」、「内容の瑕疵」、「手続の瑕疵」、「形式の瑕疵」に分類できます。上記「行政行為の瑕疵の種類1」とは分け方(切り口)が異なります。
主体の瑕疵 公務員試験に合格していない者が、合格書を偽造して公務員となって行った行為
内容の瑕疵 100万円と課税するところを間違って120万円を課税してしまった。
手続の瑕疵 不服審査会への諮問が必要にもかかわらず、諮問しなかった。
形式の瑕疵 例えば、理由を提示しなければならないのに、理由を提示しなかった。
そして、瑕疵ある行政行為には、あとで取消しできる場合と、当然に無効となる場合の2つがあります。
無効な行為 行政行為に、重大かつ明白な瑕疵がある場合 公定力はなく、当然に無効となる
取消し可能な行為 行政行為に、重大かつ明白な瑕疵がない場合 この場合、公定力があり、あとで取り消しも可能

無効な行政行為

行政行為に重大かつ明白な瑕疵がある場合、その行政行為は無効です。 「重大かつ明白な瑕疵」とは、強い違法性をもつ行政行為といったイメージです。 この場合、行政行為は初めから無効となるので、あとで取り消すことなく、初めからなかったことになります。

取消しできる行政行為

通常上記のように、重大かつ明白な瑕疵がある行政行為はあまりありません。それよりも、ちょっとしたミスによる行政行為が多いです。 このようなミスによる行政行為(重大かつ明白な瑕疵がない行政行為)であっても、上記のように当然に無効となるのではなく、取消しがあるまでは一旦は有効となります(公定力という)。 しかし、行政行為にミス(瑕疵)があるので、あとで取り消しを行うことができます。 具体的には、不服申立て(審査請求)等を行って、行政庁に取消してもらったり、取消訴訟をして、裁判所に取消してもらったりします。 行政試験では、上記くらいの太文字が頭に入っていれば大丈夫でしょう!