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単独株主権と少数株主権

株主は株式会社の実質的な所有者(オーナー)なので、会社に対して様々な権利を持っています。それらの権利を、権利の行使の要件に着目して分類すると、単独株主権と少数株主権の2つに分けることができます。

単独株主権とは、1株の株主でも行使できる権利で

少数株主権とは、総株主の議決権の一定割合以上、または、発行済み株式総数の一定割合以上の株式を有する者だけが行使できる権利です。この場合、複数の株主が共同して一定割合以上を持っていれば、権利行使できます。

単独株主権

  1. 剰余金配当請求権105条1項1号)
  2. 残余財産分配請求権105条1項2号)
  3. 株主総会における議決権105条1項3号、308条1項)
  4. 株式買取請求権116条
  5. 設立無効の訴えの提起権828条2項)
  6. 株主総会の決議の取消しの訴え831条
  7. 株主代表訴訟提起権847条
  8. 株主総会の議題提案権・議案提出権304条

少数株主権

権利の内容 必要株式数 分類 6か月前から保有が必要か
株主総会の招集請求権
297条
総株主の議決権の100分の3以上 公開会社 必要
非公開会社 不要
株主総会の議題提案権
303条2項3項)
①総株主の議決権の100分の1以上
または
②300個以上
公開会社 必要
非公開会社かつ取締役会設置会社 不要
株主総会の議案通知請求権
305条1項)
①総株主の議決権の100分の1以上
または
②300個以上
公開会社 必要
非公開会社かつ取締役会設置会社 不要
役員解任請求権
854条1項2項)
①総株主の議決権の100分の3以上
または
②発行済株式の100分の3以上
公開会社 必要
非公開会社 不要
株主総会の招集手続に関する検査役の選任権
306条
①総株主の議決権の100分の1以上
または
②発行済株式の10分の3以上
公開会社 必要
非公開会社 不要
会社の解散請求権
833条
①総株主の議決権の10分の1以上
または
②発行済株式の10分の1以上
不要

剰余金配当請求権

剰余金とは、会社が積み上げてきた利益の合計です。毎年、利益を出している会社であれば、剰余金は増えていきます。一方、赤字決算が続くと利益剰余金は減少します。

そして、会社に残っている剰余金について「分けてください!」と請求する権利が剰余金配当請求権で、株主は単独で、会社に対して請求することができます。

利益配当請求権や配当請求という言い方もします。

残余財産分配請求権

企業が解散する際に、負債を返済しても、なお財産が残る場合、株主はその持ち株数に応じて残った財産の分配を受けることができる権利です

精算分配金という言い方もします。

例えば、100株発行している会社の財産が1億円あり、借金が6000万円あって、解散した場合、4000万円が残余財産です。そして、50株を持っている株主Aは、発行済株式の半分を持っているので、単独で、残余財産2000万円について、会社に対して請求することができます。

解散とは?

例えば、事業を引き継ぐ人がいなくて、会社をなくす場合、解散をします。

債務超過で会社をつぶすことは「破産」なので、破産とは違います。

そして、解散すると、その後、債権・債務の整理をします。資産のすべてを売却し、得られた資金で債権者に支払えるだけの弁済をし、残った財産(残余財産)は株主に分配します。

株主総会における議決権

株主は、株主総会で提案された議案に対して、賛成か反対かを表明する権利を持ちます。この権利が議決権です。

1単元株につき、1票の議決権を有しています。単元株未満の株主に対しては、それらの権利は認められていません。

単元株とは?

売買できるひとまとまりの株を言います。例えば、1000株が単元株の場合、1000株単位で売買することができ、900株の売買はできないということです。

そして、900株しか持っていない株主は、議決権を行使できない(議案に対する賛成反対の投票ができない)ということです。

株式買取請求権

株主が、会社に対して、自分が持っている株式の買取りを求めることができる権利を言います。

設立無効の訴えの提起権

株主会社の設立の無効事由・無効原因がある場合に、株主は、単独で訴えを提起できます。

株主総会の決議の取消しの訴え

下記いずれかに該当する場合、株主は単独で決議取消の訴えを提起できます。

  1. 株主総会等の招集手続又は決議方法が、法令違反もしくは定款違反、または著しく不公正なとき。
  2. 株主総会等の決議内容定款違反するとき。
  3. 株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき。

株主代表訴訟提起権

株主が、会社を代表して取締役・監査役等の役員等に対して法的責任を追及するために、訴えを提起できる権利を株主代表訴訟提起権と言います。

通常、株式会社は、取締役会や監査役等が、取締役等の役員を監督します。しかし、監査役も会社内部の人間であるため、なれ合いがあり、監査を怠る可能性も考えられます。このような場合、株主が会社に代わって取締役の責任を追及することができるように株主代表訴訟という制度があります。

例えば、取締役に任務懈怠があって(任務を怠って)、会社に損害を与えた場合、株主代表訴訟により、任務懈怠のあった取締役を訴えることも可能です。

>>株主代表訴訟の流れはこちら

株主総会の招集請求権

原則として、

取締役会設置会社においては、取締役会が株主総会の招集を決定し、代表取締役が業務執行として招集を行い、

非取締役会設置会社においては、取締役(二人以上の場合は過半数で決定する)が株主総会の招集を決定し、取締役が招集を行います(298条)。

しかし、役員の選解任、剰余金の配当など会社にとって、あまりやりたくない事柄について、取締役が株主総会を招集しようとしない場合があります。

そのような場合は、例外として、総株主の議決権の100分の3(3%)を有する株主も裁判所の許可を得て自ら株主総会を招集することができます(297条4項)。

※公開会社の場合、6か月前から引き続き株式を有している必要があります。つまり、公開会社について、株式を1か月で一気に買い増しをして、100分の3以上を取得したとしても、株主総会の招集を請求できません。

株主総会の議題提案権・議案提出権

まず、株主総会の「議題」と「議案」の違いですが、

「議題」は、株主総会の目的事項(大きなテーマ)です。例えば、「取締役選任の件」です。一方、

「議案」は、議題の中の具体的決議事項(細かい内容)です。例えば、「A氏を取締役に選任する」といった内容です。

そして、①総株主の議決権の100分の1、または、②300個以上の議決権を持つ株主は、株主総会の目的(議題)を提案する権利(議題提案権)を持ちます。

※公開会社の場合、6か月前から引き続き株式を有している必要があります。

また、株主単独でよいは、株主総会において、株主総会の目的である事項(議題)につき議案を提出することができます。つまり、「議題の中身(議案)」を提出できます。

株主総会の議案通知請求権

議案通知請求権とは、議題につき株主が提出しようとする議案の要領招集通知に記載または記録することを請求する権利(議案通知請求権)です。

総会当日に提出される議案をあらかじめ招集通知等に記載しておくことで、当該議案に対して株主達は一体的な議決権行使を行うことが可能になります。

何も知らないまま、総会当日に議案が提案されても、株主達の足並みがそろわず、否決に至ってしまう可能性があるのです。

そのため、事前にお知らせしてもらう制度(権利)があるわけです。

そして、①総株主の議決権の100分の1、または、②300個以上の議決権を持つ株主は、議題につき株主が提出しようとする議案の要領招集通知に記載または記録することを請求する権利(議案通知請求権)を持ちます。

役員解任請求権

役員の職務の執行に関し、不正の行為や法令違反・定款違反といった重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき

①総株主の議決権の100分の3以上、または、②発行済株式の100分の3以上を有する株主は、当該株主総会の日から30日以内に、訴えをもって当該役員の解任を請求することができます。

株主総会の招集手続に関する検査役の選任権

総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主は、株主総会に係る招集の手続及び決議の方法を調査させるため、当該株主総会に先立ち、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができます。

これは、株主総会の招集手続きや決議の方法についての不正を防いだり、不正があった場合の証拠保全のために行われます。

会社の解散請求権

やむを得ない事由があるときは、総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主又は発行済株式の10分の1以上の数の株式を有する株主は、訴えをもって株式会社の解散を請求することができる。

やむを得ない事由とは、例えば、株式会社が業務の執行において著しく困難な状況に至り、当該株式会社に回復することができない損害が生じ、又は生ずるおそれがあるときです。

<<設立に関する責任 | 株主平等の原則と例外>>

株主平等の原則と例外

株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければなりません(109条1項)。

株式の数に応じてとは?

上記「株式の数に応じて」平等といっているので、

100株持った株主A
200株持った株主B
500株持った株主C

がいた場合、株主Aに1万円の配当がある場合、

株主Bには2万円の配当があり、
株主Cには5万円の配当があります。

また、議決権についても同じように株主Aに100個の議決権があるとすれば

株主Bには200個の議決権があり、
株主Cには500個の議決権があることになります。

株式の内容に応じてとは?

株式には、権利の内容の異なる株式(種類株式)の発行が認められています。同一内容(同一の種類)の株式について、その中で平等に扱わないといけないということです。

株式平等原則の例外

非公開会社では、下記権利については、株主ごとに異なる扱いをする旨を定款で定めることができます(109条2項)。

  1. 剰余金の配当を受ける権利
  2. 残余財産の分配を受ける権利
  3. 株主総会における議決権

<<単独株主権と少数株主権 | 種類株式と特別の定めのある株式>>

設立に関する責任(財産価額填補責任、任務懈怠責任、会社不成立責任)

財産価額填補責任

現物出資または財産引受の対象となった財産の価額が定款に記載された価額に著しく不足するとき、誰が、不足分の責任を負うか?

現物出資者および財産引受の譲渡人の責任

現物出資や財産引受を行った発起人(本人)は、

原則:不足分に責任を負います

例外:総株主の同意がある場合は、免責です。

他の発起人および設立時取締役の責任

現物出資や財産引受を行っていない発起人や設立時取締役は

原則:発起人および設立時取締役は、株式会社に対して、連帯してその不足額を支払う義務を負います(52条1項)。・・・発起設立も募集設立も同じ

例外:発起設立①検査役の調査を経た場合、または、②発起人及び設立時取締役がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合には、免責となります(52条2項)。

※募集設立の場合、①のみ免責となり、②では免責とはならない。
つまり、募集設立の場合、注意したことを証明しても免責にならない!

例えば、発起人Aが現物出資したパソコンを定款で100万円と記載して、実際は、10万円の価値しかなかった場合、Aだけでなく、他の発起人Bや設立時取締役Cは、原則、連帯して差額の90万円を会社に支払う責任を負います。

【注意】 設立時監査役は、財産価額填補責任を負わない。

任務懈怠責任

発起人・設立時取締役・設立時監査役は、株式会社の設立について任務懈怠があり(任務を怠り)、そのことが原因で損害が発生した場合どうなるか?

「会社に対して損害を与えた場合」と「第三者に対して損害を与えた場合」の2つを考えます。

会社に対する責任

任務を怠った発起人・設立時取締役・設立時監査役は、会社に対して、損害賠償責任を負います(53条1項)。そして、複数の者が任務を怠った場合、これらの者は連帯して責任を負います(連帯債務)(54条)。

第三者に対する責任

任務を怠った発起人・設立時取締役・設立時監査役は、悪意又は重過失によって、第三者に損害を与えた場合、当該発起人等は、第三者に対して賠償責任を負い(53条2項)、複数のものが関与する場合、連帯責任となります(54条)。

会社不成立の責任

会社の不成立とは、設立手続きが進められてきたが、結局、設立登記まで至らなかった場合です。例えば、創立総会で設立廃止の決議がなされた場合等です。

この場合、発起人が全責任を負うため、発起人は、設立に関して支出した費用を負担しないといけません(56条)。

例えば、発起人A・Bがおり、募集設立を行い、引受人から出資を受けた場合、A・Bは、無過失でも、連帯して返還義務を負います。

設立無効と不成立の違いはこちら>>

設立に関する責任のまとめ表

<<設立無効、会社の不成立、設立取消の違い | 単独株主権と少数株主権>>

募集設立の手続きの流れ

募集設立の場合、発起人は株式引受人となりますが、残りの株式について株式引受人を募集します。

つまり、株式を引き受ける者が「発起人+募集で来た人」の場合、募集設立となります。

募集設立の流れ

  1. 発起人による出資の履行
  2. 株主の募集と割当て
  3. 引受人による払込み
  4. 創立総会
  5. 設立登記

発起設立との大きな違いは、引受人を募集するため、「2.株主の募集と割当て」「3.引受人による払い込み」「4.創立総会」がある点です。

1.発起人による出資の履行

1.発起人による出資の履行」については、発起設立を同じです。

2.株主の募集と割当て

まず、発起人は各自少なくとも1株の引受けをして、出資します(上記1の内容)。

その発起人全員の同意により、「募集株式の数(募集により引き受けてもらう株式数)」「その払込金額、払込期日、期間など」の募集の条件を定めます(58条1項・2項)。

その後、発起人が募集を行い、これに応じて株式を引き受けたい者が申込をし、申込を受けた発起人が、申込人に株式を割り当てます59条60条)。

株式の割当とは?

株式の割当とは、申込人に何株引受けさせるか、または引受けさせないかを決めることです。この割当は、発起人が自由に決めることができます

そして、割当を受けた申込人は、募集株式の引受人となり、出資手続きを行います(62条)。

3.引受人による払込み(出資)

株式引受人は、発起人の定めた払込期日内に払込金額全額の払込をしなければなりません(63条1項)。

もし、株式引受人が全額を払い込まない場合、株主となる権利を失います63条3項)。
※一部だけ払い込んでもダメです。

上記の通り、払い込まない引受人がいると、当初予定していた出資額よりも少なくなります。それでも、「出資される財産の最低額」を上回っていれば問題ありません。

もし、「出資される財産の最低額」を下回ってしまったら、設立無効となります。

払込金保管証明書

発起人は、払込取扱機関である銀行等に対して、払い込まれた金銭の保管に関する証明書(払込金保管証明書)の交付を請求することができます(64条1項)。

これは、銀行が、引受人が払い込んだ出資金を預かっていることを証明するものです。
そして、この証明書を発行した銀行は、その記載内容が異なっていても、また、払い込まれた金銭を引受人に返還する特約が付いていたとしても、その旨を成立後の株式会社に対抗することはできません(64条2項)。

これは払込を仮装することを防止するためにあります。

つまり、引受人と銀行がグルになって、出資金を払い込んだことにする仮装行為を防止するためです。

4.創立総会

募集設立の場合、発起人以外に、募集によって株式を割り当てられた者(設立時株主)もいます。そのため発起人だけで設立を進めることは適当ではないので、発起人と設立時株主全員によって構成される創立総会による決議を行います。

設立事項の報告

創立総会では、はじめに、発起人が、株式会社の設立に関する事項(設立の経過)を創立総会に報告しなければなりません(87条1項)。

報告内容については、例えば、相対的記載事項(変態設立事項)が定められている場合には、検査役の報告、現物出資、財産引受についての弁護士の証明などです。

検査役とは?

検査役とは、相対的記載事項がある場合に、発起人は、公証人の認証の後遅滞なく、相対的記載事項を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをし、裁判所によって選任された者です(33条1項2項)。

設立時取締役等の選任

発起人は、払込期日後、遅滞なく、創立総会を招集しなければなりません(65条)。

創立総会では、決議により設立時取締役等を選任します(88条)。

創立総会の決議要件

創立総会の決議は、議決権を行使することができる設立時株主の議決権の過半数であって、かつ、出席した当該設立時株主の議決権の3分の2以上の多数をもって行います(73条)。

5.設立登記

創立総会の終結の日から2週間以内に設立の登記を行うことで、株式会社が成立します(911条2項)。

<<発起設立の手続きの流れ | 設立無効、会社の不成立、設立取消の違い>>

設立無効、会社の不成立、設立取消の違い

始めに、まとめた表を示して、あとで細かく解説していきます。

株式会社に設立取消しの制度はないので、表には入れていないですが、下記で解説しています。

株式会社は、設立登記によって成立しますが、その設立の手続きに無効原因があった場合はどうなるか?

民法では、法律行為が無効の場合、誰でも、また、いつでも主張できるのが原則です。

しかし、会社法(会社の設立)では、設立無効の訴え(裁判上の手続き)によってのみ主張することができます。

そして、会社法では、下記内容を定めています。

  1. どういった場合に設立無効の訴えが提起できるか?(無効原因・無効事由
  2. いつまで設立無効の訴えを提起できるか?(提訴期間
  3. 誰が設立無効の訴えを提起できるか?(提訴権者

上記3つを一つ一つ見ていきます。

無効原因・無効事由

設立が無効となる例として、行政書士の試験対策として、下記を覚えておけばよいでしょう。

  1. 定款の絶対的記載事項が欠けている
  2. 公証人による定款認証が無い
  3. 募集設立における創立総会が適法に開催されていない
  4. 定款で定める出資される財産の最低額を下回っている

提訴期間

株式会社の設立無効の訴えは、会社の成立の日から2年以内に提起しなければなりません(828条1項1号)。

提訴権者

設立無効の訴えは、株主取締役監査役執行役清算人に限られます。
※会社の債権者は、設立無効の訴えを提起できません

清算人とは?

清算人とは、会社が解散した場合に、会社の債権債務の関係を整理し、残った財産を株主に分配する人です。簡単に言えば、解散後の後処理をする人です。

清算人は、下記の者がなります。(478条1項2項)

  1. 定款で定める者
  2. 株主総会の普通決議によって選任された者
  3. これらの者がないときは、清算開始時の取締役
  4. これらにより清算人となる者がいないときは、裁判所が選任した者

設立無効の被告は、会社となります(834条1号)。

判決の効力

設立無効の判決(請求認容判決)がなされて、設立無効が確定すると、第三者に対しても設立無効の判決の効力が及びます(838条)。

つまり、株主Aが設立無効の訴えを提起して、認容判決が確定した場合、A以外の株主や取締役等にも設立無効の効力が生じるわけです。そうしないと、訴えを提起していない株主にとっては会社が存続するというおかしなことになります。

判決の効力は遡及しない

設立無効の判決の効力は将来に向かってのみ効力を生じます(839条)。

つまり、会社が成立して、訴えの提起をして、設立無効判決が確定した場合、判決が確定したときから、会社の設立の効力を失い、会社の解散の場合と同じく精算が行われます。

設立取消し

株式会社に設立取消しの制度はありません

設立取消の訴えは、持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)の場合に、持分会社の社員や債権者が提起できます(832条)。

持分会社の設立取消しの訴えは、持分会社の成立の日から2年以内に行えます(832条)。この点は「設立無効の訴え」と同じです。

また、判決の効力についても、「設立無効の訴え」と同じく、設立取消の判決の効力は将来に向かってのみ効力を生じます(839条)。

会社の不成立

会社の不成立とは、設立手続きが進められてきたが、結局、設立登記まで至らなかった場合です。例えば、創立総会で設立廃止の決議がなされた場合等です。

この場合、発起人が全責任を負うため、発起人は、設立に関して支出した費用を負担しないといけません(56条)。

例えば、発起人A・Bがおり、募集設立を行い、引受人から出資を受けた場合、A・Bは、無過失でも、連帯して返還義務を負います。

設立無効と不成立の違い

設立無効は、設立登記はされ、いったん会社は成立しているのに対して

会社の不成立は、そもそも設立登記まで至らず、会社は一度も成立していない。

<<募集設立の手続きの流れ | 設立に関する責任>>

発起設立の手続きの流れ

設立の種類

株式会社の設立には、発起設立と募集設立の2つがあります。

発起設立とは、発行する株式のすべてを発起人が引き受ける設立です。

募集設立とは、発起人と募集した株主の両方が株式を引き受ける設立です。

このページでは発起設立の手続きについて解説をしていきます。

発起設立の流れ

発起設立の大まかな流れは下記の通りです。

  1. 発起人による出資の履行
  2. 設立時取締役等の選任
  3. 設立時取締役等による設立に関する調査
  4. 設立登記

1.発起人による出資の履行

まず、設立の際の株式(設立時発行株式)に関する事項のうち、下記3つについて発起人全員の同意により定めます(会社法32条)。

  1. 発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数
  2. 発起人が割当てを受ける設立時発行株式と引き換えに払い込む金銭の額
  3. 成立後の株式会社の資本金および資本準備金に関する事項

発起設立の場合、発起人が上記設立時発行株式をすべてを引き受けます。

そして、
発起人は引き受け後遅滞なく、金銭の全額を払い込み
現物出資をする発起人は金銭以外の財産の全部を給付しなければなりません(34条1項)。

例えば、設立時発行株式の数を1000株(1株1万円)、発起人がAとBの2人いて、それぞれ500株ずつ引き受けるとすると、発起人AとBはそれぞれ500万円ずつ払い込むということです。

発起人は、金銭ではなく500万円相当の土地で現物出資をすることも可能です。

そして、発起人全員の同意があるときは、登記、登録その他権利の設定又は移転を第三者に対抗するために必要な行為は、株式会社の成立後に行ってもよい(34条2項)。
つまり、「土地で出資した発起人」は、土地の移転登記は株式会社成立後に行えばよい、ということです。

発起人はこの出資を履行すれば、会社成立時に株主となります(50条1項)。

2.設立時取締役等の選任

出資の履行が完了すると、会社の機関を確定させていきます。

会社の機関とは、会社の「意思決定」「業務執行」「取引」などを実際に行う「自然人(ヒト)、自然人の集まり」です。

発起人は、出資の履行が完了した後、遅滞なく設立時取締役等を選任しなければなりません(38条1項)。

この選任は、発起人の議決権の過半数を持って決定します(40条1項)。

3.設立時取締役等による設立に関する調査

設立時取締役はその選任後遅滞なく、出資の履行が完了しているか等の設立事項の調査をしなければなりません(46条1項)。

あくまでも、設立時取締役は、調査をするだけで、設立登記によって会社が成立するまでの間に色々な仕事を行うのは(執行機関は)発起人です。

※設立時取締役は、通常の会社の取締役とは異なり、業務の執行機関(実際の業務に携わる機関)ではない!

設立時取締役の調査により、法令違反や定款違反不当な事項があれば、発起人にその旨を通知しなければなりません(46条2項)。

4.設立登記

株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立します(49条)。

もし、定款に「発行可能株式総数」を定めていない場合は、この設立登記の時までに、発起人全員の同意によって定款変更して定める必要があります。

<<株式会社の設立(定款の内容等) | 募集設立の手続きの流れ>>

株式会社の概要

現代社会において、会社というと、多くが株式会社です。

そして、会社法においても、この株式会社に関する規定が非常に多いので、まず、株式会社がどういった会社なのかを理解することは非常に重要になります。

この株式会社を理解する上で、重要となってくる用語が「株主」と「株式」です。
また、「資本金」についても、簡単に解説します。

株主と株式

株主とは、分かりやすく言えば、株式会社のオーナーの集まりです。

株式会社が事業を始めるには、事業資金が必要です。その事業資金を提供しているのが株主です。

そして、上記事業資金を調達するために、株式会社は、株式を発行します。

例えば、1株1万円の株式を1000株発行した場合、この株式会社は

1万円×1000株=1000万円

を資金調達できるということです。

そして、この株式を持っている人が株主となるわけです。

株主の間接有限責任

間接有限責任とは、出資者(株主)は出資額を限度として責任を負う、ということです。

言い換えると、株主は会社に対して出資をしたら、そのお金は、無くなる可能性はありますが、それ以外に株主会社の債権者から直接責任の追及をされることはない、ということです。

分かりやすく言えば、出資したお金で責任をとるだけで、それ以上に責任は取らなくてもよいということです。

例えば、株主Aが株主会社Xに対して、10万円を出資した。

株式会社Xが、B銀行から100億円を借り、事業を運営していたが、事業が行き詰まり、破産してしまった。この場合、債権者であるB銀行は、株主Aに対して、損害賠償請求や貸金返還請求はできません。

もちろん、株主Aの出資した10万円は返ってこないでしょう。

つまり、一番上で説明した通り、「出資者(株主)は出資額を限度として責任を負った」ということです。

資本金

資本金とは、株式会社の設立時点において会社が所有している運転資金です。

上記事例でいうと、1株1万円の株式を1000株発行して、1000株すべてを引き受けてもらって、株主(引受人)が払い込みをしたら、会社としては、1000万円集まるわけです。

この1000万円が資本金です。

始めはこのくらいの理解で十分です!

これから行政書士の試験に対応するために、どんどん深い内容に入っていきます!

<<場屋営業 | 株式会社の設立(定款の内容等)>>

株式会社の設立(定款の内容等)

株式会社の設立については、非常に細かいです。そのため、全体像を理解した上で、あとで、細かい部分を押さえていく方が効率的です。

今回は、株式会社の設立についての用語の解説をしていきます。

具体的な設立の手続きについては、次回解説します。

株式会社の成立要件

会社の設立というのは、会社を成立させることです。

会社を成立させるには、下記4つが必要となります。

  1. 定款(会社のルール)
  2. 社員(株主)
  3. 資金の出資(会社の事業資金)
  4. 会社の機関(取締役などの会社を運営する上で必要な機関)

定款とは?

定款とは、会社のルールです。

「定款を作成する」とは、この定款(ルール)の内容を決めて、書面または電磁的記録(データ)にすることを意味します。

そして、株式会社の場合、定款は公証人の認証を受けなければ効力を生じません30条)。

公証人とは?

公正証書を作成したり、定款の認証を行ったりする人ですが、

裁判官、検察官、弁護士あるいは法務局長や司法書士など長年法律関係の仕事をしていた人の中から法務大臣の任命を受けた者です。

公証役場というところで、働いているのですが、ネットで調べると、あなたの住んでいる町にも公証役場はあると思います。

定款の内容

定款には、

  1. 絶対に記載(規定)しなければならない内容=「絶対的記載事項
  2. 定めなくても定款が有効だが、定款に定めておかないと、その内容の効力が認められない内容=「相対的記載事項(変態設立事項ともいう)」
  3. 定款で定める必要はなく、定款外で定めても有効な事項だが、定款に定めることによって変更する際に、定款変更の手続きのルールが適用され、変更しづらくなる内容=「任意的記載事項

絶対的記載事項

定款には下記6つを必ず記載しなければなりません。

  1. 会社の目的(どんな事業を行うか?)
    →例えば、不動産管理業、不動産仲介業、不動産の売買
  2. 商号
  3. 本店の所在地
  4. 設立に際して出資される財産の価額または最低額
  5. 発起人の氏名・名称および住所
  6. 発行可能株式総数

設立に際して出資される財産の価額又はその最低額

出資される財産の価額とは、発起人が出資する価額が決まっている場合、その価額の合計額がこれに当たります。例えば、発起人(のちの株主)が3人いて、1人あたり500万円を出資する場合、「設立に際して出資される財産の価額」は1500万円となります。

※出資できるのは、「お金」に限りません。「価値のある物(例えば、パソコンとか)」も出資できます。このように物を出資することを現物出資と言います。

出資される財産の最低額とは、発起人が決まっていても、出資する金額が決まっていない場合に、事業を運営するために必要な財産の最低額を指します。事業を開始して、1か月で倒産しました、とならないために、最低額を決めておきます。

もし、この最低額を下回った場合設立無効となります。

発起人とは?

発起人とは、株式会社を設立する人です。場合によっては複数の人が発起人として設立することもあります。

また、法人が発起人になることも可能です。

そして、発起人少なくとも1株以上の株式を引き受けなければなりません(25条2項)。

発行可能株式総数

会社が発行することができる株式の総数が発行可能株式総数です。

そして、定款認証の際に、発行可能株式総数が決まっていなくても大丈夫ですが、

設立登記の時までに、発起人全員の同意によって定款変更して定める必要があります。

相対的記載事項(変態設立事項)

下記内容は定めなくても定款が有効だが、定款に定めておかないと、その内容の効力認められません。

  1. 現物出資
  2. 財産引受
  3. 発起人の報酬等
  4. 設立費用

現物出資

現物出資とは、金銭以外の財産による出資です。パソコンや机などの動産や、土地や建物などの不動産なども含みます。

金銭(お金)については、その金額が価額となるので分かりやすいですが、パソコンや机、土地・建物などの現物は、その価額が分かりづらいです。

そして、価額に応じて株式を与えるため、例えばパソコンを100万円として株式を与えたりしたら、不公平です。そのため、誰が何を出資して、価額はいくらとして、株式をどれだけ与えたかを定款に記載しておくわけです。

もし記載がない時は現物出資は無効となります。

財産引受

例えば、発起人A・B・Cが株式会社甲を設立しようと考えており、会社が設立したら、第三者Xから、X所有の建物を譲り受ける契約(甲X間の売買契約)をしたとします。

これを財産引受と言います。

もし、X所有の建物が500万円の価値しかないにも関わらず、2000万円で株式会社甲が購入する契約をした場合、株式会社甲は、設立後、1500万円の損失を被り、開業直後に経営危機になることもあり得ます。

そのため、財産引受については、財産とその価格、譲渡人の氏名を定款に記載しなければ、無効となります。

発起人の報酬等

発起人の報酬等とは、会社を設立させたことに対する報酬です。不当に高額報酬を定めると、会社の財産が不当に流出する危険性があるため、定款に記載しないと無効になります。

設立費用

設立費用とは、会社が負担する設立中に支出する費用です。例えば、事務所の賃料や株式申込書の印刷費用等です。

ただし、定款認証費用といった、会社に損害を与える可能性がないものは除きます。

これらを記載しないと、会社に対して、設立費用を過大に請求されて、会社の財産が不当に流出する危険性があるため、定款に記載しないと無効になります。

任意的記載事項

任意記載事項は、定款で定める必要はなく、定めなくても、定款自体無効とはなりません。

そして、定款外で定めても有効な事項だが、定款に定めることによって変更する際に、定款変更の手続きのルールが適用され、変更しづらくなります。

例えば、「取締役の員数」を定めた場合です。

もし、取締役の員数について定款で定めていない場合、この員数を変更する場合、株主総会の普通決議で行いますが、定款に定めれば、特別決議となり、変更が難しくなるということです。

<<株式会社の概要 | 発起設立の手続きの流れ>>

運送人

商法第569条(運送人)
運送人とは陸上又は湖川、港湾において物品又は旅客の運送をなすを業とする者をいう。

運送人とは、物品運送旅客運送に分かれます。

物品運送は、ヤマトや佐川急便など

旅客運送は、JRや私鉄、バス会社等をイメージすると分かりやすいです。

運送状と貨物引換証

商法第570条
荷送人は運送人の請求により運送状を交付することを要す
2 運送状には下記事項を記載し、荷送人はこれに署名することを要す
一 運送品ノ種類、重量又ハ容積及ヒ其荷造ノ種類、個数並ニ記号
二 到達地
三 荷受人の氏名又は商号
四 運送状の作成地及の作成の年月日

570条を分かりやすくいうと、
荷送人とは「荷物の発送を依頼する人(発送元)」です。

荷送人は、運送人(ヤマト等)から請求されて、上記2項の運送状(宛先などを記載したもの)を、運送人に交付しなければなりません。

これがないと、どこの誰に運んでいいか分からないです。

商法第571条
運送人は荷送人に、請求により貨物引換証を交付することを要す
2 貨物引換証には下記事項を記載し運送人はこれに署名することを要す
一 前条第2項第1号~第3号の事項
二 荷送人の氏名又は商号
三 運送賃
四 貨物引換証の作成地及び作成の年月日

571条を分かり言えば、運送人は、荷送人から荷物を預かった時に、荷送人から請求があれば「貨物引換証」を交付しなければなりません。

これは、運送人が運送物を受領したことを証明するものです。

運送賃請求権

商法第576条(運送品滅失と運送賃)
運送品の全部又は一部が不可抗力に因りて滅失したるときは、運送人は、其運送賃を請求することを得ず。若し運送人が既に其運送賃の全部又は一部を受取りたるときは之を返還することを要す。
2 運送品の全部又は一部が其性質、若くは瑕疵又は荷送人の過失に因りて滅失したるときは、運送人は運送賃の全額を請求することを得。

576条を分かりやすく言えば、荷物が不可抗力(例えば、津波等)によって無くなった場合、運送人は運送賃を、荷送人(依頼者)に請求できない、ということです。

また、事前に運送人が運送賃を受領している場合は、荷送人に返還しないといけません。

2項を分かりやすく言えば、例えば、液体の運送品で口が閉まっていなくてすべて漏れてしまった場合、荷送人の過失(落ち度)によって運送品がなくなっているので、荷送人が悪いです。そのため、運送人は運送賃の全額を請求できます。

運送人の損害賠償責任

商法第577条
運送人は、自己若くは運送取扱人又は其使用人其他運送の為め使用したる者が運送品の受取、引渡、保管及び運送に関し注意を怠らざりしことを証明するに非ざれば、運送品の滅失、毀損又は延著に付き損害賠償の責を免るることを得ず。

577条を分かりやすく言えば、運送品が無くなったり、壊れたりしたときには、運送人が、運送品を受取るとき、引き渡すとき、保管するとき、運送するときにおいて注意を怠っていないことを証明できなければ、その損害賠償責任を負うとしています。

つまり、運送人がきちんと注意していたことを証明できれば、損害賠償責任を免れるということです。

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場屋営業

場屋営業(じょうおくえいぎょう)とは、お客様が集まる設備を設けて、そのお客様にその設備を利用させることを目的とする営業をいいます。例えば、旅館、飲食店、銭湯などです。

寄託を受けた物品に関する責任

寄託とは、「預ける」という意味です。

場屋営業者は、お客様から預かったモノ(寄託を受けた物品)を滅失(無くしたり)または毀損させた(壊した)場合、不可抗力が原因であることを証明できない限り損害賠償責任を負います。(594条1項

分かりやすく言えば、

場屋営業者は、注意していたことを証明できたとしても、不可抗力が原因でない場合は、損害賠償責任を負います。

また、場屋営業者が不可抗力が原因であることを証明できれば、損害賠償責任を免れます

寄託を受けていない物品に関する責任

場屋営業者は、お客様から預かっていないモノであっても、お客様が場屋内(施設内)に携帯したモノが、場屋営業者またはその使用人の不注意によって滅失または毀損したときは、場屋営業者は損害賠償責任を負います。

分かりやすく言えば、

お客様から預かっていない場合でも、場屋営業者または従業員の不注意で、そのモノが壊れたり、なくなったりした場合、場屋営業者は責任を負わなければならない、ということです。

逆を言えば、注意をしていれば、場屋営業者は責任を負いません

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