判例

最判平11.7.19:タクシー運賃変更の認可申請却下と裁量権

論点

  1. 道路運輸法が定める適正原価適正利潤条項の適合性判断について、運輸局長に裁量が認められるか?
  2. タクシー事業者の運賃変更の認可申請に対する運輸局長の却下の判断にその裁量権の逸脱・濫用はあるか?

事案

Xらは、大阪市およびその周辺地域おいてタクシー事業を営んでいた。Xらは、平成元年の消費税の施行の際に、消費税を転嫁するための運賃変更の認可申請をせず、また、平成3年3月に同業他社が運賃変更の認可申請をして、認可されていたにも関わらず、Xらは認可申請をしなかった。

その直後の3月29日に、Xらは、消費税転嫁のため3%の値上げを内容とする運賃変更の認可申請を近畿運輸局長に対して行った。

近畿運輸局長は、申請をただちに受理せず、約1か月行政指導を行った後、4月30日に申請を受理した。

そして、9月12日、Xらの申請には、道路運輸法9条の3第2項1号に定める基準に適合しているか否かを判断するための資料がないことを理由に(運賃変更の理由は消費税分と言うだけで、計算の根拠を明らかにしなかったので)、申請を却下の決定をした。

そこで、Xらは、申請をただちに受理し認可すべきであったにも関わらず、受理せず、4か月以上も決定を行わず、違法に却下したとして、国Yに対し、同年6月から8月までの3か月分の運賃の3%に相当する額の損害賠償を求めて、国家賠償請求訴訟を提起した。

道路運輸法第9条の3
一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者は、旅客の運賃及び料金を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも同様とする。
2 国土交通大臣は、前項の認可をしようとするときは、次の基準によって、これをしなければならない。
一 能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること。

判決

道路運輸法が定める適正原価適正利潤条項の適合性判断について、運輸局長に裁量が認められるか?

→認められる

道路運輸法9条の3第2項1号の趣旨は、一般旅客自動車運送事業の有する公共性ないし公益性にかんがみ、安定した事業経営の確立を図るとともに、利用者に対するサービスの低下を防止することを目的としたものと解するのが相当である。

この趣旨からすると、運賃の値上げを内容とする運賃変更の認可申請がされた場合において、変更に係る運賃の額が能率的な経営の下における適正な原価を償うことができないときは、たとい右値上げにより一定の利潤を得ることができるとしても、同号の基準に適合しないものと解すべきである。

そして、道路運輸法9条の3第2項1号の基準は抽象的、概括的なものであり、右基準に適合するか否かは、行政庁の専門技術的な知識経験と公益上の判断を必要とし、ある程度の裁量的要素があることを否定することはできない
(運輸局長に裁量が認められる)

タクシー事業者の運賃変更の認可申請に対する運輸局長の却下の判断にその裁量権の逸脱・濫用はあるか?

→ない

運輸局長は、本件申請に対する許否の判断に当たり、Xらの提出する原価計算書その他の書類に基づき、本件申請に係る運賃の変更が法9条の3第2項1号の基準に適合するか否かを運賃原価算定基準に個別に審査しようとした。

そして、運賃原価算定基準に示された原価計算の方法は、同号の基準に適合するか否かの具体的判断基準として、合理性を有するものである、

したがって、同局長において本件申請に係る運賃の変更が同号の基準に適合するか否かを運賃原価算定基準に準拠して個別に審査しようとしたことは、相当な措置であったというべきである。

そして、Xらは、運賃変更の理由は消費税の転嫁である旨の陳述をしたのみで、右原価計算の算定根拠等を明らかにしなかった。

そのため、同局長においてXらの提出した書類によっては被上告人らの採用した原価計算の合理性について審査判断することができなかった。

そうであるとすれば、本件申請について、同号の基準に適合するか否かを判断するに足りるだけの資料の提出がないとして、本件却下決定をした同局長の判断に、その裁量権を逸脱し、又はこれを濫用した違法はないというべきである。

最判平8.7.2:在留資格変更後の更新不許可処分

論点

  1. 本人の意思に反して在留資格が変更された場合、その後の更新の際に、その経緯を考慮することなく、現在の許可基準に基づいて更新不許可とすることは適法か?

事案

Xは中国籍の男性である。

日本国籍の女性Aと婚姻し、「日本人の配偶者又は子」という在留資格(在留期間1年)を取得して、入国を許可された。

しかし、入国後、XはAと不仲になりA方を出て別居するようになった。

XはAと別居後も「日本人の配偶者又は子」の在留資格によって数回更新許可を受けて滞在していた。

しかし、法務大臣Yは、長期の別居により婚姻の実体が失われたとして、Xの意に反してXの更新申請を「短期滞在の在留資格」として取り扱い、「短期滞在(在留期間90日)」への在留資格の変更許可を行った。

一方、Aは、在留資格変更許可処分後に、Xとの間の婚姻関係が有効であることが判決によって確定した。

その後、Xは更新申請したが、「短期滞在」目的は終了したとして、不許可処分を行った。

これに対して、Xは当該不許可処分の取消しを求めて提訴した。

判決

本人の意思に反して在留資格が変更された場合、その後の更新の際に、その経緯を考慮することなく、現在の許可基準に基づいて更新不許可とすることは適法か?

→違法

上告人は、通常であれば、当該外国人につき、「短期滞在」の申請に対しては、「短期滞在の」の在留資格に対応する基準で判断すれば足り、他の在留資格に対応する基準について考慮する必要のない。

しかし、Yは、Xの意に反して在留資格を「短期滞在」に変更する旨があったものと取り扱って、これを許可することで、Xが「日本人の配偶者等」の在留資格による在留期間の更新を申請する機会を失わせたものと判断できる。

しかも、当該不許可処分をしたときには、すでに、XとAとの婚姻関係が有効である旨の判決が確定していた。

少なくとも、被上告人の在留資格が「短期滞在」に変更されるに至った経緯を考えると、Yは、信義則上、「短期滞在」の在留資格による在留期間の更新を許可した上で、Xに対し、「日本人の配偶者等」への在留資格の変更申請をしてXが「日本人の配偶者等」の在留資格に属する基準によって、公権的判断を受ける機会を与えることを要したものというべきである。
(法務大臣Yは上記のように、Xに対して、「日本人の配偶者等」の在留資格に属する基準によって、公権的判断を受ける機会を与えるべきであった)

以上のことから、Yの不許可処分は、上記のような経緯を考慮していない点において、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと評価され、違法である。

最判平5.3.30:テニスコート審判台転倒事件

論点

  1. 設置管理者の通常予測し得ない異常な方法で使用して生じた事故につき、国家賠償法2条の責任を負うか?

事案

X1は、妻X2らとともに、長男A(当時5歳)を連れて、Y町の設置するB中学校の校庭内でテニスをしていた。

その間、Aは球拾いなどをして遊んでいたが、その後、テニスコートの横にある審判台に昇り、審判台の座席の後部の鉄パイプを握って降りようとしたため、本件審判台が後方に倒れ、Aはその下敷きとなり、死亡した。

X1らは、本件審判台の設置管理者であるY町を被告として、国家賠償法2条1項に基づいて国家賠償訴訟を提起した。

判決

設置管理者の通常予測し得ない異常な方法で使用して生じた事故につき、国家賠償法2条の責任を負うか?

→負わない

国家賠償法2条1項にいう「公の営造物の設置又は管理に瑕疵」があるとは、公の営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、右の安全性を欠くか否かの判断は、当該営造物の構造、本来の用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきである。

本件でみると、一般に、テニスの審判台は、審判者がコート面より高い位置から競技を見守るための設備であり、座席への昇り降りには、そのために設けられた階段によるべきことはいうまでもなく、審判台の通常有すべき安全性の有無は、この本来の用法に従った使用を前提とした上で、何らかの危険発生の可能性があるか否かによって決せられるべきものといわなければならない。

営造物の設置管理者は、本件の例についていえば、審判台が本来の用法に従って安全であるべきことについて責任を負うのは当然として、その責任は原則としてこれをもって限度とすべく、本来の用法に従えば安全である営造物について、これを設置管理者の通常予測し得ない異常な方法で使用しないという注意義務は、利用者である一般市民の側が負うのが当然であり、幼児について、異常な行動に出ることがないようにさせる注意義務は、もとより、第一次的にその保護者にあるといわなければならない。

そして、本件事案のような使用をすれば、本来その安全性に欠けるところのない設備であっても、何らかの危険を生ずることは避け難いところである。

幼児が異常な行動に出ることのないようにしつけるのは、保護者の側の義務であり、このような通常予測し得ない異常な行動の結果生じた事故につき、保護者から設置管理者に対して責任を問うというのは、もとより相当でない。

したがって、国YがXらに対して国家賠償法2条1項所定の責任を負ういわれはない。

判決文の全文はこちら>>

 

最判平5.3.16:第一次家永教科書事件

論点

  1. 教科書検定制度は、憲法21条2項(検閲の禁止)に違反するか?
  2. 文部大臣の判断は、どのような場合に裁量権の逸脱として国賠法上違法となるか?

事案

日本史研究者の家永三郎氏は、昭和27年以降、教科書「新日本史」を執筆し、出版社である三省堂から発行してきた。しかし、昭和35年の学習指導要領の改正により、家永氏は「新日本史」を全面的に改訂して教科書検定の申請をしたところ、323か所にわたる欠陥があったとして、検定不合格とされた。これを受けて家永氏は、原稿に修正を加えて、再度検定の申請をしたところ、文部大臣は、欠陥修正後の再審査を条件とする条件付検定合格とした。

このため、家永氏は不本意にながらも修正指示に従い、欠陥とされた記述を修正し、これを教科書として発行した。しかし、教科書の発行は予定よりも1年遅れた。

そこで、家永氏は、国を相手取り、文部大臣のした本件各検定処分が違法であるとして、慰謝料、逸失利益の支払いを求めて国家賠償訴訟を提起した。

判決

教科書検定制度は、憲法21条2項(検閲の禁止)に違反するか?

→違反しない

検閲とは、下記6つの要件を満たすものを言います。

  1. 行政権が主体となって、
  2. 思想内容等の表現物を対象とし、
  3. 表現物の一部または全部の発表を禁止する目的で、
  4. 対象とされる表現物を網羅的一般的に、
  5. 発表前に審査した上、
  6. 不適当と認めるものの発表を禁止すること

本件検定は、一般図書としての発行を何ら妨げるものではなく、発表禁止目的や発表前の審査などの特質がないから、検閲には当たらず、憲法21条2項の検閲禁止の規定に違反するものではない。

文部大臣の判断は、どのような場合に裁量権の逸脱として国賠法上違法となるか?

教科用図書検定調査審議会の判断の過程にし難い過誤があって、文部大臣の判断がこれに依拠してされたと認められる場合

検定の審査基準等を直接定めた法律はない。

しかし、文部大臣の検定権限は、憲法上の要請にこたえ、教育基本法、学校教育法の趣旨に合致するように行使されなければならない。

検定の具体的内容等を定めた旧検定規則、旧検定基準は、憲法上の要請及び各法条の趣旨を具現したものであるから、右検定権限は、これらの検定関係法規の趣旨にそって行使されるべきである。

そして、これらによる本件検定の審査、判断は、申請図書について、内容が学問的に正確であるか、中立・公正であるか、教科の目標等を達成する上で適切であるか、児童、生徒の心身の発達段階に適応しているか、などの様々な観点から多角的に行われるもので、学術的、教育的な専門技術的判断であるから、事柄の性質上、文部大臣の合理的な裁量に委ねられるものというべきである。

したがって、合否の判定、条件付合格の条件の付与等についての教科用図書検定調査審議会の判断の過程に、原稿の記述内容又は欠陥の指摘の根拠となるべき検定当時の学説状況、教育状況についての認識や、旧検定基準に違反するとの評価等にし難い過誤があって、文部大臣の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、右判断は、裁量権の範囲を逸脱したものとして、国家賠償法上違法となると解するのが相当である

判決文の全文はこちら>>

最判平5.3.11:「所得税更正処分の取消し」と「国家賠償法」

論点

  1. 所得税更正処分の取消訴訟において、所得金額の過大認定が違法と認められた場合、その更正処分は直ちに国家賠償法1条1項上の違法に該当するか?

事案(奈良民商事件)

事業者Xが、事業所得について、A税務署長に対して、確定申告をした。

A税務署長は、税務署員に調査を命じたが、Xは民主商工会の事務局員の立ち合いを条件としたため、税務署員は調査をすることができなかった。

A税務署長は、Xの取引先や取引銀行を調査し、結果として、所得金額を増額する更正処分をした。(Xの所得税は、申告した場合よりも多くなる)

Xはこれを不服として、異議申し立ておよび審査請求を経た上で、本件更正処分の取消しを求める訴訟を提起したところ、当該更正処分を違法として、確定判決を得た。

そこで、Xは国Yに対して、慰謝料などの賠償を求める国家賠償請求訴訟を提起した。

判決

所得税更正処分の取消訴訟において、所得金額の過大認定が違法と認められた場合、その更正処分は直ちに国家賠償法1条1項上の違法に該当するか?

直ちに違法となるわけではない

税務署長Yのする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、

税務署長が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限り違法の評価を受けるものと解するのが相当である。

ところで、所得税法は、納税義務者が自ら納付すべき所得税の課税標準及び税額を計算し、自己の納税義務の具体的内容を確認した上、その結果を申告して、これを納税するという申告納税制度を採用し、納税義務者に課税標準である所得金額の基礎を正確に申告することを義務付けている。

本件のような事業所得についていえば、納税義務者はその収入金額及び必要経費を正確に申告することが義務付けられているのである。

それらの具体的内容は、納税義務者自身の最もよく知るところであるからである。

そして、納税義務者において売上原価その他の必要経費に係る資料を整えておくことはさして困難ではなく、資料等によって必要経費を明らかにすることも容易であり、しかも、必要経費は所得算定の上での減算要素であって納税義務者に有利な課税要件事実である。

そうしてみれば、税務署長がその把握した収入金額に基づき更正をしようとする場合、客観的資料等により申告書記載の必要経費の金額を上回る金額を具体的に把握し得るなどの特段の事情がなく、また、納税義務者Xにおいて税務署長Yの行う調査に協力せず、資料等によって申告書記載の必要経費が過少であることを明らかにしない以上、申告書記載の金額を採用して必要経費を認定すること(所得金額を増額する更正処分)は何ら違法ではないというべきである。

したがって、税務署長Yがその職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をした事情は認められないから、更正処分に国家賠償法1条一1にいう違法があったということは到底できない。

判決文の全文はこちら>>

最判平5.2.18:教育施設負担金事件

論点

  1. 行政指導について、どのような場合に違法となるか?
  2. 当該指導要綱に基づき教育施設負担金の寄付を求めた行為は、違法な公権力の行使にあたるか?

事案

武蔵野市は、市民の生活環境が宅地開発やマンション建設によって破壊されて行くのを防止することを目的として、武蔵野市宅地開発等に関する指導要綱を制定した。その指導要綱の中に、教育施設負担金の寄付を求める規定があり、これに従わない事業主には水道の給水を拒否するなどの制裁措置を背景として義務を課することを内容とするものであった。
これに対して、違法な公権力の行使にあたるのではないかと争われた。

判決

行政指導について、どのような場合に違法となるか?

強制にわたる場合、違法となる

行政指導として教育施設の充実に充てるために事業主に対して寄付金の納付を求めること自体は、強制にわたるなど事業主の任意性を損うことがない限り、違法ということはできない。

当該指導要綱に基づき教育施設負担金の寄付を求めた行為は、違法な公権力の行使にあたるか?

違法な公権力の行使にあたる

本件指導要綱は、これに従うことのできない事業主は事実上建築等を断念せざるを得なくなっており、現に指導要綱に従わない事業主が建築したマンションについて水道の給水等を拒否していたなど判示の事実関係の下においては、右行為は、行政指導の限度を超え、違法な公権力の行使に当たる。

判決文の全文はこちら>>

最判平4.10.29:原子炉設置許可処分の取消訴訟における審理・判断の方法

論点

  1. 原子炉設置許可処分の取消訴訟における審理・判断の方法

事案

電力会社Aは、愛媛県西宇和郡伊方町に原子力発電所の建設を予定していた。

Aは、「核原料物質および原子炉の規制に関する法律(規制法)」の規定に基づいて原子炉設置許可の申請をしたところ、内閣総理大臣Yは、原子炉設置許可処分をした。

これに対し、周辺住民Xらは、行政不服審査法に基づく異議申立てをしたが、棄却されたため、原子炉設置許可処分の取消訴訟を提起した。

※異議申立て制度は現在ない。なので、審査請求と置き換えるとよいでしょう。

判決

原子炉設置許可処分の取消訴訟における審理・判断の方法

①現在の科学技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは②当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合、この判断に基づく原子炉設置許可処分は違法となる

原子炉設置許可の申請が規制法(24条1項)の基準に適合するかどうかの審査は、原子力の開発及び利用の計画との適合性や原子炉施設の安全性に関する極めて高度な専門技術的判断を伴うものである。

また、24条2項では、内閣総理大臣が設置許可をする場合に、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の意見を聴き、これを尊重してしなければならないと定めている。

上記のように定めているのは、原子炉施設の安全性に関する審査の特質を考慮し、24条1項の基準の適合性については、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねる趣旨と解するのが相当である。

上の点を考慮すると、右の原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理、判断は

原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって、

①現在の科学技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは②当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、被告行政庁の右判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。

(つまり、専門技術的な調査審議及び判断に不合理な点があり、これをもとにして、内閣総理大臣が許可処分をしたのであれば、処分は違法となる

最判平4.7.1:成田新法事件(行政手続と憲法31条)

論点

  1. 成田新法3条1項1号が憲法31条に違反しないか?

事案

昭和53年、成田国際空港の安全を確保するため、「過激派集団の出撃拠点となっていた近くの小屋の使用禁止を命ずることができる」旨のいわゆる成田新法が制定され、即日施行された。

運輸大臣Yは、昭和54年以降毎年2月に、過激派集団Xに対し、成田新法3条1項(上記規定)に基づき、空港の規制区域内に所在するX所有の通称「横堀要塞(ようさい):小屋」を1年の期間を定めて使用を禁止した。

そこでXは、上記規定が憲法31条等に違反し、違憲無効であり、本件使用禁止命令も違憲無効であるとして、Yに対して、本件使用命令禁止の取消訴訟を提起した。

判決

成田新法3条1項1号が憲法31条に違反しないか?

→違反しない

憲法第31条(適正手続の保障)
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

憲法31条の定める法定手続の保障(適正手続の保障)は、直接には刑事手続に関するものである。

しかし、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障(適正手続の保障)の枠外にあると判断することは相当ではない。(行政手続においても適正手続の保障の範囲内にあるといえる)

しかしながら、同条による保障(適正手続の保障)が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。

 成田新法3条1項に基づく工作物使用禁止命令により制限される権利利益の内容、性質は、前記のとおり当該工作物の三態様における使用であり、右命令により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等は、前記のとおり、新空港の設置、管理等の安全という国家的、社会経済的、公益的、人道的見地からその確保が極めて強く要請されているものであって、高度かつ緊急の必要性を有するものであることなどを総合較量すれば、右命令をするに当たり、その相手方に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定がなくても、本法3条1項が憲法31条の法意に反するものということはできない(憲法31条に違反しない)

判決文の全文はこちら>>

最判平4.11.26:第二種市街地再開発事業計画の決定

論点

  1. 第二種市街地再開発事業計画の決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

事案

株式会社Xは、大阪市内の第二種市街地再開発事業の対象である地区内に土地建物を所有していた。

大阪市Yは、都市再開発法54条1項に基づき、当該事業の決定をし、公告をした。

そこで、X社は、本件事業計画決定の取消訴訟を提起した。

※第二種再開発事業では、土地や建物の所有権等は、施行者(Y)によって個別に買収または収用されてしまう、という効果が発生する。

判決

第二種市街地再開発事業計画の決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?

→あたる

都市再開発法51条1項、54条1項は、市町村が、第二種市街地再開発事業を施行しようとするときは、設計の概要について都道府県知事の認可を受けて事業計画(以下「再開発事業計画」という。)を決定し、これを公告しなければならないものとしている。

そして、再開発事業計画の決定の公告をもって土地収用法26条1項の規定による事業の認定の告示とみなすものとしている。

したがって、再開発事業計画の決定は、その公告の日から、土地収用法上の事業の認定と同一の法律効果を生ずるものであるから(同法26条4項)、市町村は、右決定の公告により、同法に基づく収用権限を取得するとともに、その結果として、施行地区内の土地の所有者等は、特段の事情のない限り、自己の所有地等が収用されるべき地位に立たされることとなる。

しかも、この場合、都市再開発法上、施行地区内の宅地の所有者等は、契約又は収用により施行者(市町村)に取得される当該宅地等につき、公告があった日から起算して30日以内に、その対償の払渡しを受けることとするか又はこれに代えて建築施設の部分の譲受け希望の申出をするかの選択を余儀なくされるのである。

そうであるとすると、公告された再開発事業計画の決定は、施行地区内の土地の所有者等の法的地位に直接的な影響を及ぼすものであって、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である。(処分性を有する)

判決文の全文はこちら>>

最判平4.9.22:民事差止訴訟と無効確認訴訟(もんじゅ訴訟)

論点

  1. 周辺住民が原子炉設置者に対して、その建設・運転の差止めを求める民事訴訟を併合提起している間に、原子炉の設置許可処分の無効確認訴訟を提起することは適法か?

事案

動力炉・核燃料開発事業団Aは、福井県敦賀市(つるが)に高速増殖炉原子炉「もんじゅ」の建設・運転を計画し、内閣総理大臣Yは、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律(規制法)に基づき原子炉設置許可処分を行った。

このため、付近の住民XらがYを被告として、原子炉設置許可処分に際しての安全審査に重大かつ明白な瑕疵があるとして、原子炉設置許可処分の無効確認の訴えを提起するとともに、Aに対して、原子炉施設の建設・運転の民事差止め訴訟を併合提起した。

判決

周辺住民が原子炉設置者に対して、その建設・運転の差止めを求める民事訴訟を併合提起している間に、原子炉の設置許可処分の無効確認訴訟を提起することは適法か?

適法

行政事件訴訟法36条によれば、処分の無効確認の訴えは、当該処分に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り、提起することができると定められている。

そして、処分の無効確認訴訟を提起し得るための要件の一つである、右の当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができない場合とは、当該処分に基づいて生ずる法律関係に関し、処分の無効を前提とする当事者訴訟又は民事訴訟によっては、その処分のため被っている不利益を排除することができない場合はもちろん、当該処分に起因する紛争を解決するための争訟形態として、当該処分の無効を前提とする当事者訴訟又は民事訴訟との比較において、当該処分の無効確認を求める訴えのほうがより直截的で適切な争訟形態であるとみるべき場合をも意味するものと解するのが相当である。

本件についてこれをみるのに、Xらは本件原子炉施設の設置者である動力炉・核燃料開発事業団Aに対し、人格権等に基づき本件原子炉の建設ないし運転の差止めを求める民事訴訟を提起しているが、右民事訴訟は、行政事件訴訟法36条にいう当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えに該当するものとみることはできない

また、右民事訴訟は、本件無効確認訴訟と比較して、本件設置許可処分に起因する本件紛争を解決するための争訟形態としてより直截的で適切なものであるともいえないから、Xらにおいて右民事訴訟の提起が可能であって現にこれを提起していることは、本件無効確認訴訟が同条所定の前記要件を欠くことの根拠とはなり得ない

したがって、原子炉設置許可処分の無効確認訴訟の提起をすることは適法である。

判決文の全文はこちら>>

関連する判決

最判平4.9.22:原子炉設置許可処分と原告適格(原告適格を有する)