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損失補償

損失補償とは?

損失補償とは、適法な公権力の行使によって加えられた財産上の特別の犠牲に対して、公平負担の見地からこれを調整するためにする財産的補償です。

例えば、バスが通る道路にも関わらず、狭い道路のため、道路を拡幅する都市計画が決定されたとします。すると、その狭い道路の両側の土地の所有者は、強制的に、土地の一部を収用(買取・買収)されてしまいます。

これは、違法行為ではなく、都市計画法等の法律によって行われるため、適法な公権力の行使です。

この場合、買収された土地部分については、補償を受けることができる(その分、お金をもらうことができる)ということです。

※違法な公権力の行使による損害は、国家賠償法1条が適用されます。

損失補償と憲法の関係

損失補償の根拠は、日本国憲法29条3項です。

日本国憲法29条3項
私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

国家賠償については、国家賠償法という一般法が存在しましたが、
損失補償については、損失補償法といった一般法は存在しません。
そのため、個別法の中で、損失補償が置かれています。ただし、個別法で損失補償の規定が置かれていない場合も、上記憲法29条3項を直接適用して、補償請求をする余地はあります。

損失補償の規定がある特別法

正当な補償とは?(相当補償と完全補償)

上記憲法29条3項には「正当な補償」と規定されています。正当な補償とは、どの程度の補償なのかが問題になってきます。

この点について、「相当補償説」を採る判例と「完全補償説」を採る判例があります。

相当補償説をとる判例

「正当な補償とは、その当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基づき合理的に算出される相当な額をいう」(最大判昭28.12.23:農地改革訴訟)としています。この考え方を「相当補償説」と言います。

相当補償説の考え方は、時価(一般的な取引価格)よりも低額の価格を保障すればよいことになります。

この判例の背景として、戦前、大地主が小作人に農地を貸して、農業を行われていたが、戦後、国が全国の大地主(たくさん土地を持つ人達)から土地を買い上げ、安い価格で小作人に売渡し、自作農民を増やす改革を行いました。その時の大地主への補償が上記相当補償説です。

完全補償説をとる判例

土地収用法による損失補償の判例(最判昭48.10.18)では「土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によって当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復をはかることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもって補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要する」としています。この考え方を「完全補償説」と言います。

完全補償説の考え方は、財産の客観的価値が全部保障されることになります。

相当補償 その当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基づき合理的に算出される相当な額が保障される
完全補償 財産の客観的価値が全部保障される

補償の方法

補償は、原則、金銭をもって支払われます。例外として、土地収用法は、付近の代替地の提供による補償も認めています。

原則 金銭
例外 土地収用法では、代替地の提供でもよい

補償の範囲(付随的損失の補償)

実際、土地収用がなされる場合、収用の対象となる土地の対価を補償するだけでは不十分な場合もあります。例えば、収用された土地で飲食店を営業していた場合、移転費用や営業上の損失などの付随的損失が生じることもあります。これも含めないと完全補償とはならないので、これらの付随的損失も補償対象となります。

損失補償を請求する場合の訴訟の種類

憲法29条3項を直接根拠として、国または公共団体に補償を請求する場合、公法上の法律関係に関する訴訟なので、実質的当事者訴訟に当たります。

一方、土地収用における損失補償の増額を請求する場合、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令(土地収用法)の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするものなので、形式的当事者訴訟に当たります。

補償の要件

上記以外にも、どのような場合に補償されるのかも問題になってきます。

この点について、判例(最判平17.11.1)では、「一般的に当然に受忍すべきものとされる制限の範囲を超えて特別の犠牲を課せられたものということがいまだ困難であるから、直接憲法29条3項を根拠として上記の損失につき補償請求をすることはできない」として、社会的制約として受忍すべき限度を超えていて、かつ、それが平等原則に反するような個別的負担である特別の犠牲に当たる場合は補償すべきだとしています。

つまり、下記2点を基準にして、2つとも満たす場合に限って損失補償するということです。

  1. 特定の人に制限を課するものか?(形式的基準)
  2. 受忍限度を超えた制約か?(実質的基準)

<<国家賠償法6条(相互保証主義) | 地方自治法>>

国家賠償法2条(営造物の設置・管理の瑕疵に基づく賠償責任)

国家賠償法1条では、「公務員による違法な公権力の行使」という行為に着目しました。一方、国家賠償法2条では、「営造物の設置管理の瑕疵」という物の状態に着目します。

国家賠償法
第二条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。

行政書士の試験では、まず、「公の営造物」とは何か?を頭に入れる必要があります。その後、瑕疵に関する具体的な判例を覚えれば得点できます。

公の営造物とは?

「公の営造物」とは、公の目的に供されている有体物を言います。
「有体物」とは「物や設備」と考えていただいて大丈夫です。

そして、「公の営造物」と「公物」は同義(同じもの)で、大きく分けて「自然公物」と「人工公物」があります。

自然公物 河川、湖、沼、海、砂浜等
人工公物 道路、上下水道、庁舎、庁舎内の机・椅子、校舎、公用車、けん銃等

行政書士試験における注意点

公の営造物かどうかの判断基準は「公の用に供されているか(国民みんなが使うものか)」です。

つまり、所有権が誰かは問題ありません。

例えば、道路が私道(私人が所有する道路)であっても、公の用に供されているのであれば、公の営造物です。このように、私人が所有する公の営造物を「私有公物」と言います。

一方、公の用に供されていない国公有地などは、公の営造物に含みません。
(=行政活動に用いられていない「普通財産」は、公の営造物に含まれない)

そして、判例(最判昭59.11.29)では、「公の営造物の設置又は管理は、必ずしも国又は公共団体が法律上の権限に基づいて行うことを要せず事実上これを管理することになったときは管理責任を負う。」としています。例えば、上記私道もこれに当たる場合があります。私道のため、法律上は、国や地方公共団体は、管理義務がありません。しかし、事実上、私道を管理する場合、国や地方公共団体が管理責任を負います。

設置又は管理の瑕疵とは?

公の営造物の「設置又は管理の瑕疵」とは、公の営造物が通常有すべき安全性を欠いていることを言います。これは、客観的な瑕疵が存在すれば足り、損害の発生に関して設置者や管理者の過失の有無は関係ありません(無過失責任)。つまり、設置者や管理者に過失(落ち度)がなかったとしても、公の営造物の設置に瑕疵があったり、管理に瑕疵があれば、国等が賠償責任を負うことになります。

ただし、地震や大洪水といった自然災害のような不可抗力から生じた損害について、国賠法の対象にはなりません

この点は具体例として判例を勉強していくとよいでしょう。

瑕疵に関する判例

  • 工事標識板が道路上に倒れたまま放置され、道路の安全性を著しく欠如する状態であったとしても、時間的に道路を安全な状態に復旧するのが不可能な場合、管理に瑕疵があったと認めることはできない。(最判昭50.6.26)
  • 道路の瑕疵の判断について、国や公共団体が予算不足だからといって、免責にはならない(最判昭50.7.25)
  • 故障車が国道上に長時間にわたって放置され、道路の安全性を著しく欠如する状態であったにも関わらず、道路の安全性を保持するために必要な措置を全く講じなかった場合道路の管理に瑕疵があると認められる。(最判昭50.7.25)
  • 営造物自体に危険性がなくても、一定の限度を超える営造物の利用によって、利用者や第三者が損害を受ける危険性がある場合には、その営造物には設置又は管理の瑕疵があると認められる。(最判昭56.12.16)
    →利用者以外の第三者に対する損害も対象となりえる
  • 瑕疵の存否については、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものである。(最判昭61.3.25:「点字ブロック」と「設置管理の瑕疵」
    →これは、点字ブロックを駅のホームに設置していなかったことで、視力障害者がホームから転落した事故において、点字ブロックがなかったことが営造物の瑕疵に当たるかの判断基準の一つとして、この点字ブロックの普及の程度も考慮に入れるとしています。
  • 普通河川の管理について、普通地方公共団体の条例で、河川法の適用河川や準用河川(普通河川よりも大きい河川で国等が管理する河川)より厳しい管理を定めることは、河川法に違反するので、許されない。(最判昭53.12.21)
  • 未改修河川は、単に物的安全性の有無によってのみ管理の瑕疵が判断されるのではなく、原則として過渡的安全性(一時的な対策)で足りる。(最判昭59.1.26:未改修河川の安全性(大東水害訴訟))
  • 改修済み河川改修がなされた段階で想定されていた洪水に対応できる安全性を備えていたかどうかを基準とする。(最判平2.12.13:改修済河川の安全性(多摩川水害訴訟)
  • 国家賠償法2条1項にいう「公の営造物の設置又は管理に瑕疵」があるとは、公の営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、右の安全性を欠くか否かの判断は、当該営造物の構造、本来の用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきである。本来の用法に従えば安全である営造物について、これを設置管理者の通常予測し得ない異常な方法で使用した場合、国などは国家賠償法2条の責任を負わない最判平5.3.30:テニスコート審判台転倒事件

国賠法2条の求償

「公の営造物の設置又は管理に瑕疵があった」と認められる場合、国賠法2条の責任が成立し、被害者は、営造物の設置管理する国や公共団体に対して損害賠償を請求できます。そして、国や公共団体が賠償した場合、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償することができます。

営造物の設置者・管理者と費用の負担者が異なる場合(国賠法3条)

例えば、河川とダムについてA県が河川管理者として管理していて
その費用の2分の1は国が負担しているとします。
そして、「A県職員であるB」の誤ったダムの放流操作によって、周辺住民に損害を与えてしまった場合、A県だけでなく、国(費用負担者)も損害賠償責任を負います

そして、賠償した者は、責任になる者に対して求償することができます。例えば、上記事例で、国が損賠賠償した場合、国は、A県に求償できます。

国家賠償法
第三条 前二条の規定によつて国又は公共団体が損害を賠償する責に任ずる場合において、公務員の選任若しくは監督又は公の営造物の設置若しくは管理に当る者と公務員の俸給、給与その他の費用又は公の営造物の設置若しくは管理の費用を負担する者とが異なるときは、費用を負担する者もまた、その損害を賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、損害を賠償した者は、内部関係でその損害を賠償する責任ある者に対して求償権を有する。

<<国家賠償法1条(公権力の行使に基づく賠償責任) | 国家賠償法4条(国家賠償法と民法の関係)>>

国家賠償法と民法の関係(国家賠償法4条)

国家賠償法1条では、公務員による公権力の行使によって他人に損害を与えた場合の国または公共団体の賠償責任を規定しており、
国家賠償法2条では、公の営造物の設置・管理の瑕疵によって他人に損害を与えた場合の国または公共団体の賠償責任を規定しています。

そして、今回解説する、国家賠償法4条では、①公権力の行使とは言えない場合の損害や②公の営造物に該当しない場合の損害については、民法のルールが適用されると規定しています。

国家賠償法第四条
国又は公共団体の損害賠償の責任については、前三条の規定によるの外、民法の規定による。

使用者責任の適用

例えば、公務員が、庁舎間を車で移動中に事故を起こしてしまった場合、民法715条の使用者責任が適用されます。
→車の運転は、公権力の行使とは言えないから。

工作物責任の適用

例えば、「老朽化してすでに使用されていない市営住宅」の塀が崩れて、通行人に損害を与えてしまった場合、民法717条の工作物責任が適用されます。
→「老朽化してすでに使用されていない市営住宅」は、公の目的のために使用されているわけではないので、公の営造物に該当しないから。

その他の民法の適用

上記以外にも、過失相殺(民法722条)、不法行為による損害賠償請求権の期間の制限(724条)なども適用されます。

失火法の適用(国賠法5条)

上記民法の中には、失火法といった特別法も含みます。

例えば、消防職員の消火ミスによって火災の再燃について判例(最判昭53.7.17)では「公権力の行使にあたる公務員の失火による国又は公共団体の損害賠償責任については、国家賠償法四条により失火責任法が適用され、当該公務員に重大な過失のあることを必要とするものといわなければならない。」としています。

<<国家賠償法2条3条 | 国家賠償法6条(相互保証主義)>>

国家賠償法1条(公権力の行使に基づく賠償責任)

国家賠償法1条は、条文の内容とその判例が、行政書士の試験で問われます。そのため、条文と判例を見ていきます。個別の判例については、リンク先が具体例となっています。

国家賠償法
第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

国家賠償責任の法的性質

上記国家賠償法(国賠法)1条の条文の通り、公務員の職務上の行為で、他人に損害を与えた場合、国や公共団体が賠償責任を負うことになっています。つまり、本来公務員が負うべき責任を国や公共団体が代わって賠償責任を負うこととしています。これを代位責任と言います。

加害者の特定性

代位責任説によると、違法行為を行った公務員自身に損害賠償責任が生ずることが前提なので、論理的に考えると、加害者が特定できない場合、損害賠償責任を問えないことになります。しかし、被害者保護の観点から、厳密な特定までは不要としています(最判昭57.4.1:「加害行為の不特定」と「国等の損害賠償責任」)。

公共団体とは?

公共団体とは、地方公共団体(都道府県や市町村)、公共組合(土地区画整理組合、国民健康保険組合)、独立行政法人だけでなく、弁護士会も含まれます。

国家賠償法1条の要件

国賠法1条に基づく責任が生ずるための要件は、下記5つです。

  1. 公権力の行使にあたる公務員の行為であること
  2. 公務員が「職務を行うについて」行った行為であること
  3. 公務員に故意または過失があること
  4. 公務員の行為が違法であること
  5. 損害が発生したこと

上記の中において、行政書士で重要なキーワードを抜粋すると、下記6つです。これから細かく解説していきます。

  1. 公務員
  2. 公権力の行使
  3. 職務を行うについて(職務関連性)
  4. 故意または過失
  5. 違法(違法性)

公務員

公務員とは、地方公務員、国家公務員はもちろん、「公権力の行使」に当たる行為を行う民間人も含まれます。

例えば、建築確認を行う民間の指定確認検査機関による建築確認により、相手方に損害を与えてしまった場合、地方公共団体が国家賠償責任を負う判例(最判平17.6.24)があります。つまり、建築確認という公権力の行使を行う「指定確認検査機関」も「公務員」として扱っているわけです。

また、弁護士会の懲戒委員会の委員が、弁護士に対して懲戒処分する場合、当該委員は、懲戒処分という一種の公権力の行使を行っているため、当該委員を「公務員」として、弁護士会(公共団体)が賠償責任を負う判例(東京高判平19.11.29)があります。

公権力の行使

公権力の行使とは、国賠法1条では、「国家賠償法2条の対象となるもの(公の営造物の設置・管理)および私経済作用を除くすべての行政作用」を指します(判例・通説)。

分かりやすく言えば、下記2つ以外のすべての行政作用ということです。

  1. 国家賠償法2条の対象となるもの(公の営造物の設置・管理)
  2. 私経済作用

私経済作用とは?

例えば、「国公立病院が行う医療行為」や「公務員が事務用品を購入する行為」が私経済作用で、民法が適用されます。これらの行為は、私人と同等の立場で行い、公権力の行使とは言えないからです。

上記の通り、「国家賠償法2条の対象となるもの」および「私経済作用」を除くすべての行政作用なので、「行政手続法における公権力の行使」、「行政不服審査法における公権力の行使」、「行政事件訴訟法における公権力の行使」と比べて、国賠法1条の方が対象範囲が非常に広くなるわけです。

公権力の行使の具体例

国賠法1条では、下記行為も公権力の行使として損害賠償の対象となります。

  • 行政指導
  • 国公立学校・市立学校の教育活動(最判昭58.2.18、最判昭62.2.6、最判平5.2.18)
  • 国会議員による立法行為(最判昭60.11.21、最判平17.9.14)
  • 裁判所による裁判(最判昭57.3.12)
  • 「拘置所職員たる医師」による「拘留されている患者」に対する医療行為(最判平17.12.8)
  • 県から委託を受けた社会福祉法人の施設職員による養育監護行為(最判平19.1.25)

公権力の行使に該当しない場合どうなるか?

公権力の行使にあたる 国家賠償法1条の対象
公権力の行使にあたらない 民法709条不法行為責任)の対象

職務を行うについて(職務関連性)

国賠法1条では、公務員が、職務上の行為によって、国民に損害を与えた場合を対象としているのですが、加害行為が職務で行われた場合はもちろん、職務との間に一定の関連性職務関連性)があればよいとしています。

外形標準説(外形理論)

また、判例(最判昭31.11.30:「公務員の私利を図る目的の行為」と「国家賠償法」)では、加害行為が客観的に職務行為の外形を備えるものであればよく、実際には職務上の行為でなかったとしてもよいとしています。

このように、外見から判断して、職務行為に見える場合も「職務上の行為」として、賠償責任の対象としています。これも被害者救済の見地からきています。

故意または過失

国家賠償責任は、公務員の行った不法行為(民法709条)が前提なので、公務員の故意または過失が要件となってきます。

(不法行為による損害賠償)
民法第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

公務員が上記不法行為を行った場合、「公務員個人」に賠償責任を負わせるよりも「国や公共団体」に責任を負わせた方が被害者を保護できるということです。

故意とは?

民法上の故意とは、一定の侵害結果の発生を認識しながらそれを認容して行う場合(その心理状態)を言います(通説)。そして、国賠法も同様と考えてよいです。

過失とは?

過失とは、判例(最判平5.3.11:「所得税更正処分の取消し」と「国家賠償法」)では、公務員が職務上要求される注意能力を欠く場合を指します。

細かいことをいえば、客観的過失があったかどうかで判断し、主観的過失(公務員自身の注意能力を基準としている)ではないということです。

違法(違法性)

国家賠償責任は、公務員の行った不法行為(民法709条)が前提なので、公務員の違法行為が要件となってきます。

これは法令違反だけでなく、裁量の範囲を逸脱・濫用した場合最判昭52.12.20:神戸税関事件)や社会的相当性を欠く場合最判昭61.2.27:「パトカー追跡」と「国家賠償法」)も違法とされています。

公務員の不作為・権限不行使は違法となるか?

最判平元.11.24:「宅建業法の免許基準」と「国家賠償法」)や(最判平7.6.23)の判例では、公務員の不作為によって、私人に損害が発生した場合も国家賠償の対象としており、また、法律上与えられた権限を行使せずに(権限不行使で)損害が発生した場合も同様に国家賠償の対象としています。

公務員に対する求償

国や公共団体が私人(国民)に対して損害賠償した場合、公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償できます。

行政書士の試験対策として注意点としては、下記部分です。

  • 国等から公務員に対して求償できるが、公務員から国等に対しては求償できない
  • 公務員に故意または重過失があった場合のみ、国等は求償できるが、公務員に故意がなく、かつ、無重過失の場合は求償できない

<<国家賠償と損失補償の全体像 | 国家賠償法2条3条>>

国家賠償と損失補償の全体像

行政書士のここまでの勉強、行政不服審査法行政事件訴訟法と勉強してきました。これらは、争訟による救済制度です。もし、公権力の行使によって、金銭的に損害を受けた場合、行政不服審査法や行政事件訴訟法での救済だけでは不十分です。そのため、国家賠償や損失補償という制度があります。

そもそも、国家賠償法は、憲法17条を受けて制定されました。

憲法17条
何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。

一方、損失補償は、憲法29条3項で定めております。しかし、国家賠償法のように、一般法はなく、個別の法律で損失補償の規定がされています。ただし、たとえ、個別法に損失補償の規定がない場合も、上記憲法29条3項を根拠に(直接適用して)損失補償されることもあります。

憲法29条3項
私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

国家賠償 違法行為による損害の賠償を求める制度
損失補償 適法行為ではあるもの損失を受けた場合に補償を求める制度

そして、国家賠償には、「国家賠償法1条による損害賠償責任」と「国家賠償法2条による損害賠償責任」があります。

1条 公権力の行使について、故意または過失により他人に損害を与えた場合(過失責任
2条 営造物の設置管理の瑕疵により他人に損害を与えた場合(無過失責任

<<行政事件訴訟法 | 国家賠償法1条(公権力の行使に基づく賠償責任)>>

民衆訴訟・機関訴訟(客観訴訟)

このページでは、民衆訴訟と機関訴訟をまとめて解説します。

民衆訴訟も機関訴訟も客観訴訟に当たります。

行政事件訴訟法は大きく分けて主観訴訟客観訴訟に分けることができます。

主観訴訟は、個人の権利利益の救済を目的とし、自分自身に直接関係する行政活動に対する訴訟を指し、客観訴訟は、行政の適法性の確保を目的とし、自分には直接関係ない行政活動に対する訴訟を指します。つまり、民衆訴訟も客観訴訟も個人(自分自身)には直接関係しない訴訟と言えます。これは具体例を見ていくと分かると思います。

民衆訴訟

民衆訴訟とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものを言います。

分かりやすくいうと、住民や選挙人が、国や地方公共団体に対して、「法律違反しているでしょ!だから正しなさい!」というのが民衆訴訟です。

具体的には、「地方自治法に基づく住民訴訟」や「選挙又は当選の効力に関する訴訟」です。

地方自治法に基づく住民訴訟

例えば、市長が、公金を違法に支出してしまい、自治体に損害を与えた場合、監査請求を経たうえで、被害回復を求めて住民が住民訴訟を提訴できます。

選挙又は当選の効力に関する訴訟

例えば、甲市の市議会議員選挙があり、AとBが立候補し、選挙が行われ、Aが当選した。しかし、Aは選挙期間中に、住民にお金を配るなどして、違法な選挙活動を行っていた場合、当選の効力の無効の訴えを提起することができます。

機関訴訟

機関訴訟とは、国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟を言います。

分かりやすく言えば、行政機関同士の争いです。

例えば、市長が「議会の議決が法令に即して手続きをしていないから議決は無効だ!」と訴える場合、市長と議会という行政機関同士で争っているので機関訴訟です。

<<争点訴訟 | 国家賠償法と損失補償>>

争点訴訟(民事訴訟)

争点訴訟とは?

争点訴訟とは、私法上の法律関係に関する訴訟ですが、その前提となる処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無が争われているものを言います。

例えば、Aの農地が買収された場合における「農地買収処分の無効を理由とする所有権確認訴訟」です。最終的には、Aは「この農地の所有権は私のものです!」と確認を求める訴訟(所有権という私法上の法律関係に関する訴訟)なのですが、争点となっているのは、農地買収処分です。この農地買収処分が無効だから、この農地の所有権はAにあるでしょ!という争いです。

また、Aが不動産を取得していないにも関わらず、不動産取得税の課税処分の通知を受け、納税した場合における「課税処分の無効を前提とする税金の還付請求訴訟」も争点訴訟です。最終的には、納税した税金を還付してください!という還付請求(返還請求)の訴訟(民事訴訟)なのですが、争点となっているのは、課税処分です。そのため、争点訴訟となります。

争点訴訟と実質的当事者訴訟の違い

上記実質的当事者訴訟と争点訴訟は似ていますが、違います。

何が違うかというと、
争点訴訟は私人間の争い(=民事訴訟)で、
実質的当事者訴訟は、私人と行政主体との争い(=行政訴訟)です。

もう少し詳しくいうと、処分等の無効等を前提に「私法上の権利義務」について争う争点訴訟は民事訴訟ですが、処分等の無効等を前提に「公法上の権利義務」について争う訴訟(実質的当事者訴訟)は行政訴訟(行政事件訴訟です。

実質的当事者訴訟はこちら>>

争点訴訟と無効等確認訴訟の違い

無効等確認訴訟は、処分が当初から無効であることの確認自体を請求する訴訟であるのに対し、争点訴訟は、処分の無効を前提に、私法上の権利義務について争う訴訟です。

上の2つの事例でいうと、「農地買収処分の無効自体を争う場合」や「課税処分の無効自体を争う場合」は、無効等確認の訴えを提起します。

一方で、「農地買収処分の無効を前提として、所有権を確認する場合」や「課税処分の無効を前提として、税金の還付を求める場合」は、争点訴訟を提起します。

そして、上図の通り、現在の法律関係の確認を求める訴え(争点訴訟)では目的達成ができない場合に限って、無効等確認の訴え(無効確認訴訟)を提起できます。

<<仮の義務付け・仮の差止め | 民衆訴訟・機関訴訟(客観訴訟)>>

仮の義務付け・仮の差止め

取消訴訟が提起された場合、仮の救済手段として、執行停止の制度があります。

これと同様に、
義務付け訴訟が提起された場合の仮の救済手段として「仮の義務付け」
差止め訴訟が提起された場合の仮の救済手段として「仮の差止め」があります。

仮の義務付け

仮の義務付けは、義務付けの訴えがあった場合に、その判断がされる前に、暫定的に行政庁が処分または裁決をする旨を命ずることを言います。

例えば、A所有の建物が違法建築物で今にも倒壊しそうです。隣地の住民Bが当該建物の除去命令の義務付けの訴えを提起したが、判決をもらうまでに時間がかかるためその間に建物が倒壊してしまっては、Bは困ります。そのような場合に、仮の義務付けを申し立てることができます。

仮の義務付けの要件

手続要件 義務付けの訴えがあったこと
積極要件
  1. 義務付けの訴えに係る処分又は裁決がなされないことにより生ずる償うことができない損害をさけるため緊急の必要があること
  2. 本案に理由があるとみえること
消極要件 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあること

積極要件と消極要件

積極要件とは、効力を発生させるための要件を言います。

一方、消極要件とは、効力が妨げられる要件を言います。

上記事例でいうと、下記2つの要件を満たることで仮の義務付けの効力が発生します。

  1. 償うことができない損害をさけるため緊急の必要があること
  2. 本案に理由があるとみえること

しかし、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある」という要件を満たす場合、たとえ、上記積極的要件(上記2つの要件)を満たしていても、仮の義務付けの効力は発生しません。

仮の差止め

仮の差止めは、差止めの訴えがあった場合に、その判断がされる前に、暫定的に行政庁が処分または裁決をしてはならない旨を命ずることを言います。

例えば、A土木会社が、宅地の造成工事を行っています。隣地の住民Bの土地が、Aの造成工事により、沈下(地盤沈下)している。この場合、工事の差止めの訴えをしたが、判決をもらうまでに時間がかかるため、その間にもドンドン地盤沈下して困ってしまいます。そのような場合にBは仮の差止めを申し立てることができます。

仮の差止めの要件

仮の差止めの要件は、仮の義務付けと考え方は同じです。

手続要件 差止めの訴えがあったこと
積極要件
  1. 差止めの訴えに係る処分又は裁決がなされることにより生ずる償うことができない損害をさけるため緊急の必要があること
  2. 本案に理由があるとみえること
消極要件 公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあること

この点も仮の義務付けと同様に

下記2つの要件を満たることで仮の差止めの効力が発生します。

  1. 償うことができない損害をさけるため緊急の必要があること
  2. 本案に理由があるとみえること

しかし、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある」という要件を満たす場合、たとえ、上記積極的要件(上記2つの要件)を満たしていても、仮の差止めの効力は発生しません。

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当事者訴訟(形式的当事者訴訟・実質的当事者訴訟)

当事者訴訟は、主観訴訟ではあるものの、これまで勉強してきた抗告訴訟ではありません。主観訴訟は、個人の権利利益の救済を目的とし、自分自身に直接関係する行政活動に対する訴訟を指します。

そして、当事者訴訟は非常に分かりにくい訴訟なので、イメージを頭に入れることが重要です!


当事者訴訟とは?

当事者訴訟とは、①当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び②公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。

上記、「①当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で、法律関係の当事者の一方を被告とするもの」が形式的当事者訴訟で、「②公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」が実質的当事者訴訟です。

上記を読んだだけでは全く意味が分からないと思いますので、具体例を出しながら解説していきます。

形式的当事者訴訟

例えば、Aの土地について、土地収用に関する収用委員会の裁決について,不服がある場合、本来、収用委員会の属する都道府県を被告として、収用裁決の取消しの訴えを提起します。

しかし、Aが収用自体は納得しているけど、収用に対する補償金額に不服がある場合があります。この場合、Aは補償額についてのみ争えばよいです。

そして、この補償額については、事業の起業者(事業を行う者)が決め、収用委員会が認定するのですが、補償額(損失補償額)に争いがある場合,土地を収用されたAと起業者との間で争います。

本来であれば,「補償額を認定した収用委員会の属する行政主体である都道府県」を被告として裁決を争う抗告訴訟によるべきです。
これが、「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟」ということです。

しかし、補償金額については,補償金の支払いに関係する当事者間で直接争わせたほうが適切であるため、被告を起業者として訴訟を提起します。
これが、「法律関係の当事者の一方を被告とする」ということです。

上記訴えが、当事者訴訟の中の形式的当事者訴訟です。

上記は、土地を収用されたAが、「補償額が少なすぎる!」と主張する場合で、逆に起業者が「補償額が高すぎる!」と主張する場合、被告がAとなり、同じく形式的当事者訴訟で争います。

形式的当事者訴訟は、上記「収用における補償金の増額・減額の訴訟」 を具体例として覚えた方が早いです。

実質的当事者訴訟

次に実質的当事者訴訟を解説するのですが、形式的当事者訴訟と全く違うものに見えると思います。そのため、形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟は分けて考えた方がよいでしょう!つなげて考えると、逆に分かりづらくなります。

今から解説する具体例は、無効等確認訴訟でも勉強した内容です。

例えば、国家公務員Cが懲戒免職処分を受けた。Cは、この処分が無効であることを前提に、「公務員の地位確認訴訟」や「給料支払請求訴訟」を行うことができます。この訴えは、被告が国であるというだけで、内容としては、民事訴訟と同じです。

例えば、会社員Dが会社から不当解雇を受け、この解雇が無効であることを前提に、「社員たる地位の確認訴訟」を提起することは、民事訴訟です。

単に、「私人と私人の争い」ではなく「国と公務員」という公法上の法律関係なっているにすぎません。

このような訴訟が実質的当事者訴訟です。

まずは、具体例を覚えることが理解への第一歩なので、具体例を覚えていきましょう。

上記以外にも、

等があります。

実質的当事者訴訟と争点訴訟の違い

上記実質的当事者訴訟と争点訴訟は似ていますが、違います。

何が違うかというと、
実質的当事者訴訟は、私人と行政主体との争い(=行政訴訟)で、
争点訴訟は私人間の争い(=民事訴訟)です。

また、上図の通り、現在の法律関係の確認を求める訴え(実質的当事者訴訟や争点訴訟)では目的達成ができない場合に限って、無効等確認の訴え(無効確認訴訟)を提起できる点も併せて覚えておきましょう。

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差止めの訴え(抗告訴訟の一種)

行政事件訴訟法の類型でも勉強した通り、主観訴訟の中の抗告訴訟の一つに「差止めの訴え」があります。

主観訴訟とは、個人の権利利益の救済を目的とし、自分自身に直接関係する行政活動に対する訴訟を指し、抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関して違法でないかと不服がある場合の訴訟です。

差止めの訴えとは?

差止めの訴え差止め訴訟)とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟を言います。

上記「処分や裁決がされようとしている場合」に行う訴訟なので、処分や裁決がされる前に提起するものだということです。行政書士の試験ではここが非常に重要です。

例えば、Aが建物を建築したが、甲県が「この建物は違法建築物です。直してくれませんか?」という行政指導をAに対して行った。しかし、Aは違法建築物ではないと思っていた。このまま放っておくと、除去命令の処分をされかねません。そのためAは甲県に対して、除去命令をしないように差止めの訴えを提起することができます。

差止め訴訟の訴訟要件

差止め訴訟を提起できる要件は下記3つです。すべて満たした場合に適法となり審理されます。いずれか一つでも満たさない場合は、不適法として却下されます。

非申請型の義務付け訴訟と同じ訴訟要件です。

  1. 一定の処分や裁決がなされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあること
  2. その損害を避けるため他に適当な方法がないこと
  3. 行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者であること

差止め訴訟の勝訴要件

差止め訴訟で原告が勝訴するためには下記2つのいずれかを満たす必要があります。

  1. 行政庁がその処分をすべきでないことが明らかであること
  2. 行政庁がその処分をすることが裁量権の逸脱・濫用となると認められること

上記のいずれかを満たせば、認容判決(原告勝訴)となり、どちらも満たさない場合は棄却判決(原告敗訴)となります。

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