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公の施設の設置・管理・利用、指定管理者

公の施設とは?

公の施設とは、普通地方公共団体が設置する住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設を言います。

例えば、道路、公園、上下水道、体育館、図書館、公立高校、公営住宅等です。

公の施設の設置

普通地方公共団体は、公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例で定めなければなりません。(公の施設の設置については、法律等で定められている場合もあります。)

区域外の設置

普通地方公共団体は、その区域外においても、また、関係普通地方公共団体との協議により、公の施設を設けることができます(区域外にも公の施設を設置できる)。

普通地方公共団体は、他の普通地方公共団体との協議により、当該他の普通地方公共団体の公の施設を自己の住民の利用に供させることができる(他の地方公共団体の施設を自己住民も使うことができる)。

上記協議については、関係普通地方公共団体の議会の議決を経なければなりません。

公の施設の管理

上記設置でもあったように、普通地方公共団体は、公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例で定めなければなりません。(公の施設の設置については、法律等で定められている場合もあります。)

指定管理者

行政書士の試験における指定管理者のポイントは以下の通りです。

  1. 普通地方公共団体は、公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるときは、条例の定めるところにより、法人その他の団体であって当該普通地方公共団体が指定するもの(=指定管理者)に、当該公の施設の管理を行わせることができます。
  2. 条例には、指定管理者の指定の手続、指定管理者が行う管理の基準及び業務の範囲その他必要な事項を定めます。
  3. 指定管理者の指定は、期間を定めて行います。
  4. 指定管理者の指定をしようとするときは、あらかじめ、当該普通地方公共団体の議会の議決を経なければなりません。
  5. 指定管理者は、毎年度終了後、その管理する公の施設の管理の業務に関し事業報告書を作成し、当該公の施設を設置する普通地方公共団体に提出しなければなりません。
  6. 普通地方公共団体は、適当と認めるときは、指定管理者にその管理する公の施設の利用に係る料金(利用料金)を当該指定管理者の収入として収受させることができます。分かりやすく言うと、普通地方公共団体は、「公の施設の利用料」を「指定管理者の収入」と認めることができるということです。
  7. 上記利用料金は、公益上必要があると認める場合を除くほか、条例の定めるところにより、指定管理者が定、指定管理者は、あらかじめ当該利用料金について当該普通地方公共団体の承認を受けなければならない。

公の施設の利用権

正当な理由のない利用拒否の禁止

普通地方公共団体(指定管理者も含む)は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではなりません

不当な差別的取扱いの禁止

普通地方公共団体は、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはなりません

条例で定める特に重要な施設の廃止と独占的利用

普通地方公共団体は、条例で定める重要な公の施設のうち条例で定める特に重要なものについて、これを廃止し、又は条例で定める長期かつ独占的な利用をさせようとするときは、議会において出席議員の3分の2以上の者の同意を得なければなりません。

>>議会の権限(議決権)はこちら

公の施設を利用する権利に関する処分についての審査請求(不服申立て)

  • 普通地方公共団体の長以外の機関(指定管理者を含む。)がした公の施設を利用する権利に関する処分についての審査請求は、普通地方公共団体の長が当該機関の最上級行政庁でない場合においても、当該普通地方公共団体の長に対してしなければなりません。
    最上級行政庁でない点に注意しましょう!
    >>行政不服審査法における審査請求の請求先はこちら
  • 普通地方公共団体の長は、公の施設を利用する権利に関する処分についての審査請求がされた場合には、当該審査請求が不適法であり、却下するときを除き、議会に諮問した上、当該審査請求に対する裁決をしなければなりません。
  • 議会は、前項の規定による諮問を受けた日から20日以内意見を述べなければなりません。
  • 普通地方公共団体の長は、上記諮問をしないで同項の審査請求を却下したときは、その旨を議会に報告しなければならない。

 

 

住民訴訟

住民訴訟は、住民監査請求をしたにも関わらず、①その監査結果に不服あるときや、②監査委員が勧告したが、議会や長等がその勧告に従わない場合に、裁判所に訴えを提起するものです。

この訴えは、「自己の法律上の利益に関わらないことで訴えを提起する」ことから客観訴訟(民衆訴訟)に当たります。

例えば、地方公共団体の長が、違法に公金を使っていて、裁判の結果、認容判決(勝訴)を得たとしても、住民訴訟をする住民自身の法律上の利益は何もありません。
そのため主観訴訟(抗告訴訟等)ではないことが分かります。

住民監査請求と住民訴訟の違い


住民訴訟の対象

住民訴訟は、「訴訟」なので、法律に違反したこと(違法なこと)しか対象になりません。

そのため、住民監査請求の対象となり、かつ違法であることが要件となるため、地方公共団体の執行機関における財務会計上の違法な行為または怠る事実があるときに住民訴訟を提起できます。

住民訴訟の出訴権者

住民訴訟を提起できるのは、住民監査請求をした住民に限られます。

したがって、その住民であることが要件ですし、また、事前に住民監査請求を行っている必要があります(住民監査請求前置主義)。

住民訴訟の出訴先

住民訴訟は、当該普通地方公共団体の事務所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属します。つまり、地方裁判所に訴訟提起します。

そして、ある事件で、住民訴訟が係属している場合、別訴をもって、同一の請求をすることはできません(別訴禁止)。分かりやすく言うと、ある事件で住民訴訟手続きが進んでいる場合、同じ事件について、同じ請求(訴訟)を重ねて行うことはできないということです。

住民訴訟の出訴期間

住民訴訟は、下記期間内に提起しなければなりません。

  1. 監査委員の監査の結果又は勧告に不服がある場合は、当該監査の結果又は当該勧告の内容の通知があった日から30日以内
  2. 監査委員の勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員の措置に不服がある場合は、当該措置に係る監査委員の通知があった日から30日以内
  3. 監査委員が請求をした日から60日を経過しても監査又は勧告を行なわない場合は、当該60日を経過した日から30日以内
  4. 監査委員の勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員が措置を講じない場合は、当該勧告に示された期間を経過した日から30日以内

住民訴訟の請求内容(類型)

住民訴訟の請求内容は、下記4つに限られます。それ以外の請求はできません。

  1. 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求
  2. 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求
  3. 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
  4. 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求

住民訴訟に関する判例

  1. 贈収賄容疑で逮捕・起訴され、有罪判決が確定した場合において、懲戒免職処分をせずに、分限免職処分により退職手当の支給をしたとしても、違法な公金の支出に当たるということはできない。なぜなら、職員に懲戒事由が存する場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分をするときにいかなる処分を選ぶかは、任命権者の裁量にゆだねられており、このことから考えて、収賄事実のみが判明していた段階において、懲戒免職処分に付さなかったことが違法であるとまで認めることは困難だから。(最判昭60.9.12)
  2. 教育委員会が公立学校の教頭で勧奨退職に応じた者を校長に任命して昇給させるとともに同日退職を承認する処分をした場合(1日だけ校長に昇給させ、翌日退職承認の処分をした場合)において、右処分が著しく合理性を欠きそのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するものといえないときは、知事がした右の者の昇給後の号給を基礎とする退職手当の支出決定は、財務会計法規上の義務に違反する違法なものとはいえない。(最判平4.12.15)
  3. 県議会議長が、野球大会に参加する議員に出した旅行命令が違法の場合に、その命令を前提として知事の補助職員がした、議員への旅費の支出負担行為と支出命令は、財務会計法規上の義務に違反する違法なものではない。なぜなら、県議会議長が行った議員に対する旅行命令は違法なものではあるが、旅行命令の経緯等に関する事実関係の下において、県議会議長が行った旅行命令が、著しく合理性を欠き、そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があるとまでいうことはできないから。(最判平15.1.17)

 

 

 

直接請求

直接請求とは、住民が、地方公共団体に直接、一定の行動を取るように請求することを言い、普通地方公共団体の議会の議員および長の選挙権を有する者が直接請求の権利を持っています。

つまり、外国人は直接請求できません。

上記の通り、直接請求は、住民が、代表者(議員)などを介さずに、地方公共団体の意思決定に直接参加することから直接民主制の一つである。

議会政治(議会で地方公共団体の意思決定を行うこと)は、住民が選挙で選んだ代表者(議員)に意思決定を委託し、間接的に政治参加することから、間接民主制代表民主制の一つです。

直接請求の種類

直接請求には、下記4つがあります。

  1. 条例制定・改廃請求
  2. 事務監査請求
  3. 議会解散請求
  4. 解職請求

あとで、細かく解説しますが、重要ポイントをまとめると下記の通りです。


条例制定・改廃請求

住民は、条例の制定、改正、廃止を請求することができます。

当該地方公共団体の議員・長の選挙権を有する者外国人は除く)は、その総数の50分の1以上の連署により、代表者からに対して、請求できます。

ただし、地方税の賦課徴収、分担金・使用料・手数料の徴収に関する条例については、制定・改廃請求できません

条例制定・改廃請求があったときは、長は、直ちに請求の要旨を公表しなければなりません。

そして、この請求を受領した日から20日以内に議会を招集し、意見を付けて議会に付議(過半数の同意で議決)し、その結果を代表者に通知するとともに、公表しなければなりません。


事務監査請求

住民は、「地方公共団体の事務執行」ならびに「長および各委員会・委員の権限に属する事務執行」について、監査委員に対し、監査請求ができます。

当該地方公共団体の議員・長の選挙権を有する者外国人は除く)は、その総数の50分の1以上の連署により、代表者から監査委員に対して、請求できます。

署名が有効の場合、監査委員はすぐに事務監査(特別監査に該当)を行います。

>>住民監査請求請求との違いはこちら

議会解散請求

住民は、都道府県議会や市町村議会を解散するよう請求できます。

当該地方公共団体の議員・長の選挙権を有する者外国人は除く)は、その総数の3分の1以上の連署により、代表者から選挙管理委員会に対して、請求できます。

議会の解散請求があった場合、選挙管理委員会は、直ちに請求の要旨を公表し、選挙人の投票に(住民投票)に付さなければなりません。

解散の投票で、過半数の同意があった時は、議会は解散することになります。

解職請求

住民は、「議員」「地方公共団体の長」「役員」の解職を請求できます。

この点については、それぞれ内容が異なるので分けて考えます。

議員の解職請求

当該地方公共団体の議員・長の選挙権を有する者外国人は除く)は、その総数の3分の1以上(※1)の連署により、請求できます。

請求先は、その後、選挙が行われるので選挙管理委員会に請求します。

そして、住民投票により、過半数の同意で決し、過半数の同意があれば、議員は解職されます。

※1 有権者総数が40万人以下の場合は、3分の1の連署でよいが、
有権者総数が40万人超の場合は、署名数の要件が緩和されます。どれだけ緩和されるかは行政書士の試験では出題される可能性は低いので覚えなくても大丈夫です。

長の解職請求

長の解職請求は、議員の解職請求と同じです。

当該地方公共団体の議員・長の選挙権を有する者外国人は除く)は、その総数の3分の1以上(※1)の連署により、請求できます。

請求先は、その後、選挙が行われるので選挙管理委員会に請求します。

そして、住民投票により、過半数の同意で決し、過半数の同意があれば、議員は解職されます。

役員の解職請求

役員とは、①副知事・副市町村長、②指定都市の総合区長、③選挙管理委員、④監査委員、⑤公安委員会の委員を指します。

当該地方公共団体の議員・長の選挙権を有する者外国人は除く)は、その総数の3分の1以上(※1)の連署により、請求できます。

請求先は、任命権者である長(知事や市町村長)です。

役員の解職請求があったら、長は、直ちに請求の要旨を公表し、解職請求を議会に付議し、議会議員の3分の2以上の出席、かつ、その4分の3以上の者の同意により議決します。

可決されれば、その役員は役員の職を失います。

そして、長は、可決・否決の結果を解職請求の代表者および関係人に通知し、公表します。

住民監査請求

先に、住民監査請求と事務監査請求の違いの表を示します。

住民監査請求の対象

住民監査請求は、住民が地方公共団体の執行機関または職員の財務会計上の違法または不当な行為または職務を怠る事実について必要な措置をすべきことを監査委員に請求できる制度です。

例えば、違法または不当な「公金の支出、財産の取得・管理・処分、契約締結、債務その他義務の負担」、公金の賦課徴収を怠ること等が住民監査請求の対象です。

住民監査請求 財務会計上の違法または不当な行為、不作為
事務監査請求 地方公共団体の事務全般

住民監査請求ができる者

住民監査請求は、住民であれば誰でも行えます。年齢、国籍、納税の有無なども問わず、一人でも請求できます。外国人であっても法人も請求できます。

住民監査請求 住民であれば、一人でも、外国人でも法人でもよい
事務監査請求 選挙権を有する者(外国人は除く)で、その総数の50分の1以上の連署

住民監査請求の請求先

住民監査請求の請求先は、事務監査請求と同様、監査委員です。

住民監査請求の期間制限

違法・不当な作為

違法・不当となる財務会計上の行為があった日または終わった日から1年経過したときは、原則、住民監査請求ができなくなります。

ただし、例外として、正当な理由があるときは、1年経過していても住民監査請求を行えます。

違法・不当な不作為

怠る事実(不作為)については、住民監査請求の期間制限はないので、違法・不当な不作為状態が続く限り、住民監査請求を行えます。

事務監査請求については期間制限はありません

監査委員の措置と住民訴訟

住民監査請求があった場合、請求があった日から監査委員は60日以内に監査を行います。

請求に理由がない場合(違法・不当ではないと判断した場合)、理由を付して、書面により請求人に通知するとともに、公表します。

請求に理由がある場合(違法・不当と判断した場合)、議会・長・職員に対し、期間を示して必要な措置を執るべきことを勧告し、その結果を請求人に通知するとともに、公表します。

請求人は、住民監査の結果に不服があるときは、住民訴訟を行うことができます。(住民監査請求前置主義

つまり、いきなり住民訴訟は行えないということです。

 

住民の選挙権と被選挙権

住民とは?

市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村およびこれを包括する都道府県の「住民」とされます。これが住民の定義なので、国籍を問わないですし、自然人(個人)だけでなく法人も含みます。

つまり、外国人であっても、また法人住民に含みます

ただし、外国人や法人は、住民の権利義務に制限があり、例えば、外国人には選挙権や被選挙権は保障されていません。(最判昭平5.2.26:国政参政権、最判平7.2.28:地方参政権、最判平10.3.13:国政被選挙権)

選挙権

選挙権とは、国政選挙や地方選挙で投票する権利です。
普通地方公共団体の議会の議員および長の選挙権は、日本国民かつ年齢満18歳以上の者で、引き続き3か月以上市町村の区域内に住所を有する者に認められます。

被選挙権

被選挙権とは、選挙に立候補する権利です。議員になりたい、市長や知事になりたいといった場合に、どのような要件が必要かというのが下表の内容です。

市長や知事については、住所要件はないので、極端なことを言えば、沖縄の住民が北海道の知事に立候補することも可能です。

市町村議会の議員 日本国民3か月以上のその市町村の住民+満25歳以上
都道府県議会の議員
市町村長 日本国民満25歳以上
都道府県知事 日本国民満30歳以上

監査委員・外部監査契約

監査委員については、特に行政書士で出題されやすいので細かく解説します。

監査委員は、地方公共団体の監査について、長から独立した独任制の執行機関であり、普通地方公共団体には必ず置かなければなりません。

定数 都道府県および人口25万人以上の市にあっては4人
その他の市および町村にあっては2人
選任 長が、議会の同意を得て、選任
罷免 長が、議会の同意を得て、罷免
※罷免できるのは、心身故障など職務遂行ができない場合に限り監査委員の意に反して罷免することはできない

監査委員の職務

監査委員の職務については、大きく分けて一般監査特別監査があり、
一般監査は、財務監査行政監査にわけることができ、
特別監査は、事務監査請求による監査議会請求による監査長の要求監査があります。


一般監査(財務監査と行政監査)

監査委員は、「①普通地方公共団体の財務に関する事務の執行」および「②普通地方公共団体の経営に係る事業の管理」を監査します(=財務監査)。

財務監査には、必ず行わないといけない「定期監査」と、必要があると認めるときに行う「臨時監査」とがあります。

また、監査委員は、財務監査以外に、一般行政事務に関する「行政監査」も行います。

この行政監査は必要があると認めるときに行う臨時監査として行います。

特別監査

事務監査請求による監査

簡単に言えば、住民からの請求により行う監査です。
住民は、有権者総数の50分の1以上の連署により、監査委員に請求をします。

議会請求による監査

議会は、監査委員に対し、当該普通地方公共団体の事務に関する監査を求め、監査の結果に関する報告を請求することができます。
ただし、「自治事務にあっては労働委員会及び収用委員会の権限に属する事務」および「法定受託事務にあっては国の安全を害するおそれがあること」は監査請求できません。

長の要求監査

監査委員は、当該普通地方公共団体の長から当該普通地方公共団体の事務の執行に関し監査の要求があったときは、その要求に係る事項について監査をしなければなりません。

外部監査契約

外部監査とは、都道府県や市町村などの地方公共団体が外部の専門家等からの監査を受けることを言います。平成9年(1997)に「地方自治法の一部を改正する法律」により外部監査制度が創設され、外部監査契約には、包括外部監査契約個別外部監査契約があります。

包括外部監査契約

普通地方公共団体の長は、政令の定めるところにより、毎会計年度、当該会計年度に係る包括外部監査契約を、速やかに、外部監査人と締結しなければなりません。(毎年、必ず締結する)

個別外部監査契約

条例に定めがある場合、事務監査請求に関する監査があったときに、監査委員の監査に代えて個別の事案ごとに外部監査人と監査契約を締結します。

これには、条例の定めが必要な点に注意しましょう!

行政委員会・行政委員(地方公共団体の執行機関)


普通地方公共団体の執行機関には、長のほかに、法律の定めにより合議制の執行機関である委員会または委員がおかれます。このように法律で執行機関を置くように定めているので、執行機関法定主義と言われます。

合議制とは、執行機関を複数の人によって構成させる制度を言います。

都道府県・市町村に置かなければいけないもの

  1. 教育委員会
  2. 選挙管理員会
  3. 人事委員会
    人事委員会を置かない普通地方公共団体にあっては「公平委員会」を置く
    ただし、都道府県、指定都市には必ず人事委員会を置かなければならない
  4. 監査委員

都道府県に置かなければいけないもの

  1. 公安委員会
  2. 労働委員会
  3. 収用委員会
  4. 海区漁業調整委員会
  5. 内水面漁場管理委員会

市町村に置かなければならないもの

  1. 農業委員会
  2. 固定資産評価審査会

上記を言い換えると、
都道府県には、「教育委員会、選挙管理員会、人事委員会、監査委員、公安委員会、労働委員会、収用委員会、海区漁業調整委員会、内水面漁場管理委員会」を置かなければならず、
市町村には、「教育委員会、選挙管理員会、人事委員会、監査委員、農業委員会、固定資産評価委員会」を置かなければなりません。

教育委員会 学校等の教育機関の管理、学校の組織編制、教育課程等の事務を管理執行します。
選挙管理委員会 国政選挙、地方選挙、住民投票の事務を管理する行政機関で、議会が選挙によって選任します。
人事委員会・公平委員会 中立的かつ専門的な人事機関として、「任命権者の任命権行使をチェックする」という役割を果たします。
監査委員 地方公共団体の「財務に関する事務の執行」や「その経営に係る事業の管理」を監査することを職務とする行政機関です。
公安委員会 警察活動の公正中立を確保することを目的に、都道府県警察を管理する行政機関です。
収用委員会 土地収用裁決等の事務を行う行政機関で、都道府県知事が議会の同意を得て任命します。
農業委員会 農地法に基づく売買・貸借の許可、農地転用案件への意見の申し出、遊休農地の調査・指導などを中心に農地に関する事務を執行する行政機関です。
固定資産評価審査委員会 固定資産課税台帳に登録された事項に関する不服の審査及び決定その他の事務を行う行政機関です。

監査委員の詳細はこちら>>

長の専決処分

長は、執行機関として、議会で決めたことしか、執行することができません。しかし、長は、一定の場合に議決を経ずに、処分をすることができます。これを専決処分と言います。

専決処分には法定の専決処分議会委任の専決処分の2つがあります。

法定の専決処分

法定の専決処分とは、法律で定められた事由に該当する場合に行える専決処分です。

法律で定められた事由とは、下記の通りです。

  1. 議会が成立しないとき(在任議員の総数が議員定数の半数に満たない場合)
  2. 議員の定数の半数以上の議員が出席しないなどが原因で会議を開くことができないとき
  3. 特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないとき
  4. 議決事件を議決しないとき

上記4つのいずれかに該当する場合、長は議会の決議なく処分を行えます。

※ 「副知事・副市町村長の選任の同意」および「指定都市の総合区長の専任の同意」については専決処分の対象外

そして、長が処分をした場合、長は、次の会議で、議会に報告(事後報告)し、議会の承認を求めなければなりません。

もし、議会が承認しなくても、長の処分の効力に影響はありません。

議会委任の専決処分

議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものは、長は専決処分ができます。

議会の委任による専決処分は、議会への事後報告は必要ですが、議会の承認は不要です。なぜなら、議会で指定された事項だから、議会は長が行うことは事前に分かっているからです。

地方公共団体の長の再議請求権

議会の議決について、①地方公共団体の長に異議がある場合、または②違反がある場合、再度審議および議決を要求する制度があり、これを「再議」と言います。

再議には、一般的再議請求権(一般的拒否権)と特別的再議請求権(特別拒否権)の2つがあります。

一般的再議請求権(一般的拒否権)→一般再議

一般的再議請求権(一般的拒否権)は、①長に異議があるときに長が理由を示して再議に付す制度です。これは、異議があるときに請求すればよいので再議に付すかどうかは任意です。

そして、再議に付す要件が、「条例の制定改廃・予算に関する議決」と「それ以外の議決」とで異なります。


条例の制定改廃・予算に関する議決

条例の制定や改廃、予算に関する議決について、長に異議がある場合、長はその送付を受けた日から10日以内に、理由を示して再議に付し、再議の結果、出席議員の3分の2以上の多数で再議に付された議決と同じ議決がなされたときは、その議決は確定します。

例えば、条例の制定案が可決され、長が再議に付し、再度可決されたら、条例は制定されるということです。再議で否決となれば、条例は制定されません。

それ以外の議決

条例の制定改廃・予算以外に関する議決については、議決の日から10日以内に、理由を付して再議し、再議の結果、出席議員の過半数で、再議に付された議決と同じ議決がなされたときは、その議決は確定します。

例えば、議員Aを除名処分の決議が可決され、それに対して、長が再議にかけ、再度過半数の賛成があれば、除名処分の議決は確定します。

特別的再議請求権(特別拒否権)→違法再議

特別的再議請求権(特別拒否権)は、②議会の議決選挙が、その権限を超えまたは法令・会議規則に違反すると認められるとき、長は、理由を付して再議または再選挙をしなければなりません(義務)。

※特別拒否権は、一般的拒否権と異なり、期間制限はありません。

収支不能議決

普通地方公共団体の議会の議決が、収入または支出に関し、執行することができないものがあるとき(収支不能の場合)、2012年の法改正前は、違法再議として、再議に付すことが義務となっていたが、改正後は、権限を超えたり、法令や会議規則に違反する場合は、違法再議ですが、そうでなければ一般再議となります。

義務費の削除減額議決

義務費とは法令により負担する経費のことです。簡単に言えば、人件費や公債費(地方債の返済にかかる元利償還金と利息)等です。そして人件費等を削減する議決がされた場合、長は、理由を付して、必ず再議に付さなければなりません(特別拒否権の対象)。

予算を削るということは、必要な事業を行えない可能性があるから、再議に付すことが義務となっています。

非常災害対策・感染症予防費の削除減額議決

非常災害対策費とは、災害に対する応急、復旧の施設のための費用です。

感染症予防費とは、感染症患者に対して、法に基づく入院勧告又は入院措置を実施した場合において、医療費は公費負担となり、その費用のことです。

これらの経費を削除したり、削減したりする議決をしたときは、長は、理由を付して、必ず再議に付さなければなりません(特別拒否権の対象)。

もし、再議で再度、経費の削除・減額の議決がなされた場合、長は、その議決を不信任の議決をみなすことができます

地方公共団体の長に対する不信任議決と議会解散

「地方公共団体の長」と「議会」が対立して、議会が長を辞めさせたい!という場合、議会は長に対する「不信任議決」により、長を失職させることができ、逆に長は、議会を解散させる「議会解散権」を持ちます。

※不信任議決と不信任決議は同じと考えて大丈夫です。

長に対する不信任議決の流れ

まず、不信任議決をする場合、議員数の3分の2以上が出席し、その4分の3以上の同意が必要です。

議会が、長の不信任議決をしたときは、議長は直ちにその旨を長に通知しなければなりません。

長は、その通知を受けた日から10日以内議会を解散することができます。解散しない場合は、その10日が経過した日に長は失職します。(長の失職後、長の選挙が行われる)

上記、長が議会を解散させた場合、議会の選挙が行われ、解散後初めて招集される議会において、再度不信任議決(議員数の3分の2以上が出席し、その過半数の同意)があった場合、長は議長から通知があった日において失職します。